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018 グラハム大盗賊とは

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「フレイムドラゴンって、よく街を襲うの?」

 個体差はあれど、フレイムドラゴンは基本的に気性が荒い。
 ただし、人間を襲うことは滅多になかった。
 奴等からすると、人間はあまりにも小さすぎる存在だからだ。
 俺達が土の上を歩く蟻を見ても無視するのと同じ感覚である。

 だから、我が家を襲った一件はたまたまだと思っていた。
 静かな夜を賊の連中が台無しにしたことにイラッとしたのかな、と。

「いえ、こんなことは滅多にありません」

「やはり」

 そうなると、何か苛つかせるきっかけがあったに違いない。
 我が家に続いて街ともなれば、狙いが人間なのは確実だ。
 何があって怒っているのか、おおよその察しはつく。

「その件に関連して、現在、特別クエストを発注しております」

「特別クエスト?」

 フリークエストに次ぐ新たなワードだ。

「街を襲ったフレイムドラゴンの討伐です。
 もちろん、相手はS級ですから1PT単位の依頼ではございません。
 協会が主導となって討伐隊を結成し、隊で討伐に向かって頂きます」

 冒険者が大人数で群れて戦う。
 数百年前には考えられなかった内容だ。
 そういうのは軍隊――国の仕事だった。

「よろしければ参加していただけませんか?」

「討伐隊か……」

 ただのPTには興味ない。
 が、PTを超越した集団には興味があった。
 個人的には参加に前向きだ。

「どう思う?」

 ルーナに判断を仰ぐ。
 彼女の決定に従うつもりだ。

「だんが! どぅる!」

 参加する、とのことだ。

「決まりだな」

 視線を受付嬢に向ける。

「参加するよ」

「ありがとうございます」

 受付嬢がお辞儀する。

「でもいいの? 俺達はG級だよ?」

「安全の為、通常はE級以上の冒険者様にしか声をかけていません。
 ただ、ユーシス様はサンドワームを倒されていますので、
 私の裁量で大丈夫だろうと判断しました」

「フッ、なかなか良い判断能力だと思うよ」

 かくして、俺達はフレイムドラゴンの討伐隊に参加することとなった。
 受付嬢に集合場所や時間の詳細を教えてもらう。
 被害をこれ以上拡大させない為にも、討伐隊は今日中に発つようだ。

「説明は以上となりますが、何かご質問はございますか?」

「いや、討伐隊についてはよく分かったよ」

 俺には他に知りたいことがあった。
 だから、そのことについて質問しておく。

「ところで、〈嘆きの荒野〉について知りたいんだが」

「はい」

「荒野にある小さな洞窟を根城にしている悪党がいるだろう?」

 大量の奴隷だけがいたあの洞窟について。
 冒険者協会の人間なら何か知っていると踏んでいた。

「ああ、グラハム大盗賊のアジトですね」

 案の定、受付嬢は知っていた。

「グラハム大盗賊?」

「単純な頭数もさることながら、腕の立つ者も多い盗賊団です。
 賊徒の数は総勢で100名を超えるとも言われています。
 また、頭領のグラハムは元々A級の冒険者でした」

「そうだったのか」

 元A級冒険者が率いる大盗賊。
 思っていたよりも凄い奴のアジトだったわけだ。
 面倒事にならなくてよかった。

「グラハムは指名手配中です。
 あちらに人相書きがございますので、
 もしも見かけたらすぐに逃げてくださいね」

 サンドワームを倒したとはいえG級であることに変わりない。
 だから受付嬢は、俺がグラハムよりも劣っていると確信していた。
 それが逆に奮い立たせる。

「ははっ、見かけたら逃げることにするよ」

 もちろん、見かけたら引っ捕らえてやる。
 そんな気持ちで、人相書きの貼られている掲示板に向かった。

「なかなか凶悪な奴がこの世にはいるんだな」

 掲示板には複数の指名手配犯が載っている。
 肩書きも記載されているが、大半が賊だ。盗賊、山賊、海賊。
 あとは暗殺者がチラホラと、脱獄囚が1人。

「さてさてグラハムは……」

 見落とさないように一つ一つ眺めていく。
 そして、グラハムの名前を発見した。
 肩書きが大盗賊で、主な出没地域が〈嘆きの荒野〉。
 名前も合っているし、こいつで間違い。

「一体どんな面をしているんだ、グラハムは」

 ゆっくりと視線を人相書きに向けていく。
 そして、ハッと息を呑んだ。

「こいつは……!」

 グラハムは俺の知る男だった。

「あの時のおっさんじゃねーか!」

 フレイムドラゴンに燃やし尽くされた賊の頭領。
 あれこそが大盗賊の頭領、グラハムだったのだ。

「なるほど、そういうことだったのか」

 合点がいった。
 大盗賊のアジトが無人だったことに。
 我が家を囲み、そして、全滅してしまったのだ。

「元A級冒険者なら、一度は戦ってみたかったな」

 などと思ったが、次の瞬間には気にならなくなった。
 フレイムドラゴン相手に即死のようでは、俺の相手にならない。
 弱い者イジメをしてしまうだけだ。

「サクッとメシを済ませてフレイムドラゴンの討伐に行こうか」

「おー!」

「ギャオー!」

 討伐隊の集合時間が押している。
 俺達は早足で近場の酒場へ駆け込んだ。
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