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第010話 予行演習

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 翌日以降、俺は新たな金策を始めた。
 これまでと違い、Eランクモンスターを対象とした討伐クエストを繰り返すことにしたのだ。Dランクの我がペット達ならば、Eの敵を乱獲することはワケもない。1回の報酬でいえばDの敵を討伐するほうが優れているが、安全性や数を考慮すればEでちょうどよかった。

「レベルが上がりましたぁ!」
「オラも上がっただー!」
「そら一緒に上がるだろ。同時期に誕生した同ランクなんだから」

 ちびちびとペット達が成長していく。
 レベルアップによるステータスの向上はさることながら、戦闘経験を積むことで動きもよくなる。ゴブオは敵の攻撃をしばしば避けるし、スラ吉は考えて魔力を消費するようになった。

「おかげさまで俺の冒険者ランクもEにアップした。これは嬉しいことだ。しかし、この所持金は全く嬉しくないな……」

 俺は5日で100枚の金貨を稼いだ。
 敵が強くなった分、実入りも増えた。
 この調子なら、2ヶ月足らずで1,000枚に到達する。
 待てない長さではないけれど、待ちたくはなかった。
 今すぐにでも美人なエルフを奴隷にしたい。

 それに、この苦労をあと2ヶ月も続けるのは無理だ。
 早朝に宿屋を発ち、日暮れまで戦い、街に戻るのは夜である。
 自由気ままに生きる<冒険者>にあるまじき勤労だ。
 日本のブラック企業に務める社畜ではないのだから。

「それにしてもどうやって【テイミング】するかなぁ」

 プラチナゴーレムについてだ。
 街に向かって夜道を歩きながら考える。

 既に敵のあらゆる情報が脳内に詰め込まれている。
 姿形、棲息地、行動パターン、エトセトラ……。
 今の俺なら“プラチナゴーレムオタク”を自称して問題ない。

「他の人はどうやってつかまえるのですかぁ?」

 ゴブオが尋ねてくる。
 俺は「色々だよ」と即答し、軽く説明した。

「PTメンバーに協力してもらったり、ペットを駆使したり。ただ、俺の場合はそのどちらも使えないんだよね。PTメンバーなんざいないし、お前達はDランクだから危険過ぎる」
「ぼくたちならだいじょうぶですよぅ!」
「そうだそうだー!」

 迷わず「大丈夫じゃないから」と鼻で笑って否定する。
 レベル不明のAランクモンスターにDランクを突っ込ませる?
 ありえないだろう。自殺志願もいいところだ。

「ま、文字による情報だけを元に考えても絶望しかないな」

 俺はそこまで賢い人間ではない。
 今のような調子で考えても机上の空論で終わるだけだ。

 だから、明日は現地に赴いて未来の相棒を拝むことに決めた。

 ◇

 ――翌日。
 雑貨屋で2つのアイテムを仕入れて街を発つ。
 これらのアイテムを購入するのに、金貨を10枚も使った。
 もったいない気もしたが、必要投資と思って割り切る。

「独りだと静かだな……」

 目的地に向かう道中。
 いつもならゴブオとスラ吉が絶え間なく話しているところ。
 どうせ現地に着けばしまうので、今日は2人を出さないでいた。
 かつては慣れていたはずの孤独。それが今では寂しかった。

「ご主人様ぁー! ぼくたいくつでしたぁー!」
「あれれー? いつもと違う場所だー!」

 だから、俺はペットを召喚することにした。

 ◇

 しばらくして、目的地に到着した。
 <メタルマウンテン>と呼ばれる4つの山だ。

 山は縦2、横2で並んでいる。
 名前にメタルとついているが、鉄鉱山ではない。
 山自体は至って平凡で、同様の山はいくつもある。
 ただ、4つの山の間……つまり谷の部分が普通と違う。

 大きな谷の中央には、液状のメタル材による湖があるのだ。
 余談だが、湖のメタル材は固形化すると立派な商品になる。
 用途は武器から食器まで様々だが、価値はそれほど高くない。
 このメタル湖を死守しているのが、プラチナゴーレムだ。

「賑やかに騒いでくれてありがとうな」
「この後もいっしょがいいですぅ!」
「オラもゴブオに賛成だー!」
「ダメダメ、またあとでな」

 俺は山の一つに登った。
 それほど労することなく山頂に着く。
 山というより丘というほうが適切な標高だからだ。

「お、居るな、プラチナゴーレム」

 山頂から湖を眺めて対象を発見。
 プラチナで構成された全長5メートルの巨人だ。
 人間とは違って全身が角張っている。

 プラチナゴーレムの数は10体。
 メタル湖を囲むようにバラけて立っている。
 各々の距離がかなりあるから、サシで戦えそうだ。
 前情報だとタイマンは可能なはずだが、確かめておこう。

「お高いアイテム達よ、俺を助けてくれ!」

 雑貨屋で購入したアイテムを取り出す。
 まずは、飲むと一時的に身体が軽くなるドリンク『カルクナール』だ。
 すかさず使用する。ゴクゴク、ゴクゴク。

「なんだか変な感覚だな」

 身体の軽量化が体感で分かる。
 ジャンプしたら宇宙まで飛ぶんじゃないか、と思った。
 さすがは高級ドリンク。効果は伊達ではない。

「さて続きましては……」

 飲むと一時的に翼を授けてくれる『レッドブルー』だ。
 これによって得られる翼は、動物みたいに強力ではなかった。
 自分の体重を支えながら空を飛び回る程の力はない。
 だから、身体を軽くする『カルクナール』と併用する。
 軽い身体であれば、高度維持くらいは出来るはずだ。

「うおおお、さっきより更に気持ちわりぃ」

 背中に翼が生えたのだ。
 服の上から付いているのに、感覚がバッチリある。
 自分の意思でパタパタと動かすことが出来た。

「せーのっ!」

 その場でジャンプしてみる。
 助走を付けていないのに3メートル近く浮いた。
 そこから必死に翼をバタつかせてみる。

「結構辛いな……だが、思った通り!」

 多少は上下するも、どうにか高度を維持できる。

「これなら!」

 その場で何度かジャンプと着地を試し、行動開始だ。

「うおおおお!」

 俺は助走を付け、谷に向かって全力で飛んだ。
 これまでよりも遙かに高くて勢いよく身体が飛ぶ。
 すかさず翼をバタつかせ、高度を維持。

「高度を上げるのはきついが、維持するだけなら慣れたな」

 翼の扱いにも慣れてきた。
 カルクナールの効果もおおよそ把握した。
 助走をつけた跳躍は10メートル近い高さに達する。
 俺の身体能力が高ければ、もっと上を目指せただろう。

「ゆっくり……ゆっくり……」

 言葉に出しながら、ゆっくりと高度を下げていく。
 これは思っていたよりも難しくて、集中力を要した。

「ゴォ?」

 高度が下がってくると、近くのゴーレムが俺に気づく。
 十中八九プラチナゴーレムだが、一応確認しておこう。

―――――――――――――――――
【名 前】プラチナゴーレム
【ランク】A
【友好度】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【屈服度】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
―――――――――――――――――

 思った通りだ。
 そのことに安堵する。
 次の瞬間には焦った。

「ゴォオオ!」

 俺を視認したゴーレムが突っ込んできたのだ。
 俺の落下地点に向けて一直線である。
 動きは決して速くないが、この降下ペースだとまずい。
 着地した頃にはA級の巨人が待ち受けている事態になる。

「上がれぇえええ!」

 翼を全力でバタつかせる。
 降下から一転して上昇に切り替えた。
 ――が、すぐにそれは失敗だと悟る。

「駄目だ! 鳥みたいに空を移動できないぞ!」

 俺に出来るのは高度の調整だけだ。
 助走による前進がなければ、前後左右に進むのは無理。
 つまり、高度を上げたところで意味がないのだ。

 再び方針を変更する。
 今度は全速力で高度を下げた。
 多少の痛みは覚悟で降下する。
 地面が近づいたところで、翼を使って勢いを殺す。

「ゴォオオオオオ!」

 ゴーレムはすぐ傍まで迫っていた。
 もはや考えている余裕はない。

「逃げろぉおおおお!」

 俺はゴーレムと反対側に走った。
 見る見るうちに差が広がっていく。
 ゴーレムの遅さに加えて、カルクナールの効果もあった。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

 汗だくになりながら<メタルマウンテン>を脱出する。

「ご主人様ぁ、だいじょうぶですかぁ?」
「すごい汗だー!」

 安全を確認したところでペットを召喚した。
 俺の状態を気にする2人に「問題ない」と返す。

「つよい敵をつかまえる方法は見つかりましたかぁ?」

 ゴブオが尋ねてくる。
 俺は息を整え、キッパリと断言した。

「見つかったよ。十中八九成功する秘策をな」
「「おおー!」」

 俺は一人でも安全に【テイミング】出来る案を閃いていた。
 いや、正確には確信したのだ。元からこの方法を考えていた。
 自分の馬鹿げた閃きが、通じるであろうと確信したのだ。
 マップの形状や先ほどのやり取りから、まず問題はない。
 ただ、初日は失敗する可能性が無きにしも非ず。
 それでも、真っ向勝負で挑むよりは遙かに現実的だ。

「金を貯めたら捕まえるぜ、プラチナゴーレム」

 確かな手応えを抱きながら帰路に就いた。
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