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第012話 - ユウスケ、理解する

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 リッカと名乗る女は、やけに自信たっぷりであった。

「勝負する? する? しちゃう!?」

 そして、やけに俺との勝負をしたがった。

「別にいいけど、どう勝負するんだ?」

 まさか殺し合い……とは言わないよな。
 互いにスキルでも見せ合うのだろうか。
 リッカの言う“勝負”が何なのか気になる。

「あたしとユウスケ、どっちがゴブリンをたくさん倒せるか勝負よ!」
「ゴ、ゴブリン!?」
「えっ、ゴブリン知らないの?」
「いや、知ってるけど……」

 俺が驚いたのは、ゴブリンがFランクの雑魚モンスターだからだ。
 見た目はコボルトとそっくりだが、肌の色が異なっている。
 コボルトが灰色であることに対し、ゴブリンは緑色なのだ。

 ぱっと見た感じはただの色違い。
 もしかすると、機能面では何か違いがあるのかもしれない。
 だが、色以外の違いについては知らなかった。
 デコピンで顔が消し飛ぶような雑魚だからな……。

「ゴブリンの討伐数で勝負よ!」
「いいけど、互いの数はどうやって測るの?」
「戦闘中に数えて、時間が来たら互いに言う!」
「でもそれって、いくらでも数字を盛れるよ」
「あたしはそんなことしないもん!」
「そういう問題か……まぁいいけど」

 俺も随分と舐められたものだ。
 よもやゴブリンの早消しを実力測定にする女に勝負を挑まれるとはな。
 その時点で、勝負は決着しているようなもの。
 俺がリッカと追随して移動し、敵を見かけ次第【チェーンライトニング】をちょちょいとすれば試合終了だ。
 俺のカウントはたくさん、リッカのカウントは〇で確定。

 本当にそれでいいのか?

 いや、駄目だ。
 そんな戦い方は大人げない。
 それに、リッカに勝っても嬉しくないしな……。

 大事なのは勝敗ではない。
 俺の関心事は、リッカの実力にある。
 口ぶりからすると、リッカはこの村に滞在して日が経つ。
 その期間の長さは不明だが、ここに滞在するなんて変わり者だ。

 しかも、彼女はソロである。
 本人も言っていたが、ソロの冒険者は珍しい。
 俺が見てきた限りだと、強弱にかかわらず誰かと組んでいる。
 たとえばいずれ冒険者になるハンナにしてもそうだ。
 明らかに凄腕の弓使いである彼女でさえ、仲間と行動している。
 だからこそ、リッカという女には興味があった。

「制限時間は一時間! 二人で村を出たらスタート! それでオッケーィ?」
「いいぜ」

 勝利の華はリッカに譲ろう。
 自己申告制だし、適当に彼女より少ない数字を言えばいい。
 実際には、汎用スキルを使って彼女を監視する。
 姿を消す【ステルス】に、足音を消す【サイレント】の併用。
 さらに、驚異的な嗅覚の可能性を考慮し、【ノースメル】で匂いも消す。
 これで視覚と聴覚と嗅覚による探知は出来なくなる。

「じゃー、一緒に外までGO!」
「おうよ」

 リッカと並んで村の外に向かう。

「こんちはー!」

 通りすがりの村人達に、リッカが元気よく挨拶する。
 一方、村人の反応は冷たい者だ。
 無表情でペコリと頭を下げるか、一瞥して終わりかのどちらか。
 その様子から、彼女はあまり村に馴染んでいないのだと分かる。
 おそらく俺と同じで部外者なのだろう。
 小さな村が閉鎖的なのは、日本とよく似ている。

「それじゃー! カウント! 五、四、三、二、一、スタート!」
「カウント早ッ!」

 村を出るなりひとりでにカウントをはじめるリッカ。
 ぼんやりしている間にカウントは終わり、リッカの戦いが始まった。
 俺は別方向に走って距離を取った後、三種の汎用スキルで気配を絶つ。
 それからクルリとターンして、リッカの様子を見た。

「豪語するだけのことはあるな。すんげー速いのな」

 少し離れて見守る。
 リッカはゴブリンの引っ掻き攻撃を凄まじい速度で回避した。
 おそらく日本にいた頃の俺では捉えきれないであろう速さだ。
 当然ながら、ゴブリンもリッカの姿を見失っていた。

「ここよ! もらったぁ!」

 ついに、リッカが背負っていた大太刀を抜く。
 両手で持ち、ひと思いに振り下ろす。
 太刀は真っ直ぐゴブリンへ縦に落ち、真っ二つに――。

 ――しなかった。

「もー! 重すぎだから! もー!」

 俺は呆然とした。
 電撃的な動きに反して、攻撃速度はトロットロだったのだ。
 どうやら太刀が重すぎてまともに扱えない様子。
 滑らかな抜刀までは良かったのに、それから後は見るに堪えない。
 武器に身体が持って行かれており、一振りでバランスを崩しやがった。
 そんな攻撃では、さすがのゴブリンだって回避可能だ。

「ゴブー!」
「キャッ」

 ゴブリンにタックルされ、リッカはコロコロと転がった。
 太刀は彼女の手を離れ、ゴブリンの足下に転がっている。
 ゴブリンはそれを右手で拾うと、後ろにポイっと投げた。
 後ろに居るのは俺であり、投げられた太刀が真横に突き刺さる。

「リッカの動きなら目の前のゴブリンを避けて太刀を回収できるだろうが……果たしてどうするかな」

 見ている感じ、彼女は素手で戦うべきだと思う。
 またはもっと身の丈にあった武器が良いだろう。
 どれだけ速く動き回っても、攻撃が当たらなければ意味がない。

「ていうか……ゴブリンに苦戦する女って超弱いじゃねーかよ」

 思い返せば、よくもまぁ、こんな腕で挑めたものだ。
 俺の実力をどう見積もったのか気になる。

「まだだ! まだ終わらないよ!」

 どこか似たようなセリフを聞いたことがあるな……。
 そんなことを思っている間にも、彼女は俺の横に移動していた。
 地面に突き刺さる太刀を両手で抜くと、身体の左側に寝かせて構える。
 そのせいで、太刀の峰が俺のすぐ前にあった。

「うりゃりゃー! 一ノ太刀、秋時雨!」

 謎の技名を叫びながら、リッカがゴブリンに襲い掛かる。
 素早く移動し、鈍く振り下ろした。

「ゴブッ」

 またしても避けられる。

「もー! すばしっこい!」

 いやいや、お前の攻撃が遅すぎるだけだろ……。
 これでは勝負にならない。
 やれやれである。

「どうしてその武器に拘るんだ?」

 俺は三種の隠密スキルを解除し、リッカに話しかけた。
 彼女からすると、俺は突如現れたわけだ。
 だからだろう、彼女はひどく驚いていた。

「ぎょえ! それより、今は勝負中でしょ!」
「それじゃあ勝負にならないよ」

 俺はリッカと同等の速度でゴブリンに詰めより、デコピンをかました。
 ゴブリンは痛みを感じる前に頭を失い、胴体から下が地に横たわる。

「うっわ、何そのデコピン! すんごい威力! ヤッバ!」
「ま、そういうわけさ。だから勝負は終わりにして、教えてくれよ」
「仕方ないなー! 勝負は私の勝ちってことで!」

 どうしてそうなる。

「いやいや……まぁ、それでもいいか。で、その太刀に拘る理由は?」

 太刀といっても種類は色々ある。
 俺のそれほど少ない情報量でさえ、もっと小さい太刀を知っている。
 この世界の住人であるリッカならば、当然ながらそれくらい分かるだろう。

 そもそも、リッカの太刀はかなり大きな部類に入る。
 居合いの達人や大男が使うような代物だ。
 先ほどの様子から、彼女が居合いに重きを置いていないことは分かる。
 するとあの太刀は……大事な人の形見ないしはお下がりか。

「だって、大きな太刀って見るからに強そうじゃん! ていうか強いじゃん! しかもカッコイイじゃん!」
「……そ、それだけの理由で?」
「もちろん! それだけで十分っしょ!」

 俺は理解した。
 こいつは……馬鹿だ。
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