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第1章 そして冒険者へ

9話「悪魔」

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「かわいい~!」
「……え?」

 ミナは目玉と戯れている。

「アイちゃん! よろしくね」
「……」

 これがずっとついてくるのか?
 さすがに試験中だけだよな……俺は妙な不安に駆られ尋ねる。

「この目玉がついてくるのって、試験中だけですよね?」

 受付嬢は満面の笑みで答える。

「いえ、アイちゃんは冒険者になったその時から、冒険者をやめるその時まで、ずっと一緒ですよ」
「まじ……かよ」
「ちなみに成長もしますよ。人によりますが……」

 受付嬢は嬉しそうに言った。

 大きく肩を落とす俺の横で、子供みたいにはしゃぐミナの姿を見て大きなため息を吐く。

「やったぁ! ずっと一緒だよアイちゃん!」
「ちなみに呼び方は自由ですので、ペットだと思って可愛いお名前、付けてあげて下さいね」
「本当!? どうしよっかな~」

 名前か……こんな目玉に名前なんか付ける気になれない。

「よし決めた! 今日からキミはフェイスだよ!」
「……なんでフェイス!?」
「だってこの子、すごい可愛い顔してるから」

 いや、どう見たってこれは顔じゃなくて目だろ。

「この顔の横に付いてる小さい羽も可愛いし」

 いや、その羽が気持ち悪いんだが。
 しかも顔じゃなくて……まぁ、本人がいいならいいか。
 俺は目玉を見つめる。どこが可愛いのかわからないが、見つめる……というか睨んでいる。
 これはどっからどう見ても……。

「悪魔……だな」

 悪魔の目玉がしっくりくるような見た目をしている。眼球の裏側と言えばいいのだろうか、紫色の粘膜に血管が浮き出てている。
 極めつけは小さくて黄色い羽だ。
 これのどこが可愛いのか、さっぱりわからない。

〈名前を決定しました――悪魔〉

「――え!?」
「どうしたのリョウくん?」
「いや……なんでも」

 俺の目玉、もしかして悪魔とかいう名前になったのか?
 ステータスを確認すると、新たに"監視目玉"という項目が増えていた。そこには、しっかりと"悪魔"と表示されている。

 まぁ、元々名前なんてどうでもいいし、この際悪魔でも何でもいいか。

 俺は開き直ったように笑顔を作ると、受付嬢に中断した説明を促す。

「それで、試験ってどこで行われるんですか?」
「それは人によって異なります。ミナ様は治癒士ご希望でリョウ様は騎士をご希望でしたよね」
「はい、そうです」
「ご希望の冒険者によって難易度が違いますが、そこまで難しいものではありませんので安心して下さい」

 そういうと受付嬢は、手のひらで隣に行くよう促した。

「私ができるご案内はここまでですので、正式な試験のご説明はお隣でお聞きになって下さい」

 俺たちは、すぐ隣の少し雰囲気が違う派手めな女性の元へ行く。

「あの、試験の説明を聞きたいのですが」

 そう言うと、派手な受付嬢は元気よく言い放つ。

「えっと、リョウくんは騎士の卵だからこっちの森ね! それとミナちゃんは治癒士の卵……アトリエに行ってね」

 少し沈黙の後、俺は焦ったように口を開く。

「えっ! それだけ!?」
「うん、そうだよ? その地図に全部書いてるよ?」

 派手な受付嬢は、わかって当然かのように、机に置いた地図を指さす。

「森って……」
「だーかーらー! ここだってば。この森に行って! そこに行けばオッサンがいるからソレに聞けばいいの」

 なぜか怒られる俺……。
 とにかく行ってみるしかないのか。
 派手な受付嬢が指さしていた地図の場所には、"滝洞の森"と書いてある。

「ミナ、アトリエに行ってみるね。また後でねリョウくん」
「うん、じゃあ終わったらここで集合って事で」
「わかったぁ!」

 ミナは右手を高く上げ体を揺さぶりながら、大袈裟に手を振ると、冒険者ギルドの扉を勢いよく開け出て行った。

 こうして俺は、この地図を頼りに滝洞の森とやらに行く事になったんだ。
 この気色悪い目玉……いや、悪魔と共に。
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