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051 絶望の病
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身体を襲う痛みには波があった。
常に一〇〇パーセント、というわけではない。
五〇に落ちたり、一二〇に上がったりする。
緩急をつけて攻めてくる痛みに、俺は耐えていた。
「はぁ……はぁ……」
痛みが少しだけ落ち着く。
だが、身体は崩落したままだ。
呼吸を整え、地面に落ちたカードを懐にしまう。
「ユート君、大丈夫?」
「おとーさん、大丈夫なの!?」
アンズとネネイが同時に言う。
俺は「大丈夫」と答えた。
「いやいや、大丈夫じゃなさそうだよ!」
アンズが近寄ってくる。
そして、俺の額をハンカチで拭いた。
「すごい脂汗だよ」
言われて気づく。
全身から、たらたらと脂汗が垂れていた。
どこからどうみても、大丈夫ではない。
「うがっ、があああああっ!」
またしても激痛が襲いかかる。
痛み度が五〇から、一気に一〇〇へ急上昇。
俺は咄嗟に腹を押さえ、その場で丸まる。
その時、激痛の箇所が腹部だと気づいた。
「お腹が痛いの?」
「そ、そのようだ……」
汗を拭った後、アンズが俺の額に手を置いた。
「熱ッ! すごい熱だよ!?」
「は? 熱? この俺が?」
生まれてこのかた、熱でダウンしたことは数える程しかない。
二〇を超えてからは、一度たりとも発熱で苦しんでいなかった。
それがここにきて、突然の熱? そんな馬鹿な。
「一度リアルに戻った方がよさそうだね」
アンズが言う。
他のメンバーはそれに同意した。
もちろん、俺もその意見に賛成だ。
「マリカちゃん、骸骨でユート君を運んでもらえる?」
「承知した」
マリカが骸骨戦士を召喚する。
劇場では俺に殺された奴らだ。
それが今では、俺を担いでいる。
妙な申し訳なさがこみあげてきた。
「どうせだ、ヘイストもかけてやろう」
マリカが、俺以外の全員にヘイストを掛ける。
マリカに礼を言った後、アンズが右手を挙げた。
「家に向けてダーッシュ!」
「はいなの!」
「分かりました」
方向を急転換し、俺達は家に戻った。
「上に運んで!」
「承知した」
俺はすぐさま三階へ運び込まれた。
骸骨戦士が丁寧に、俺をベッドに寝かせる。
「すごい汗だな、マスター」
「おとーさん、大丈夫なの?」
ネネイが心配そうに訊いてくる。
俺はどう答えようか悩んだ。
結局、何も答えずにただ微笑むことにした。
ネネイは「元気になってなの」と頭を撫でてくる。
俺は小さい声で「ありがとう」とだけ言った。
「さて、リアルに戻るよ! 世界転移、出来る?」
「出来る」
「なら、辛いところ悪いけどお願い!」
「分かった」
俺の右手を、ネネイが握る。
左手は、アンズが握った。
その二人に、マリカとリーネが触れる。
「準備オッケーだよ、ユート君」
「分かった……。世界転移、発動、はぁ、はぁ」
息を切らせながら、俺は世界転移を発動した。
ゴブちゃんをその場に残し、俺達五人がリアルに移動する。
「必要な物を買ってくるから、四人はここに居てね」
「分かりました」
三〇二号室に俺達を残し、アンズは家を出て行った。
「おとーさんが辛いと、ネネイも辛いなの」
「ユートさん……」
「マスター、どうしてしまったのだ?」
「俺にも分からん」
一体、何がどうなっているのだ。
他ならぬ俺自身、そのことが分からなかった。
つい数時間前までは、元気に演劇をしていたのに。
それが急に、謎の発熱と腹痛に悩まされている。
腹痛はマシになったが、発熱の方は酷い有様だ。
自分でも、アホみたいに熱が出ていると分かる。
それに、頭がひどくボーッとしてたまらない。
おそらくこれは、発熱によるものだろう。
こんな状態では、何も考えることが出来ない。
「お待たせ!」
十分後、アンズが戻ってきた。
手にはスーパーの袋を抱えている。
「とりあえず必要そうな物を買い込んできたよ」
アンズは、袋の中身を展開しだした。
五〇〇ミリリットルのスポーツドリンクが五本。
それに、マスクと体温計だ。
「一応、熱を測ろうね!」
「分かった」
アンズから体温計を受け取り、腋に挟む。
それを、ネネイ達が興味深そうに眺めている。
その様を見るだけで、彼女らの考えは分かった。
体温計が何か、気になっているのだ。
だが、今は答えてやる元気がない。
ピピピピ♪
十秒程で、体温計が鳴る。
俺はすぐさま取り出し、熱を確認した。
「嘘だろ」
「何度だったの?」
「三十九度に届きそうなくらい」
アンズが「わお」と驚く。
俺も、同じような心境だった。
「ユート君、どこかからインフルエンザを輸入したな!」
冗談交じりに笑うアンズ。
俺は「誰から輸入するんだよ」と笑って突っ込んだ。
満員電車に揺られる社会人なら分かるが、俺は違う。
そもそもからして、感染経路が存在しないのだ。
それに、エストラでその類の病気が流行っているわけでもない。
「まぁ、素人があれこれ推測しても意味がないね! 病院に行こう!」
「そうだな」
そんなわけで、俺達は近くの総合病院にやってきた。
五人共、念のためにマスクを着用している。
「で、何科が正解なんだ?」
恥ずかしながら、俺は病院のことをよく知らない。
これまでの人生で、利用したことがそれほどなかったのだ。
「分からないときは、とりあえず内科だよ!」
とアンズが言うので、俺達は内科に移動した。
「ゲホゲホ」
「わしゃこう見えてインフルでなぁ」
「どうじゃ、熱が三十八度もあるわい!」
内科の待合室は、うんざりするほどに混んでいた。
老若男女問わずいて、どいつもこいつも辛そうだ。
この場に居るだけで、尚更に体調が悪化しかねない。
「マスクをしている人ばかりなの!」
「なんだかこれまでと雰囲気の違う場所ですね」
「リアルの病院とは、中々変わった場所なのだな」
ネネイ達が興奮する。
アンズが「病院では静かにしてね」と優しく注意した。
それを受けて、三人が口をつぐむ。
「斎藤さん、斎藤優斗さん、お入りください」
しばらくして、俺の名が呼ばれた。
「付き添いは?」
アンズが尋ねてくる。
俺は「要らない」と答えた。
この齢で、付き添いは恥ずかしい。
ゆっくりと立ち上がり、診察室に入った。
「お願いします」
挨拶をした後、医者の前にある丸椅子へ腰を下ろした。
俺の担当医は、橋本とかいうお爺ちゃんだ。
なかなか人のよさそうな顔をしている。
それがかえって「大丈夫なのか」と不安にさせた。
「問診票を見たけど、いきなり熱が出たって?」
座るなり、橋本が言ってきた。
問診票とは、症状を書いた紙のことだ。
待っている間に、予め書かされた。
「そうです」
「インフルエンザかもしれないねぇ、調べてみるねぇ」
そう言うと、橋本は長い綿棒を取り出した。
あろうことか、それを俺の鼻に突っ込んでくる。
そして、鼻の奥をグリグリ、グリグリ。
「うがぁああっ」
激痛が走る。
脳を突き刺されたかのような痛みだ。
それに呼応して、自然と涙が湧き上がる。
「次、反対ね」
「え、反対もやるんですか?」
「うん」
何食わぬ顔で、橋本はもう片方の鼻も攻めてきた。
頭がボーッとしていても、痛みだけは明確に分かる。
思わず橋本の顔面をぶん殴りそうだ。
俺は必死に、暴れないように堪えた。
二十九になって、病院で失態を演じるわけにはいかない。
「少ししたら呼ぶから、待合室で待っていてね」
「え、終わりですか?」
「まずはインフルの検査から。違ったら、他の可能性を調べるよ」
「は、はぁ、分かりました」
よく分からないが、橋本の言葉に従おう。
俺はお礼を言い、診察室を後にした。
「どうだった?」
戻るなり、アンズが訊いてくる。
俺は「インフルの検査をするんだって」と答えた。
「まだ原因は分かっていない感じなんだ?」
「そうみたい」
待合室の長椅子に腰を下ろす。
右にアンズが、左にネネイが居る。
アンズの隣にマリカ、ネネイの隣にリーネだ。
「おとーさんが元気になりますように、なの」
ネネイが俺の左手を握ってくる。
小さな両手で、力を込めてギュッと。
この子の為にも、早く元気にならないとな。
「インフルじゃないと思うんだよなぁ……」
誰に言うわけでもなく、俺は呟いた。
熱が出ているだけあり、息が苦しい。
肩を大きく上下に動かし、呼吸をする。
症状がマシになる気配は、まるでなかった。
「斎藤さん、斎藤優斗さん、お入りください」
再び俺の名が呼ばれる。
俺は「行ってくる」と言い残し、診察室に入った。
「インフルエンザではないね」
診察室に入ったばかりの俺に、橋本が言う。
俺は「じゃあ、原因は?」と丸椅子に座る。
橋本は「うーん」と唸った。
「色々と質問をするから、分かる範囲で答えてね」
「は、はぁ、質問ですか」
「うん、質問」
それを機に、橋本の質問攻めが始まった。
最近空港に行ったかとか、慣れない物を食べたかとか。
そんな感じの内容が多い。
「今、なんと?」
その内の一つで、橋本の眉がピクリと動く。
俺は再び、たった今言った内容を答えた。
「と、鳥刺しを食べました」
これは、数日前の食事に関する質問だ。
アンズの提案で、俺達は安い居酒屋に行った。
イカ道楽とかなんとかいう店だ。
そこで、人生初の鳥刺しを食べた。
その話に対し、橋本が「それだ!」と叫ぶ。
「鳥刺しが何か?」
恐る恐る尋ねる俺。
橋本は力強く頷いた。
「うん、君はウイルス性胃腸炎だ、間違いない」
橋本は相当自信あるようだ。
間違いない、ときっぱり断言している。
一方、俺は不安になっていた。
ウイルスなんて言葉が耳に入ってきたからだ。
「ウイルス性胃腸炎って、何ですか?」
「君の場合、早い話が食中毒だね」
「しょ、食中毒?」
「そう。カンピロバクターって菌」
「でも、鳥刺しを食ったのって、二・三日前ですよ」
食中毒と云えば、食べてすぐになるイメージがあった。
ところが橋本は、全ての食中毒がそうではないと主張する。
「カンピロバクターには、潜伏期間があるからね」
謎のウイルス『カンピロバクター』について、橋本が説明する。
それによると、潜伏期間は平均して二・三日らしい。
さらに、これによる症状は、発熱・腹痛・下痢などが挙げられる。
特に酷いのは下痢とのことだが、俺の場合、その点は問題なかった。
何故なら、神様が排泄機能をオフにしてくれたからだ。
「たしかに、俺の症状とピッタリですね」
「だから、君はウイルス性胃腸炎で決まり!」
「なるほど」
そういうわけで、俺の病名はウイルス性胃腸炎らしい。
ウイルスと聴くと怖いが、橋本は「大丈夫」と断言した。
「整腸剤を出しておくから、食後にそれをきっちり服用してね。あと、食欲がなかったら、無理に食べなくてもいいよ。その代わり、水分は必要以上にしっかり補給してね。脱水症状が出ると困るから」
なんだか途端に、橋本が頼もしく見えた。
こうハキハキと言われると、名医って感じがする。
俺は両目を希望の色に煌めかせ、「はい」と渾身の力で返す。
しかし、その直後、橋本の一言で、俺は絶望することとなった。
「下痢と一緒に、体外へ菌を排出すれば治るから」
排泄機能がないので、俺は便をすることが出来ない。
つまり、下痢と一緒に菌を排出……なんてのは不可能なのだ。
なんてこった、排泄機能のオフが裏目に出てしまった!
常に一〇〇パーセント、というわけではない。
五〇に落ちたり、一二〇に上がったりする。
緩急をつけて攻めてくる痛みに、俺は耐えていた。
「はぁ……はぁ……」
痛みが少しだけ落ち着く。
だが、身体は崩落したままだ。
呼吸を整え、地面に落ちたカードを懐にしまう。
「ユート君、大丈夫?」
「おとーさん、大丈夫なの!?」
アンズとネネイが同時に言う。
俺は「大丈夫」と答えた。
「いやいや、大丈夫じゃなさそうだよ!」
アンズが近寄ってくる。
そして、俺の額をハンカチで拭いた。
「すごい脂汗だよ」
言われて気づく。
全身から、たらたらと脂汗が垂れていた。
どこからどうみても、大丈夫ではない。
「うがっ、があああああっ!」
またしても激痛が襲いかかる。
痛み度が五〇から、一気に一〇〇へ急上昇。
俺は咄嗟に腹を押さえ、その場で丸まる。
その時、激痛の箇所が腹部だと気づいた。
「お腹が痛いの?」
「そ、そのようだ……」
汗を拭った後、アンズが俺の額に手を置いた。
「熱ッ! すごい熱だよ!?」
「は? 熱? この俺が?」
生まれてこのかた、熱でダウンしたことは数える程しかない。
二〇を超えてからは、一度たりとも発熱で苦しんでいなかった。
それがここにきて、突然の熱? そんな馬鹿な。
「一度リアルに戻った方がよさそうだね」
アンズが言う。
他のメンバーはそれに同意した。
もちろん、俺もその意見に賛成だ。
「マリカちゃん、骸骨でユート君を運んでもらえる?」
「承知した」
マリカが骸骨戦士を召喚する。
劇場では俺に殺された奴らだ。
それが今では、俺を担いでいる。
妙な申し訳なさがこみあげてきた。
「どうせだ、ヘイストもかけてやろう」
マリカが、俺以外の全員にヘイストを掛ける。
マリカに礼を言った後、アンズが右手を挙げた。
「家に向けてダーッシュ!」
「はいなの!」
「分かりました」
方向を急転換し、俺達は家に戻った。
「上に運んで!」
「承知した」
俺はすぐさま三階へ運び込まれた。
骸骨戦士が丁寧に、俺をベッドに寝かせる。
「すごい汗だな、マスター」
「おとーさん、大丈夫なの?」
ネネイが心配そうに訊いてくる。
俺はどう答えようか悩んだ。
結局、何も答えずにただ微笑むことにした。
ネネイは「元気になってなの」と頭を撫でてくる。
俺は小さい声で「ありがとう」とだけ言った。
「さて、リアルに戻るよ! 世界転移、出来る?」
「出来る」
「なら、辛いところ悪いけどお願い!」
「分かった」
俺の右手を、ネネイが握る。
左手は、アンズが握った。
その二人に、マリカとリーネが触れる。
「準備オッケーだよ、ユート君」
「分かった……。世界転移、発動、はぁ、はぁ」
息を切らせながら、俺は世界転移を発動した。
ゴブちゃんをその場に残し、俺達五人がリアルに移動する。
「必要な物を買ってくるから、四人はここに居てね」
「分かりました」
三〇二号室に俺達を残し、アンズは家を出て行った。
「おとーさんが辛いと、ネネイも辛いなの」
「ユートさん……」
「マスター、どうしてしまったのだ?」
「俺にも分からん」
一体、何がどうなっているのだ。
他ならぬ俺自身、そのことが分からなかった。
つい数時間前までは、元気に演劇をしていたのに。
それが急に、謎の発熱と腹痛に悩まされている。
腹痛はマシになったが、発熱の方は酷い有様だ。
自分でも、アホみたいに熱が出ていると分かる。
それに、頭がひどくボーッとしてたまらない。
おそらくこれは、発熱によるものだろう。
こんな状態では、何も考えることが出来ない。
「お待たせ!」
十分後、アンズが戻ってきた。
手にはスーパーの袋を抱えている。
「とりあえず必要そうな物を買い込んできたよ」
アンズは、袋の中身を展開しだした。
五〇〇ミリリットルのスポーツドリンクが五本。
それに、マスクと体温計だ。
「一応、熱を測ろうね!」
「分かった」
アンズから体温計を受け取り、腋に挟む。
それを、ネネイ達が興味深そうに眺めている。
その様を見るだけで、彼女らの考えは分かった。
体温計が何か、気になっているのだ。
だが、今は答えてやる元気がない。
ピピピピ♪
十秒程で、体温計が鳴る。
俺はすぐさま取り出し、熱を確認した。
「嘘だろ」
「何度だったの?」
「三十九度に届きそうなくらい」
アンズが「わお」と驚く。
俺も、同じような心境だった。
「ユート君、どこかからインフルエンザを輸入したな!」
冗談交じりに笑うアンズ。
俺は「誰から輸入するんだよ」と笑って突っ込んだ。
満員電車に揺られる社会人なら分かるが、俺は違う。
そもそもからして、感染経路が存在しないのだ。
それに、エストラでその類の病気が流行っているわけでもない。
「まぁ、素人があれこれ推測しても意味がないね! 病院に行こう!」
「そうだな」
そんなわけで、俺達は近くの総合病院にやってきた。
五人共、念のためにマスクを着用している。
「で、何科が正解なんだ?」
恥ずかしながら、俺は病院のことをよく知らない。
これまでの人生で、利用したことがそれほどなかったのだ。
「分からないときは、とりあえず内科だよ!」
とアンズが言うので、俺達は内科に移動した。
「ゲホゲホ」
「わしゃこう見えてインフルでなぁ」
「どうじゃ、熱が三十八度もあるわい!」
内科の待合室は、うんざりするほどに混んでいた。
老若男女問わずいて、どいつもこいつも辛そうだ。
この場に居るだけで、尚更に体調が悪化しかねない。
「マスクをしている人ばかりなの!」
「なんだかこれまでと雰囲気の違う場所ですね」
「リアルの病院とは、中々変わった場所なのだな」
ネネイ達が興奮する。
アンズが「病院では静かにしてね」と優しく注意した。
それを受けて、三人が口をつぐむ。
「斎藤さん、斎藤優斗さん、お入りください」
しばらくして、俺の名が呼ばれた。
「付き添いは?」
アンズが尋ねてくる。
俺は「要らない」と答えた。
この齢で、付き添いは恥ずかしい。
ゆっくりと立ち上がり、診察室に入った。
「お願いします」
挨拶をした後、医者の前にある丸椅子へ腰を下ろした。
俺の担当医は、橋本とかいうお爺ちゃんだ。
なかなか人のよさそうな顔をしている。
それがかえって「大丈夫なのか」と不安にさせた。
「問診票を見たけど、いきなり熱が出たって?」
座るなり、橋本が言ってきた。
問診票とは、症状を書いた紙のことだ。
待っている間に、予め書かされた。
「そうです」
「インフルエンザかもしれないねぇ、調べてみるねぇ」
そう言うと、橋本は長い綿棒を取り出した。
あろうことか、それを俺の鼻に突っ込んでくる。
そして、鼻の奥をグリグリ、グリグリ。
「うがぁああっ」
激痛が走る。
脳を突き刺されたかのような痛みだ。
それに呼応して、自然と涙が湧き上がる。
「次、反対ね」
「え、反対もやるんですか?」
「うん」
何食わぬ顔で、橋本はもう片方の鼻も攻めてきた。
頭がボーッとしていても、痛みだけは明確に分かる。
思わず橋本の顔面をぶん殴りそうだ。
俺は必死に、暴れないように堪えた。
二十九になって、病院で失態を演じるわけにはいかない。
「少ししたら呼ぶから、待合室で待っていてね」
「え、終わりですか?」
「まずはインフルの検査から。違ったら、他の可能性を調べるよ」
「は、はぁ、分かりました」
よく分からないが、橋本の言葉に従おう。
俺はお礼を言い、診察室を後にした。
「どうだった?」
戻るなり、アンズが訊いてくる。
俺は「インフルの検査をするんだって」と答えた。
「まだ原因は分かっていない感じなんだ?」
「そうみたい」
待合室の長椅子に腰を下ろす。
右にアンズが、左にネネイが居る。
アンズの隣にマリカ、ネネイの隣にリーネだ。
「おとーさんが元気になりますように、なの」
ネネイが俺の左手を握ってくる。
小さな両手で、力を込めてギュッと。
この子の為にも、早く元気にならないとな。
「インフルじゃないと思うんだよなぁ……」
誰に言うわけでもなく、俺は呟いた。
熱が出ているだけあり、息が苦しい。
肩を大きく上下に動かし、呼吸をする。
症状がマシになる気配は、まるでなかった。
「斎藤さん、斎藤優斗さん、お入りください」
再び俺の名が呼ばれる。
俺は「行ってくる」と言い残し、診察室に入った。
「インフルエンザではないね」
診察室に入ったばかりの俺に、橋本が言う。
俺は「じゃあ、原因は?」と丸椅子に座る。
橋本は「うーん」と唸った。
「色々と質問をするから、分かる範囲で答えてね」
「は、はぁ、質問ですか」
「うん、質問」
それを機に、橋本の質問攻めが始まった。
最近空港に行ったかとか、慣れない物を食べたかとか。
そんな感じの内容が多い。
「今、なんと?」
その内の一つで、橋本の眉がピクリと動く。
俺は再び、たった今言った内容を答えた。
「と、鳥刺しを食べました」
これは、数日前の食事に関する質問だ。
アンズの提案で、俺達は安い居酒屋に行った。
イカ道楽とかなんとかいう店だ。
そこで、人生初の鳥刺しを食べた。
その話に対し、橋本が「それだ!」と叫ぶ。
「鳥刺しが何か?」
恐る恐る尋ねる俺。
橋本は力強く頷いた。
「うん、君はウイルス性胃腸炎だ、間違いない」
橋本は相当自信あるようだ。
間違いない、ときっぱり断言している。
一方、俺は不安になっていた。
ウイルスなんて言葉が耳に入ってきたからだ。
「ウイルス性胃腸炎って、何ですか?」
「君の場合、早い話が食中毒だね」
「しょ、食中毒?」
「そう。カンピロバクターって菌」
「でも、鳥刺しを食ったのって、二・三日前ですよ」
食中毒と云えば、食べてすぐになるイメージがあった。
ところが橋本は、全ての食中毒がそうではないと主張する。
「カンピロバクターには、潜伏期間があるからね」
謎のウイルス『カンピロバクター』について、橋本が説明する。
それによると、潜伏期間は平均して二・三日らしい。
さらに、これによる症状は、発熱・腹痛・下痢などが挙げられる。
特に酷いのは下痢とのことだが、俺の場合、その点は問題なかった。
何故なら、神様が排泄機能をオフにしてくれたからだ。
「たしかに、俺の症状とピッタリですね」
「だから、君はウイルス性胃腸炎で決まり!」
「なるほど」
そういうわけで、俺の病名はウイルス性胃腸炎らしい。
ウイルスと聴くと怖いが、橋本は「大丈夫」と断言した。
「整腸剤を出しておくから、食後にそれをきっちり服用してね。あと、食欲がなかったら、無理に食べなくてもいいよ。その代わり、水分は必要以上にしっかり補給してね。脱水症状が出ると困るから」
なんだか途端に、橋本が頼もしく見えた。
こうハキハキと言われると、名医って感じがする。
俺は両目を希望の色に煌めかせ、「はい」と渾身の力で返す。
しかし、その直後、橋本の一言で、俺は絶望することとなった。
「下痢と一緒に、体外へ菌を排出すれば治るから」
排泄機能がないので、俺は便をすることが出来ない。
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ちくわ feat. 亜鳳
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弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
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2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
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17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
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そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
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とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる
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伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。
ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする.
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