krystallos

みけねこ

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57.猛攻②

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「テメェクソガキッ! テメェを最初に殺してやるよッ!」
「やれるもんならやってみなよ!」
「いやはや、見事な煽りですねぇ。一体誰に似たことやら」
「そんなこと言ってる場合か! って、言いたいところだけど。あんまり似てほしくないとこ似たみたいだねぇ」
 またおっきな火の塊が来たからさっきと同じことをしてやり返してやる。当たらないのは向こうが避けるのがうまいのか、大きい力をアミィがまだコントロールできていないからか。でもティエラから教わったことをちゃんと思い出せば、きっとコントロールできる。次来た時はしっかり当ててやるって思って両腕を前に出した。
 でも気付いたら身体がふわって浮いてて後ろのほうに下がってた。えっ、って思って顔を上げたらフレイの顔がすぐそこにあって、フレイがアミィを抱えて後ろのほうに飛んだんだってわかった。
「勇ましいけど危ないもんは危ないからね。まだ下がっといたほうがいいよ」
「でもアイツムカつくもん!」
「確かにね! それはあたしだって一緒さ!」
 アミィたちと入れ違うようにウィルが前に出てアイツに向かって斬りかかる。向こうは今のところ剣は持ってないみたいだから避けるしかできないけど、それでも避けたあとにすぐに魔術をウィルに向かって放っていた。
「テメェも覚えてるぜッ! オレとカイムの間に割って入ってきた邪魔なヤツだッ‼」
「僕は騎士としての役目を全うしただけだ!」
「うっるせぇーッ! カイムがテメェなんかに守られる必要はねぇんだよボケがぁッ!」
 ウィルは強いけど流石にこれだけ攻撃魔術を向けられたら耐えきれなくなっちゃう。急いでウィルを助けるためにアイツの横から思いっきり氷の刃を飛ばせば、それは当たる前にジュッと炎で溶かされてしまった。
 アミィと同じようにクルエルダも上空から土の槍をたくさん降らせたけどそれも避けられる。ただアイツがアミィたちに思いっきり舌打ちした時はウィルへの攻撃も若干弱まってて、その間にティエラがウィルに加護の魔術を使ってて入れ替わるようにフレイが前に出た。
「どいつもこいつもぉ……目の前をチョロチョロ動いて目障りなんだよッ‼」
「下がれ!」
 ライラさんの声が聞こえて前に出ていたウィルとフレイが後ろに飛んできた。アイツとアミィたちの間にできた距離、そこにべーチェル国の騎士さんたちが隊列を組んでずらっと並んだ。手には、前にアミィに向けていた銃と同じものを持ってる。
「我らがただやられるだけとは思うな! この『もどき』が! 構え!」
「……はっ! 『もどき』ねぇ? その『もどき』で散々な目に合ってんのは、どこのどいつだって話だよなぁ⁈」
「撃て‼」
 一斉にアイツに向かって発射される。アミィたちに下がれって言ったのは巻き込まないためかもしれない。あの銃は魔術が使えなくなるやつだから。アイツもは武器は持ってないみたいだから魔術さえ封じてしまえばどうにかなるかもしれないってライラさんたちも思ったのかもしれない。
 でもすっごくムカつくんだけど、銃から発射されたやつがアイツに当たらない。ひょいひょい避けてその間にもべーチェル国の騎士さんたちを攻撃してくる。だからアミィたちも騎士さんたちが怪我しないようにってこっちで術を使ってるけど、向こうのほうが威力が高い。
「アイツの動きをなんとか止めたいもんだけどね……!」
 そう言ってフレイが鎖鎌を構えてアイツに突っ込んでいった。向こうもフレイに気付いて火の魔術を放ってくる。フレイに当たらないようにってティエラから教えてもらった防御魔術を張ったけど、それは簡単に割れて炎がフレイのほっぺたを掠めた。でもそれでも、フレイは止まらず突き進んでいく。
「うっぜぇッ!」
「うざいのはアンタのほうだよ! 喚くだけ喚いて癇癪持ちの子どもだっての!」
「アァッ⁈ んだとこのアマッ!」
「いやぁ、これは煽り対決ですかねぇ?」
「何を呑気なことを……! フレイさん、援護します!」
 フレイが鎖鎌をアイツの首めがけて投げた。綺麗に弧を描いて巻き付きそうだったのに、自分の動きが止められるってわかってるからそれを風の魔術で叩き落される。それでも止まることはしなくて、地面を蹴って大きく飛び上がったフレイはアイツとの距離を大きく縮めた。
 自分の手元に鎖鎌を引き寄せたフレイはそのままアイツに斬りかかる。今度は地面から土の魔術でフレイを突き刺そうとしている。それをティエラの防御魔法で跳ね返してクルエルダも応戦した。ウィルが走り始めたのが見えてアミィは少しでも力になれるようにって風でウィルの背中を押す。
「負傷者は下がらせ隊形を整えろ! 奴はこの場で討ち果たす!」
「はっ!」
 ライラさんたちのそんな声も聞こえてべーチェル国の騎士さんたちも素早く動いている。アミィたちの攻撃の手が一瞬止んだところで騎士さんたちがアイツに向かって攻撃を仕掛けた。
「銃を一発でも当てることができれば、奴も弱体化するというのに……!」
 アミイも全然魔術が使えなかったから、ライラさんの言う通り一発でも当てればアイツは弱くなるんだと思う。せめてライラさんの持っている銃で当てれたら、って思ったのはきっとアミィだけじゃない。みんなそれに気付いて、そしてアイツの攻撃を自分に引きつけようとしてる。
「ねぇ! なんで人にひどいことするの⁈」
 アミィも少しでもアイツの邪魔をしたくて、答えなんて返ってこないってわかってたけど大声で聞いてみた。そしたらフレイとウィルから、騎士の人たちから攻撃されてるっていうのにアイツはどこか余裕そうで。それがまたムカついて思いっきり「ねぇッ!」って叫んだらアイツがアミィのほうを向いた。
 でもその顔が、なんか気持ち悪い。クルエルダが好きなことに熱中する時もなんかすごいなって思ったけど、それとはまた別の種類っていうか。背中がぞわぞわするような、近付きたくないような、そんな気持ち悪い笑顔。
「はぁ? なーにが酷いことだって? 簡単に殺されるような弱いヤツらがいけねぇんだろぉ?」
「は……?」
「オレは王サマの命令通り動いてるだけだっつーの! それでこんだけ楽しいことができるんだぜ? それをわざわざやめる必要がどこにあるってーんだ?」
「コイツ……! 頭がイカれてるんじゃないのかい……⁈」
「道徳というものがまったくないわけだな」
 ウィルだけじゃない、騎士の人たちもそしてライラさんも、すごく怒っているのが伝わってくる。だってウィルたちはアイツらが自分たちの国をめちゃくちゃにしようとするから、そいつらから大切な人を守るために毎日頑張ってる。自分がつらい思いをしても痛い思いをしても、それでも騎士として。それなのに、アイツは。
 そんなことまったく考えてなくて、自分が楽しいからってだけで人を傷付けてる。
 なんだかすごくムカムカしてきた。ああいうヤツきっと許しちゃいけないんだと思う。みんながここで必死で止めようとしているのがものすごくわかってきた。それと同時に、アミィは絶対に『人間兵器』にはなりたくないとも思った。
 『人間兵器』になっちゃったらきっと、アイツと同じことをやらされるんだ。
「はぁ。お前らの相手にも飽きたわ。目障りなだけで全然強くもなんともねぇの。マジでだりぃわ」
 アイツがそう言った直後、ぞわぞわと一緒にものすごく鳥肌が立った。考えるよりも先に身体が動いて急いでみんなの前に出て両腕を伸ばす。アイツが黒々している炎の魔術をこっちに放ってきたのはほぼ同時で、それを跳ね返さなきゃって思ったんだけど。
 なんだろう、この黒々しているの。全然アミィの中の魔力と交じろうとしてくれない。逆に汚いものとして身体が勝手に外に追い出そうとする。アミィは受け止めた魔術の魔力を自分の身体の中で溜めて、そして倍にして返す。だからまず吸収しなかったら倍にして返すこともできない。
「アミィちゃん!」
 ティエラの声が聞こえたのと同時に、黒々しているものとは別にあたたかい魔力に包まれたような気がした。でもそれを確かめる前に目の前で爆発が起きて、身体が吹き飛ばされる。
「ほ~ら、やっぱザコ。マジでつまんねぇ任務だったな」
「うっ……」
 一体何が起こったのかわからなくて、いつの間にか倒れてたから起き上がろうと腕に力を入れてみる。でもうまく力が入らなくてなかなか起き上がれない。みんなは、どうなったんだろう。
 頑張って顔を上げて周りを見てみたら、みんなもアミィと同じように地面に倒れていた。
「なんだガキ。お前黒焦げになってなかったのかよ。はぁ~、あの女の魔術で助けられたな」
 アイツが倒れてるティエラの近くに降りてきた。ティエラも服がぼろぼろになってて起き上がれそうにない。そんなティエラの身体をアイツが足蹴りした。
「ゴミはゴミらしく地面に転がってろよ。二度と起き上がんな」
「ティエラ……!」
「アァ? お前まだ動けんのかよ。お前はあとでじーっくり痛めつけてやるよ。オレとカイムの間に割って入った罪でな~。あっははぁ!」
 何がそんなの楽しいんだろう。人にひどいことしておいて、人に怪我をさせておいて。足蹴りして、苦しんでる姿を見て、なんでコイツはこんなに笑ってるんだろう。
 首の辺りがすごく熱い。魔術を暴走させる時いつも反応している首につけてる媒体が、ものすごく熱を持ってる。目の前がチカチカしてきて指先が勝手に震えてくる。ティエラから制御の仕方を教えてもらってなかったら、初めて魔術を暴走させた時と同じことをしていたかもしれない。でも、もう我慢できそうにない。
 右の足首からピピピっていう音が聞こえる。なんだっけ、なんの音だっけ。アミィは、誰との約束を守らなきゃいけないんだっけ。
「それじゃ、ゴミは掃除してやねぇとなぁ?」
 空に大量の黒々している炎の槍が浮かんでいる。ここに倒れているみんなに突き刺さってしまうような、そんな量。それが、アイツが手を振り下ろしたのと同時に一気に降ってきた。
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