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もちだ すしの

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「涼ちゃん。機嫌直してよ。」

後ろから椅子をトントンと蹴ってくる光生のことを俺はさっきからずっと無視している。あれから勃ってしまったものがおさまるまでどれだけ大変だったと思ってるんだ。

「ねぇ、見て。涼の好きなパン買ってきたよ。」

購買のパンは人気でどれもすぐに売り切れるから滅多に食べられない貴重なパンだ。チラッと振り返れば俺の1番好きなパンを持っていて食べたくなってくる。

「………そんな食べ物で釣られるほど子どもじゃないもん。」

本当はものすごく食べたい。光生と一緒においしいねって笑い合いながら食べたい。

「そっか、残念。涼が好きだから食べるかなと思って買ったんだけど、、怒らせちゃったししょうがないよね。」

「光生………」

光生は寂しそうに窓の外を見ていてせっかく買ってきてくれたのに悲しませるような態度をとってしまった。

「食べる!!いつもの場所で一緒に食べよ!!」

パンを手に取ればニヤッと笑う光生に今の寂しそうな顔は演技だったことに気づく。

「涼のそういう優しいところすごい大好きだよ。」

そんなことをサラッと言われるとまた怒ろうとしていた気持ちなんてどこかに消えていく。

「……早く行こ、、光生と2人だけになりたい、、」

「ふふっ、今の録音しとけばよかった。」

ニッと笑う光生にまた心臓が速くなる。いつも俺に甘いけど昨日から特に甘い気がする。

「あれからお腹痛くなってない?大丈夫?体きついでしょ?」

ほらやっぱりそうだ。外に行き2人きりになればいつも以上に優しくてかっこいい顔で見てくる。いやいつも最高にかっこいいんだけどなんか今日は違うし意識すればするほど照れて目を合わせることができない。

「大丈夫だよ、、俺すごい頑丈だし風邪だって何年もひいてないし、、」

「あははっ、そうなの?こんなに華奢で細いのに!」

安心したのか楽しそうに笑う光生はずっとご機嫌だ。

「このパン俺ばっかり食べてる、、光生も食べて、、」

「ん?涼が全部食べていいよ。俺はおいしそうに食べてるところが見られればそれでいいの。」

そんなの全然良くない。俺だって光生がおいしそうに食べるところが見たい。首を横に振ればいつもみたいにふふっと笑ってくれる。

「じゃあ、涼が食べさせて。」

あーんと口を開ける光生にパンを近づければニコッとまた嬉しそうに笑い食べてくれる。

「ふふっ、おいしいね。俺もこのパンが1番好き。」

久しぶりの一緒に食べるお昼ご飯だけでもドキドキしているのに俺はこんなに甘い光生にもう耐えられそうにない。

「あー!さくらちゃんじゃん!教室にいないと思ったらここにいたんだ!」

俺たちの前をたまたま通りかかったのかバスケットボールを持っている星くんは部員の人たちと体育館に向かっている。

「暇になったらこっち来てよ!一緒にバスケしよ!」

そう言って手を振って去っていく星くんに俺も手を振っていると後ろから女の子の声がした。

「あの、椎名くん!ちょっとだけ時間いい?」

光生に話しかける女の子は今から告白をするんだとすぐにわかる。

「ごめんね。俺今ご飯食べてるから。」

いつも呼び出されるとその子の所へ行っているのに今日はめずらしく冷たい返事をしている。

「あっ!ごめん!俺体育館行くから!ここどうぞ!」

もしかして俺がいるからなのかと思ってその場を譲れば光生はムスッとした顔で睨んでくる。この空気に耐えられず逃げるように体育館に走って向かう。

「さくらちゃん来てくれたの?」

「うん!そういえば今日の朝、練習の邪魔しちゃってごめんね、、」

謝る俺の頭に星くんはコツンとボールを乗せてくる。

「全然邪魔じゃないよ!すごい嬉しかった!」

今ごろきっと告白されている光生のことが気になりモヤモヤしていた心は星くんの笑顔を見ると少しだけ元気になっていく。

「ここでバスケ見ててもいい?」

「えー?さくらちゃんバスケしないの?」

そんな気分にはなれなくて頷けば星くんはその場からシュートを決める。

「じゃあずっと見てて!俺すっごいバスケ上手いから!」

それ以上何も聞かない星くんはニッと笑いまたバスケをしだした。しばらくボーっと見ていると突然隣にちょこんと誰かが座る。

「さくらちゃん!ひとりなのめずらしいね!」

「夢ちゃんだ!」

お昼休みまでマネージャーの仕事があったのか夢ちゃんはいつも一生懸命でそんなところが大好きだ。

「あれからどうだった?ちゃんと仲直りした?」

「うん!夢ちゃんのおかげでいっぱいわがまま言えたよ!本当にありがとう!」

「きゃー!さくらちゃんかわいい!」

お礼を言っただけなのに嬉しそうにはしゃぐ夢ちゃんのほうが絶対にかわいい。

「じゃあ今日は椎名のお祝いするんだ?」

「お祝い?」

なんの話かわからず首を傾げると夢ちゃんも同じように不思議そうに首を傾げた。

「え?今日椎名の誕生日でしょ?」

「え?光生の?」

誕生日なんて知らなかった俺に夢ちゃんは慌てて謝る。

「わっ!ごめん!知ってるかと思って私言っちゃった、、本当にごめんなさい、、」

「いやいや!全然大丈夫だよ!夢ちゃん何も悪くないし気にしないで!!」

「……でも椎名の誕生日私から知りたくなかったでしょ?さくらちゃん私のこと嫌いになったよね、、本当にごめんね、、」

今にも泣きそうに謝る夢ちゃんに全力で首を横に振る。

「そんなことで嫌いになんて絶対ならないから!夢ちゃんのこと今もこれからもずっと大好きだよ!だから本当に気にしないで!」

そう言ってもショボンと落ち込んでいる夢ちゃんを必死に励ましているといつのまにかお昼休みは終わっていた。

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