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第016話 ウォータードッグレース①

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 街で面白いイベントが開催されることになった。

 その名も『ウォータードッグレース』だ。
 ドッグレースの水泳バージョンである。
 コースは1周200m程。

「やるからには優勝しないとね、レオン!」
「ワゥーン♪」

 当然ながらレオンは参加する。
 レオンは水遊びが大好きで水泳が得意だからだ。
 口では優勝などと言うが、勝敗に関しては二の次三の次。
 参加を決めた一番の理由は、水を泳げる良い機会だったから。
 最近のレオンは、お風呂の中でしか泳いでいなかった。

「えーっと、私達はAブロックだって」
「ワンッ!」

 この大会の参加者はかなり多い。
 その為、まずはAからDの4ブロックに分けて戦う。
 2度のレースで各ブロックの覇者を決めた後に決勝だ。
 決勝は各ブロックの覇者による1本勝負。

「次の方、どうぞー!」
「私達の出番だね、レオン!」
「ワンッ!」

 まずは最初のレース。
 試合は8頭からなり、上位2頭が勝ち上がる。
 レオンの相手は7頭全てが小型犬だった。
 その為、超大型犬のレオンは目立っている。

「あの犬でっけーな!」
「耳がフワフワして可愛いー!」
「モフモフの毛も触り心地よさそう!」

 皆の視線がレオンに集まる。
 レオンは気にすることなく、スタート地点に座っていた。
 スタート地点は水泳さながらのジャンプ台だ。
 そこで待機出来ないような犬は失格になる。

「それではAブロックの第1トーナメント2回戦を始めます!」

 審判が右手を挙げる。

「よーい、どん!」

 合図と共に右手が下ろされた。

「ワゥーン♪」
「「「ワゥーン」」」
「「「「ワーン」」」」

 8頭の犬が一斉に飛び込む。
 その瞬間、観客が口々に大声で応援を始める。
 果てしない熱狂だ。

「大きいのー! 勝ってくれー!」
「お前にたくさん賭けたんだー!」

 熱狂の理由は賭博にある。
 観客は参加する犬に賭けられるのだ。
 それは飼い主である私も含まれている。

「レオンは1番人気だから凄い応援だなぁ」

 オッズは誰でも確認出来る。
 レオンの倍率は1.35倍で、2番人気は4倍を超えていた。
 1頭だけ大型犬ということもあり、人気が集中している。

「レオーン、頑張れー!」

 私も声を上げて応援する。
 レオンは声援に応えるように奮闘していた。
 1位をキープしたまま、順調に差を広げていく。
 第1カーブからひたすらに1位で独走だ。
 そして最終ストレートになった頃。

「やっぱりレオンベルガーは伊達じゃない!」

 レオンはぶっちぎりの1位だった。
 後続に大差をつけてのゴールイン。
 最高の結果で1回戦を通過するのであった。

 ◇

 2回戦はブロックの覇者を決める戦い。
 先ほどと違い、勝ち上がれるのは1位の犬だけだ。
 レオンの相手は中型犬と小型犬が多い。
 1頭だけ、レオンと同等サイズの黒い大型犬がいた。

「よほど速かったのね、あの黒い子」

 オッズを見て呟く。
 1番人気は真っ黒な大型犬だった。
 ダントツの1.12倍である。
 2番人気は真っ白な中型犬で、レオンは3番人気。
 レオンと2番人気のオッズにはそれほどの差がない。

「頑張ってね、レオン!」
「ワンッ!」

 レースが始まる直前、私はレオンに応援した。
 魔法球によって綺麗に乾いた身体を撫で回す。
 レオンが望んだのでお腹もたくさん撫でてあげた。

「それではAブロックの決勝戦を始めます!」

 観客が見守る中、審判が右手を挙げる。

「よーい、どん!」

 一糸乱れぬ動きで8頭が水に飛び込む。
 オッズ通りに黒い犬が先頭を突っ走る。
 レオンは2位でそれに食らいつく。

「レオン! いけー! 頑張れー!」

 私の応援に熱が入る。
 今までの人生で最も声を張り上げていた。
 負けてもいいとはいえ、勝ってほしい気持ちは強い。
 運動会で我が子を応援する親の気持ちが理解できた。

「ワゥ! ワゥ!」

 中盤に差し掛かっても先頭は黒の大型犬だ。
 しかしレオンはいまだ食らいついている。
 他の犬は完全に置き去りモード。
 大接戦の一騎打ちだ。

 周囲の声援は1位の黒い大型犬に集中している。
 1番人気ということは、それだけ応援する人が多いわけだ。

「レオン、負けるな! 賢くて優しくて甘えん坊で可愛くてお水が大好きなレオンベルガーの底力を見せてやれーっ!」

 他の声援にかき消されないよう、私も力の限りに声を張る。
 灼熱に包まれた応援の中、レースはいよいよ最終コーナーへ。

「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」

 最終コーナーの最中、私を含む観客全てが言葉を揃えた。

「来た! 来た来た! レオン! レオンだ! レオン!」

 ここにきてレオンが1位へ躍り出たのだ。
 必死の犬かきにより、黒の犬を追い抜かす。
 黒の犬もしがみつこうとするが……できない。
 スタミナ切れのようで、一気に失速していく。

「スタミナ勝負ならレオンベルガーは最強だ!」

 嬉しさのあまりに叫んでしまった。
 しかし、周囲の発狂がそれ以上でかき消される。
 勝敗の決した瞬間だから、多くが絶望しているのだ。
 そして――。

「ワゥーン♪」

 レオンが1着でゴールした。

「くぅぅぅぅ! やぁったー!」

 私のレオンが、Aブロックの覇者になったのだ!
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