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第015話 マイペースが一番
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いつもの如く薬草採取で小銭を稼ぐ為、レオンとゴブ朗を連れて冒険者ギルドにやってきた。
残りのゴブリンはお留守番だ。ゴブオは警備明けのお休み中で、ゴブ太はお風呂に入るなどまったりしながら警備にしているだろう。
「こんにちはなの! シオリお姉ちゃん!」
クエストを受注した時、背後から声を掛けられた。
振り向く前からネネイだと分かる。話し方が特徴的だから。
それでも振り返って相手を確認する。
「こんにちは、ネネイちゃん!」
案の定だ。
ネネイはワンちゃんを連れていた。
「そういえばネネイちゃんも冒険者なんだよね」
「そーなの!」
ネネイの家は冒険者用の居住区だ。
そして、ネネイは一人暮らしをしている。
つまり、彼女自身が冒険者ということ。
こんな幼女がクエストをする姿は想像も出来ない。
「今日はクエスト?」
ネネイはもう一度「そーなの!」と微笑む。
私は「頑張ってね」と頷き、受付カウンターをネネイに譲った。
「こんにちは、ネネイ様」
「こんにちはなの、受付のお姉ちゃん!」
ネネイが受付嬢と話し出す。
私は近くのテーブル席から会話を聞いていた。
十中八九、彼女は薬草採取のクエストを受けるはず。
幼女と子犬では、モンスターを倒すなど不可能だから。
それを確認したら「一緒にどう?」と声を掛けるつもりだ。
「今日はどちらのクエストをお受けになりますか?」
受付嬢が尋ねる。
ネネイはニコッと笑みを浮かべながら言った。
「ドラゴンさんをやっつけるクエストでお願いしますなの♪」
私はズコーッと椅子から滑り落ちる。
レオンが「クゥン?」と顔を舐めてくれた。
対面の席に座るゴブ朗も心配そうにしている。
「ネネイちゃん、モンスターと戦うの!?」
思わず話しかけてしまった。
こんな幼女がドラゴンを討伐する? そんな馬鹿な。
しかし、ネネイは「そーなの!」と笑顔で頷く。
「ネネイのワンちゃんはすごくすごく強いなの!」
「そのワンちゃんが……?」
ワンちゃんが「ワンッ!」と私に吠える。
まるで「馬鹿にするなよ」と言っているようだ。
「そーなの! ワンちゃんはどんな敵さんにも負けないなの!」
「ホヘェ……」
自信満々の表情で語るネネイ。
「(このつぶらな瞳の子犬がそれほど強いのか……)」
レオンは超大型犬だけれど戦闘が苦手だ。
それを考慮すれば、ワンちゃんが強いというのもあり得る。
大型犬が必ずしも強いわけではないように。
「では行ってきますなの♪」
「行ってらっしゃいませ、ネネイ様」
「い、行ってらっしゃい……」
この世界は私の常識にないことばかりだ。
そう思いながら、私は薬草畑へ向かうのであった。
◇
ネネイはたしかに超人的である。
されど他人は他人で、私は私だ。
「よーし、薬草をがっつり集めるぞー!」
「ワォーン♪」「ゴブゥー♪」
ゴブリンが仲間になってから、仕事の役割が変わった。
レオンが籠を持ち、ゴブ朗が鎌を振るって薬草を集める。
草刈りをゴブリンに譲った私の役割はなにかといえば――。
「ゴブゥ……」
ゴブ朗が仕事の最中で手を止めた。
鎌を置いてこちらに振り返り、指を咥えて私を見る。
私は「仕方ないなぁ」と笑い、ゴブ朗を両手で抱えた。
「ほーら、たかいたかーい!」
「ゴブゥー! ゴッブゥー!」
ゴブ朗が大喜びでジタバタする。
私はゆっくりとゴブ朗を下ろしてから頭を撫でた。
「クゥン……」
今度はレオンが甘えた声を出す。
私はすかさず「よーしよし!」とレオンを撫でた。
両手で顔や頭を撫で、ついでに下からお腹も撫でておく。
「二人とも偉いぞー! その調子でファイトッ!」
「ワンッ!」「ゴブゥー!」
そう、私の役割は働く我が子を褒めることだ。
レオンと同じくゴブリンもたいそうな甘えん坊である。
「よし、今日の薬草採取はこれで終了かな」
レオンの背負う籠を見て終わりを確認する。
その後、レオンとゴブ朗から薬草採取セットを受け取った。
「今日も一日お疲れ様! 帰ろー!」
「ワゥーン♪」「ゴブブのブー♪」
見事な役割分担で楽に仕事を終え、帰路に就こうとする。
そこに、「ゴブー!」と野生のゴブリンが現れた。
「もー! また出たな、ゴブリン!」
もはやゴブリンは慣れっこだ。
ゴブリンは本当に弱いから、私でも簡単に倒せる。
しかし、家族にゴブリンがいることもあり、攻撃は気が引けた。
「ほら、あっちにいきなさい」
だから、野生のゴブリンを倒したりはしない。
遅い攻撃を何度か回避して、ゴブリンに諦めさせるのだ。
私に敵わないと分かれば、ゴブリンは「ゴブゥ!」と逃げていく。
「ここの常連なんだから、顔くらい覚えてよね」
薬草採取をする冒険者はとても少ない。
私以外だと、クエストで負傷して狩りに出られない人くらいだ。
要するに私以外の人は、回復期間の退屈凌ぎでやっている。
野生のゴブリンには私達の顔くらい覚えてほしいものだ。
「さーて、今日の晩ご飯は何にしようかな」
今日も今日とてマイペースな1日を過ごすのであった。
残りのゴブリンはお留守番だ。ゴブオは警備明けのお休み中で、ゴブ太はお風呂に入るなどまったりしながら警備にしているだろう。
「こんにちはなの! シオリお姉ちゃん!」
クエストを受注した時、背後から声を掛けられた。
振り向く前からネネイだと分かる。話し方が特徴的だから。
それでも振り返って相手を確認する。
「こんにちは、ネネイちゃん!」
案の定だ。
ネネイはワンちゃんを連れていた。
「そういえばネネイちゃんも冒険者なんだよね」
「そーなの!」
ネネイの家は冒険者用の居住区だ。
そして、ネネイは一人暮らしをしている。
つまり、彼女自身が冒険者ということ。
こんな幼女がクエストをする姿は想像も出来ない。
「今日はクエスト?」
ネネイはもう一度「そーなの!」と微笑む。
私は「頑張ってね」と頷き、受付カウンターをネネイに譲った。
「こんにちは、ネネイ様」
「こんにちはなの、受付のお姉ちゃん!」
ネネイが受付嬢と話し出す。
私は近くのテーブル席から会話を聞いていた。
十中八九、彼女は薬草採取のクエストを受けるはず。
幼女と子犬では、モンスターを倒すなど不可能だから。
それを確認したら「一緒にどう?」と声を掛けるつもりだ。
「今日はどちらのクエストをお受けになりますか?」
受付嬢が尋ねる。
ネネイはニコッと笑みを浮かべながら言った。
「ドラゴンさんをやっつけるクエストでお願いしますなの♪」
私はズコーッと椅子から滑り落ちる。
レオンが「クゥン?」と顔を舐めてくれた。
対面の席に座るゴブ朗も心配そうにしている。
「ネネイちゃん、モンスターと戦うの!?」
思わず話しかけてしまった。
こんな幼女がドラゴンを討伐する? そんな馬鹿な。
しかし、ネネイは「そーなの!」と笑顔で頷く。
「ネネイのワンちゃんはすごくすごく強いなの!」
「そのワンちゃんが……?」
ワンちゃんが「ワンッ!」と私に吠える。
まるで「馬鹿にするなよ」と言っているようだ。
「そーなの! ワンちゃんはどんな敵さんにも負けないなの!」
「ホヘェ……」
自信満々の表情で語るネネイ。
「(このつぶらな瞳の子犬がそれほど強いのか……)」
レオンは超大型犬だけれど戦闘が苦手だ。
それを考慮すれば、ワンちゃんが強いというのもあり得る。
大型犬が必ずしも強いわけではないように。
「では行ってきますなの♪」
「行ってらっしゃいませ、ネネイ様」
「い、行ってらっしゃい……」
この世界は私の常識にないことばかりだ。
そう思いながら、私は薬草畑へ向かうのであった。
◇
ネネイはたしかに超人的である。
されど他人は他人で、私は私だ。
「よーし、薬草をがっつり集めるぞー!」
「ワォーン♪」「ゴブゥー♪」
ゴブリンが仲間になってから、仕事の役割が変わった。
レオンが籠を持ち、ゴブ朗が鎌を振るって薬草を集める。
草刈りをゴブリンに譲った私の役割はなにかといえば――。
「ゴブゥ……」
ゴブ朗が仕事の最中で手を止めた。
鎌を置いてこちらに振り返り、指を咥えて私を見る。
私は「仕方ないなぁ」と笑い、ゴブ朗を両手で抱えた。
「ほーら、たかいたかーい!」
「ゴブゥー! ゴッブゥー!」
ゴブ朗が大喜びでジタバタする。
私はゆっくりとゴブ朗を下ろしてから頭を撫でた。
「クゥン……」
今度はレオンが甘えた声を出す。
私はすかさず「よーしよし!」とレオンを撫でた。
両手で顔や頭を撫で、ついでに下からお腹も撫でておく。
「二人とも偉いぞー! その調子でファイトッ!」
「ワンッ!」「ゴブゥー!」
そう、私の役割は働く我が子を褒めることだ。
レオンと同じくゴブリンもたいそうな甘えん坊である。
「よし、今日の薬草採取はこれで終了かな」
レオンの背負う籠を見て終わりを確認する。
その後、レオンとゴブ朗から薬草採取セットを受け取った。
「今日も一日お疲れ様! 帰ろー!」
「ワゥーン♪」「ゴブブのブー♪」
見事な役割分担で楽に仕事を終え、帰路に就こうとする。
そこに、「ゴブー!」と野生のゴブリンが現れた。
「もー! また出たな、ゴブリン!」
もはやゴブリンは慣れっこだ。
ゴブリンは本当に弱いから、私でも簡単に倒せる。
しかし、家族にゴブリンがいることもあり、攻撃は気が引けた。
「ほら、あっちにいきなさい」
だから、野生のゴブリンを倒したりはしない。
遅い攻撃を何度か回避して、ゴブリンに諦めさせるのだ。
私に敵わないと分かれば、ゴブリンは「ゴブゥ!」と逃げていく。
「ここの常連なんだから、顔くらい覚えてよね」
薬草採取をする冒険者はとても少ない。
私以外だと、クエストで負傷して狩りに出られない人くらいだ。
要するに私以外の人は、回復期間の退屈凌ぎでやっている。
野生のゴブリンには私達の顔くらい覚えてほしいものだ。
「さーて、今日の晩ご飯は何にしようかな」
今日も今日とてマイペースな1日を過ごすのであった。
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