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プロローグ

vol.11 自覚し(たくなかっ)たチート

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 『...あの?るみさん??』
 「はい、何でしょう。」
 『理由がないのならばそろそろ...その、手を止めていただきたいのですが...』
 「ん、了解。」

 しばらく撫で続けていて満足したのでアティスさんの頭から手を離し話の続きを促す

 「それで?さっき光ったって事は、一応契約はできたんだよね?」
 『はい。これで貴女は平常時 変化の魔法はすぐに暴走してしまいますが、他の魔法は自身の意識下でしか発動しませんし、魔法が作られるスピードも飛躍的に上昇したでしょう。大成功ですよ』
 「よ、よかった...」
 ほっと息を吐き出し、目下のところ一番大きな悩み事も消えたので肩の力が抜ける

 「ところで、最後に「ビュンッ」って伸びたレーザーみたいなのって何?凄いびっくりした!」
 『ああ、あれはおそらく契約の証明を身体に刻むためのものですね。ほとんどの人はそのまま胸に刻まれますが 人によって個人差があるので、目を覚ましたら何処にあるか確認しておいてください。あまり人の目に付かない方がいいので』
 「はーい」

 『では、今度こそ準備が整ったので、貴女の身体を起こさせましょう』
 「何か今 寒気が...」
 『現在 私は元私のを遠隔で操作出来る状態にしてあります。
  逆さ吊りで葉っぱ50枚で往復ビンタか首根っこ捕まえられて枝3本で往復ビンタか、どちらがいいですか?』
 「往復ビンタ不可避!?」

 なんて冗談を交わしてみるが 私の意識は少しずつ薄れ、周りの風景も雲海に埋もれるように白っぽくなってゆく

 『では、ご無事で』
 「そりゃもちろん!無事じゃなきゃ「折角生まれ直したのに~」って、悔やんでも悔やみきれないし。
  道中もよろしく?」
 『ええ、もちろんです。』

 王都に着いたら切れてしまう縁なのだろうけど 大事にしよう、と考えた所で 私の意識は暗転した




  『...私は、ここ彼女の魂の中にいてもいいんでしょうか...』

  彼以外誰も何もいない空間に響く声は
   どこか所在無さげだった


   。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆


 「ん...ふぁああぁ...よく寝た~のかな?」

 目を覚ました先はセフィルから貰った記憶で一番最後の時と変わりがない元アティスさん五  年  樹を囲む祭壇と 鬱蒼と茂る森の中という風景だった

 『一応、丸二日くらい経ってるんですがね』
 「へぇ、そうなんだ。
  ...こうやって一人で喋ってるのってめっちゃ不審者じゃない?私このままでやって行けるの??」
 『貴女の思考は私に筒抜けなんですから、喋らなければいいんですよ。心で考えるだけで大丈夫です。私が読み取りますから』
 (おっ、その方が楽だし便利!了解~よろしくね)
 『はい、その調子でどうぞ~』

 まずは周りをぐるっと見回してみる。
 ...うん、わからん。村は文化圏や国からは切り離されており、外部の人間の誰にも知られることのない僻地だったらしく (セフィルから貰った)記憶にも外に出る方法らしきものは影も形もない。

 (アティスさんー!こういう時の情報網だよ!!何か無い~?)
 『はあ...まだ旅を始めてもいないのに人使いが荒いですねえ』
 (しょうがないじゃないか。土地勘もこっち異世界の知識も、砂粒の欠片カケラほどもないんだから)

 『よし!折角ですから魔法の試し打ちでもしてみましょうか。』
 (おー!異世界初(?)魔法だ!転移については心の中だったしわざとじゃないからセーフセーフ...)

 小さく自分に言い訳をしながらこの場合での魔法はなんだったかと前世からお馴染みのファンタジー知識を漁る
 (こういう時は...探索サーチ、とか?)
 『ピンポン、当たりです。』
 (おお、やったね!)

 『魔力は...貴女の場合心臓の少し下、左右の肋骨を繋げる軟骨の奥ですね。ちょうど胴体の真ん中にあたる所に魔力の源がありますので、そこら辺を探ってみてください。魔力量が多いですしすぐ見つかるでしょう。』
 (はーい)


 (体の中心、肋骨の合わせの所くらい...)
 意識を体の中へと向けてみると、じんわりとそこから熱が広がり身体中がぽかぽかとしてきて穏やかな気持ちになるその感覚にほっと息を吐く
 擬似風呂再現だ~またやろう

 『...どうやら大丈夫そうですね。
  発動方法は空気中に魔力その感覚を広げて、それを使って周りを探らせるイメージでどうぞ』
 (そんな簡単なの...?)
 『いえ。貴女には呪文なんて必要ありませんからね。ある程度は省略します。』
 (あ、ハイ...)

 よし、と気合を入れて自分の熱を溶かし外へと波紋を広げるように薄く、薄く... 360°満遍なく。コップから水が溢れる様をイメージして周りに落とすように魔力を流していく。
 探る時はシーツを上下に動かして波を作るように...得られた情報は魔法で整頓、周りに漂っているであろう魔力も同調・同質化させて...


 『えっ!?ちょっ待っ...!!』
 「《探索サーチ》!」

 作った水路に水を重増かさ  ましさせるように魔力を周りへ流し込み、発動の鍵キーワードを口にする
 すると 周りにある木々は何処にあって地面の高低差はどのくらいで...と、頭の中に情報が溢れる。魔法の中に情報の整理・精査・図面化的なことをイメージしたのがよかったのか、あまりの情報量に頭が痛くなることは無い。脳みそは溶けていない様で一安心だ

 でも、何だろう...魔力の源は胸の中心にあって溢れて止まらないのに、周りの空気中の魔力が私の中へ取り込まれて身体がいっぱいになっていく感覚がする。
 う、くる し...何これ、?ちょ、やめ、中止!!!


 私の中にある魔力と外に出した魔力を皮膚の表面でシャットアウトするイメージで肉体内/外の魔力を切り離す。魔力に意識を向けてみると、その量は使う前と変わらず...いや、それよりも増えてる...?
 この体は休まってた(はず)だから、魔力満タンだったはずなのに??

 "魔力を消費したはずが増えている..."と この世界の謎を知ってしまったとばかりにうんうん唸っていると、アティスさんの深い、それはそれは深ぁ~いため息が聞こえてきた。な、なにゆえ...?


 『一応いておきましょう。何故 空気中の魔力と自分の魔力を同調させたんですか...?』
 (あれ...もしかしてアティスさん、怒ってらっしゃr...んですよね、そうですよね。ごめんなさいッ!)
 『私は理由を聞いているんです。返答次第では厳重注意で終わりますから』

 えぇ...怒られること必至なの...
 避けられなさそうな運命に一つ息を吐き、渋々ながら口を開く

 (えっと、私は空気中の魔力に働きかければ より効果的だと思って...空気はどこにでもありますから、だからです。)
 『ふむ...なるほど、確かに合理的な考えですね。

  しかし 空気中の魔力と同調させるということは、この星全体の魔力と自分の魔力が一体化する事と同義なんです。
  そんな事をしてしまっては 老若男女関係なく、人間は魂の格も魔力の保有可能量も足りずに無理やり押し広げられて最悪の場合空気に溶けます』


 (怖っ!?え、最悪で溶けるの?肉体はどうなっちゃうの??って、私は大丈夫なの?!私生きてる!??)
 『大丈夫、貴女はこの星では世界樹級の魂という規格外ですから生存可能ですよ。

  ただ、魔力保有可能量...所謂いわゆる魔力の最大値ですね。それを風船に蛇口で水を入れるように、ソレに圧力をかけて無理やり伸ばしているような状態なので あまり身体にいいものではありませんね。1回で一気に広げてしまうと後遺症が出てしまうかも...
  ああ、普通の人間がやってしまった場合に肉体が無くなってどこへ行くのかですが、あまりの熱量に一瞬でちりになり その塵が星の魔力へと変換されるので影も形も残らない、という訳です。』
 アティスさんからとてつもなく黒いものを感じて悪寒がする
 きっとあの可愛らしい少年 ショタ の姿で微笑んでいるのだろう

 ワーコワいー、そして私のチートさが真面目に限界突破だったことが発覚。嬉しいようなあんまりなような...複雑だ...

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