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みけねこ

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21.サブレ砂漠②

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「あっ……アミィちゃん、すごいです!」
「ふぇ……?」
 他に同じような魔物がいないか警戒しつつ、呆然としているアミィにティエラは駆け寄りそう口にした。
「ムーロの時とは全然違っていたよ。よく扱えるようになったね」
「ほ、本当?」
「ああ、本当さ。君の魔術に助けられたよ」
「アミィちゃんが毎日頑張ったからですよ!」
「え、えへへ……」
 二人の褒め言葉を素直に受け止めたアミィははにかみながら小さく喜び、またその反応がいじらしく思ったのか二人ともにこにこと微笑んでいる。
「……なるほどな」
 一方で俺はさっきの光景を思い返してみた。咄嗟に「反射しろ」とは言ったものの、まさかあれほどのものが出てくるとは思いもしなかった。
 水の魔術を繰り出した時は確かにあの神父から貰った本、つまりそっちの媒体が光っていたわけだが。魔物の魔術を一度吸収し、そして放出させた時は首に直接着けてある媒体のほうが光っていた。
 アミィの、『紫』にしてはえらい魔術の威力が高いのはそういうことかと一人で納得する。アミィを実験体にしていたヤツらはそれに気付いていた。
 恐らくアミィはその身体に蓄積できる魔術の量が他より多い。それだけじゃなく、自分に向けられた魔術を一度体内に蓄えそして倍にして放出できる体質を持っている。蓄積できる量が多いから吸収できる量も多いんだろう。
 そういう特性を持っているから『赤』でなくとも実験体に選ばれたというわけだ。研究者のヤツらがそんなアミィをどんな手を使って見つけ出したかはわからない。偶然見つけたのか、それとも。
「……取りあえず、周辺調べるぞ」
「あ、ああ、そうだったね。ティエラ、風でまだ砂嵐を遮れそうかい?」
「アミィがやってみろ。ティエラの見てたらやり方はわかるだろ」
「えっ、でもアミィちゃん、疲れているんじゃ……」
「アミィ元気だよ! やってみる!」
 長時間ティエラに魔術で風の壁を作らせるよりも、『紫』であるアミィがやったほうがまだマシだろう。ただアミィはティエラと比べて制御の心配はあったが、さっきの戦いからして問題なさそうだと判断した。
 俺の言葉をすんなり受け入れたアミィは本を掲げ集中する。今度は本のほうの媒体が反応している。様子を見つつしばらく待っているとティエラの魔術が消えたタイミングでアミィの新しい風の壁が作られた。
「アミィちゃん大丈夫ですか? 疲れていません?」
「大丈夫だよ? アミィまだまだ元気だから!」
「すごいね、アミィ」
「調べるぞ」
 放っておいたらまた無駄話しそうだとすぐに話を切り上げさせ、村の跡地である周辺を調べ始める。とはいえ、精霊の加護の異常は魔術を扱えない俺には感知できない。取りあえず俺は周囲を警戒、残り三人に何か違和感か何かないかを調べさせる。
「どうだ?」
「なんかムズムズする」
「……穢れている。なぜなんだ……」
「ここって、特に争いがあったというわけではないんですよね……?」
「ここは信仰深い村だったんだ、争いがあっただなんて報告は一度も聞いたことがない」
 アミィの風の魔術で守られているとはいえ、魔術の向こうの景色を眺めていると一層砂嵐が巻き起こった。土の精霊が加護しているはずの土地にしては随分と荒ぶっている。
 土地が穢れていることといい、この砂嵐の荒ぶり方といい。これも精霊の加護が弱まっている証拠なのだろうか。
「そろそろ戻るか。もしかしたらあの馬鹿でけぇの他にいるかもしれねぇしな」
「精霊の土地が……人間が踏み入れない間に魔物が増えているかもしれないのか」
 イグニート国のこともあるが、この砂嵐じゃ騎士たちも大勢で立ち入ることも難しい。人員を割きたくてもイグニート国がそれを邪魔する。バプティスタ国にとっては頭が痛くなる案件になりそうだ。
 これ以上長居は無用だと俺たちはすぐに踵を返した。もちろん戻りも魔物が出たらすぐに対処できるようウィルが前を歩き、最後尾は俺が歩く。行きもこうしてアミィに風の壁を作ってもらうべきだったなと思いつつ、あちこち砂まみれになったものの無事にサブレ砂漠を出た。
 このままバプティスタ国に寄って宿で休みたいところだが、人間兵器扱いをされるであろうアミィに規則を破って騎士とは別行動を取っているウィル、そして俺もセリカを堕とされているためお尋ね者になっている可能性がある。そんな三人が立ち寄って何も起きないわけもなく。よってバプティスタ国には寄らずそのままキスクへと向かい、道中で野宿することになった。
「アミィ外で寝るの初めて!」
「んなはしゃぐもんでもねぇぞ。普通に虫出てくるし野生の動物出てくるし下手したら盗賊も出てくる」
「む、虫いるんですね……でもそうですよね、外ですから虫も出ますよね……しかも盗賊まで……」
「見つけたら僕に言ってくれ。すぐに追い返すよ」
 火を起こすために薪を集め、なるべく周囲に居場所がバレないような場所を選ぶ。見張りは俺とウィルの交代制。流石にアミィはまだ子どもで日が傾くとコクコクと船を漕ぎ、あまり教会から出なかったであろうティエラにも疲労の色が出ている。
 飯は持ち運べる簡易的なものだが、アミィとしてはそれでも楽しかったらしい。美味しい楽しいを言い続けたなと思いきや、ポクッとすぐに夢の世界だ。
 ウィルが念の為にと周囲の様子を見に行っている中、ティエラはせっせと飯の後片付けをしている。
「アンタから見て、アミィに魔術の制御はどうなんだ?」
「アミィちゃんですか? とても頑張っていると思いますよ。すぐにできるというわけではありませんが、一度覚えてしまえば後は安定しているように見えます」
「そうか」
「動物や盗賊の類は見えなかったよ。ん……? カイム、もしかしてティエラに失礼なことでも言ったんじゃないのか?」
「唐突に疑惑をかけてくるな」
「アミィちゃんの話しをしていたんです」
「そうなのか」
 勝手に疑惑をかけてきたくせに謝りもしねぇのかこの騎士様はと内心毒づく。だがアミィは熟睡していてウィルは戻ってきた。丁度三人かと状況を把握した俺は、あの馬鹿でかい魔物と対峙した時のアミィのことについて情報を共有した。二人は素直に褒めていたが、状況は俺たちが思ってるよりも単純じゃなさそうだということも付け加えて。
「……まさか、それもバプティスタ国に報告しろと?」
「で、でもそんなことしたらアミィちゃんますます警戒されてしまうんじゃないんですか……?」
「ミストラル国だけが情報を持っているっていうことのほうがよくねぇだろ。お前らのほうが利用しようとしているんじゃないのか、って変な疑惑をかけられる」
 そうすると今のこの絶妙なバランスを取っている情勢も亀裂が走るかもしれない。それよりもアミィにとっては痛手かもしれないが、情報を提供すると言った手前バプティスタ国にも知らせておいたほうがいい。
「……わかった。そうしよう。ただすぐにウィンドシア大陸に移動しよう。そのほうが安心する」
「そうだな」
 ウィルはバプティスタ国に魔術の伝達方法で、俺はミストラル国にガジェットでアミィのこととアルディナ大陸のことについても報告した。
「あの、色々と心配事はありますが……もしかしてウィンドシア大陸でも何か異変が起きている可能性がある、ということでしょうか?」
「行ってみねぇことにはわからねぇが……ただリヴィエール大陸もアルディナ大陸も何かしらのことが起こっている。そう考えたらウィンドシア大陸でもありえるだろうな」
「そう、ですよね……」
 ティエラは沸かしていたお湯で飲み物を注ぎ、マグカップをそれぞれに手渡す。俺としては酒のほうがよかったがこの面子だと酒を持ち歩けそうにもなかったため、残念ながら置いてきた。
 マグカップに口をつけたティエラは喉を潤し、そっと息を吐き出す。教会の人間も精霊に対しての信仰が他の人間よりも強いため、色々と思うところがあるんだろう。
「十年前にはあんなことが起こって、今はどこか異変が起こっている……なかなか、穏やかに過ごすのは難しいですね」
「そうだね……何もない日常ってどういうものなのか、知ってみたい気がするよ」
 二人がそんな会話をしている中、俺も黙ってマグカップを傾ける。確かに俺たちが生まれてからゆっくり過ごすなんてことはできていないような気がする。バプティスタ国とイグニート国の争いは未だに続いており、世界が平和だったら俺たちみたいな義賊という人間も本来なら不必要だった。
「……あ」
「ん? どうしたんだい、カイム」
 二人がしんみりしているところ悪いが、視界に入ってしまったもんだからつい声に出しちまったんだが。どうしたと言われたのなら答えたほうがいいのか。
「足元に虫がいるぞ」
「え……? ……きゃあーっ‼」
「落ち着いてティエラ、そんな大きなものじゃなっ痛った⁈」
「楽しそうだな、お前ら」
 虫に驚いたティエラは飛び跳ね、どこかへ虫を移動させようとしていたウィルは飛び跳ねたティエラに思いっきり抱きつかれ身動きが取れずにいる。俺の膝を枕にして寝ていたアミィがもぞりと動いたため、まぶたを手で覆い隠せば途切れた寝息が再び続いた。
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