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第014話 とんでもないお隣さん
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お隣さんのことは気にしなくていい。
そう教わったけれど、やはり仲良くしたかった。
私は引っ越しの予定がないから、良好な関係は大事だ。
そんなわけで、完成したてのオレンジを差し上げようと考えた。
――自宅の庭にて。
「美味しいオレンジにできていますよーに!」
今回のオレンジは私のオリジナルだ。
セットしている3つの魔法球の内、1つを別の物に換えた。
だから、まずは自分で味見して問題ないか確かめなければならない。
「皆で食べよっか!」
もぎたてのオレンジを持って言う。
レオンが「ワンッ♪」と嬉しそうに吠える。
ゴブオとゴブ朗も「ゴブッ!」と目を輝かせた。
ゴブ太は警備明けで眠っている。
「皆で同時に食べるよー」
オレンジの皮を剥き、レオン達に渡していく。
最後に私の分を手に持ち、「せーのっ」で食べた。
「美味しい! ……けど」
種屋のセットには敵わない。
甘味と酸味がやや喧嘩気味な感じだ。
それでも及第点といえる。
「よし、これならプレゼントに最適だ!」
私は竹の籠にオレンジを6個詰め込んだ。
適量が分からないが、家族で食べるならこの位だろう。
「レオン、行こ!」
「ワゥーン♪」
レオンを連れて、ネネイのお宅に向かう。
既に日が暮れているから、ネネイの親御もいるはずだ。
――と、思いきや。
「こんばんはなの、シオリお姉ちゃん!」
ネネイとワンちゃんしかいなかった。
ネネイは小さな身体をフルに活かして晩ご飯を作っている。
竈に網を張り、その上で串に刺したイカを焼いているようだ。
驚いたことに串の数が10本もある。
「こんばんは、ネネイちゃん。ネネイちゃんの親御さんにご挨拶をしようと思ってきたのだけど……」
扉を開けてすぐの土間からだと、居間までしか見えない。
既に寝間で休んでおられるのだとしたら、これまた失態だ。
などと考えていると、ネネイが首を横に振った。
「この家はネネイとワンちゃんしか住んでいないなの」
「へっ? 親御さんは?」
「いないなの。ネネイはワンちゃんと二人で暮らしているなの」
かつてないほどの衝撃を受ける。
五歳児が一人暮らしなど、日本では考えられない。
この世界では普通のことなのだろうか。
その辺りが分からないから、私は「なるほど」と返した。
「じゃあこれ、ネネイちゃんとワンちゃんに! 私のお家で栽培しているオレンジだよ。親御さんも一緒だと思って6個も持ってきちゃったけど、ネネイちゃんとワンちゃんだけだと多すぎるかな?」
ネネイが「だいじょーぶなの!」と首を横に振る。
「ありがとうなの、シオリお姉ちゃん!」
「いえいえ、これからよろしくね、ネネイちゃん」
「はいなのー♪」
私は「風呂場は自由に使っていいからね」と言い、ネネイの家を後にする。
それから余分なオレンジを冒険者ギルドで換金し、家で晩ご飯を食べた。
「魔法球の按配が分からなくて難しいねー」
今日の晩ご飯はサラダとオレンジ、それにビーフシチューだ。
どれも簡単に調理できるものばかりで、女子力のなさが窺える。
「ワゥーン♪」
レオンは美味しそうにステーキ肉を食べている。
レオンの晩ご飯は焼いただけのステーキ肉とオレンジ。
「シオリお姉ちゃん、お邪魔しますなの!」
居間で食事していると、ネネイがやってきた。
左右の手にはイカの串焼きを持っている。
ネネイの後ろに居るゴブオとゴブ太も串焼きを持っていた。
「あらネネイちゃん、どうしたの?」
「オレンジのお礼に、イカさんを受け取ってくださいなの!」
ネネイがテクテクと近づいてきて、イカの串焼きを1本くれた。
「え、いいの? ありがとー!」
「こっちはレオンちゃんにあげるなの!」
ネネイがもう片方の串焼きをレオンに向ける。
ゆっくりと近づけ「あーんなの!」と微笑んだ。
レオンは口を開けず、私に視線を送ってくる。
「いいよ」
私がそう言うと、レオンは口を開いた。
大きなレオンの口に、ネネイがイカの串焼きを入れる。
レオンが口を閉じると、ネネイはスーッと串だけ抜いた。
「レオンちゃん、美味しいなの?」
モグモグ食べるレオンに、笑顔で尋ねるネネイ。
レオンは食べ終えると「クゥン♪」と嬉しそうな声を返した。
それを受けて、ネネイは「よかったなの♪」と満足する。
「私もいただきまーす!」
レオンに続いて私も串焼きを食べる。
作りたてのようで、思っていたよりも暖かかった。
祭りの日によく食べていた味がする。とても香ばしい。
「凄く美味しいよ! ネネイちゃん!」
「喜んでもらえてよかったなの! オレンジも美味しかったなの!」
ネネイはレオンを撫でた後、私に微笑みかけてきた。
「それでは失礼しますなの♪」
そう言うと、ネネイはテクテクと我が家から出て行った。
「ねぇ……レオン」
ネネイが消えたのを見計らい、レオンに話しかける。
レオンは「ワゥ?」とこちらを向いた。
「ネネイちゃんが完璧すぎて私は辛いよ!」
「ワゥーン!」
とんでもないお隣さんに、私はガックシと項垂れるのであった。
そう教わったけれど、やはり仲良くしたかった。
私は引っ越しの予定がないから、良好な関係は大事だ。
そんなわけで、完成したてのオレンジを差し上げようと考えた。
――自宅の庭にて。
「美味しいオレンジにできていますよーに!」
今回のオレンジは私のオリジナルだ。
セットしている3つの魔法球の内、1つを別の物に換えた。
だから、まずは自分で味見して問題ないか確かめなければならない。
「皆で食べよっか!」
もぎたてのオレンジを持って言う。
レオンが「ワンッ♪」と嬉しそうに吠える。
ゴブオとゴブ朗も「ゴブッ!」と目を輝かせた。
ゴブ太は警備明けで眠っている。
「皆で同時に食べるよー」
オレンジの皮を剥き、レオン達に渡していく。
最後に私の分を手に持ち、「せーのっ」で食べた。
「美味しい! ……けど」
種屋のセットには敵わない。
甘味と酸味がやや喧嘩気味な感じだ。
それでも及第点といえる。
「よし、これならプレゼントに最適だ!」
私は竹の籠にオレンジを6個詰め込んだ。
適量が分からないが、家族で食べるならこの位だろう。
「レオン、行こ!」
「ワゥーン♪」
レオンを連れて、ネネイのお宅に向かう。
既に日が暮れているから、ネネイの親御もいるはずだ。
――と、思いきや。
「こんばんはなの、シオリお姉ちゃん!」
ネネイとワンちゃんしかいなかった。
ネネイは小さな身体をフルに活かして晩ご飯を作っている。
竈に網を張り、その上で串に刺したイカを焼いているようだ。
驚いたことに串の数が10本もある。
「こんばんは、ネネイちゃん。ネネイちゃんの親御さんにご挨拶をしようと思ってきたのだけど……」
扉を開けてすぐの土間からだと、居間までしか見えない。
既に寝間で休んでおられるのだとしたら、これまた失態だ。
などと考えていると、ネネイが首を横に振った。
「この家はネネイとワンちゃんしか住んでいないなの」
「へっ? 親御さんは?」
「いないなの。ネネイはワンちゃんと二人で暮らしているなの」
かつてないほどの衝撃を受ける。
五歳児が一人暮らしなど、日本では考えられない。
この世界では普通のことなのだろうか。
その辺りが分からないから、私は「なるほど」と返した。
「じゃあこれ、ネネイちゃんとワンちゃんに! 私のお家で栽培しているオレンジだよ。親御さんも一緒だと思って6個も持ってきちゃったけど、ネネイちゃんとワンちゃんだけだと多すぎるかな?」
ネネイが「だいじょーぶなの!」と首を横に振る。
「ありがとうなの、シオリお姉ちゃん!」
「いえいえ、これからよろしくね、ネネイちゃん」
「はいなのー♪」
私は「風呂場は自由に使っていいからね」と言い、ネネイの家を後にする。
それから余分なオレンジを冒険者ギルドで換金し、家で晩ご飯を食べた。
「魔法球の按配が分からなくて難しいねー」
今日の晩ご飯はサラダとオレンジ、それにビーフシチューだ。
どれも簡単に調理できるものばかりで、女子力のなさが窺える。
「ワゥーン♪」
レオンは美味しそうにステーキ肉を食べている。
レオンの晩ご飯は焼いただけのステーキ肉とオレンジ。
「シオリお姉ちゃん、お邪魔しますなの!」
居間で食事していると、ネネイがやってきた。
左右の手にはイカの串焼きを持っている。
ネネイの後ろに居るゴブオとゴブ太も串焼きを持っていた。
「あらネネイちゃん、どうしたの?」
「オレンジのお礼に、イカさんを受け取ってくださいなの!」
ネネイがテクテクと近づいてきて、イカの串焼きを1本くれた。
「え、いいの? ありがとー!」
「こっちはレオンちゃんにあげるなの!」
ネネイがもう片方の串焼きをレオンに向ける。
ゆっくりと近づけ「あーんなの!」と微笑んだ。
レオンは口を開けず、私に視線を送ってくる。
「いいよ」
私がそう言うと、レオンは口を開いた。
大きなレオンの口に、ネネイがイカの串焼きを入れる。
レオンが口を閉じると、ネネイはスーッと串だけ抜いた。
「レオンちゃん、美味しいなの?」
モグモグ食べるレオンに、笑顔で尋ねるネネイ。
レオンは食べ終えると「クゥン♪」と嬉しそうな声を返した。
それを受けて、ネネイは「よかったなの♪」と満足する。
「私もいただきまーす!」
レオンに続いて私も串焼きを食べる。
作りたてのようで、思っていたよりも暖かかった。
祭りの日によく食べていた味がする。とても香ばしい。
「凄く美味しいよ! ネネイちゃん!」
「喜んでもらえてよかったなの! オレンジも美味しかったなの!」
ネネイはレオンを撫でた後、私に微笑みかけてきた。
「それでは失礼しますなの♪」
そう言うと、ネネイはテクテクと我が家から出て行った。
「ねぇ……レオン」
ネネイが消えたのを見計らい、レオンに話しかける。
レオンは「ワゥ?」とこちらを向いた。
「ネネイちゃんが完璧すぎて私は辛いよ!」
「ワゥーン!」
とんでもないお隣さんに、私はガックシと項垂れるのであった。
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