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第012話 最強の前兆⑦

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 ボスを倒したことで満足した俺達は、速やかに<フォーリン大監獄>を離脱した。ダンジョンを出ると、特に寄り道することもなくホームタウンの<マンダリン>を目指す。

「ねーねー!」

 帰りの道中で、ヘレナが言ってきた。

「今後も一緒に活動しない!?」

 このように言われた場合、大体の人間は以下のように答える。

「どうして一緒がいいの?」
「なんでそんな風に思ったの?」
「俺達に寄生しようとはいい度胸だな」
「見ず知らずの人と今後も一緒というのは……」

 この4通りが鉄板だろう。
 しかし、俺と眼鏡岡は違っていた。

「もちろんでござる!」
「喜んで! 今後もよろしく!」

 即答、即断、即決。
 満場一致で全力の承諾。

「わお! 思ったよりもあっさりOKしてくれたね!」
「ヘレナ氏の頼みなら拙者犬にだってなるでござるよ!」

 眼鏡岡が「ワォーン」と吼える。
 ヘレナは「いやいや」と苦笑い。
 俺も苦笑いを浮かべていたが、気持ちは分かる。
 これほどの美女ならば、よほど性悪だったとしても気にしない。
 なのにヘレナは性悪ではないときた。最高だ。最高すぎる。
 しかし、「美女だから当然さ」などとは口が裂けても言えない。

「ヘレナのサポートは俺達も助かるからな。それに、俺の子守をしてくれるのもありがたい。眼鏡岡は前衛で敵を引き付ける性質上、どうしてもこちらには目が行かないから」

 だから戦闘面での貢献度を褒めた。
 偽りのない賞賛だから、素直に言葉が出てくる。
 ヘレナは「そう言ってもらえると嬉しいよ」と頬を緩める。
 それから、ニコッと笑ってこう言った。

「今後は仲間としてよろしくね!」

 俺と眼鏡岡は「よろしく!」と叫ぶのであった。

 ◇

 街に戻ると、冒険者ギルドでクエスト達成の報告をした。

「ボスモンスターの討伐、おめでとうございます」

 受付嬢のリリアが拍手をくれる。
 それと同時に、多額の報酬が振り込まれた。
 これまでの数十倍に相当する額で、文字通り桁違いだ。

「これで装備を新調出来るでござるな!」
「ますます強くなってしまうぜ」
「マサトもヤスヒコも頼もしいねぇー!」

 俺達はひとしきり盛り上がると、装備の新調に向かった。

 ◇

 武器屋と防具屋で装備を新調する。
 これまで装備していた物を売り、新たな物を買う。

「ヘレナ、質問いいかい?」

 購入する武器を選びながらヘレナに尋ねる。
 彼女は「ホイホイサー」と軽い調子で返してきた。

「レア度がBランク以上の装備はどこで手に入れられるの?」

 街の武具屋にはレア度Cまでの品しかない。
 Cの上にはB、A、Sと続くはずなのに。

「B以上の武器は宝箱かドロップだよー」

 普通の人間なら「なんだそれ?」と驚くはず。
 しかし、ネットゲームで鍛えられていた俺達は違った。

「なるほど。ドロップもあるのか」
「宝箱も見たことがないでござるな」

 あっさりと適用する。
 そこに疑問の余地はなかった。

「私達のレベルだと無縁だねー。宝箱やドロップはもっと強力なダンジョンになってからだもん」
「そっかそっか」

 いずれは自力で装備を発掘する必要があるわけだ。
 まぁ、今のところはまるで無縁だからどうでもいいな。

「それじゃ、俺は“アルマジロスタッフ”を購入するよ」

 アルマジロスタッフは、先端がアルマジロの形をした杖だ。
 見た目は女向けの可愛らしい感じだが、効果は申し分ない。

===============
【武器名】アルマジロスタッフ
【レア度】C
【性 能】
 ├MP:23
 ├物理攻撃力:6
 └魔法攻撃力:25
===============

 これまでの武器から大幅な成長となる。

「拙者も同じ物を買うでござる!」

 眼鏡岡が便乗してくる。
 俺は「勘弁しろよ」と苦笑いで言った。

「野郎同士でこんなに可愛い武器のお揃いとか嫌だぜ」
「ぐぬぬ……。ならばクリスタルロッドにするでござる」

 クリスタルロッドもC級の武器である。
 アルマジロスタッフと比較すると、やや物理攻撃よりだ。
 物理攻撃力が高い分、MPと魔法攻撃力が低い。

===============
【武器名】クリスタルロッド
【レア度】C
【性 能】
 ├MP:20
 ├物理攻撃力:11
 └魔法攻撃力:21
===============

 俺達が装備を新調する一方、ヘレナは武器を買わなかった。

「ヘレナも新調したらいいのに」
「私はしばらくお金を貯めたいんだよねー」

 ヘレナが「だから今日はパス!」と手を合わせる。
 強化できるのに強化しなくてすまんな、といった意味だろう。

「別にかまわないけど、お金を貯めてどうするの?」
「うーん、今のところは未定! 家を買うのもいいし、はたまた、ひたすらだらけて過ごすのもいい! 貯まったお金を見てあれこれ妄想するのが好きなんだよねー」

 俺は「なるほど」と納得した。
 自分がそうすることはないけれど、気持ちは理解できる。

 話が終わった後は、防具屋で防具を新調した。
 武器と違って防具はお揃いだ。ステルス化できるから。
 嬉しい誤算は「私もそれ買うー!」とヘレナが便乗したこと。
 おかげで、3人揃って同じ防具となった。

===============
【防具名】ラクリマクラリカ
【レア度】C
【性 能】
 ├HP:28
 ├物理防御力:19
 └魔法防御力:19
===============

 名前から見た目が想像出来ない防具だ。
 だから、購入した後にステルス化を解除してみた。

「なんだこれ」
「肩パッド……でござるか?」
「ださーい!」

 世紀末の不良が付けそうなトゲトゲの肩パッドだ。
 これが『ラクリマクラリカ』という防具らしい。
 当然ながら、秒速で再度のステルス化するのであった。

「装備の新調でべらぼうに強くなったな」
「そうでござるな」

 ステータスの伸び具合がえげつない。
 俺でさえHPが4,200もあるのだ。眼鏡岡に至っては1万を突破していやがる。攻撃力の伸びも同様に凄まじい。眼鏡岡の魔法攻撃力は、これまでの俺より高いのだ。ちなみに、今の俺の魔法攻撃力は1,125である。

 流石はレア度Cの強力装備だ。
 今日の稼ぎを全て吸い尽くすだけの価値はある。

「今後の予定だけど、しばらくは<フォーリン大監獄>でレベルを上げながら金を稼いで、少し貯まったら新たなダンジョンに挑戦するってことでいいかな?」

 装備の新調が終わり、酒場に向かう道中の会話だ。
 俺が提案すると、他の2人は渋ることなく承諾した。
 だから、俺は「じゃあそういうことで」と話を締めくくる。

「ところで、2人って休みの日は何してるの?」

 酒場に入ると、ヘレナが尋ねてきた。
 俺と眼鏡岡は互いを見た後、返答に窮する。
 数秒の沈黙を経て、俺が代表して答えた。

「俺達、この世界に来てから休んだことないんだよね」

 そう、今日まで一度も休んでいないのだ。
 狩りがあまりにも楽しいから、毎日狩りに明け暮れていた。
 異世界サイコーッと叫びながらスキルをぶっ放していたわけだ。

「それ! たまに云うよね“この世界”って! それも気になってたの!」

 ヘレナが突っ込んでくる。
 俺達はますます返答に窮した。
 真実を話しても信じて貰えるとは思えないからだ。
 逆の立場なら俺は信じない。絶対に。与太だと思う。
 だから、「信じないと思うけど」と前置きをしてから話す。

「実は俺達――」

 ありのままを話した。
 地球という惑星の日本という国に住んでいたこと。
 ある日突然、気がつくとこの世界に転移していたこと。
 ゲーム脳を活かしたおかげでかなり快適であること。

「――とまぁそんなわけさ」

 話し終えた時、俺の表情は暗かった。
 眼鏡岡も同様の表情をしている。
 絶対に変人と思われたに違いないからだ。
 しかし、ヘレナの反応は俺達の予想と違っていた。

「わお! ちょー凄いじゃん! マサトとヤスヒコのぶっとんだステータス振りとかも納得だよー! あと、只野氏とか眼鏡岡とかいう呼び方も! へぇー地球って星があるんだ! 行ってみたいなー日本に!」

 俺達は口を揃えて言った。

「日本はクソだ」
「日本はクソでござる」

 これほど素晴らしい世界から日本に行きたい?
 ハハ、馬鹿も休み休み言いなさいってなものだ。
 俺達の即答に、ヘレナは圧倒されるのであった。






――――――――――――――――――
■現時点でのステータス
===============
【名 前】マサト
【年 齢】17
【種 族】人間
【レベル】11

【筋 力】5
【敏 捷】5
【健 康】15
【魔 力】45

【H P】4,200
【M P】10,350

【攻撃力】
├物理攻撃力:30
└魔法攻撃力:1,125

【防御力】
├物理防御力:285
└魔法防御力:285

【装備】
 ├武器:アルマジロスタッフ
 └防具:ラクリマクラリカ

【スキル】
 └ラカリフサの裁き:20
===============
【名 前】ヤスヒコ
【年 齢】17
【種 族】人間
【レベル】11

【筋 力】5
【敏 捷】5
【健 康】45
【魔 力】15

【H P】12,600
【M P】3,000

【攻撃力】
├物理攻撃力:55
└魔法攻撃力:315

【防御力】
├物理防御力:855
└魔法防御力:855

【装備】
 ├武器:クリスタルロッド
 └防具:ラクリマクラリカ

【スキル】
 ├ヘイトアップ:10
 ├リジェネ:5
 └ヒーリング:5
===============
【名 前】ヘレナ
【年 齢】17
【種 族】人間
【レベル】14

【筋 力】17
【敏 捷】16
【健 康】31
【魔 力】21

【H P】8,680
【M P】840

【攻撃力】
├物理攻撃力:119
└魔法攻撃力:63

【防御力】
├物理防御力:589
└魔法防御力:589

【装備】
 ├武器:シルビアダガー
 └防具:ラクリマクラリカ

【スキル】
 ├エレメンタルマジック:10
 ├サブロゲーション(CT):8
 └サブロゲーション(MP):8
===============
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