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魔術師の目が座った。
「何故お前がここにいる」
「シェインがここにいるからさ」
キラキラ光る金髪の綺麗な顔の青年は、キラキラな笑顔で言った。
魔術師はため息を吐く。
「何故、の意味を解説しよう。
第一に、ここは国境近い山小屋だ。お前が来ていいところじゃない。
第二に、お前が来る理由がない。
第三に、お前が来れる手段がない」
「じゃ答えるね。
シェインは僕の幼馴染みで婚約者だからさ。そして来るのは普通に歩いてきた」
「この吹雪の山の中を馬鹿かーー!」
魔術師の雷が落ちた。
山小屋の外ではごうごうと風が鳴っている。
雪は強くなり景色は真っ白以外微かな濃淡しか見えない程だ。
しかし山小屋の中は暖かい。魔術師が結界を張っているからだ。
「あ、今少し部屋の温度上げてくれたね。やっぱり優しいなシェインは」
「そういう問題じゃないだろう、体が強くない癖に。風呂はないからこれを抱いていろ」
磁器の平たい壷の小さな口は固く栓がされていて、中からとぷんと音がした。湯たんぽだ。
「え、これ今お湯を入れたみたいに熱い。いつ用意したんだい」
「雪を外から転移させて熱を与えただけだ」
「すごいなシェイン。流石国一番の魔術師だ」
「湯たんぽ一つでか。国一番の魔術師とは安いものだな」
小屋の中の温度が上がったので、魔術師は深緑色のローブのフードを脱ぐ。きつい目元に固く一文字に結んだ口。ぱさぱさの癖のある黒髪は一応長さだけはあって女性だと分かる。
「お前は立場が分かっているのか」
「エディアルドって呼んでよ。あ、エディのがいいけど」
「エディアルドは立場が分かっているのか」
「うっわ。大事なことだから二度言った」
「『馬鹿王子』のがよかったか?」
シェインはも一つため息を吐く。
冗談のようだし、むしろ冗談であってほしいが、こいつはこの国の王子だ。と言っても政略上のナントカで年の離れた姉が他国の王子を王配にして継いでいるので、今は正確には王弟だが。
ちなみに国政は良好で、こいつに覇権が回ってくることはないだろう。
「確かに僕はずっと寝たり起きたりだったけど、今は気を付けていれば健康な人と変わらないって医師にも言われたよ」
「なら気を付けろ。健康な人間でも吹雪の雪山は普通登らない」
「シェインはやっぱり優しいなぁ」
目を細めるエディアルドに、シェインは更に一つため息を吐く。
何の因果でこんな頭のネジが抜けたような男と乳兄弟の位置に生まれついたのか。
そこまでは百歩譲って仕方のない偶然だとしても、何故婚約者などと戯言を言われるのか。
いや、形としては確かにそうなのだが。
ここらの国々では、弱い者は強い者と縁を持つと力を分けてもらって強くなるという考え方がある。
体が弱く産まれてすぐ生死の境をさ迷ったエディアルドは、産休中で出産を終えたばかりの優れた宮廷魔術師の乳を貰って育てることになった。それが私の母である。
私は下らない迷信だと思っているが、一国の王子を、そうでなくても幼い子供を何とか助けたいと思った周囲の気持ちも分からないでもない。
しかし長じてからも、親に似て魔力が強く生まれついた私を遊び友達にさせたり、まして形だけとはいえ婚約者にさせたりした周囲の大人は阿呆かと言いたくなる。
ちなみに魔力は人から人に感染るものではない。
「シェイン。帰ろうよ」
「お前が帰れ」
「一緒に帰ろうよ」
「私はここでの用を済ませてない」
「じゃ付き合うよ」
「いらん」
とりあえず吹雪の今追い出す訳にもいかない。
今夜には吹雪は止むだろうから、明日の朝までここに置くしかない、と諦めシェインはいくつか目のため息を吐いた。
「何故お前がここにいる」
「シェインがここにいるからさ」
キラキラ光る金髪の綺麗な顔の青年は、キラキラな笑顔で言った。
魔術師はため息を吐く。
「何故、の意味を解説しよう。
第一に、ここは国境近い山小屋だ。お前が来ていいところじゃない。
第二に、お前が来る理由がない。
第三に、お前が来れる手段がない」
「じゃ答えるね。
シェインは僕の幼馴染みで婚約者だからさ。そして来るのは普通に歩いてきた」
「この吹雪の山の中を馬鹿かーー!」
魔術師の雷が落ちた。
山小屋の外ではごうごうと風が鳴っている。
雪は強くなり景色は真っ白以外微かな濃淡しか見えない程だ。
しかし山小屋の中は暖かい。魔術師が結界を張っているからだ。
「あ、今少し部屋の温度上げてくれたね。やっぱり優しいなシェインは」
「そういう問題じゃないだろう、体が強くない癖に。風呂はないからこれを抱いていろ」
磁器の平たい壷の小さな口は固く栓がされていて、中からとぷんと音がした。湯たんぽだ。
「え、これ今お湯を入れたみたいに熱い。いつ用意したんだい」
「雪を外から転移させて熱を与えただけだ」
「すごいなシェイン。流石国一番の魔術師だ」
「湯たんぽ一つでか。国一番の魔術師とは安いものだな」
小屋の中の温度が上がったので、魔術師は深緑色のローブのフードを脱ぐ。きつい目元に固く一文字に結んだ口。ぱさぱさの癖のある黒髪は一応長さだけはあって女性だと分かる。
「お前は立場が分かっているのか」
「エディアルドって呼んでよ。あ、エディのがいいけど」
「エディアルドは立場が分かっているのか」
「うっわ。大事なことだから二度言った」
「『馬鹿王子』のがよかったか?」
シェインはも一つため息を吐く。
冗談のようだし、むしろ冗談であってほしいが、こいつはこの国の王子だ。と言っても政略上のナントカで年の離れた姉が他国の王子を王配にして継いでいるので、今は正確には王弟だが。
ちなみに国政は良好で、こいつに覇権が回ってくることはないだろう。
「確かに僕はずっと寝たり起きたりだったけど、今は気を付けていれば健康な人と変わらないって医師にも言われたよ」
「なら気を付けろ。健康な人間でも吹雪の雪山は普通登らない」
「シェインはやっぱり優しいなぁ」
目を細めるエディアルドに、シェインは更に一つため息を吐く。
何の因果でこんな頭のネジが抜けたような男と乳兄弟の位置に生まれついたのか。
そこまでは百歩譲って仕方のない偶然だとしても、何故婚約者などと戯言を言われるのか。
いや、形としては確かにそうなのだが。
ここらの国々では、弱い者は強い者と縁を持つと力を分けてもらって強くなるという考え方がある。
体が弱く産まれてすぐ生死の境をさ迷ったエディアルドは、産休中で出産を終えたばかりの優れた宮廷魔術師の乳を貰って育てることになった。それが私の母である。
私は下らない迷信だと思っているが、一国の王子を、そうでなくても幼い子供を何とか助けたいと思った周囲の気持ちも分からないでもない。
しかし長じてからも、親に似て魔力が強く生まれついた私を遊び友達にさせたり、まして形だけとはいえ婚約者にさせたりした周囲の大人は阿呆かと言いたくなる。
ちなみに魔力は人から人に感染るものではない。
「シェイン。帰ろうよ」
「お前が帰れ」
「一緒に帰ろうよ」
「私はここでの用を済ませてない」
「じゃ付き合うよ」
「いらん」
とりあえず吹雪の今追い出す訳にもいかない。
今夜には吹雪は止むだろうから、明日の朝までここに置くしかない、と諦めシェインはいくつか目のため息を吐いた。
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