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第010話 奴隷

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 俺からすると実に馬鹿馬鹿しい響きの「マヨネーズナイト」だが、国が定めた正真正銘、偽りなく本物の騎士爵である。名誉爵位とはいっても爵位は爵位ということで、俺には貴族と同様に奴隷を養う権利が与えられた。

 奴隷といえばこれまた悪い響きだが、実際は聞こえほど悪くない。
 この世界における奴隷制度は奴隷に優しく出来ている。非人道的な扱い……例えば、奴隷が美人だからといって性行為を強要することなどは出来ない。もしもそのような行為を犯した場合は速やかに罰せられる。また、奴隷には最低限の給料を支払い、十分な食事を提供する必要もあった。一般的な雇用関係と殆ど相違ない。

 奴隷は爵位を持つ者にのみ養う権利がある。
 また、養っている奴隷の数は、自身のステータスを示すある種のバロメーターにもなっていた。その為、爵位を持つ人間は最低でも1人は奴隷を養っている。以前ビローチェ男爵が言っていた「召使い」も奴隷だ。ビローチェ男爵は奴隷という呼び名を嫌っているから召使いと表現しているらしい。

 そんな訳で俺も奴隷を養うことにした。
 国が運営する<奴隷館>に行き、奴隷を選んで連れ帰るのだ。

「誰にしようかなぁ」

 館に入った俺は、自由に動き回って奴隷を見ていく。
 煌びやかな館の中で、多くの奴隷がのんびりと活動していた。人権が保障されているからか、暗い表情をしている者は見当たらない。この国に奴隷制度があることを知った時には驚いたけれど、このように人道的なものであれば嫌な気はしなかった。

「うーむ、迷うな、エリオ」
「グァァー」

 奴隷の年齢は5歳から19歳で、連れ帰るのにお金は掛からない。
 ただ、一度養えば、奴隷が自分の意志で自立したいと申し出るまで面倒を見ることになる。先のことを思えば、無料だからといってアレもコレもというわけにはいかない。

「お、君は」

 俺はある奴隷に目を付けた。
 狼の耳と尻尾を生やした女だ。

「私がどうかしましたか?」
「その耳と尻尾は……」
「あぁ、私は人狼なのです」
「やっぱり! 初めて見るなぁ、狼の獣人」

 この世界には人間以外の人種も存在する。
 耳が尖ったファンタジー世界の代表“エルフ”に、小さくて器用な“ドワーフ”など。その中でも今話している彼女は、大きな括りで“獣人”と呼ばれる獣と人の混血種ハーフだ。獣人には狼の他にも猫や犬など様々な種が存在する。

 人狼という、日本には居なかった存在に惹かれる。
 女が首に掛けているタグによれば19歳とのことだが、立ち振る舞いから感じられる雰囲気はそれ以上に大人っぽい。見た目も美人だし、一緒に過ごすとなれば生活が楽しくなりそうだ。

「(この人にしようかな?)」

 悩んだ結果、俺は違う奴隷も見ることにした。
 人狼の女性に「呼び止めて悪かったな」と言い、会話を終える。

「エリオ、お前はどういう人がいい?」

 エリオに尋ねてみる。
 するとエリオは「グァー! グァー!」と鳴いた。それから服を引っ張ってきて、その場から動こうとしない。まごうことなきマヨの要求である。

「お前はマヨが一番だもんなぁ」

 俺はその場で【マヨ生成】を行い、エリオにマヨをあげた。食いしん坊のエリオは大喜びで「グァー♪」と鳴いてマヨを食べ始める。いつも同じ味で飽きないものかと心配になるけれど、エリオがマヨに飽きることはなかった。

「可愛い……」
「「――!」」

 どこからともなく声が聞こえて、俺とエリオの動きが一瞬だけ止まる。
 だが、エリオは直ちに食事を再開させた。知らん顔で。
 一方、俺は声の主を探そうと周囲を探す。

「美味しい……?」

 また声が聞こえてくる。
 エリオの近くからだ。
 俺は視線を手前に戻し、エリオに向けた。

「わお! 小さッ!」

 エリオのすぐ隣にその子は居た。
 手のひらサイズの小さな幼女だ。太ももの辺りまで伸びた黄緑色の長い髪が特徴的な子で、丈の短い白のワンピースを着ている。尻尾や獣耳はない代わりに、背中から四枚の羽が生えていた。

「リム、小さくないもん」

 幼女が俺を見て頬を膨らませる。
 小さいという言葉が癪に障ったようだ。

「その種族だと平均的な大きさなの?」
「うん、妖精だもん。だから小さくないもん」

 よほど「小さい」という言葉が気に入らなかったようだ。
 だから「悪気はなかったんだ、ごめんよ」と謝っておく。
 するとリムは「いいよ」とぶっきらぼうに言った。

「妖精かぁ」

 人の赤子よりも遙かに小さな種族“妖精”。
 これまで見た中で最もファンタジーな存在だ。
 俺はリムを養おうと決め、最終確認に入る。

「このマヨをグビグビしているのはエリオっていうんだ」
「エリオ……可愛い」
「気に入ったかい?」
「うん、触ってもいい?」
「いいよ」

 リムは「ありがとう」と言い、恐る恐るとエリオに手を伸ばす。
 エリオはマヨに夢中だが、迫り来るリムの手には気づいていた。
 それでもエリオは何もしない。一瞥した後はマヨに夢中だ。

 ピタッ。
 リムの手がエリオの額に当たる。

「触った……!」

 そう言って表情を和らげるリム。
 俺は「撫でてやってくれ」と微笑んだ。

「わかった。撫でる。たくさん撫でる」

 リムがエリオの額を撫で撫でする。
 撫でるたびに、エリオではなくリムが喜んだ。

「(エリオのことも気に入っているし、問題ないな)」

 俺と過ごすということは、エリオと過ごすことにもなる。
 だから、養う奴隷にはエリオを好いている者が望ましい。
 その点においてリムは及第点。安心して共に過ごせる。

「リム、君を今日から俺の奴隷として養おう」

 こうして、俺は妖精の五歳児リムを奴隷に迎え入れた。
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