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74.砂嵐の中へ
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もう一度あの砂嵐の中に突っ込む。しかも今回は前回と比べて威力は増しているし範囲も広がっている。転移魔術を使わずに前回同様歩きで向かうことになったが、相変わらずエルダは明らかに嫌そうな顔をしていた。
確かにどちらにせよあの砂嵐の中を歩くとなれば防御壁を張る必要があり、デフェール火山のように進むとなればエルダ的には転移魔術でもいいだろと言いたいところなんだろう。俺としても別に構いはしないが、他四人がもう歩く気満々だ。多数決ですでに負けてしまってはどうしようもない。
バプティスタ国を出発した俺たちは南下しサブレ砂漠へと向かった。前まではそこまでなかったものの、砂嵐の範囲がかなり増えている。前にウィルが砂がバプティスタ国まで飛んできているとは言っていたが、その時よりも範囲が広がってそうだ。
「それじゃ」
サブレ砂漠までは距離があるが、もう視線の先に見える光景は砂で覆われている。流石に前回と同じところまで今の状態では進めないだろと判断した俺はエルダに視線を向け、頷いたエルダも解術を使おうと手を掲げた。
「待って! アミィに考えがあるの!」
「あ?」
だがそれを遮る声がすぐ足元から聞こえた。なんだと視線を下ろせばジッと見上げてくる目と合う。
「ここはアミィに魔術を使わせて! アミィも前に比べて上手くなったから!」
デフェール火山のように熱波に襲われる心配はない。ただ砂嵐で足元がすくわれ視線が遮られるだけだ。それなら確かにアミィの防御壁でも大丈夫だろうが、と前を見る。魔力量は問題はないが、果たしてコントロールが長く続けることができるのか。さてどうしたものかと思案しようとしたところ、アミィの隣にティエラが寄り添った。
「わたしがアミィちゃんをカバーします。どうでしょう、アミィちゃんにやらせてみては?」
「アミィ頑張るから!」
「それに、何度もカイムさんの力に頼るというのも心苦しいですし」
「二人がこう言っているのだから、君も少しは休んだらどうだ?」
何かとこっちを気遣ってくる二人に若干表情を歪める。だから、『赤』にとっては大したことじゃないしそこまで体力も消耗しない。なんなら転移魔術での移動でもよかったし――ただしフレイが酔うだろうが――この距離を防御壁を張りっぱなしで進むのも苦じゃない。
というのに、何かと気遣ってくる二人に正直どうしたと言いたくなる。元来そういう性格なんだろうがそれは子どもに対して発揮していればいいだけの話だ。過保護か、という言葉が喉の奥で引っかかった。
短く息を吐きだし、やる気満々の目で見上げてくるアミィにもう一度視線を向ける。まぁ、当人がこう言うんならそれでいいかと最終的に納得した。
「わかった。それじゃやってみろ」
「うん! ティエラ、アミィ一人で頑張りたいからギリギリまで見守ってて!」
「わかりました! ファイトです、アミィちゃん!」
「……私がやったほうが早いのでは」
「シッ! アンタは黙っときな」
二人の様子を見ていたエルダがボソッとこぼした声を、フレイが急いで手で塞いでるのが横目で見えた。
先頭に立ったアミィが息を吐き、集中しているのを感じた。術式が展開され徐々に防御壁が俺たちを覆う。随分と速度と精密さが増したと人知れず感心した。あんだけコントロールが下手くそだったのが今じゃ笑い話になりそうだ。
しっかりと張られた防御壁は砂嵐を遮断する。何もしない状態で進めば視界も悪かっただろうが、これだと数メートル先ぐらいは見えるだろう。
「みんな! 進も!」
しっかりと張れたことが嬉しかったのか、胸を張ったアミィは言うなり早速前を歩き出した。その後ろを微笑ましく見ていたヤツもいれば、未だブツブツ言っているヤツもいる。研究者ってのは効率を求めるらしいからこうなってしまうのかもしれない。
それから特に問題が起こることもなく砂嵐の中を進む。方向がわからなくなりそうなところだが、そこはアミィの目がしっかりと光を捉えているため危惧するものではなかった。
ただし、問題はここから先だ。
ノームの住処とされている場所の手前にある村、以前調査に行った場所だ。そこから奥は進むことができず穢れも発生しており、しかもその村には馬鹿でけぇ魔物もいた。もう少しでその場所に辿り着く。
以前のこともあってウィルとティエラは身構え、アミィもより一層防御壁を切らさないよう集中する。前回いなかったフレイとエルダはそれぞれの変化に気付き、何かあると察したのかすぐにでも動ける体勢に入った。
「そろそろだ」
「そうだな」
先頭を歩いていたウィルが剣を引き抜いた。前回はアミィが癖のある方法で魔術を繰り出しサンドスコーピオンを倒したが。
「お前はそのまま防御壁張ってろ」
「えっ、で、でも」
「今回はエルダがいる」
砂漠の中から現れたのは案の定、サンドスコーピオンだ。しかも村の穢れが以前よりも酷くなっている。だからこんなにワラワラとサンドスコーピオンが現れたわけだと納得し、すぐにでも解術しようとしたがそれよりも先にウィルとフレイが躍り出た。ティエラも二人の援護にすぐさま入り、エルダは氷の魔術でガンガンサンドスコーピオンの腹を貫いている。
なんというか、すっかり戦闘慣れしたもんだなと無駄に関心してしまった。しかも何の相談もなしに動いたわりには連携はしっかり取れている。だが取りあえず、だ。
「お前解術しろよ」
「おっとこれはすみません。何やらみなさん貴方に優しいようだったのでいいのかな~? と思いましてね~」
「穢れがあるから結局解術しなきゃなんねぇだろうが」
「ああそうでした」
浄化できるのは貴方しかいなくて不便ですね~、とかほざきながら攻撃魔術の合間に俺の魔術を解術した。別にいいかと思っていたが、段々この方法も面倒になってきた。べーチェル国に便利なガジェットもあることだし、あれを改造したほうがいいかもしれないと思っているところ髪が黒から青に変わる。
自分で最後までしっかりと解術し、ワラワラいるサンドスコーピオンはヤツらに任せるとして俺はアミィの防御壁を抜け出して穢れの中に突っ込んだ。穢れがある限りその辺にいる普通のスコーピオンは馬鹿でかい魔物に姿を変える。
サンドスコーピオンの相手をしているヤツらの心配はそこまでない。あそこまで元気に暴れていればすぐにでも倒すに決まっている。
穢れを前にして石を取り出せば、それが淡く光りだした。なんか浄化するのも久しぶりなような気がする。使ってなかったことに石の威力が弱まってるんじゃねぇかと思ったがその心配はまったくなかった。すぐに目の前にある穢れは祓われ、そういやブレスレットなかったとことを今更ながら思い出しつつほんの少しの息苦しさからは解放された。
アミィの代わりに防御壁を張ってやれば、それに気付いたアミィが防御壁を使うことをやめすぐに攻撃に転じた。随分と機転がよくなったもんだ。守りばかり気にする必要がなくなったアミィは早速氷の刃をいくつも発生させ、一斉にサンドスコーピオンに降り注いだ。
それから周囲が静かになるのは随分と早かった。ゴロゴロとサンドスコーピオンだったものが転がり、それぞれが自分の持っていた獲物を収める。俺もアイツらのところに戻ればなぜかアミィがズンズンとこっちに歩いてきた。
「カイム! アミィがやるって言ったのに!」
「つってもお前、サンドスコーピオンの相手やんなきゃなんなかっただろ。それとも俺が倒してよかったのか?」
「むーっ!」
頬を膨らませたアミィに、なるほどこれが反抗期かとしみじみと納得する。だが今のアミィはまだ防御壁を完璧に張りつつ攻撃に転じることは難しい。
「穢れも祓われたようだな」
「ああ、これで奥に進める」
前はここで断念していたが、今の俺たちの目標はこの奥だ。奥に視線を向ければ更に砂嵐は強くなり道がまったく見えない。が、ここまで異変があればそこにノームを放てばそれなりの力が戻ってくるはず。
もっと視界をよくするかと防御壁を強力なものにしようとすれば、別の防御壁が内側に作られる。視線を向ければアミィのドヤ顔だ。何をそんなに胸を張ってるのか。まぁ、アミィが内側に張るのなら外側は更に範囲を広めるかと張り直したが。
そこからひたすら奥に突き進む。ウィル曰く、砂漠の奥には山脈がありそれが突き当たりのサインだと言っていたが、防御壁を広げたものの未だ見えてこない。突き当りまで進む必要があるか、と思うほどこの場の力は更に渦巻いているわけだが。
「ねぇ、これってまだ奥に進む必要あるかい?」
「結構すごい、ですよね……」
そう思ったのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。それぞれ一旦その場で足を止め、辺りを見渡してみる。例え魔力が弱くても、この場のこれほどの荒れ具合はわかるんだろう。
「そろそろいいか」
防御壁がなければ例えすぐ隣にいたとしても姿を見失うぐらい激しい砂嵐だ。もういいだろうと合図を送ればノームが姿を現す。流石に力もなく弱々いい炎だったサラマンダーとは違い、しっかりと意識を持っているノームは自ら防御壁から出て砂嵐の中に突っ込んでいった。
「わわわっ!」
ノームが突っ込んでいった箇所が一瞬だけ強く光り、あまりの光の強さにアミィは目が眩んだんだろう、急いでギュッと目を瞑っていた。周囲を見渡してみると徐々に砂嵐が弱まってきたような気がする。防御壁を張っているのと、本当に変化が微々たるものだったためそうはっきりと目に見えてわかるもんじゃなかったが。
だがしばらく待っていると、確実に砂嵐は弱くなっていっている。そう思えたのはこの視界が悪い中砂嵐に突っ込んでいったノームの姿が確認できたからだ。
「ノームだ!」
アミィが声を上げ、ゆっくりとノームが俺たちのところへ戻ってくる。
『我はサラマンダーと比べてそこまで弱まっていたわけではないからな。多少ならば異変を食い止めることができた』
「光が強くなってるね!」
確かに突っ込む前に比べて力が戻ってきているようだ。だがそれでもこの砂嵐を完璧に抑えることはできなかった。これだけ強い力を全部自分自身に戻せばそれなりに精霊として成り立つことができるだろうに、力を吸収することすら今の精霊には困難なのかと内心舌打ちをこぼす。
やれることは限られている、できることも限られている。できることから徐々にやっていくしかないと思ったが、このままのペースだと先に異変の拡大のほうが早そうだ。
やっぱり女神の存在が何よりも重要なんだろう。精霊だけの力だと何もかもカバーできていない。だからといってホイホイ女神が出てくるわけでもないし、人間がすぐに精霊への信仰心を高めることも現実的じゃない。それができていればここまで悪化していなかった。
とにかく、今は精霊たちの力をこれ以上弱らせないようにするしかなさそうだ。
確かにどちらにせよあの砂嵐の中を歩くとなれば防御壁を張る必要があり、デフェール火山のように進むとなればエルダ的には転移魔術でもいいだろと言いたいところなんだろう。俺としても別に構いはしないが、他四人がもう歩く気満々だ。多数決ですでに負けてしまってはどうしようもない。
バプティスタ国を出発した俺たちは南下しサブレ砂漠へと向かった。前まではそこまでなかったものの、砂嵐の範囲がかなり増えている。前にウィルが砂がバプティスタ国まで飛んできているとは言っていたが、その時よりも範囲が広がってそうだ。
「それじゃ」
サブレ砂漠までは距離があるが、もう視線の先に見える光景は砂で覆われている。流石に前回と同じところまで今の状態では進めないだろと判断した俺はエルダに視線を向け、頷いたエルダも解術を使おうと手を掲げた。
「待って! アミィに考えがあるの!」
「あ?」
だがそれを遮る声がすぐ足元から聞こえた。なんだと視線を下ろせばジッと見上げてくる目と合う。
「ここはアミィに魔術を使わせて! アミィも前に比べて上手くなったから!」
デフェール火山のように熱波に襲われる心配はない。ただ砂嵐で足元がすくわれ視線が遮られるだけだ。それなら確かにアミィの防御壁でも大丈夫だろうが、と前を見る。魔力量は問題はないが、果たしてコントロールが長く続けることができるのか。さてどうしたものかと思案しようとしたところ、アミィの隣にティエラが寄り添った。
「わたしがアミィちゃんをカバーします。どうでしょう、アミィちゃんにやらせてみては?」
「アミィ頑張るから!」
「それに、何度もカイムさんの力に頼るというのも心苦しいですし」
「二人がこう言っているのだから、君も少しは休んだらどうだ?」
何かとこっちを気遣ってくる二人に若干表情を歪める。だから、『赤』にとっては大したことじゃないしそこまで体力も消耗しない。なんなら転移魔術での移動でもよかったし――ただしフレイが酔うだろうが――この距離を防御壁を張りっぱなしで進むのも苦じゃない。
というのに、何かと気遣ってくる二人に正直どうしたと言いたくなる。元来そういう性格なんだろうがそれは子どもに対して発揮していればいいだけの話だ。過保護か、という言葉が喉の奥で引っかかった。
短く息を吐きだし、やる気満々の目で見上げてくるアミィにもう一度視線を向ける。まぁ、当人がこう言うんならそれでいいかと最終的に納得した。
「わかった。それじゃやってみろ」
「うん! ティエラ、アミィ一人で頑張りたいからギリギリまで見守ってて!」
「わかりました! ファイトです、アミィちゃん!」
「……私がやったほうが早いのでは」
「シッ! アンタは黙っときな」
二人の様子を見ていたエルダがボソッとこぼした声を、フレイが急いで手で塞いでるのが横目で見えた。
先頭に立ったアミィが息を吐き、集中しているのを感じた。術式が展開され徐々に防御壁が俺たちを覆う。随分と速度と精密さが増したと人知れず感心した。あんだけコントロールが下手くそだったのが今じゃ笑い話になりそうだ。
しっかりと張られた防御壁は砂嵐を遮断する。何もしない状態で進めば視界も悪かっただろうが、これだと数メートル先ぐらいは見えるだろう。
「みんな! 進も!」
しっかりと張れたことが嬉しかったのか、胸を張ったアミィは言うなり早速前を歩き出した。その後ろを微笑ましく見ていたヤツもいれば、未だブツブツ言っているヤツもいる。研究者ってのは効率を求めるらしいからこうなってしまうのかもしれない。
それから特に問題が起こることもなく砂嵐の中を進む。方向がわからなくなりそうなところだが、そこはアミィの目がしっかりと光を捉えているため危惧するものではなかった。
ただし、問題はここから先だ。
ノームの住処とされている場所の手前にある村、以前調査に行った場所だ。そこから奥は進むことができず穢れも発生しており、しかもその村には馬鹿でけぇ魔物もいた。もう少しでその場所に辿り着く。
以前のこともあってウィルとティエラは身構え、アミィもより一層防御壁を切らさないよう集中する。前回いなかったフレイとエルダはそれぞれの変化に気付き、何かあると察したのかすぐにでも動ける体勢に入った。
「そろそろだ」
「そうだな」
先頭を歩いていたウィルが剣を引き抜いた。前回はアミィが癖のある方法で魔術を繰り出しサンドスコーピオンを倒したが。
「お前はそのまま防御壁張ってろ」
「えっ、で、でも」
「今回はエルダがいる」
砂漠の中から現れたのは案の定、サンドスコーピオンだ。しかも村の穢れが以前よりも酷くなっている。だからこんなにワラワラとサンドスコーピオンが現れたわけだと納得し、すぐにでも解術しようとしたがそれよりも先にウィルとフレイが躍り出た。ティエラも二人の援護にすぐさま入り、エルダは氷の魔術でガンガンサンドスコーピオンの腹を貫いている。
なんというか、すっかり戦闘慣れしたもんだなと無駄に関心してしまった。しかも何の相談もなしに動いたわりには連携はしっかり取れている。だが取りあえず、だ。
「お前解術しろよ」
「おっとこれはすみません。何やらみなさん貴方に優しいようだったのでいいのかな~? と思いましてね~」
「穢れがあるから結局解術しなきゃなんねぇだろうが」
「ああそうでした」
浄化できるのは貴方しかいなくて不便ですね~、とかほざきながら攻撃魔術の合間に俺の魔術を解術した。別にいいかと思っていたが、段々この方法も面倒になってきた。べーチェル国に便利なガジェットもあることだし、あれを改造したほうがいいかもしれないと思っているところ髪が黒から青に変わる。
自分で最後までしっかりと解術し、ワラワラいるサンドスコーピオンはヤツらに任せるとして俺はアミィの防御壁を抜け出して穢れの中に突っ込んだ。穢れがある限りその辺にいる普通のスコーピオンは馬鹿でかい魔物に姿を変える。
サンドスコーピオンの相手をしているヤツらの心配はそこまでない。あそこまで元気に暴れていればすぐにでも倒すに決まっている。
穢れを前にして石を取り出せば、それが淡く光りだした。なんか浄化するのも久しぶりなような気がする。使ってなかったことに石の威力が弱まってるんじゃねぇかと思ったがその心配はまったくなかった。すぐに目の前にある穢れは祓われ、そういやブレスレットなかったとことを今更ながら思い出しつつほんの少しの息苦しさからは解放された。
アミィの代わりに防御壁を張ってやれば、それに気付いたアミィが防御壁を使うことをやめすぐに攻撃に転じた。随分と機転がよくなったもんだ。守りばかり気にする必要がなくなったアミィは早速氷の刃をいくつも発生させ、一斉にサンドスコーピオンに降り注いだ。
それから周囲が静かになるのは随分と早かった。ゴロゴロとサンドスコーピオンだったものが転がり、それぞれが自分の持っていた獲物を収める。俺もアイツらのところに戻ればなぜかアミィがズンズンとこっちに歩いてきた。
「カイム! アミィがやるって言ったのに!」
「つってもお前、サンドスコーピオンの相手やんなきゃなんなかっただろ。それとも俺が倒してよかったのか?」
「むーっ!」
頬を膨らませたアミィに、なるほどこれが反抗期かとしみじみと納得する。だが今のアミィはまだ防御壁を完璧に張りつつ攻撃に転じることは難しい。
「穢れも祓われたようだな」
「ああ、これで奥に進める」
前はここで断念していたが、今の俺たちの目標はこの奥だ。奥に視線を向ければ更に砂嵐は強くなり道がまったく見えない。が、ここまで異変があればそこにノームを放てばそれなりの力が戻ってくるはず。
もっと視界をよくするかと防御壁を強力なものにしようとすれば、別の防御壁が内側に作られる。視線を向ければアミィのドヤ顔だ。何をそんなに胸を張ってるのか。まぁ、アミィが内側に張るのなら外側は更に範囲を広めるかと張り直したが。
そこからひたすら奥に突き進む。ウィル曰く、砂漠の奥には山脈がありそれが突き当たりのサインだと言っていたが、防御壁を広げたものの未だ見えてこない。突き当りまで進む必要があるか、と思うほどこの場の力は更に渦巻いているわけだが。
「ねぇ、これってまだ奥に進む必要あるかい?」
「結構すごい、ですよね……」
そう思ったのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。それぞれ一旦その場で足を止め、辺りを見渡してみる。例え魔力が弱くても、この場のこれほどの荒れ具合はわかるんだろう。
「そろそろいいか」
防御壁がなければ例えすぐ隣にいたとしても姿を見失うぐらい激しい砂嵐だ。もういいだろうと合図を送ればノームが姿を現す。流石に力もなく弱々いい炎だったサラマンダーとは違い、しっかりと意識を持っているノームは自ら防御壁から出て砂嵐の中に突っ込んでいった。
「わわわっ!」
ノームが突っ込んでいった箇所が一瞬だけ強く光り、あまりの光の強さにアミィは目が眩んだんだろう、急いでギュッと目を瞑っていた。周囲を見渡してみると徐々に砂嵐が弱まってきたような気がする。防御壁を張っているのと、本当に変化が微々たるものだったためそうはっきりと目に見えてわかるもんじゃなかったが。
だがしばらく待っていると、確実に砂嵐は弱くなっていっている。そう思えたのはこの視界が悪い中砂嵐に突っ込んでいったノームの姿が確認できたからだ。
「ノームだ!」
アミィが声を上げ、ゆっくりとノームが俺たちのところへ戻ってくる。
『我はサラマンダーと比べてそこまで弱まっていたわけではないからな。多少ならば異変を食い止めることができた』
「光が強くなってるね!」
確かに突っ込む前に比べて力が戻ってきているようだ。だがそれでもこの砂嵐を完璧に抑えることはできなかった。これだけ強い力を全部自分自身に戻せばそれなりに精霊として成り立つことができるだろうに、力を吸収することすら今の精霊には困難なのかと内心舌打ちをこぼす。
やれることは限られている、できることも限られている。できることから徐々にやっていくしかないと思ったが、このままのペースだと先に異変の拡大のほうが早そうだ。
やっぱり女神の存在が何よりも重要なんだろう。精霊だけの力だと何もかもカバーできていない。だからといってホイホイ女神が出てくるわけでもないし、人間がすぐに精霊への信仰心を高めることも現実的じゃない。それができていればここまで悪化していなかった。
とにかく、今は精霊たちの力をこれ以上弱らせないようにするしかなさそうだ。
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