krystallos

みけねこ

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30.最果ての島①

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 王の許可も得たということでフレイと銀髪の男、もといクルエルダもあとをついてきた。他が来ないのは予想していたためそのままフレイの船へと乗り込む。正直フレイがついてくるのは助かるし、まぁ、クルエルダに関しては微妙だが魔術に長けている分うまく利用させてもらうとしよう。
 二人がついて来なかったことに対してアミィは不思議そうな顔をしていたが、こればっかりは俺がとやかく言う必要はない。そいつが何をどう考えているだなんて声に出してもらわないとこっちも知りようがない。
「最果ての島はあたしがちゃーんと場所覚えているから任せときな!」
 と随分と頼り甲斐のある言葉を胸を張って言ったものだから、ここはフレイに任せるとしよう。
 港を出港した船は一先ずリヴィエール大陸沿いに南下する。そのままリアント港を抜けて更に東南へと進んだ。前にこの辺りは飛空艇から見たことはあったが、上から見る限り島のようなものは見えなかった。
 最果ての島は幻の島とも言われている。存在しているか定かではない。見た者も少なく、また見たとしてもそれを実証する術もない。フレイも見はしたものの実際近付けなかったと言っていた。他に見た人間も同様のことを言っていたため、幻でも見たんじゃないかという周囲の言葉でそういう別名がついたようだ。
「ある程度は近付けれるんだけどね。ところがとある箇所を少しでも進むと島がフッと姿を消すんだ」
「魔術の一種でしょうね。最果ての島はよそ者を寄せ付けないという話しを聞いたことがあります。ある一定距離まで近付いたら魔術が作動するんでしょう。対象が大きいほど効力は高いかもしれませんね」
「つまりでかい船で近付くには不利ってことか」
「私の考えでは、ですが」
「そしたらある程度進んだたら小さい船に乗り換える必要がありそうだね」
「小さいお船があるの?」
「そうだよ」
 フレイたちは主に探索などを中心としているため、小回りの利く船も乗せている。すぐに降ろせる場所にあるため出すのはそう苦労しないらしい。それならば早速と、島が見える範囲までやってきた船はフレイの指示の元部下がせっせと降ろす準備にかかった。その間俺たちは甲板に出て島の位置を確認する。
「あ! 島見えたよ!」
「船からだと見えるんだな」
「ね? あたしが言った通り見えただろう? まぁもう少し近付くと見えなくなるんだけど」
 身を乗り出して海に落ちないようにとフレイがアミィを抱きかかえた。視線が上がったことによって船から見える島にアミィは興奮している。
「ふむ、なるほど」
「何か見えんのか」
「実際近付いて説明したほうがわかりやすいと思うので、その時に」
 パシャンッと水の跳ねる音が聞こえた。どうやら上手く小型の船を降ろしたようだ。まずはフレイが慣れた様子でその小型の船に抱えたアミィごと飛び移り、俺もそれに続く。俺たちのように身体能力が高くなさそうなクルエルダはどうするんだと見上げてみると、事もなげに魔術でこっちに飛び移ってきた。つくづく便利なヤツだ。
 大型の船だと魔術が発動して島が消えるため小型の船に移ったが、もしかしたら人数でも引っかかるかもしれないと言うクルエルダの言葉で小型の船には俺たちのみ乗るようにした。船の操縦はフレイに任せていいらしい。
「野郎共! あたしが戻るまでネレウスは頼んだよ!」
「任せてくだせぇ! お頭ー!」
「お気を付けてー!」
 相変わらずむさ苦しいな、とつい思ってしまったが口には出さないでおいた。出したら出したでフレイが腹を立てて面倒なことになる。
「よし、それじゃ魔術がかけられている? 場所まで進んでみるよ」
「ああ」
 そうして小型の船は水面の上を走り出した。ネレウスのようにでかい媒体もガジェットもないため推進力は随分と劣るが、それでもまぁ十分に進めているほうだろう。波もそう荒くなく激しく揺られることのなかった船はとある箇所まで辿り着き、一旦動きを止めた。
「ここか?」
「ああ。ここから先に進むと島が見えなくなるんだ。あたしはそう魔力が強いわけじゃないからさ、なんだか霧みたいなものが薄っすら見える程度なんだけど」
「俺はまったく見えねぇけどな」
「膜が見えるよ! 頑丈そうな!」
「そうなのか?」
「うん!」
 流石は『紫』だ。子どもだろうとなんだろうとアミィの目にははっきり見えるらしい。今の俺だとまったく見えないためフレイの言う霧みたいなもんも認知できない。
「高性能な結界が張られていますね。まさに部外者の侵入を塞ぐ役割を担っているようです。しかしこうも自然に部外者に害を加えることなく立ち去らせるだけの魔術とは……いやはやこれを作った術者は一体どのような人間なんでしょうかとても興味がわきます。幻影魔術を基礎に? それとも妨害……」
「うだうだ言ってねぇでどうにかしろよ」
 研究者って面倒臭ぇなと毒づくと俺の言葉に我に返ったのか、はたまたそのフリをしただけなのか。メガネのブリッジを上げたクルエルダは嘘くさい笑顔を浮かべた。
「貴方が元の姿に戻れば簡単じゃないですか」
「うるせぇな」
「まぁいいでしょう。貴方の特別な姿をそうホイホイ周りに見られたくもありませんし。ここは私が一肌脱ぐとしましょう」
「カイム……なんだかアミィ、鳥肌立った」
「奇遇だな、俺もだ」
「研究者っていうのは曲者しかいないってわけ?」
 俺たちのヤジも耳に届いているはずなのに、それに関しては慣れているらしい。嫌な顔一つも見せなかったクルエルダは懐からナイフを取り出した。一見装飾が綺麗に施されているナイフに見えるが、取手のところに宝石のようなものが埋め込まれているのが見えた。
 俺の視線に気付いたのか、クルエルダはナイフをひらりと振り得意げな表情になる。
「そうです、媒体がついている特殊なナイフです。自作ですよ」
「へぇ」
「おや、興味なさそうですね。まぁいいでしょう、便利なことには変わりはありませんから」
 ひらりとナイフを回したクルエルダはスッと構え、そして目の前に空に突き立てた。俺の目には何もない場所、フレイの目には霧に対して突き立てたように見えたが、恐らくアミィとクルエルダは違う。何かを引き裂くようにゆっくりと下にナイフを下ろし、手を差し込んだかと思うと左右に開いてみせた。
「すぐに塞がってしまうと思うのですぐに通り過ぎましょう」
「よくわからないけど、わかったよ」
 霧が一箇所だけ晴れたと告げたフレイはすぐに船を動かした。船は真っ直ぐに進んだが、目の前にある島が消えることはなかった。ただクルエルダがナイフを突き立てた場所は何かが閉じたような気配を感じ、思わず後ろを振り返る。
「閉じましたよ、結界」
「そうか。中の気配はどうだ?」
「そうですねぇ……説明は難しいですか、悪いものではありませんよ」
「なんだか不思議な感じ」
「進むけどいいのかい?」
「ええ、大丈夫ですよ。今のところは」
 最後の付け足した言葉はいらなかっただろと視線を前に戻す。徐々に島の姿が大きくなり陸が見えてきた。フレイが僅かに舵を切ったがどうやらそっちの方向に船が停められそうなところがあったようだ。特に無理やり入ったからといって攻撃されることもなく、船は無事に岸に辿り着いた。
「わぁ……きれい……」
 船を降りてアミィは感嘆の声を上げる。確かにこの島はどの大陸とも雰囲気が違う。見たことのない植物に建物。少し歩けば人々の姿も見えてきたが、着ている服も俺たちのものとはまったく違う。
「幻の島、って言われてるけどさ……実際中もそんな感じだね。不思議な感じがするよ」
「興味深いですねぇ。流れている精霊の力も我々が常に感じているものとはまた少し違う気がします」
 取りあえずミストラル国の王から言われた通り、ここから賢者と呼ばれている人間を探さないといけないわけだが。ここにいるということは聞いたがどういう風貌なのかまったく聞いていない。ノーヒントで探し出せとはまた至難の業だ。
 しかし本当に変わった島だとつくづく思ってしまう。今の俺は精霊の力を感じることはできないが、クルエルダの言葉やアミィの目の色からするとかなりの濃度の力が流れているようだ。だが、不思議なことにこの島の住人は髪は黒、目も『黒』や『茶』といった俺と変わらない色を持っている。つまりほぼ精霊の力を借りることができない体質だ。
 だというのに住人にはなぜか精霊の力を使えない、という気配を感じない。実際使えるかどうかはわからないが、明らかに俺たちとは違う何かを感じる。
「カイム、あそこ」
 アミィから袖を引っ張られなんだと視線を向けてみるとアミィは俺に視線を向けずある一点を見つめ、そしてそこを指差した。
「あそこ、すごくキラキラしたキレイなものが見える」
 そう言った場所は、少し小高い場所にある周辺のものとはまた一層違う立派な建物が見えた。この島の文化なのかどうかは知らないが、恐らくあそこがこの島の中心部だろう。
 だがアミィの言った「キラキラ」は建物を示しているもんじゃない。どこをどう見てもあの立派な建物は輝いてはいない。恐らく『紫』だからこそ見える何かがあった。
 取りあえず他に目ぼしいものも見当たらないため、この島の『城』に該当する場所へ向かうことにした。
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