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第004話 マヨネーズ

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 異世界生活3日目にして初めてアイテムを入手した。
 そのアイテムとは、雑貨屋で購入した『地図』である。

「ふむふむ……」

 酒場で朝食をとりながら地図を眺める。
 まるで新聞を読むサラリーマンのように。

「これは分かりやすいな」

 地図には敵のランクが記載されている。
 俺みたいな新米にはFやEランクの敵がお似合いだ。

「エリオの能力を考慮したら雑魚で力を蓄えるのが得策か」

 エリオのユニークスキル【捕食】は、倒した敵の能力を一部吸収するというもの。具体的には倒した敵がプリン化して、それをエリオが食べることで吸収される仕組みだ。
 このスキルは派手さに欠けるものの、堅実的な強さがある。敵を倒せば倒す程に強くなるのだから、地味でありつつも極めて強力だ。ロールプレイングゲームに例えるなら、敵を倒すたびにレベルアップしているようなもの。

「Eランクの強さが分からないし、今日もゴブリンでいいか」

 昨日はひたすらにゴブリンを乱獲していた。
 エリオがどの程度プリンを食べられるか気になったからだ。その結果分かったのは、エリオはいくらでも食べられるということ。マヨネーズと違い、プリンに関してはいついかなる時でも完食した。

「グァァー♪」

 地図を読み耽っているとエリオが呼んできた。
 いつものように前足を使って器用に服を引っ張ってくる。

「どうかしたのか……って、まだいるのかよ!」

 おかわりの要求であった。
 朝食にと上げたチューブマヨネーズを一本平らげたのだ。アリクイ特有の長い舌を使い、容器の中を綺麗にしている。まるで元から何も入っていなかったかのようだ。

「そこまで綺麗に食べたのならおかわりをあげないとな」

 俺のユニークスキルは【マヨ生成】。
 チューブマヨを好きなだけ生み出せる能力だ。エリオ以上に地味だけれど、食いしん坊のエリオを満足させるには必須の能力である。こいつがなければ、今頃エリオは餓死していたかもしれない。

「ほら、食いな」
「グァァー♪」

 エリオはおかわりのマヨを堪能する。
 後ろ足で器用に立ち、前足を手のように使う。
 まるで一気飲みするかのようにマヨを平らげていく。
 よほど美味しいみたいで、恍惚とした表情を浮かべてやがる。

「可愛いー♪」
「エリオくーん!」
「こっち向いてー!」
「キャー♪」

 エリオは俺以上にファンが多い。
 俺が同じ酒場にばかり行くからあっさり覚えられた。

「向いてくれたー! やったぁー!」

 エリオはファンサービスの精神が旺盛だ。
 声を掛けられたら、器用に身体の向きを合わせる。
 もちろん前足はマヨを持っており、グビグビしたままで。

「ところでヨウスケさん、エリオくんは何を食べているのですか?」

 給仕係の女が尋ねてきた。
 3日連続で俺の担当をしているピンクの髪をした女だ。
 さすがに俺も彼女の名前を覚えた。マリーだ。
 年は18で話しやすい性格をしている。

「マヨネーズだよ」

 俺はマリーに答えた。
 するとマリーは「アレがマヨネーズ?」と驚く。

「そうだよ。俺はマヨネーズを生み出せるからね」
「ど、どういうことですか!?」
「そのままの意味さ。ユニークスキルってので――」

 俺は【マヨ生成】について説明した。
 マリーは「ほへぇ」と間抜け面を浮かべて驚嘆する。

「減るもんじゃないし、マリーにもあげるよ」

 百聞は一見にしかずだ。
 俺はマヨを作り、マリーにプレゼントした。

「食べてみな」
「はいな!」

 マリーがマヨをチュッチュした。
 エリオの真似をして、両手で持っている。

「ぷはー! 本当にマヨネーズですね! しかも凄く美味しい!」

 日本のマヨネーズはこの世界でもウケるようだ。
 流石は天下のQP社が作った一般家庭向けマヨネーズである。
 俺は「そうだろう」とご満悦。

「ヨウスケさん、このマヨネーズ売って下さいよ!」

 マリーが提案してくる。
 今度は俺が「えっ?」と驚いた。

「マヨネーズは貴族でもそう易々とは多用できない高級品じゃないですか」

 そういえばそうだったな。
 女神曰く、中世ヨーロッパに近い文明レベルとのことだ。
 だから俺も「マヨをどうにかして!」と訴えたわけである。

「ですから、ヨウスケさんがマヨを安く譲ってくれるなら、これはもう革命がおきますよ! ウチは商売繁盛で宮廷のお抱え料理屋に抜擢されるやもしれません! 夢があるじゃないですか! このマヨネーズには!」

 熱弁するマリー。
 よほどマヨが気に入ったようだ。

「それにもし安く譲ってくれるなら……」

 マリーが後ろから抱きついてくる。
 そして、耳元で「サービスしちゃいますよ」と囁いた。
 更に言い終えると耳に息を吹きかけてくる。

「それは卑怯だぞ!」

 俺は身体をブルッとさせながら言った。
 そうやって俺を邪な妄想に駆らせて誤解させる気だ。
 見え見えの魂胆であっても避けられないのが男である。
 ゲスい。まさにゲスの極みだ。

「お願いしますよぉ。ヨウスケさん♪」

 またしても耳に息が吹きかけられた。
 しかし、今度の息は耳を少し外れて顔にかかる。
 その結果――。

「マリー……マヨネーズのせいで息がくせーぞ」

 マヨにまみれた息が鼻にかかったのだ。
 マリーは「うぎゃ!」と顔を真っ赤にして飛び跳ねる。
 俺は「調子に乗った罰だな」と声を上げて笑った。

「もう! でもいいじゃないですか! ユニークスキルとやらでいくらでも作れるのなら、お安く譲って下さいよ! タダでよこせって言うわけじゃないんですから!」

 マリーは誤解している。
 俺は最初から譲る気なのだ。
 熱弁しなくとも了承していた。
 だが、こんな展開になってしまったので――。

「そこまで云うのなら特別に安く譲ってやることにしよう」

 勿体を付けておいた。
 マリーが「やったぁー」と喜び抱きついてくる。

「俺も男だ。サービスを期待しているぜ」
「もちろん! 食事はいつでも無料にしますよぉ!」
「やっぱりその程度のサービスかよ!」
「いいじゃないですかー! 食費無料は大きいですって!」

 俺は「やれやれ」と苦笑い。
 こうして、俺はマリーの親父が経営する酒場<アンブロワーズ>にマヨネーズを提供することになった。

 ――この行為によって、後にこの世界が震撼するのだけれど、当然ながら今の俺にそれを知る由もない。

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