せめて 抱きしめて

璃鵺〜RIYA〜

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せめて 抱きしめて〜承〜

せめて 抱きしめて〜承〜 14

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ボクが思わず目を閉じようとした時に、

「おはよう~!」

という耀子さんの元気な声が聞こえてきた。

ボクと剛さんは瞬時に離れる。
繋いでいた手を離して、ボクは少し後ずさりした。

「おはよう」

と返事をしながら、剛さんが振り返った。
改札口が剛さんの真後ろだったので、耀子さんからはボクが見えていないはず。

その時になって、朝っぱらから公衆の面前でキスしようとしていたことに気付く。
人が少ないとはいえ、全然いない訳じゃない。

ボクは一気に恥ずかしくなる。

今までそんことも気にしなかったのに、急に気になってしまった。
たぶん、剛さんを本気で好きだからだ・・・迷惑かけたくないし、失いたくないから、誰にも知られたくない。

耀子さん到着後、続々とみんなが駅に現れる。
今回一緒に行くのは、全部で8人。
ちょうどワゴン車に乗る人数になった。
程なく副部長の近藤さんが車で駅に迎えに来た。
みんなが車に乗り込む。

ボクも乗ろうと車に近づいた時に、剛さんが腕を引っ張って、ボクを引き寄せた。
ボクは剛さんの行動がわからなくて、きょとんとしながらも、立ち止まった。
剛さんが掴んでいるところから、熱が生まれて、全身を満たしていく。
心の奥まで、温かくなってくる。

腕を掴まれているだけで嬉しくて、ボクはそのまま剛さんの横に立ち尽くしていた。
他のみんなが車に乗り込んでから、一番最後に乗る。
ボクが先に乗って、剛さんがすぐ後ろについて来ている。
中に入ると、ワゴンタイプなので予想以上に広くて驚いた。
そして、一番後ろの椅子が、隣同士で空いていることに気付く。

あ・・・きっと、このために剛さん・・・。
きっとみんなが気を使って空けていてくれたんだろう。

ボクは一番後ろの椅子に座り、すぐ隣に座った剛さんの横顔を盗み見る。
剛さんが耳まで真っ赤にしているのが見えた。
それを見たボクも、何故か顔が赤くなった。

シートベルトをして、恥ずかしいので剛さんとは反対の窓の外を見ていると、不意に手が温かくなる。
シートに投げ出していたボクの手を、剛さんが握りしめている。
でも顔は反対の窓の外に向けられていた。

耳は赤いままだった。

ボクも顔を戻して、窓の外を見る。
冷房が効いているのに、全然涼しくない。
体も顔も熱を持って、熱くて、暑くて。

嬉しくて、なんだか熱中症になりそう・・・。

車は太陽が凶暴さを増して、陽射しが眩しい中をひたすら走る。
高速道路に乗り、長野県を目指す。
ボクは運転をしないので、どういう道順で行くのかとか、全くわからない。
車内ではお喋りしたり、携帯ゲームをしていたり、思い思いの時間を過ごしていた。

ボクと剛さんは、手をずっと握ったまま、ただ黙っていた。
誰かに話しかけられた時だけ、受け答えをする。
それでも、なんの話しをしたのか思い出せない。

剛さんの手の熱さと、感触しか、思い出せない。
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