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21.人生をのんびりと過ごす
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子どもたちが自由にあちこち駆け回り、大人たちはゆっくりとお茶をしたり子どもと一緒に遊んでいたりしている。
でもそれは人間だけじゃなくて、魔物たちも一緒に遊んだりのんびり過ごしていたりしていた。
「まさか憩いの場を作っちゃうとはね~」
魔物と人間との交流が以前に比べて盛んになってきたからって、「そしたらそういう場所作っちゃおうよ」ってしれっと言った勇者はすごかった。それから行動に移すのも早くて驚いた。
前に勇者とドラゴンで上空を飛んだときにもう場所を決めていたようで、あれよあれよと魔王城から引っ張り出された俺は「ここ整地しよ」という勇者のお誘いをまず受けた。整地と行っても元ある自然はあまり手を加えす、草刈りをしたり周辺に道を綺麗にしたりとかその程度だけど。
「王様に話しはもう話伝えてあるから」
「早いねっ?!」
王に話を通していたからか、人間のほうから助っ人が現れてそれを見た魔物たちも同じように手伝ってくれて。魔王城と人間の城の間にあるこの場所は、あっという間に綺麗に整えられた。
「魔王城ってマナが少ないんだって?」
「そしたら野菜育てるの大変だろ。水やり的な感じで継続的にマナを分けることができる道具とかあればいいのにな」
「随分色んなレシピ知ってるのね。あ、それは私のお祖母様がよく作っていたわ。私レシピ忘れちゃって、よければ教えてくれないかしら?」
俺があの日勇者を連れて人間たちの前に姿を現せてから彼らとの距離が近くなったような気がする。本来人間にとって魔王とは恐ろしいものなのに彼らはまったく物怖じしない。寧ろ気兼ねなく声をかけてきてくれる。これもきっとひとえに勇者のおかげなんだろうなぁ、としみじみと思ってみたりして。
「ねー! 早くやってやってー!」
「ビューンってやってー!」
「ああっ、はいはいわかったよ。ほらっ」
「ひゃーっ!」
「たかーい!」
最初にできたこの憩いの場は人間魔物双方が「あれが欲しい」「これがあったら便利」と更に充実してきている。徐々にこの場所で休む者も増えて、そして俺もこの場所に来ることが多くなった。それも勇者がこの場所を気に入って昼寝をするときは魔王城ではなくこの場所で寝るようになったからだ。
「また寝てる」
「ぼく寝てるか食べてるかしか見てないよ」
「ツンツンしても全然起きないんだもん」
子どもたちにそんな風に言われているのはついこの間人々を敵から守った勇者。子どもたちの視線をたどってみると確かに木々の間にかけられているハンモックの上に横たわり風を浴びながらスヤスヤと寝ている。子どもたちがいくらイタズラでしようともまったく起きない。
一方俺はというと、子どもたちの遊び相手をしていた。風魔法でその小さい身体を浮かせてやればキャッキャと声を上げ楽しそうにしている。
「あっ」
ところが子どもの一人が自分でも魔法を使ってしまったのか、身体が風に煽られ俺の魔法から大きく外れてしまった。このままでは地面に激突してしまう、そう思って急いで手をかざしたんだけれど。
「わっ?!」
落ちそうになっていた子どもの身体がふわりと浮き、そして何事もなかったかのように地面にすとんと落とされる。急な出来事に俺の魔法で地面に下ろされた他の子どもたちもキョトンとしている。
俺がスッと視線を向けてみれば、そこにはハンモックからぴょこんと顔半分とそして人差し指が見えた。子どもたちの無事を確認すると頭も指も引っ込み、ハンモックが小さく揺れる。
「やっぱ勇者ってすげーんだ」
思わず感心したという声色に苦笑をもらしてしまう。確かに普段の行動を見ていると、周りの人間と変わらない至って普通の人間だ。危ないからと家の中に避難していたであろう子どもたちはそっちの印象のほうが強いのかもしれない。
でも食べるのも寝るのも大好きのその勇者は、実際誰よりも強いしレベル99だし俺を倒せる唯一の人間だ。
「ほら、今度はあっちで遊んでおいで」
「はーい」
「ランタンちゃーん! 一緒にあそぼー!」
素直な子どもたちは俺が指差した方向に元気に駆け出していく。近くにいたジャック・オー・ランタンにそんな声をかけながら、一緒に何かを遊ぶのだろう。
その後ろ姿を見送って俺も歩き出す。ただの憩いの場で作ったはずのこの場所は、もう今では小さな村と言っても過言ではないんじゃないだろうか。疲れたらすぐ水分補給できるようにと露店が出さられている。お腹が空けば食べられるようにとパンの入ったバスケットが並べられれている。座りやすいようにと椅子の数は増え、この場所でゆっくり勉強ができるようにと机が並べられた。
川が近くにあることから精霊たちが大喧嘩をしたときの対策にと設備が整えられた。突然の雨の場合にと雨宿りできる場所もある。こうやって人間たちは自分たちの住む場所を作っていくんだなと実感した。
「今日はよく寝るね」
ハンモックの近くにぶら下げられたブランコに腰を下ろす。子どもたちのためにと作ったけれどこのハンモックがもう勇者専用と化してしまったため、起こしちゃいけないとこのブランコで遊ぶ子はほぼいない。お詫びにと別の場所に作ったブランコがあるため不満はないらしい。
そしてこのブランコは寝ている勇者に話しかけるための、俺専用と椅子と化してしまった。
俺の声に勇者の目がパチンと開く。寝てはいただろうけれど熟睡ではない。風に揺れながら勇者がじっとこっちを見上げてきて「ん?」と笑みを返す。
「ん~……」
「お腹空いた?」
「それもあるけど。やっぱりゆっくり過ごせるの最高、って思ってたとこ」
だってまさか勇者が人間の子どもたちと一緒に遊ぶなんて、きっと数千年前は誰も想像できなかったと彼女は言葉を続ける。確かにそれもそうだ、昔ならば決してありえなかった状況だ。
その状況が今魔王と勇者の前で広がっていて、しかもそれはすぐ手の届くところにある。一体誰がそれを想像できただろうか。
「他の人間が聞いたら、驚くと思うかもしれないけど」
魔王城もいいけれど、木漏れ日の中で風に吹かれるのも悪くない。髪が風でさわさわと動いているのを感じながら視線を上げた
「俺は昔より今この時間のほうがずっと好きだよ」
「私も。みんな楽しく過ごせるのが一番いいよ」
「そうだね」
ブランコから立ち上がり、更にハンモックに近付き腰を下ろす。顎をハンモックに掛ければ勇者との距離がグッと近くなる。
「俺もそこで寝てみたいな」
「……えぇ? やだ。狭くなる」
「ハンモックを大きくしようとする発想は?」
「なるほど――って。え? 一緒に寝るの?」
なんだ、さらっと騙されないかと内心笑みをこぼす。確かにハンモックで大人二人は例えハンモックのサイズが大きくてもギュウギュウになりそうだ。
「勇者が気持ちよさそうに寝るから」
「そうだよ、気持ちいいよここ」
「子どものためにって作った場所を奪うぐらいだからね? そういうの人間じゃ『悪い大人』って言うんじゃないの?」
「私ほら、ほんの数ヶ月前は子どもだったから。今延長してるから」
「あははっ、どういうこと?」
身体を起こしてグッと腕に力を込めてみれば、ハンモックが大きく揺れる。中では勇者が落ちないようにしっかりと端のほうを握りしめていた。そして俺のほうに向く顔が怖い。ものすっごく真顔で大きく揺らされている中俺のほうを見てくる。
瞳孔開いてる、って笑いながら揺らすのをやめたら突然顔面に水が飛んできた。勇者の魔法だ。とは言っても子どもたちが遊ぶ程度の魔法と呼ぶにはとても小さいものだったけれど。そして俺も水をかけられたからといってびしょ濡れになることなく、魔法ですぐに水滴を消し去った。
「怖いよ」
「急に揺らすから」
「あははっ、揺らしてみたら楽しそうだと思って」
「……ドSじゃん。やばいやっぱり魔王なんだ」
「あっはは!」
お互い本気じゃないことがわかるから、笑っていられる。身体を起こしてハンモックから降りようとしている勇者の思惑がわかって俺は笑顔でその場から動かないでいる。すると勇者が「乗れ」と短く言ってきて思わず吹き出してしまった。きっと報復するつもりだ。俺と同じことやろうとして俺をハンモックから落とす気だ。
「いやいや、いいよ。今は遠慮する」
「遠慮しなくていいよ。ほら寝てみたいんでしょ。乗れよ」
「言い方怖い」
クツクツと喉を鳴らして笑う俺に勇者は真顔で再び「乗れ」と言ってきてまた笑いが込み上がってくる。とうとう蹲って肩を震わして笑いを堪えている俺に、勇者は軽く背中を蹴ってきた。足癖が悪い。
「あーっ、勇者と魔王が遊んでるー!」
「二人でずるーい! 一緒に遊んで~!」
ところが俺たちのそんなやり取りが子どもたちに見つかってしまった。わらわらと一斉に駆け出してきた子どもに勇者の足が一歩下がる。
「っ! 離せぇっ」
「知ってる? 子どもたちの遊び相手って大変なんだよ。まさか俺を一人にしないよね?」
「ほら世の中には適材適所って言葉があって」
「うんうん」
「足離してほしい」
「ん?」
「あ、し!」
「え?」
すっとぼけながらまさに足止めをしている俺。子どもたちから逃げようとしているその足をぐっと掴んで離さないでいると勇者がどんどん嫌そうな顔になる。もしかして子どもが苦手なんだろうか?
新たな一面を発見したなぁ、ってほんわかとなっていると子どもたちの波に襲われた。その場は一気にわちゃわちゃになって、よくよく見れば人間の子どもだけではなく小物の魔物たちも紛れていた。
「よし勇者。勇者と魔王のお仕事だよ」
「えぇ~? 私今延長だって言った……」
「君はもう一人で酒場に入れるんでしょ? ほら、がんばろ!」
「えぇ~?! いった、ちょ、髪引っ張んないで……!」
子どもと魔物たちから揉みくちゃにされる勇者と魔王なんて、かつていただろうか。
でもいいんじゃないかと思う。勇者の言うとおりのんびりと過ごすのが一番だ。誰かのものを奪って恨まれてだなんてただ疲れるだけ。もう『勇者』も『魔王』も、そんな名称はただの肩書きになってしまえばいい。
そのうち名称で呼ばれることはなく、俺たちが本当の名前で呼ばれる日もきっと近い。
でもそれは人間だけじゃなくて、魔物たちも一緒に遊んだりのんびり過ごしていたりしていた。
「まさか憩いの場を作っちゃうとはね~」
魔物と人間との交流が以前に比べて盛んになってきたからって、「そしたらそういう場所作っちゃおうよ」ってしれっと言った勇者はすごかった。それから行動に移すのも早くて驚いた。
前に勇者とドラゴンで上空を飛んだときにもう場所を決めていたようで、あれよあれよと魔王城から引っ張り出された俺は「ここ整地しよ」という勇者のお誘いをまず受けた。整地と行っても元ある自然はあまり手を加えす、草刈りをしたり周辺に道を綺麗にしたりとかその程度だけど。
「王様に話しはもう話伝えてあるから」
「早いねっ?!」
王に話を通していたからか、人間のほうから助っ人が現れてそれを見た魔物たちも同じように手伝ってくれて。魔王城と人間の城の間にあるこの場所は、あっという間に綺麗に整えられた。
「魔王城ってマナが少ないんだって?」
「そしたら野菜育てるの大変だろ。水やり的な感じで継続的にマナを分けることができる道具とかあればいいのにな」
「随分色んなレシピ知ってるのね。あ、それは私のお祖母様がよく作っていたわ。私レシピ忘れちゃって、よければ教えてくれないかしら?」
俺があの日勇者を連れて人間たちの前に姿を現せてから彼らとの距離が近くなったような気がする。本来人間にとって魔王とは恐ろしいものなのに彼らはまったく物怖じしない。寧ろ気兼ねなく声をかけてきてくれる。これもきっとひとえに勇者のおかげなんだろうなぁ、としみじみと思ってみたりして。
「ねー! 早くやってやってー!」
「ビューンってやってー!」
「ああっ、はいはいわかったよ。ほらっ」
「ひゃーっ!」
「たかーい!」
最初にできたこの憩いの場は人間魔物双方が「あれが欲しい」「これがあったら便利」と更に充実してきている。徐々にこの場所で休む者も増えて、そして俺もこの場所に来ることが多くなった。それも勇者がこの場所を気に入って昼寝をするときは魔王城ではなくこの場所で寝るようになったからだ。
「また寝てる」
「ぼく寝てるか食べてるかしか見てないよ」
「ツンツンしても全然起きないんだもん」
子どもたちにそんな風に言われているのはついこの間人々を敵から守った勇者。子どもたちの視線をたどってみると確かに木々の間にかけられているハンモックの上に横たわり風を浴びながらスヤスヤと寝ている。子どもたちがいくらイタズラでしようともまったく起きない。
一方俺はというと、子どもたちの遊び相手をしていた。風魔法でその小さい身体を浮かせてやればキャッキャと声を上げ楽しそうにしている。
「あっ」
ところが子どもの一人が自分でも魔法を使ってしまったのか、身体が風に煽られ俺の魔法から大きく外れてしまった。このままでは地面に激突してしまう、そう思って急いで手をかざしたんだけれど。
「わっ?!」
落ちそうになっていた子どもの身体がふわりと浮き、そして何事もなかったかのように地面にすとんと落とされる。急な出来事に俺の魔法で地面に下ろされた他の子どもたちもキョトンとしている。
俺がスッと視線を向けてみれば、そこにはハンモックからぴょこんと顔半分とそして人差し指が見えた。子どもたちの無事を確認すると頭も指も引っ込み、ハンモックが小さく揺れる。
「やっぱ勇者ってすげーんだ」
思わず感心したという声色に苦笑をもらしてしまう。確かに普段の行動を見ていると、周りの人間と変わらない至って普通の人間だ。危ないからと家の中に避難していたであろう子どもたちはそっちの印象のほうが強いのかもしれない。
でも食べるのも寝るのも大好きのその勇者は、実際誰よりも強いしレベル99だし俺を倒せる唯一の人間だ。
「ほら、今度はあっちで遊んでおいで」
「はーい」
「ランタンちゃーん! 一緒にあそぼー!」
素直な子どもたちは俺が指差した方向に元気に駆け出していく。近くにいたジャック・オー・ランタンにそんな声をかけながら、一緒に何かを遊ぶのだろう。
その後ろ姿を見送って俺も歩き出す。ただの憩いの場で作ったはずのこの場所は、もう今では小さな村と言っても過言ではないんじゃないだろうか。疲れたらすぐ水分補給できるようにと露店が出さられている。お腹が空けば食べられるようにとパンの入ったバスケットが並べられれている。座りやすいようにと椅子の数は増え、この場所でゆっくり勉強ができるようにと机が並べられた。
川が近くにあることから精霊たちが大喧嘩をしたときの対策にと設備が整えられた。突然の雨の場合にと雨宿りできる場所もある。こうやって人間たちは自分たちの住む場所を作っていくんだなと実感した。
「今日はよく寝るね」
ハンモックの近くにぶら下げられたブランコに腰を下ろす。子どもたちのためにと作ったけれどこのハンモックがもう勇者専用と化してしまったため、起こしちゃいけないとこのブランコで遊ぶ子はほぼいない。お詫びにと別の場所に作ったブランコがあるため不満はないらしい。
そしてこのブランコは寝ている勇者に話しかけるための、俺専用と椅子と化してしまった。
俺の声に勇者の目がパチンと開く。寝てはいただろうけれど熟睡ではない。風に揺れながら勇者がじっとこっちを見上げてきて「ん?」と笑みを返す。
「ん~……」
「お腹空いた?」
「それもあるけど。やっぱりゆっくり過ごせるの最高、って思ってたとこ」
だってまさか勇者が人間の子どもたちと一緒に遊ぶなんて、きっと数千年前は誰も想像できなかったと彼女は言葉を続ける。確かにそれもそうだ、昔ならば決してありえなかった状況だ。
その状況が今魔王と勇者の前で広がっていて、しかもそれはすぐ手の届くところにある。一体誰がそれを想像できただろうか。
「他の人間が聞いたら、驚くと思うかもしれないけど」
魔王城もいいけれど、木漏れ日の中で風に吹かれるのも悪くない。髪が風でさわさわと動いているのを感じながら視線を上げた
「俺は昔より今この時間のほうがずっと好きだよ」
「私も。みんな楽しく過ごせるのが一番いいよ」
「そうだね」
ブランコから立ち上がり、更にハンモックに近付き腰を下ろす。顎をハンモックに掛ければ勇者との距離がグッと近くなる。
「俺もそこで寝てみたいな」
「……えぇ? やだ。狭くなる」
「ハンモックを大きくしようとする発想は?」
「なるほど――って。え? 一緒に寝るの?」
なんだ、さらっと騙されないかと内心笑みをこぼす。確かにハンモックで大人二人は例えハンモックのサイズが大きくてもギュウギュウになりそうだ。
「勇者が気持ちよさそうに寝るから」
「そうだよ、気持ちいいよここ」
「子どものためにって作った場所を奪うぐらいだからね? そういうの人間じゃ『悪い大人』って言うんじゃないの?」
「私ほら、ほんの数ヶ月前は子どもだったから。今延長してるから」
「あははっ、どういうこと?」
身体を起こしてグッと腕に力を込めてみれば、ハンモックが大きく揺れる。中では勇者が落ちないようにしっかりと端のほうを握りしめていた。そして俺のほうに向く顔が怖い。ものすっごく真顔で大きく揺らされている中俺のほうを見てくる。
瞳孔開いてる、って笑いながら揺らすのをやめたら突然顔面に水が飛んできた。勇者の魔法だ。とは言っても子どもたちが遊ぶ程度の魔法と呼ぶにはとても小さいものだったけれど。そして俺も水をかけられたからといってびしょ濡れになることなく、魔法ですぐに水滴を消し去った。
「怖いよ」
「急に揺らすから」
「あははっ、揺らしてみたら楽しそうだと思って」
「……ドSじゃん。やばいやっぱり魔王なんだ」
「あっはは!」
お互い本気じゃないことがわかるから、笑っていられる。身体を起こしてハンモックから降りようとしている勇者の思惑がわかって俺は笑顔でその場から動かないでいる。すると勇者が「乗れ」と短く言ってきて思わず吹き出してしまった。きっと報復するつもりだ。俺と同じことやろうとして俺をハンモックから落とす気だ。
「いやいや、いいよ。今は遠慮する」
「遠慮しなくていいよ。ほら寝てみたいんでしょ。乗れよ」
「言い方怖い」
クツクツと喉を鳴らして笑う俺に勇者は真顔で再び「乗れ」と言ってきてまた笑いが込み上がってくる。とうとう蹲って肩を震わして笑いを堪えている俺に、勇者は軽く背中を蹴ってきた。足癖が悪い。
「あーっ、勇者と魔王が遊んでるー!」
「二人でずるーい! 一緒に遊んで~!」
ところが俺たちのそんなやり取りが子どもたちに見つかってしまった。わらわらと一斉に駆け出してきた子どもに勇者の足が一歩下がる。
「っ! 離せぇっ」
「知ってる? 子どもたちの遊び相手って大変なんだよ。まさか俺を一人にしないよね?」
「ほら世の中には適材適所って言葉があって」
「うんうん」
「足離してほしい」
「ん?」
「あ、し!」
「え?」
すっとぼけながらまさに足止めをしている俺。子どもたちから逃げようとしているその足をぐっと掴んで離さないでいると勇者がどんどん嫌そうな顔になる。もしかして子どもが苦手なんだろうか?
新たな一面を発見したなぁ、ってほんわかとなっていると子どもたちの波に襲われた。その場は一気にわちゃわちゃになって、よくよく見れば人間の子どもだけではなく小物の魔物たちも紛れていた。
「よし勇者。勇者と魔王のお仕事だよ」
「えぇ~? 私今延長だって言った……」
「君はもう一人で酒場に入れるんでしょ? ほら、がんばろ!」
「えぇ~?! いった、ちょ、髪引っ張んないで……!」
子どもと魔物たちから揉みくちゃにされる勇者と魔王なんて、かつていただろうか。
でもいいんじゃないかと思う。勇者の言うとおりのんびりと過ごすのが一番だ。誰かのものを奪って恨まれてだなんてただ疲れるだけ。もう『勇者』も『魔王』も、そんな名称はただの肩書きになってしまえばいい。
そのうち名称で呼ばれることはなく、俺たちが本当の名前で呼ばれる日もきっと近い。
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