krystallos

みけねこ

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14.初めてづくし

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 辿り着いた先はウィンドシア大陸のタミルという小さな港町だった。十年前はそれなりに栄えた場所だったらしいが、今ではかなり縮小してしまったらしい。そこから出る船も大型なものはなくこじんまりとした小さいものばかりだった。恐らく今の経営上これが精一杯なんだろう。
 その小さい船で大陸をぐるっと回って別に大陸に行かなきゃならないため、それなりの時間を要する。長旅になりそうだと船に乗り込む前にしっかりと準備を整え、四人で船に乗り込んだ。ちなみに子どもは大人に比べて格安になっていた。
「わ~っ、小さい船でもすごーい!」
「おい、あんまりはしゃぐなよ。落ちるぞ」
「は~い」
 甲板の縁で相変わらず楽しそうに海を眺めているアミィを視界の端に入れつつ、長い乗船になりそうだったため同じように甲板で寛いでいた。慣れないヤツは船酔いもするが、どうやらアミィにはその心配はなさそうだ。
 一方でアイツらはどうだろうかと視線を向けてみる。こっちもこっちで何やらそわそわしていて落ち着きがない。別にこれは今になって始まった話じゃなく、船に乗る前日からずっとこの調子だった。一体なんなんだと訝しげる俺に気付いたのは、気まずそうに少しだけ視線を彷徨わせたウィルだった。
「なんなんだ、お前ら」
「いや……恥ずかしい話、あまりバプティスタ国から離れたことがなかったんだ」
「わたしもです。実はこうして船に乗って別の大陸に行くのが初めてで……」
「少し前のアミィと一緒だね!」
 つまり何か、楽しみにしていたとかそういうことだったのか。なんだか一気にアミィが三人増えたような気がしてげっそりしてしまった。
「リヴィエール大陸は水がとても綺麗だと聞きました。中心部であるミストラル国にはあちこちに噴水などがあるとか」
「まぁ、ウンディーネの加護を受けてるからな」
「その土地々々で精霊の特色が出ているから、違う大陸に行ったらまったく違うんだろうな。君は空賊だろう? 色んなところに行ったことがあるのかい?」
「まぁな」
 俺にとっては三人のほうが物めずらしいが、三人にとってあちこち行っている俺のほうがめずらしい。否が応でも無駄に好奇心が溢れたキラキラとした視線が突き刺さり表情を歪める。無駄にまぶしい。
「あ、あの、カイムさん。もしかしてフェルド大陸にも行ったことがあるんですか?」
「一応あるけど、あそこはマジで空飛べねぇから」
「どういうこと?」
 俺の言葉でウィルとティアラはすぐに察しがついたようだが、未だに情勢がわからないアミィは目をパチパチと動かしている。
「イグニート国は自分たちはあちこちに手ぇ出すくせに、自分たちの領土に入られるとブチギレるんだよ。少しでも船で近付いたり上空飛んだりしたらバンバン撃ってくる」
「え……こわい……」
「そういう自分勝手な国なんだ、イグニート国というのは」
「カイムさんたちはよく無事でしたね」
「そりゃすぐにその場から立ち去ったからな」
 さっきまで目をキラキラさせていたっていうのにその表情は一気に落ち込みを見せる。ある意味騒がしくなったらフェルド大陸の話でもするかと考えている俺に対し、目の輝きを失っていなかったのが一人。
「ねぇカイム! ずっと気になってたんだけど」
「なんだ」
 それぞれ喋りたいこと勝手に喋るなと思いつつ、海を眺めていたアミィがこっちに振り向いてきた。相変わらず見える水面と同じように目をキラキラと輝かせている。
「このお船ってどうやって動いてるの?」
 少し前に人間兵器の説明をしたものだから、てっきりそれに関することかと思いきや。今更かよと頭を軽くガシガシと掻いた。っていうかそういうのも知らないのか。
「簡単に言うと魔術を取り入れるためのバカでかい媒体着けて、あと細かく稼働するためのガジェットが装着されて動いてる」
「魔術とガジェットが一緒になって動かしてるの?」
「そういうこった」
 別に魔術だけで動かせないこともないそうだが、そうなると魔術が使えない人間が操縦できなくなる。基本こういった船は誰にでも動かせるようにと設計されているため、そのためにガジェットが組み込まれていた。それにガジェットがあればより一層でかい媒体を着ける必要もない。
 設計したヤツの頭の中がどうなっているのかは知らないが、媒体を補うようにガジェットがあって、ガジェットが更に効果を発揮できるように媒体があると言ったように相互関係が成り立っているらしい。
「へぇ~!」
「君って色々と詳しいな。そういえば飛空艇もそういった仕組みなのか?」
「そうじゃねぇの? あれがどうやって作られたのか知ってるのは頭しか知らねぇが、ただ浮力がかなり必要になるからそれなりの媒体が着いてるんじゃねぇかな」
「すごいですね……わたしそういったこと詳しくは知らなくて」
「アミィも!」
 なんだか盛り上がっているようだが、結構常識的なものだと俺は思っていたんだが。だが本当にコイツらみたいに土地に根付いているものだったらあまり知らないものなのかと一人で納得した。
 アミィはすっかりティエラに懐いたようで、船のどの部分がガジェットでどの部分が媒体なのかを二人で探していた。そんなすぐに見つかる場所にあるわけないだろと内心突っ込む。ガジェットも媒体も船に必要な部分で、その部分をそんな攻撃してくださいと言わんばかりに露出したところに着けるわけがない。
 が、それをここで言ってしまえばウィルから咳払いかもしくは苦言が来そうで、女子二人の会話は耳に入れないようにした。
「頭しか知らないと言っていたが、君は作られた時に興味を示すことはなかったのかい? 飛空艇なんてそう数も多くないだろう? 僕なら少し気になって見てしまうと思うんだが」
「作られた時俺はそこにいなかったんだよ。なんせ拾われた口だからな」
 一瞬だけ、その場の空気が静かになった。なんだなんだと眉間に皺を寄せれば、ウィルは目を丸めティエラは小さく息を呑んだ。そしてアミィは、丸々とした目で俺のほうを見上げてくる。
「その、すまない。配慮不足だった……」
「んなことねぇだろ。別にめずらしい話でもねぇわ」
 寧ろよくある話だ。十年前にあんなことがあったのだから尚更。義賊に所属している人間はほとんど訳ありで、そういうことは俺たちにとっては別に特殊なことでもなんでもない。
 コイツらみたいに普通に親に育ててもらったヤツらもいれば、俺たちみたいに拾ってくれた人間が育てることもある。別に環境が違うだけ、親かそうでないか。だけど血が繋がっていなかったとしても色々と教えてくれる人間はいる。
「カイムもアミィと一緒ってこと?」
「まぁ……ざっくり言うと似たようなもんだな」
「そうなんだ!」
 確かに俺はアミィを物理的に拾い上げたものの。まるで親鳥に懐く雛鳥のようなアミィに内心顔を歪める。成長過程が酷かったこともあってか、アミィは年齢のわりには未だに擦れていない。そろそろ反抗期辺りだろうがその傾向も見られない。
 まっさらすぎるのは色々と実験をされたからなのか、それともアミィの元からの性格なのか。視線を合わせるように身を屈めジッとその丸い顔を見つめてみる。
「アミィ、お前なぁ……いくら拾ってもらったからって俺のことを信じすぎだぞ。俺がこれからお前にひでぇことしたらどうするんだ」
「……? カイム、そんなことしないでしょ?」
「だから――」
「カイムは自分を助けてくれた人と同じようなことをしてる、そうじゃないの? だからアミィも助けてくれたんじゃないの?」
 グッと喉を詰まらせた俺に、頭上からクスクスと笑い声が聞こえてくる。思わず睨みつければ一つ咳払いをして顔を逸らされた。
「アミィちゃんは本当によくわかっているんですね」
「子どもに看破された気分はどうだい?」
「うるせーな!」
「アミィ、何かおかしなこと言った?」
「いいえ、アミィちゃんの言葉は正しいですよ。本当に悪い人は『今から悪いことするぞ』なんて宣言しませんから」
「テメェら飯でも食ってきたらどうだ。腹減っただろ」
「まったく、君は素直じゃないな。まぁいい。ティエラ、僕たちは先に行くとしようか」
「そうですね。アミィちゃんたちの席取っておきますから」
「うん!」
 ニヤニヤとしたアイツの綺麗な顔ぶん殴りてぇ。いやいつか絶対にぶん殴ると先に中に入ろうとしているその背中を睨みつける。少し前まで子どもを捕まえようとしていたヤツと同一人物かよと毒づいた。
「カイム、アミィたちも行こ!」
「アミィ」
 早く早くと腕を引っ張る子どもを呼び止める。丸い目が首を傾げながら見上げてきた。
「いいか、俺が正しいとは限らない。俺だけを信じるんじゃねぇぞ。ちゃんと自分で考えて、自分で決めろ」
 俺の言いたいことがちゃんと伝わっているか怪しいところだ。ただアミィは困り顔で必死にその頭で考えている。だけど今すぐには無理でもこれは必ずわかってもらわなきゃならない。俺はウィルやティエラのように、正しい人間じゃないからだ。
 アミィの手を取り歩き出せば小さい身体がついてくる。取りあえずは、まだ何もわかっていないこの子どもを安全な場所に預けるのが優先順位だ。
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