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第009話 奴隷商館

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 奴隷商人の商館にやってきた。
 見るからに儲かっていますといった感じの煌びやかな館だ。
 奴隷や奴隷商人には種類がある。ここは美女だけを扱う高級店だ。

 何故ここに来たか?
 目の保養に加えて、生で見てモチベーションを上げたかったからだ。
 それに、もしかすると奴隷を買う前に死ぬかもしれないからな。

「門前払い対策もバッチリ。行くぜ」

 何の迷いもなく、俺は足を踏み入れる。
 すると、即座に奴隷商人が駆け寄ってきた。

「いらっしゃ……って、失礼ですけどお客様、当店で取り扱っている奴隷は高級品ばかりですが、ご予算のほうは……」

 脂ぎった顔とふくよかな体型が特徴的な男の商人は、俺を見て眉をひそめた。

 その気持ちは分からなくもない。
 どこからどう見ても、俺が金を持っているようには見えないからだ。
 年は10代半ばのガキだし、服や装飾品も安物ばかり。

 実際、俺に奴隷を買う金はない。
 この商人の鑑識眼に狂いはなかった。

 それでもここに来たのは、奴隷を見たかったからだ。
 しかし、冷やかしと思われたら追い返されてしまう。
 ここは適当に言い繕って、難を逃れる必要がある。

「俺はアルファード様の使いでして、街中の奴隷商館を回っています。アルファード様は良質な奴隷を探しておられまして、気に入ればいくらでも支払うと申されています」

 商人が「これは失礼しました!」と頭を下げる。
 それから、「アルファード様とはどのような方ですか?」と訊いてきた。
 知らなくて当然だ。そんな人間は存在しない。俺のデタラメなのだから。

「主に西の大陸で活動されてい方です。様々な店を経営しておりまして、今回はこちらの大陸にも商売の手を広げようと考えておられます」
「なるほど。それで容姿に優れた奴隷を求められているわけございますか」
「そうです。問題なければ、奴隷を見せてはいただけませんか?」

 商人は二つ返事で了承すると、奴隷を連れてくると言って奥に消えた。
 しばらく待っていると。

「お待たせいたしました」

 商人が戻ってきた。
 その後ろには黒色の首輪を付けた女が5人。
 女達の首輪には、名前や年齢などを記載した札が付いている。

「現在お売り出来るのはこちらの5人となっております」
「なるほど。近づいて確認してもいいですか?」
「もちろんです。ささ、どうぞ見てやって下さい」

 俺は「どうも」と礼を言い、向かって左から順に見ていく。
 最初は人間の女だ。髪は黒に近い茶色で、毛先は内巻き。
 年齢が20代前半ぽいことも含めて、日本の量産型女子みたいだ。
 ただ、この世界では珍しいので、量産型ではない。
 日本では没個性でも、この世界だと中々に個性が出ていた。

「どれどれ……」

 顔を見た後、タグに視線を移す。
 たらりと垂れるタグを手に持って確認する。

―――――――――――――――――
【名前】サクラ
【性別】女
【年齢】20
【種族】人間
【価格】金貨:650枚
―――――――――――――――――

 人間ということもあって、高級奴隷の中では安い方だ。

「お気に召しましたか?」
「個人的にはそこそこ。ただ、決定権はアルファード様にあるので」

 本音を言えばあまり気に入らなかった。
 顔は悪くないが、やはり量産型女子の雰囲気が駄目だ。
 あと、人間というのもマイナスポイント。容姿に優れた人間の女とは、地球に居た頃にも楽しんだからな。半年に1度通っていた六本木の高級ヘルス嬢のことだ。それに、この世界でも娼館に行けば人間の美女と楽しめる。
 どうせ大金を払うのであれば新鮮さを求めたい。
 それに、奴隷に求めるのは性欲の処理だけではなく、身の回りの世話なども含まれている。ブリーダーとしての活動も考慮するのなら、種族専用の固有スキルにも看過出来ない。

「次はエルフか。本当に美しいな」

 エルフは人間よりも美人でスタイルがいい。
 細身に巨乳と最高の逸材だ。
 それに、固有スキルの【アセスメント】も重宝する。
 ブリーダーの場合、敵のレベルが分かることの意味は大きい。

 エルフの女は金貨1,000枚だった。
 稀少な上に、ずば抜けた容姿で人気が高い。

「あとは人狼が2人に妖精か」

 人狼2人と妖精は幼女だった。
 種族的に成長しても幼女みたいな見た目だ。
 しかし、こいつらは実年齢も5、6歳であった。

 人狼の固有スキルは【ディテクティング】だ。
 これを使えば、周囲50メートルに居る敵を特定できる。
 悪くないスキルだが、【アセスメント】の方が個人的には欲しい。

「妖精の固有スキルって何でしたっけ?」

 商人に尋ねる。

「魔力を回復する【マジカルヒーリング】でございます」
「なるほど、そういえばそうでしたね」

 本当は初耳だった。
 魔力を回復する能力も悪くない。

「やっぱりエルフだな」

 俺が口走ると、商人が食いついた。

「こちらのエルフを買われますか!?」

 その予定はない。
 容姿と能力を勘案してエルフがイイと思っただけだ。
 目の前の奴隷エルフは美人だが、別に他のエルフでもいい。

 俺は「アルファード様次第です」と濁し、全員の値段を再確認する。
 人間が650枚、エルフが1,000枚、人狼が850枚と800枚で、妖精は1200枚。
 もちろん金貨の枚数である。銅貨なら嬉しいのに。

「妖精が高いのは希少性から?」
「さようでございます」

 視線を妖精に向ける。
 こいつは手のひらサイズの大きさだ。
 これだけ小さいと性欲の処理には不向きだろう。

「よく分かりました。アルファード様にご報告しますので、これにて」
「はい、またのご来館をお待ちしております」

 深々と頭を下げる奴隷商人。
 それに続いて、5人の奴隷達も頭を下げた。
 俺は彼らに背を向けて商館を後にする。

「金貨1000枚か……たっけぇなぁ」

 俺の所持金は金貨数枚と銀貨数枚だけ。
 これではいつ買えるか分かったものではない。
 効率良く金を稼ぐには、やはり第三の相棒が必要だ。

 俺が求めている第三の相棒。
 A級モンスター“プラチナゴーレム”。
 奴隷を侍らすには【テイミング】が必須だ。

「もう、日本で底辺を彷徨っていた40のおっさんじゃないんだ」

 底辺生活は二度とゴメンだ。
 前世のような妥協はしない。逃げるつもりもない。
 理想のハーレム生活を送るには、大きなリスクも厭わない。

「やるっきゃねぇよな」

 奴隷商館に訪れたことで、俺の覚悟が決まった。
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