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第003話 ペット同伴モチOK
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冒険者ギルドにやってきた。
大きな建物なだけあり、中もすこぶる広い。
それでいて大繁盛していた。
「賑やかだね、レオン」
「ワンッ!」
私達は受付カウンターに向かう。
道中、何人かの人から声を掛けられた。
「大きい犬だなー!」
「可愛いー!」
例外なくレオンに対する感想だ。
1人くらいはナンパしてきてもいいのにね。
この歳になると、ナンパされたいと思わなくもない。もっとも、ナンパをされたらされたでうんざりするのだけれど。ないものねだりというか、ただの自分勝手というか、とにかくそんな感じ。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
受付カウンターにつくなり、受付嬢が話しかけてきた。
嫉妬を禁じ得ない美人さんで、彼我の顔面戦闘力の差に絶望する。
「こちらで換金が出来ると聞いたのですが、大丈夫でしょうか?」
「換金ですね、かしこまりました」
問題ないようだ。
受付嬢がカウンターの上に小さな木箱を置いた。
「こちらに換金したい物を全て入れてください」
「分かりました」
私はポケットをまさぐった。
財布の他には充電の切れたスマホがある。
他には定期券を入れる為のカードケース。
「どうせここでは使えない物ばかりだし……全部いれちゃえ!」
手当たり次第に木箱に突っ込んだ。
入れ終わると「以上でお願いします」と頭を下げる。
受付嬢は「かしこまりました」と木箱を動かした。
カウンターの上にあった木箱が、カウンターの内側に消える。
こちらからだとカウンターが邪魔で何をしているのか見えない。
「査定が終了しました」
価値を査定していたようだ。
私はゴクリと唾を飲み込んで金額を待つ。
「全部で1,211万3871ゴールドとなります」
この時になって私は気づいた。
1,211万という金額にどうリアクションすればいいか分からないと。
日本円ならば「ひゃっほおおおおおう!」となる。
しかし、ジンバブエドルなら「嘘でしょ……?」と絶望だ。
レートが分からないから、間の抜けた表情しか出来なかった。
「これほどの金額になりますと、現金によるお支払いは困難になります。冒険者カードか住民カード、または商人カードにお振り込みという形になりますので、いずれかのカードをご提示いただけますようお願いします」
冒険者カード? 住民カード? 商人カード?
当然ながら、私はそのどれらも持っていない。
それよりも、「これほどの金額」という言葉。
どうやらかなりの価値がついたようだ。
私は心の中で小躍りするのであった。
「すみません、異国の者でカードを持っていないんです。どうすればよろしいでしょうか?」
必殺の免罪符『異国の者』を発動。
受付嬢は「さようでございましたか」と微笑む。
「では冒険者カードをお作り頂くことをオススメします。この場ですぐに発行できますし、何より住民カードを兼ねていますので――ペラペラ、ペラペラ」
受付嬢が懇切丁寧に説明してくれた。
冒険者カードとは、要するにクレジットカードのことだ。
驚いたことに、この世界ではカード決済に対応しているらしい。
電気を使用している面影はまるでないのに不思議なものだ。
「これが冒険者カードになります」
説明が終わり、簡単な手続きも済ませ、冒険者カードを入手した。
カードの大きさは一般的な名刺やキャッシュカードと同じくらい。材質はステンレスのような感じで、サイズの割にズッシリとしている。
「ご利用ありがとうございました」
「こちらこそ換金してくださりありがとうございました」
目標を達した私は、レオンを連れて先ほどの酒場に向かった。
◇
この世界の酒場は、日本の居酒屋とよく似ている。
どんなメニューでも頼めば出てくるのだ。パスタやハンバーグ、グラタンにお好み焼き、なんでも。しかし、ドッグフードは存在していなかった。だから、レオンの食事は味付けのしていないステーキだ。
「ワゥゥーン♪」
レオンが甘い声を出してムシャムシャ食べている。
よほど美味しいようだ。見ているだけで幸せな気持ちになる。
ちなみに、私の晩ご飯はサラダ1とサラダ2と米とサラダ3だ。
サラダが好きだから、とりあえずサラダを一式注文してみた。
「どれも美味しいー♪」
レオンに並んで私の頬も緩んでしまう。どのサラダもすこぶる美味しいのだ。
付け合わせにローストビーフが欲しくなったが、頼みはしない。私の胃袋では、3つのサラダとライスだけでも苦しいからだ。そこにローストビーフを倍プッシュするなどとんでもない。
「ウチの料理美味しいでしょー?」
私に換金のことを教えてくれた酒場の女性が話しかけてくる。
先ほど名前を聞いたのだけれど、この方はマリーというそうだ。
「はい。すごく美味しくて私もレオンも大満足です!」
「それはよかったですー! こちらとしても常連さんになっていただけると嬉しいから、困らないことがあったらドシドシ尋ねてくださいねー!」
打算的な面を隠さないことに益々の好意をもてる。
私は「それではさっそく質問なのですが」と尋ねてみた。
マリーは「どんとこい!」と笑顔で胸を叩く。
「この国では住居はどうするのでしょうか? 何軒か宿屋を見かけたけれど、宿屋に泊まるのが基本なのですか? もしそうなら、レオンが宿泊可能なのか気になっていまして……」
日本ではペット不可の宿が多かった。
「基本的には賃貸ですよー! あ、賃貸って分かりますか?」
「はい! 分かります、分かります」
「あとはそうですねー、宿屋と賃貸のどちらもペットと泊まれますよー。というよりこの国ではペットの同伴を禁止しているところはないと思いますー」
私は「おお」と驚嘆する。
リードの廃止といい、実に私好みの国だ。
「お家を借りるにはどうすればいいのでしょうか?」
「賃貸だと国から借りることになるので、役場が冒険者ギルドで手続きすることになりますー。ここからだと冒険者ギルドの方が近いのでオススメですん!」
何でも出来るな冒険者ギルド。
私はマリーに礼を言い、お会計を済ませた。
大きな建物なだけあり、中もすこぶる広い。
それでいて大繁盛していた。
「賑やかだね、レオン」
「ワンッ!」
私達は受付カウンターに向かう。
道中、何人かの人から声を掛けられた。
「大きい犬だなー!」
「可愛いー!」
例外なくレオンに対する感想だ。
1人くらいはナンパしてきてもいいのにね。
この歳になると、ナンパされたいと思わなくもない。もっとも、ナンパをされたらされたでうんざりするのだけれど。ないものねだりというか、ただの自分勝手というか、とにかくそんな感じ。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
受付カウンターにつくなり、受付嬢が話しかけてきた。
嫉妬を禁じ得ない美人さんで、彼我の顔面戦闘力の差に絶望する。
「こちらで換金が出来ると聞いたのですが、大丈夫でしょうか?」
「換金ですね、かしこまりました」
問題ないようだ。
受付嬢がカウンターの上に小さな木箱を置いた。
「こちらに換金したい物を全て入れてください」
「分かりました」
私はポケットをまさぐった。
財布の他には充電の切れたスマホがある。
他には定期券を入れる為のカードケース。
「どうせここでは使えない物ばかりだし……全部いれちゃえ!」
手当たり次第に木箱に突っ込んだ。
入れ終わると「以上でお願いします」と頭を下げる。
受付嬢は「かしこまりました」と木箱を動かした。
カウンターの上にあった木箱が、カウンターの内側に消える。
こちらからだとカウンターが邪魔で何をしているのか見えない。
「査定が終了しました」
価値を査定していたようだ。
私はゴクリと唾を飲み込んで金額を待つ。
「全部で1,211万3871ゴールドとなります」
この時になって私は気づいた。
1,211万という金額にどうリアクションすればいいか分からないと。
日本円ならば「ひゃっほおおおおおう!」となる。
しかし、ジンバブエドルなら「嘘でしょ……?」と絶望だ。
レートが分からないから、間の抜けた表情しか出来なかった。
「これほどの金額になりますと、現金によるお支払いは困難になります。冒険者カードか住民カード、または商人カードにお振り込みという形になりますので、いずれかのカードをご提示いただけますようお願いします」
冒険者カード? 住民カード? 商人カード?
当然ながら、私はそのどれらも持っていない。
それよりも、「これほどの金額」という言葉。
どうやらかなりの価値がついたようだ。
私は心の中で小躍りするのであった。
「すみません、異国の者でカードを持っていないんです。どうすればよろしいでしょうか?」
必殺の免罪符『異国の者』を発動。
受付嬢は「さようでございましたか」と微笑む。
「では冒険者カードをお作り頂くことをオススメします。この場ですぐに発行できますし、何より住民カードを兼ねていますので――ペラペラ、ペラペラ」
受付嬢が懇切丁寧に説明してくれた。
冒険者カードとは、要するにクレジットカードのことだ。
驚いたことに、この世界ではカード決済に対応しているらしい。
電気を使用している面影はまるでないのに不思議なものだ。
「これが冒険者カードになります」
説明が終わり、簡単な手続きも済ませ、冒険者カードを入手した。
カードの大きさは一般的な名刺やキャッシュカードと同じくらい。材質はステンレスのような感じで、サイズの割にズッシリとしている。
「ご利用ありがとうございました」
「こちらこそ換金してくださりありがとうございました」
目標を達した私は、レオンを連れて先ほどの酒場に向かった。
◇
この世界の酒場は、日本の居酒屋とよく似ている。
どんなメニューでも頼めば出てくるのだ。パスタやハンバーグ、グラタンにお好み焼き、なんでも。しかし、ドッグフードは存在していなかった。だから、レオンの食事は味付けのしていないステーキだ。
「ワゥゥーン♪」
レオンが甘い声を出してムシャムシャ食べている。
よほど美味しいようだ。見ているだけで幸せな気持ちになる。
ちなみに、私の晩ご飯はサラダ1とサラダ2と米とサラダ3だ。
サラダが好きだから、とりあえずサラダを一式注文してみた。
「どれも美味しいー♪」
レオンに並んで私の頬も緩んでしまう。どのサラダもすこぶる美味しいのだ。
付け合わせにローストビーフが欲しくなったが、頼みはしない。私の胃袋では、3つのサラダとライスだけでも苦しいからだ。そこにローストビーフを倍プッシュするなどとんでもない。
「ウチの料理美味しいでしょー?」
私に換金のことを教えてくれた酒場の女性が話しかけてくる。
先ほど名前を聞いたのだけれど、この方はマリーというそうだ。
「はい。すごく美味しくて私もレオンも大満足です!」
「それはよかったですー! こちらとしても常連さんになっていただけると嬉しいから、困らないことがあったらドシドシ尋ねてくださいねー!」
打算的な面を隠さないことに益々の好意をもてる。
私は「それではさっそく質問なのですが」と尋ねてみた。
マリーは「どんとこい!」と笑顔で胸を叩く。
「この国では住居はどうするのでしょうか? 何軒か宿屋を見かけたけれど、宿屋に泊まるのが基本なのですか? もしそうなら、レオンが宿泊可能なのか気になっていまして……」
日本ではペット不可の宿が多かった。
「基本的には賃貸ですよー! あ、賃貸って分かりますか?」
「はい! 分かります、分かります」
「あとはそうですねー、宿屋と賃貸のどちらもペットと泊まれますよー。というよりこの国ではペットの同伴を禁止しているところはないと思いますー」
私は「おお」と驚嘆する。
リードの廃止といい、実に私好みの国だ。
「お家を借りるにはどうすればいいのでしょうか?」
「賃貸だと国から借りることになるので、役場が冒険者ギルドで手続きすることになりますー。ここからだと冒険者ギルドの方が近いのでオススメですん!」
何でも出来るな冒険者ギルド。
私はマリーに礼を言い、お会計を済ませた。
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