krystallos

みけねこ

文字の大きさ
上 下
47 / 159

47.激動②

しおりを挟む
 ウィルたちが難しい顔をしながら色んな話しをしてるっていうのに、アミィがわかることはあんまりなくてすごく悔しい。アミイがもっと成長していたら、他の子たちと同じぐらいだったらまだ何かわかったのかもしれないのに。
 アミィはただどうやったらカイムを助けることができるのか、それしか考えることができなかった。
「ねぇ……カイム、助けられないの……?」
「難しいですね。まず彼を助けるためにはイグニート国に入らなければなりません。それと同時に果たして貴女の単独行動を他の国が許すかどうかです」
「どういうこと……?」
「もしアミィが誘拐なんかされてアミィを材料に、そうだね、ミストラル国の王に揺さぶりをかけるとかしてくるかもしれないってことさ。イグニート国っていうのはそういうのを平然とやってのける国なんだよ」
「そこでもしアミィちゃんまでも『人間兵器』にされそうになっていたと知られてしまえば……事態が悪化する可能性もある、ということですよね……」
「そんな……」
「まぁまずイグニート国は血気盛んなので他所者が入り込んだ時点で一気に排除の方向に動くでしょうし」
 色々と言われて頭が混乱するけど、アミィ一人じゃ無理だってことだけはわかった。多分みんなそれぞれ頭の中で色んなことを考えて、その中でどれが一番いい案なのかを探しているのかもしれない。ただ、自分にとっていい案でも相手にとってそうだとは限らない。だからみんな意見を出し合ってる。
「ああ見えて守りも堅いんですよねぇ、あの国は」
「……いや、最近そうとも限らないかもしれない」
「というと?」
 お手上げだと軽く肩を上げたクルエルダにまだまだ難しい顔をしてるウィルがそう言い出した。なんだろう? って首を傾げて見上げてみるけど、ウィルの目はずっとテーブルの上にある地図に向けられている。
「最近イグニート国は何をきっかけかはわからないが攻め手を広げているようなんだ。前はアルディナ大陸とフェルド大陸の国境を重点的に攻め込んでいたというのに、最近ではウィンドシア大陸の国境にも手を伸ばしていると報告を受けた」
「ふむ。可視化できるあの剣も何かしらの関係があるんでしょうかね。今までああいったものを見たことがなかったのであれの完成と共に力関係にも変化が生じた、などあるかもしれませんね」
「そういやあの剣ってなんなのさ。普通の剣じゃないのかい?」
 クルエルダはあの剣についてあとで言うって言ってた。多分ここは安全だし言うなら今なんじゃないのかなってフレイやティエラと同じようにクルエルダのほうを見た。
「私も予想でしかありませんが、あれは物理的に攻撃するようなものではありませんね。その証拠に彼の腹からは血が流れませんでしたし」
「それだったらなんなの? カイムすっごく苦しそうな顔してたよ」
「力が抜けたように見えたので、もしかしたらあの剣は向けた相手の魔力を奪う……といった類かもしれません」
 そしたら血が流れなかったのも納得できるし、本来のカイムは『赤』だからその効果は他の人間よりも効いていたかもしれないってクルエルダはメガネをクイッて上げながら続けた。
 つまりカイムは自分の中の魔力をあの剣に吸い取られたから、力を入れることができずにあんなに苦しそうな顔をしてたってこと? でもカイム、髪が黒の時は魔力がなくて、でもそれでも普通に動くことができてたのに。
 カイムの身体の作りがアミィたちとちょっと違うのかどうかわかんない。ただ血が出なくてもカイムは苦しそうにしていた、それだけでもカイムを助けに行かなきゃって思うのにアミィにとっては十分。
「ねぇウィル、本当にカイムのこと助けらんないの……?」
「……イグニート国の攻撃がアルディナ大陸のほうに集中していれば、或いはウィンドシア大陸のほうから入り込めるかもしれない。ただまだ情報が不足している。もう少し状況がわかってからでないと……」
「リヴィエール大陸から行けるのが一番いいんだけどね。あそこは波が激しすぎて両大陸ともそこを渡るのは断念してるんだ」
「そしたら先にアルディナ大陸に攻め入り、そこからウィンドシア大陸、そしてリヴィエール大陸に攻め込む……という算段でしょうか」
「恐らく。だからこそバプティスタ国は常に防衛を強いられ続けていた」
「ともあれ、各国には知らせを送ったばかりですし、返答が来るまで我々も大きく動くことはできないでしょ。今のうちに頭を冷やすのもいいですし体力温存するのも手だと思いますがね」
「アミィちゃん……」
 クルエルダに何も言い返せないのは、アミィが何も知らないから。結局アミィはずっとカイムに守ってもらっていただけでアミィ一人で何かできるわけじゃない。
 すごく悔しい。やっと引っ込んだと思ってたのにまた目の前がじんわり滲んできた。ティエラが優しくアミィの肩に手を置いてくれたけど、こうしている間にカイムはひどい目に合っているかもしれない。つらい思いをしてるかもしれない。そう思ったら胸の中がズキズキして、モヤモヤした。
「フレイさん、部屋にお邪魔してもいいでしょうか?」
「ああいいよ。アミィも色々あって疲れただろう? 今のうちに休んでおきな」
「でも……」
「あとで心配かけさせたアイツを思いっきり殴ってやればいいさ! そのために今はしっかりと休むんだ。いいね?」
「……うん」
 ティエラに手を引かれて部屋を出ていく。ドアが閉じる前に後ろを振り返ってみれば、みんなさっきよりもずっと難しくて怖い顔してる。クルエルダだけ普通だったけど。
「ティエラ……本当は、カイムのこと助けに行ったらダメなの……?」
 フレイの部屋に戻ってティエラからベッドに座るようにそっと勧められた。押された背中をそのままにベッドの端っこに座って、アミィの前に屈んだティエラじゃなくて床を見ながらそう言ってみた。
 みんなの雰囲気見てたらなんだかそんな感じだった。みんな助けに行くのは難しいって。カイムが『人間兵器』だから、きっとアミィ以外の人は助けに行こうとすら思わないんじゃないかって。
「……アミィちゃんは、どう思いますか?」
「アミィはカイムのこと助けたいよ! だってアミィのこと助けてくれたのカイムだもん! カイムが痛い思いするのやだ……」
 急に頭の中でお父さんとお母さんの姿が浮かんだ。すごく優しかった。いつもアミィに笑顔を向けてた。だから、お父さんとお母さんがあんな目に合ってすごく悲しくて苦しくて、潰されそうになったからアミィはあの時のことを忘れちゃったのかもしれない。
 カイムはいつもムッとしててお父さんとお母さんみたいに笑顔でお喋りしてくれるわけじゃなかった。お父さんとお母さんと全然似てない。でも、カイムがお父さんとお母さんと同じ目に合っちゃうのかもしれない、そう思っただけで泣きそうになる。
 カイムまでいなくなったら、アミィどうすればいいの?
 あの時カイムはアミィに何も言ってくれなかった。お父さんとお母さんみたいに「大丈夫だよ」なんて言わなかった。
「う……うぅっ……」
「アミィちゃん……」
「アミィたち……普通に生きちゃダメなのっ……?」
「っ……!」
 ぼろぼろ泣き出したアミィにティエラは抱きしめてくれた。一生懸命、でもアミィが痛くないようにって。
「そんなことありません! 平穏は、誰にでも平等に訪れるべきなんです……!」
「でもみんなアミィたちのこと殺そうとするじゃんッ!」
「ッ! そ、れは」
「うぅっ、うわあぁっ!」
 ティエラはアミィのこと心配してくれてるってわかってる。わかるのにそれでもすごく痛くて悲しかった。だってアミィは何度も襲われてその度に何度もカイムが助けてくれた。でも今度はそのカイムが危ない目に合ってる。
 平等ってなに。平穏ってなに。そしたらみんなアミィたちのこと放ってくれたらいいのに。思いっきりティエラの身体を押しのけたらアミィを抱きしめていた腕が離れて、目の前に悲しそうなティエラの顔があって、もっと悲しくなって涙があふれてきた。
「……ごめんなさい」
 ティエラが泣きそうな顔で、そう言った気がした。

「すまない、起こしてしまったか」
 そんな声が聞こえてアミィはゆっくり目を開けた。いつの間にか寝ちゃったみたいで、そんなアミィの隣でティエラがずっと頭を撫でてくれていたみたい。アミィ、あんなひどいこと言っちゃったのに。
「ウィル……?」
「アミィ、君にもちゃんと言っておこうと思って。聞いてくれるか?」
 心配そうに見てるティエラにちょっとだけ頷いて、身体を起こしたアミィは真正面からウィルの顔を見た。
「うん、聞くよ。言って」
「わかった……先程知らせが来たんだ。どうやらウィンドシア大陸のほうは今は手薄になっているようだ。イグニート国に行くならばそちらから向かうのが今のところ最善の方法だ」
「っ……! そうなの⁈」
「ああ。べーチェル国の王に話しを通せば何とかなるかもしれない。ただアミィ、忘れないでくれ。べーチェル国は『人間兵器』のアミィを殺そうとしていた国だ」
「っ、ウィルさん、それはっ……!」
 ティエラが何かを言おうとしたら、ウィルが視線を向けて小さく首を振った。その反応にティエラは喋ろうとしていたのをやめて、アミィの肩を支えた。
「アミィ自身が、自分は無害だということをべーチェル国の王に話を通す必要がある。僕たちもできる限り力になるが、それを成し遂げるのはアミィ自身だ。できるか?」
 ウィルはそのつもりはないかもしれないけど、なんだか聞き方がカイムに似てる気がする。ちょこっとだけ笑いそうになったけど、でもちゃんとウィルの言葉を受け止めて頭を縦に振った。
「うん。アミィやるよ。アミィは誰も傷付けないって、王様にちゃんと話す」
「そうか」
 ぽん、って頭に手が置かれた。ティエラの手と違って大きくて、ちょっとゴツゴツしてる。カイムに似てる手だった。
「今から大変になるから、今のうちにゆっくり休んでおくんだ」
「うん……ありがとう、ウィル。ティエラも……フレイとクルエルダにも、そう言っててくれる?」
「ああ、ちゃんと伝えておこう」
 ウィルは優しく笑うと部屋から出ていって、ティエラと二人っきりになった部屋で今もアミィの肩を支えてくれてるティエラの顔を見た。
「さっき、ひどいこと言ってごめんなさい」
「いいえ……アミィちゃんは何も悪くないんです」
 もう一度優しく抱きしめてくれるティエラに、今度こそ押しのけることなくアミィもティエラを抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

☆レグルス戦記☆

naturalsoft
ファンタジー
僕は気付くと記憶を失っていた。 名前以外思い出せない僕の目の前に、美しい女神様が現れた。 「私は神の一柱、【ミネルヴァ】と言います。現在、邪神により世界が混沌しています。勇者レグルスよ。邪神の力となっている大陸の戦争を止めて邪神の野望を打ち砕いて下さい」 こうして僕は【神剣ダインスレイヴ】を渡され戦禍へと身を投じて行くことになる。 「私もお前の横に並んで戦うわ。一緒に夢を叶えましょう!絶対に死なせないから」 そして、戦友となるジャンヌ・ダルクと出逢い、肩を並べて戦うのだった。 テーマは【王道】戦記 ※地図は専用ソフトを使い自作です。 ※一部の挿絵は有料版のイラストを使わせて頂いております。 (レグルスとジャンヌは作者が作ったオリジナルです) 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』 『ふわふわにゃんこ』 『森の奥の隠れ里』

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

処理中です...