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2.魔王討伐(初めてのお使い)へ ②
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いつぶりかわかんないけど勇者が誕生した、って聞いたから人間界にやってきてみた。街の中を見て回って人間は生きるために色々としなきゃ大変なのねとか、別に同情するわけじゃないけどなんとなくそう思いつつ飛び回る。精霊界はそこにあるマナを吸収するだけでいいんだから、精霊も精霊に仕える妖精もあんなに頑張る必要がない。
「ってそうそう忘れれた。勇者探してたんだった」
どういうやつか見てやろうとスイ~っと飛んでいたら、明らかに一人だけマナの量がおかしい人間がいた。あたしの妖精の目から見てもなんか光り輝いてるし。きっとあれだ、そう思って早速近付いてみる。
「ねぇ、アンタでしょ今回の勇者」
「あ。妖精」
「ちょっと、そんな可愛くない呼び方やめてくれない? あたしには『ミウィ』っていう可愛い名前があるんだから」
「ふーん」
勇者はその一言だけ言って、スタスタと歩いていった。
「ってちょっと待ちなさいよ!」
人間にとって妖精ってめずらしいもんなんでしょ?! だって妖精も精霊も滅多なことがない限り人間の前に姿を現さないんだから! それを何?! 「ふーん」ってそんな興味なさそうな返事して素通り?!
「アンタの目は節穴?! あたし妖精だって言ってるでしょ?!」
「うん? 聞いたけど」
「そしたら少しは興味を示しなさいよ! 妖精であるあたしが! 話しかけてんの!」
「え……別に喋ることないし今魔王城に向かってるから」
何この勇者?! クソほど無愛想すぎない?! しかも勇者が魔王城に行くだなんて、討伐以外の何物でもないんでしょ?! だっていうのになんで一人なのよ! ボッチ?! ボッチなの?!
「ま、待ちなさっ――」
「お、勇者じゃね?」
「あ。勇者っぽい」
ボッチのアンタが可哀想だから仕方なく妖精であるあたしがついていってあげようと思っていたら、だ。目の前に現れたのは明らかに人間とは違う種族。道中突然現れたそれに思わずびっくりして勇者の後ろに隠れてしまった。
「なっなっ……オーク?! こんな、最初の段階から出てくるの?!」
「お、しかも妖精もいる」
「めずらしいじゃん」
しかも普通に言葉が話せてる。っていうことはちゃんとした知能があるっていうことだ。オークといえば力任せに自分の欲望のまま暴れる魔物だっていうのに。そいつらに知能なんてついちゃったら……慌てて勇者が羽織っていたマントを引っ張りこの場から引かせようとする。
っていうのに、何この勇者の装備?! なんで鎧一つも着けてないの?! ほぼ布っきれじゃない! こんなのただの服! 防御力ゼロ! バカ! バカなのこの勇者!
「ちょ、ちょっと勇者! 何やってんのよ! そんな装備で戦えるとでも思ってるの?! 命が欲しかったら引いて――」
「なんで戦う必要があんの?」
「は?」
え、ちょ、きょとんとした勇者の視線があたしに向かう。ついでに二体のオークもきょとんとした顔でこっちを見てる。そんな、なんで魔物と人間が同じ表情をして妖精を見てんのよ。
わけわからなくてキョドってると、いきなり笑いだしたのはオークのほうだった。あたしはバカにされたんだと思って頭に一気に血が登ったんだけど、勇者は笑ってるオークに対し特に怒ることなくそのままスルーだ。やっぱりバカなのこの勇者。
「ダッハハハ! もしかしてそこの妖精ちゃん、生まれたばっかりかい?」
「ああ、それならあの反応も頷けるなぁ」
「なっ?! バッ、バカにしてるの?! あたしはアンタたちと違って気高い妖精っ――」
「人間と魔物が戦うなんて、もう数千年も前の話だよ」
勇者の口から出てきた言葉に、あたしの時間が確実に止まった。勇者がなんか変な魔法使った? と思うほど。
え、だって、人間と魔物はずっと長い間戦ってきたんでしょ? だって未だに魔王は健在だし、勇者も一定の周期で次の勇者が生まれてる。それって、魔王との対決が終わってないから、で。
「俺たちぁもう全然人を襲ってねぇよ。そんなひでぇことできねぇって」
「そうだそうだ。人間にはこっちも世話になってんだし。人間の作る飯なんてすっげぇうめぇしなぁ」
「は、え?」
「もしかして君って精霊界から出てくるの初めて?」
「ぬぐっ……!」
勇者から図星を突かれた。オークたちが言っていた言葉にも反論できない。いやでも実際この中で一番年下は勇者なんだから。人間と魔物、そして精霊とは時の流れが違う。確か勇者って十六歳になってから魔王討伐、なんてこと聞いたけど十六歳だなんて妖精から見てもまだまだ赤ちゃん並だ。だから、あたしはこの勇者よりもお姉さんなんだから。
……でも、正直に言うと人間界に出てきたのはこれが初めてだった。精霊界なんて別に人間界に興味を示す者なんてあんまりいないし。それこそマナが枯渇するとか一大事にならないと人間界とコンタクトを取らない。
っていうことは何? あたしが聞いた情報って、もう何千年も前のことだったってこと?
「あんの……ババァーッ!」
あたしに色々と教えてくれたのは集落をまとめているお婆だった。お婆はその集落で一番の長生きっていうこともあって知識も豊富だった。ってことは何、あのババァ情報のアップデートできてなかったってこと?
「初めての人間界ってわけかい。ようこそ~楽しんで行きな」
「私も初めての魔王城」
「おお! 勇者も初魔王城か! そしたら近場まで案内しようか? おいらたちも丁度帰るところだったんだ」
何この奇妙な光景。勇者とオークが普通に親しく喋ってるし、しかもそのオークは魔王城へ勇者を案内しようとしているし。普通だったらなんらかの罠だと思って警戒するはずなのに。
「そしたらお願いしよっかな」
この勇者はすんなりお願いするし。やっぱりこの勇者バカなの? 少しは相手を疑いなさいよ。
「それじゃあね、妖精さん」
「えっ?」
歩き出したオーク二体の後ろをついていこうとする勇者は然も当然のようにあたしに別れの挨拶をしてきた。こっちを振り返って呆然としているあたしにフリフリと手を振ってる。
「まっまっ……待ちなさいよ! あたしも行くわ!」
ここで勇者と別れて、その勇者が騙されて返り討ちに合ったりしたりしたらあたしの目覚めが悪すぎる。
急いでピューッと勇者のところまで飛んでいってその肩に止まってみる。前を歩いているオークは「いい散歩日和だ」なんて言いながら大量の荷物を抱えてのほほんとしていた。オークの厳つい顔で視界に入ってなかったけど、その大量の荷物は美味しそうな野菜やら果物やらが見え隠れしている。
「いやほんと人間には助かってんだよ。こんなうんめぇ飯作んのかって」
「人間たちから教わるまでおいらたちその辺の道草くったりすっぺぇ果実食ってたりしてたもんなぁ」
「オークは力持ちだよね。この間山から降ってきた巨大な岩動かしてくれて本当助かったってみんな言ってたよ」
「デヘヘ……あれくらいお安いご用さぁ」
……何この共存共栄。え、数千年も経てば人間も魔族もこうなっちゃうの? 末端である魔物でこれだから魔王なんてどんだけ変わったんだっての。魔王と言ったらお婆の話ではとてつもなく非道で血も涙もなくて、すべてを破壊するとか言ってたのに。
本当、なんかピクニック気分で歩いている勇者とオーク二体。道中人間と他の魔物とすれ違ったけどそれぞれ軽くお辞儀する程度で、寧ろこっちを微笑ましく見てた。中には「いい散歩日和ですねぇ」なんて腰を曲げたおばあちゃんがのんびり言う始末。
っていうか魔王城って歩いていけるもんなの?
とかなんとか思っていたら、目の前に現れたのは明らかに禍々しい雰囲気の森。この森の先に魔王城があるのだとまざまざと見せつけているような気がして、無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、ここが入り口だ。こっちが一般人用の道」
と、一体のオークが指差した先は、真っ直ぐに伸びた道。「ウェルカム」なんて文字が書いた看板が堂々と立てられていた。
「ほんでこっちがおいらたちが暇つぶしで作ったトラップありのダンジョン風の道」
「それってもうダンジョンじゃない!」
今この場でまともな感性を持っているのがあたししかいないとかつらすぎない?
もう一体のオークが指差した先は、もう明らかに禍々しい雰囲気の道。っていうか禍々しすぎて先が見えない。絶対直線じゃないし暇つぶしでトラップ作ったとかもうバカ。おバカとしか思えない。
っていうのに、勇者は一度ウェルカムの立て看板を見たかと思うとすぐにもう一個の道へと視線を向けた。嫌な予感がする。
「どうせならトラップありのほうで行こうかな」
「このおバカーッ! アンタバカじゃないの?! なんでわざわざ危険な道を選ぶのよ‼」
やっぱり。やっぱりそっち選ぶと思ってた。一般通路のほうは無表情で見ていたくせにトラップありの道は目が輝いていたんだから! もう、好奇心旺盛です! と言わんばかりに‼
「普通の時間かかると思うけど、勇者なら楽勝だわな」
「いっぱい仕掛けておいたから楽しんでくれ」
「わかった。ここまで案内ありがとう。楽しんでくるよ」
「それじゃあな~」
「魔王様によろしく~」
「待て待て誰か止めなさいよ! あッ! ちょっと勇者?! 人の話を聞きなさいってば!」
「人……?」
「人じゃなかった! 妖精! 妖精の話!」
なんだか勇者にツッコまれたのがとてつもなく恥ずかしいし情けないような気がしてきた……!
そしてこうして喋っている間に勇者はどんどん森の中に足を踏み入れていく。視界も良好じゃないし道も複雑そうなのに、なんでその進む足に淀みがないの。とか思っていたら。
「きゃーっ?!」
丸太が飛んできたんですけど?! 妖精のあたしは一度ぶつかったらぺっちゃんこなんですけど?! っていうか人間でも確実に頭持ってかれるけど?! 暇つぶしでガチのトラップ作る奴ってどこにいんの?!
いたわ! あたしたちを案内したオークたちがそうだったわ! 何アイツら、もしかしてあたしたちを殺す目的で案内したんじゃないんでしょうね?!
とかあたしがてんやわんやしてるっていうのに、勇者はまさに勇者だったというべきか。数歩歩けばすぐに発動するトラップをヒョイヒョイと軽々しく避けていく。
「なにこれ。すっごい楽しい」
「やっぱりおバカなのね」
え。もしかしてあたしが知らないだけで、今までの勇者もこうだったっていうの?
「ってそうそう忘れれた。勇者探してたんだった」
どういうやつか見てやろうとスイ~っと飛んでいたら、明らかに一人だけマナの量がおかしい人間がいた。あたしの妖精の目から見てもなんか光り輝いてるし。きっとあれだ、そう思って早速近付いてみる。
「ねぇ、アンタでしょ今回の勇者」
「あ。妖精」
「ちょっと、そんな可愛くない呼び方やめてくれない? あたしには『ミウィ』っていう可愛い名前があるんだから」
「ふーん」
勇者はその一言だけ言って、スタスタと歩いていった。
「ってちょっと待ちなさいよ!」
人間にとって妖精ってめずらしいもんなんでしょ?! だって妖精も精霊も滅多なことがない限り人間の前に姿を現さないんだから! それを何?! 「ふーん」ってそんな興味なさそうな返事して素通り?!
「アンタの目は節穴?! あたし妖精だって言ってるでしょ?!」
「うん? 聞いたけど」
「そしたら少しは興味を示しなさいよ! 妖精であるあたしが! 話しかけてんの!」
「え……別に喋ることないし今魔王城に向かってるから」
何この勇者?! クソほど無愛想すぎない?! しかも勇者が魔王城に行くだなんて、討伐以外の何物でもないんでしょ?! だっていうのになんで一人なのよ! ボッチ?! ボッチなの?!
「ま、待ちなさっ――」
「お、勇者じゃね?」
「あ。勇者っぽい」
ボッチのアンタが可哀想だから仕方なく妖精であるあたしがついていってあげようと思っていたら、だ。目の前に現れたのは明らかに人間とは違う種族。道中突然現れたそれに思わずびっくりして勇者の後ろに隠れてしまった。
「なっなっ……オーク?! こんな、最初の段階から出てくるの?!」
「お、しかも妖精もいる」
「めずらしいじゃん」
しかも普通に言葉が話せてる。っていうことはちゃんとした知能があるっていうことだ。オークといえば力任せに自分の欲望のまま暴れる魔物だっていうのに。そいつらに知能なんてついちゃったら……慌てて勇者が羽織っていたマントを引っ張りこの場から引かせようとする。
っていうのに、何この勇者の装備?! なんで鎧一つも着けてないの?! ほぼ布っきれじゃない! こんなのただの服! 防御力ゼロ! バカ! バカなのこの勇者!
「ちょ、ちょっと勇者! 何やってんのよ! そんな装備で戦えるとでも思ってるの?! 命が欲しかったら引いて――」
「なんで戦う必要があんの?」
「は?」
え、ちょ、きょとんとした勇者の視線があたしに向かう。ついでに二体のオークもきょとんとした顔でこっちを見てる。そんな、なんで魔物と人間が同じ表情をして妖精を見てんのよ。
わけわからなくてキョドってると、いきなり笑いだしたのはオークのほうだった。あたしはバカにされたんだと思って頭に一気に血が登ったんだけど、勇者は笑ってるオークに対し特に怒ることなくそのままスルーだ。やっぱりバカなのこの勇者。
「ダッハハハ! もしかしてそこの妖精ちゃん、生まれたばっかりかい?」
「ああ、それならあの反応も頷けるなぁ」
「なっ?! バッ、バカにしてるの?! あたしはアンタたちと違って気高い妖精っ――」
「人間と魔物が戦うなんて、もう数千年も前の話だよ」
勇者の口から出てきた言葉に、あたしの時間が確実に止まった。勇者がなんか変な魔法使った? と思うほど。
え、だって、人間と魔物はずっと長い間戦ってきたんでしょ? だって未だに魔王は健在だし、勇者も一定の周期で次の勇者が生まれてる。それって、魔王との対決が終わってないから、で。
「俺たちぁもう全然人を襲ってねぇよ。そんなひでぇことできねぇって」
「そうだそうだ。人間にはこっちも世話になってんだし。人間の作る飯なんてすっげぇうめぇしなぁ」
「は、え?」
「もしかして君って精霊界から出てくるの初めて?」
「ぬぐっ……!」
勇者から図星を突かれた。オークたちが言っていた言葉にも反論できない。いやでも実際この中で一番年下は勇者なんだから。人間と魔物、そして精霊とは時の流れが違う。確か勇者って十六歳になってから魔王討伐、なんてこと聞いたけど十六歳だなんて妖精から見てもまだまだ赤ちゃん並だ。だから、あたしはこの勇者よりもお姉さんなんだから。
……でも、正直に言うと人間界に出てきたのはこれが初めてだった。精霊界なんて別に人間界に興味を示す者なんてあんまりいないし。それこそマナが枯渇するとか一大事にならないと人間界とコンタクトを取らない。
っていうことは何? あたしが聞いた情報って、もう何千年も前のことだったってこと?
「あんの……ババァーッ!」
あたしに色々と教えてくれたのは集落をまとめているお婆だった。お婆はその集落で一番の長生きっていうこともあって知識も豊富だった。ってことは何、あのババァ情報のアップデートできてなかったってこと?
「初めての人間界ってわけかい。ようこそ~楽しんで行きな」
「私も初めての魔王城」
「おお! 勇者も初魔王城か! そしたら近場まで案内しようか? おいらたちも丁度帰るところだったんだ」
何この奇妙な光景。勇者とオークが普通に親しく喋ってるし、しかもそのオークは魔王城へ勇者を案内しようとしているし。普通だったらなんらかの罠だと思って警戒するはずなのに。
「そしたらお願いしよっかな」
この勇者はすんなりお願いするし。やっぱりこの勇者バカなの? 少しは相手を疑いなさいよ。
「それじゃあね、妖精さん」
「えっ?」
歩き出したオーク二体の後ろをついていこうとする勇者は然も当然のようにあたしに別れの挨拶をしてきた。こっちを振り返って呆然としているあたしにフリフリと手を振ってる。
「まっまっ……待ちなさいよ! あたしも行くわ!」
ここで勇者と別れて、その勇者が騙されて返り討ちに合ったりしたりしたらあたしの目覚めが悪すぎる。
急いでピューッと勇者のところまで飛んでいってその肩に止まってみる。前を歩いているオークは「いい散歩日和だ」なんて言いながら大量の荷物を抱えてのほほんとしていた。オークの厳つい顔で視界に入ってなかったけど、その大量の荷物は美味しそうな野菜やら果物やらが見え隠れしている。
「いやほんと人間には助かってんだよ。こんなうんめぇ飯作んのかって」
「人間たちから教わるまでおいらたちその辺の道草くったりすっぺぇ果実食ってたりしてたもんなぁ」
「オークは力持ちだよね。この間山から降ってきた巨大な岩動かしてくれて本当助かったってみんな言ってたよ」
「デヘヘ……あれくらいお安いご用さぁ」
……何この共存共栄。え、数千年も経てば人間も魔族もこうなっちゃうの? 末端である魔物でこれだから魔王なんてどんだけ変わったんだっての。魔王と言ったらお婆の話ではとてつもなく非道で血も涙もなくて、すべてを破壊するとか言ってたのに。
本当、なんかピクニック気分で歩いている勇者とオーク二体。道中人間と他の魔物とすれ違ったけどそれぞれ軽くお辞儀する程度で、寧ろこっちを微笑ましく見てた。中には「いい散歩日和ですねぇ」なんて腰を曲げたおばあちゃんがのんびり言う始末。
っていうか魔王城って歩いていけるもんなの?
とかなんとか思っていたら、目の前に現れたのは明らかに禍々しい雰囲気の森。この森の先に魔王城があるのだとまざまざと見せつけているような気がして、無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、ここが入り口だ。こっちが一般人用の道」
と、一体のオークが指差した先は、真っ直ぐに伸びた道。「ウェルカム」なんて文字が書いた看板が堂々と立てられていた。
「ほんでこっちがおいらたちが暇つぶしで作ったトラップありのダンジョン風の道」
「それってもうダンジョンじゃない!」
今この場でまともな感性を持っているのがあたししかいないとかつらすぎない?
もう一体のオークが指差した先は、もう明らかに禍々しい雰囲気の道。っていうか禍々しすぎて先が見えない。絶対直線じゃないし暇つぶしでトラップ作ったとかもうバカ。おバカとしか思えない。
っていうのに、勇者は一度ウェルカムの立て看板を見たかと思うとすぐにもう一個の道へと視線を向けた。嫌な予感がする。
「どうせならトラップありのほうで行こうかな」
「このおバカーッ! アンタバカじゃないの?! なんでわざわざ危険な道を選ぶのよ‼」
やっぱり。やっぱりそっち選ぶと思ってた。一般通路のほうは無表情で見ていたくせにトラップありの道は目が輝いていたんだから! もう、好奇心旺盛です! と言わんばかりに‼
「普通の時間かかると思うけど、勇者なら楽勝だわな」
「いっぱい仕掛けておいたから楽しんでくれ」
「わかった。ここまで案内ありがとう。楽しんでくるよ」
「それじゃあな~」
「魔王様によろしく~」
「待て待て誰か止めなさいよ! あッ! ちょっと勇者?! 人の話を聞きなさいってば!」
「人……?」
「人じゃなかった! 妖精! 妖精の話!」
なんだか勇者にツッコまれたのがとてつもなく恥ずかしいし情けないような気がしてきた……!
そしてこうして喋っている間に勇者はどんどん森の中に足を踏み入れていく。視界も良好じゃないし道も複雑そうなのに、なんでその進む足に淀みがないの。とか思っていたら。
「きゃーっ?!」
丸太が飛んできたんですけど?! 妖精のあたしは一度ぶつかったらぺっちゃんこなんですけど?! っていうか人間でも確実に頭持ってかれるけど?! 暇つぶしでガチのトラップ作る奴ってどこにいんの?!
いたわ! あたしたちを案内したオークたちがそうだったわ! 何アイツら、もしかしてあたしたちを殺す目的で案内したんじゃないんでしょうね?!
とかあたしがてんやわんやしてるっていうのに、勇者はまさに勇者だったというべきか。数歩歩けばすぐに発動するトラップをヒョイヒョイと軽々しく避けていく。
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