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みけねこ

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80.飛空艇セリカ①

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 船はゆっくりとミストラル国の近くにある港に停まった。この辺りの波は荒く、一般人は使っていないが義賊たちはよく使っていた。そしてウンディーネの加護と新しいガジェットに取り替えたフレイの船はその荒波で揺れを感じることもない。ある意味で、ガジェットが代わって一番喜んでいるのは船酔いをしてしまうウィルかもしれない。
 港に辿り着くまでの船の中はいつも通りだった。俺たちは船の中の一室にいたり甲板に出たりで時間を潰し、フレイは変わらず部下たちに指示出しだ。エルダは船の中にいる時は大体一室で休んでいるため、それも変わらなかった。
 時折アミィとティエラがフレイを気遣ってか視線をたまに向けているが、それに気付かないフレイでもない。逆に気を遣わせて悪いと二人に苦笑を向けて気まずい空気が漂うだけだった。
 正直フレイも気持ちの整理が簡単についていないんだろう。それでもこの船の、この海賊の頭はフレイだ。上に立つものが動揺すればそれは下にも伝わる。中にはこの頭で大丈夫かと思う人間だって出てくる。フレイはそれをわかっているから平常心で、そしていつも通りの振る舞いをしていた。
 船を降りたあとはミストラル国に入る、ことはなく。近くにある基地へと足を進めた。ミストラル国の周辺には義賊の隠れ場としていくつもの場所が用意されている。よく関わりのある義賊であれば互いの場所は知っているし、そうでない義賊の場所はよく知らない。だがすべてミストラル国は把握しているため特に問題も起きてはいない。
 その居場所も義賊以外の部外者に知られるのはあまりよくはないが今回は仕方がない。後ろをついてくるヤツらはそうそう周りに言いふらしはしないだろう。エルダは怪しいところだが。まぁそこは怪しい動きを見せれば魔術でどうにかしてやろう。
 岩の間を通り過ぎ川の流れに従って歩く。フレイたちの隠れ場は港近くだが俺たちはそうじゃない。他のヤツらは意外に思うかもしれないが、山の上でもなかった。
 進み続けると目の前の景色が開ける。そこにあるでかい存在感に声を上げたのはアミィだが、他のヤツらも感心しているような息遣いをしていた。そんな後ろに構うことなく進み続けると作業をしていた一人が俺に気付き、目を丸めた。
「カイム! お頭からは聞いてたけど、本当に来たんだね!」
 駆け寄ってきたかと思えば肩をバシバシと叩いてくる。相変わらず容赦ねぇなと思いつつ「ああ」と言葉を返した。
「なんか、久しぶり。今回随分と遠出だったね」
「そういやそうだな」
エミリアとは落ちてきたアミィを拾って以来だ。あれから頭には何度か連絡は送っていたものの、ラファーガの連中とは本当に久しぶりに会う。そう思うほどあちこち言っていたんだなと今更ながら時間の流れを実感しつつ、エミリアの声に気付いてこっちを向いてきた連中も俺に声をかけてきた。
 それに手を軽く上げて短く返事をしつつ、ぐるりとセリカを見渡す。
「頭はいるか?」
「うん、カイムから連絡来たからちゃんと待ってるよ。お頭の部屋にいる」
「おう」
 エミリアの隣を通り過ぎようとしたが、何やらそのエミリアの視線が俺の後ろに向かっている。まじまじと見たかと思えば俺を見上げてきて、そしてなぜか満面の笑みだ。
「ふふ、友達随分と増えたじゃない」
「そんなんじゃねぇって」
「本当、なかなか戻ってこないかと思ったら相変わらず好き勝手に動いて。心配したこっちの身にもなってよ。あ、フレイじゃない! 久しぶり!」
「久しぶりだね、エミリア!」
 二人は顔見知りでもあるからすぐにお互い駆け寄った。一通り久しぶりだとお互い喋ったあと元気だったかとか無理してないかとが交互に言っている。エミリアはサラッと一度船を落とされたことをフレイに告げ、ギョッとした顔をしているフレイの隣でウィルが小さく視線を逸した。
 二人で駄弁ってもらっても別に構わねぇが、俺は一人で頭のところに行くかと足を進めたら急いで挨拶を済ませてこっちに駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「いいのか?」
「ラファーガの頭に会うのが先だろ? エミリアとはあとでも喋れるし」
 二人がそれでいいのなら別についてきても構わないが、顔を合わせると何かと会話が弾むフレイとエミリアは相性がいいのか。今のフレイにとっては気分転換にもなるかもしれない。
「おうカイム、元気じゃねぇの」
「まぁな」
 飛空艇の中に入り笑顔を向けてくるラファーガの連中と軽く会話をしつつ、頭のいる一室に向かう。大体の造りはフレイのところの船と大して変わりはない。
「わぁ! あれって媒体! フレイの船より数が多い!」
「船を浮かせなきゃなんないからね。あたしンとこにもこれぐらい着けれたらねぇ」
「重くなったら海の上に浮かねぇんじゃねぇの」
「そうなんだよ。こっちは浮力の問題が出てくるからね」
 逆にこっちもかなりの浮力がなければ船は空を飛べない。飛空艇セリカと海賊船ネレウスの構造の違いに、アミィが物珍しそうにキョロキョロしながら歩いている。やっぱり初めて見るものに対する興味は未だに健在らしい。よそ見して転ばないようにさっきからティエラがハラハラしながらアミィの様子を見ていた。
 足を止めずに歩き続けると目の前に一層厳重な扉が現れた。如何にも丈夫そうなのもそうだが、他のに比べてそれなりの装飾もされている。別に鼻につく金ピカな装飾、ってわけじゃなくて完璧にこの部屋の持ち主の趣味だ。「質素なのもつまらんな!」とあちこち行った時に拾っためずらしい物や土産品を飾っている。そういう感性は俺には未だにわからん。
 ノックをすることなく開ければ机に向かって何やらペンを走らせていた顔は、俺たちに気付いてこっちに向けられた。
「久しぶりに元気なツラを見せたじゃねぇか、カイム」
「アンタも元気そうだな、頭」
「俺は心配されるほどまだ歳食ってねぇぞ。ハッハッハ!」
 相変わらず豪快に笑う頭に俺は短く息を吐き出し、その辺にあるソファに勝手に腰を下ろす。俺の後ろから入ってきたヤツらはどこか緊張した面持ちで、そんな中フレイだけが気さくに声をかけ小さく会釈した。
「おうお前さんも一緒だったか。恩返しする機会はあったか?」
「今その最中、ってところかな。なんせ相手がなかなか素直じゃなくて厄介だからね」
「そいつは言えてるな」
 本人を目の前にして言うかと眉間に皺を寄せていると、それを見て楽しんでいるのは頭だ。何か言い返そうとしても年の功で上手くあしらわれてしまうことを知っているせいで余計なことを言えない。
 ただ頭はまだ突っ立ったままのウィルたちが気になったのか、適当に座ってくれと声をかけた。ウィルとティエラは礼を言いつつ近くにあったソファに座り、アミィは俺の隣に座ってきた。エルダは扉付近に立ったままだ。
 頭が俺の隣に座ったアミィに目を向け、俺に聞こえる声量で「その嬢ちゃんか」と聞いてきた。アミィのことも、俺がバレてしまったこともすべてミストラル国の王から伝わっている。多分その手の近くに置いてある手紙に詳細が記されているんだろう。
「色々とお喋りしたいがどうやらその時間はねぇようだな。早速本題だ、今カイムたちは各地で起きてる異変に対応してるんだろう?」
「ああ。ところで頭、ベーチェル国の上空の話は知ってるか?」
「竜巻がいくつも発生しているヤツだろ? 前にセリカの修理をしている時にべーチェル国に寄ったが、その時に俺もこの目で見た。まだ近寄っちゃいねぇがな。んで」
 頭が背もたれに深く体重を乗せる。腕を組み一見偉そうに見える格好だが、色々と考えている時の仕草だ。
「お前らはそれに近付きてぇ。それで間違いないな?」
「ああ、そうだ。セリカならできるだろ」
「他にも飛空艇はいるが、まっ、ここまでデカくて馬力のある飛空艇は俺のこの船ぐらいだろ。なんせ国から金を巻き上げて造った船だからな」
 言い方に問題がある。確かにミストラル国から金を出してもらったが、義賊としてそれなりの働きをしたその報酬で造ったと聞いた。まぁ一部強ち間違いじゃねぇところもあるが。
 バプティスタ国の一部のお偉いさんが汚職し民から金を巻き上げていたことがあり、その証拠を掴み当時のバプティスタ国の王に知らせたのが目の前にいる頭だ。バプティスタ国は周囲に知られては困るということで汚職したヤツらから金を巻き上げ、民への返金とラファーガに対する報酬に当てた。ウィルがバプティスタ国の騎士だということを知っているから、そこはやんわりと話しを避けたんだろう。
「王から話を聞いてセリカの整備はバッチリよ。いつでも飛び立てるぜ」
「ってことは俺たちを乗せてべーチェル国の上空まで運んでくれるってことでいいんだな?」
「可愛いガキのお願いを聞かねぇ親がどこにいるよ」
 頭から飛び出た言葉に、思わず固まった。頭は度々俺に対してそんなことを言う。俺の中身を知ってて、俺の過去を知っている頭は昔から、俺を拾った当時からこういう姿勢を変えなかった。
 今でもこういう時どう返せばいいのかわからない。だからいつもと同じように口を閉じれば頭はまた豪快に笑う。
「心配するな。お前たちは俺が責任持ってべーチェル国上空まで連れてってやるよ」
 ニッと口角を上げた頭にそれぞれどこかホッとした顔を見せ、口々に礼を言っていた。
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