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040 新商品は〇〇〇
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新商品が到着する一日前。
エストラ自宅の三階にて、作戦会議を開いていた。
議題は、明後日に控えた新商品の宣伝についてだ。
この場には、マリカ以外の人間が居る。
しかし、会議に参加しているのはアンズだけだ。
ネネイは、ゴブちゃんとらくがき君で遊んでいる。
リーネは、箒で床を掃いていた。
自身の固有スキル『万物生成』で作った物だ。
塵のない床を掃くのは、行為自体が楽しいからである。
何が楽しいのか、俺には理解できない。
ちなみに、マリカは狩りに出かけていた。
「ゴブリンズをここに配置するのはどうかな?」
テーブルに敷いてある紙を、リーネが指した。
その紙とは、不動産屋からもらった街の地図だ。
全ての売地に、印と価格が書き込まれている。
「悪くないな、場所はそこでいいだろう」
「あとは具体的な流れだね」
「だな。ゴブリンズは開封とかできるの?」
「大丈夫! ああ見えて器用だから!」
「熱いのも大丈夫なのか?」
「どうだろう――ねぇ、ゴブちゃん!」
アンズが呼ぶと、ゴブちゃんが振り返った。
きょとんとした表情で「キェェェ?」と鳴く。
「ゴブちゃん、熱いのは大丈夫? 熱湯とか」
「キェェェ!」
ゴブちゃんは、何度も首を縦に振った。
さらに、どうだとばかりにガッツポーズをする。
どうやら、ゴブリンは熱湯を触ることが出来るようだ。
「それなら、調理に五で、残りは配布に回すか」
「オッケー! 缶詰はマリカちゃんにお願いしよっか!」
「骸骨戦士は人間よりも器用だからな、問題ないだろう」
俺達の新商品、それは『レトルトパウチ食品』と『缶詰』だ。
つまり、『携帯食』である。
このアイデアは、年末の長期休暇で閃いた。
立て続けに焼き鳥を食べていて、飽きたのがきっかけだ。
冒険者は、マグボトルに食材を詰めている。
その為、どうしても作れる料理が限られてしまう。
そこで、リアルの携帯食というわけだ。
色々な味を楽しめるので、冒険がより楽しくなる。
特に缶詰は、忙しい冒険者にウケるだろう。
調理時間がないので、セーフゾーン以外でも補給が可能になる。
サッと蓋を開けてかきこめば、ものの数秒で完食だ。
「調理五体、配布二十五体、缶詰は骸骨が担当だな」
最終確認を行う。
アンズが「オッケー!」と頷いた。
これで、作戦は問題ない。
「あとは準備だな」
「それは私がやっておくよ」
「いいのか?」
「ゴブちゃんと相談して決める必要があるからね」
「まぁ、調理するのはゴブリンズだしな」
「そういうこと! じゃあ、行ってくるね!」
「俺はその間に土地の購入を済ませておくよ」
俺とアンズが、同時に立ち上がった。
先に動き出したのはアンズだ。
「ゴブちゃん、行くよ!」
「キェェェ!」
「ゴブちゃん、また遊ぼうなの」
「キェェェ!」
アンズとゴブちゃんが、階段を下りて行く。
三階から二階までは静かだ。
しかし、二階から一階へ駆けては騒がしかった。
二階で待機しているゴブリンズが追加されるからだ。
アンズ達が家を出たのを確認すると、俺も動き始めた。
「不動産屋に行って土地を買ってくる」
「お供します」
「ネネイも行くなの!」
リーネとネネイを引き連れ、不動産屋へ行く。
不動産屋に着くと、早々に土地を購入した。
購入金額は五億ゴールド。
値切り交渉をすることもなく、二つ返事で購入だ。
兆単位の資金を保有する俺にとって、五億は小銭である。
「お買い上げありがとうございました」
「おう、助かったよ」
「それでは、失礼します」
特に問題もなく、土地を取得する。
二〇メートル四方の更地だ。
交通の便は可もなく不可もなく。
少なくとも、自宅よりは遥かに良い。
「あとはアンズだな」
この土地に、レトルト食品を調理する為の環境が構築される。
どんな風になるかは、今から楽しみだ。
「役目は果たした、帰るぞ」
「はいなの♪」
「流石です、ユートさん」
期待に胸を膨らませて、俺達は帰路に就いた。
◇
一仕事を終えた後、三人でゾンビの巣にやってきた。
マリカが狩りに出ていることを思い出したからだ。
なまっている身体を動かそうということになった。
ちなみに、ゾンビの巣を選んだのは俺である。
理由は単純。どこよりも爽快だからだ。
「うげげっ、すごい数なの!」
前回同様、奥の奥まで行くとスポーンした。
数は約一〇〇〇体。
相変わらずでたらめな多さだ。
「やるぞ、ネネイ!」
「はいなの! サンダーバードなの!」
最初に仕掛けたのはネネイだ。
攻撃スキル『サンダーバード』で雷の鳥を召喚する。
雷の鳥は、勢いよくゾンビを蹴散らした。
一瞬にして、五〇体近いゾンビが灰になる。
「俺も負けてられないぜ、おりゃあ!」
一方、俺は近接戦だ。
愛槍『プリン』を振り回し、ゾンビを蹴散らす。
攻撃力十四ともなれば、かするだけで即死だ。
他では味わえない、快楽のような無双感がたまらない。
「これが一騎当千だぁ!」
「流石です、ユートさん」
「おとーさんは強いなの!」
右に左にと槍を振り回し、狂ったように突っ込む。
この暴走列車を止められる者は、この場にいない。
一〇〇……二〇〇……あっという間に、五〇〇体を撃破する。
「ネネイも負けていられないなの! えいなのっ!」
ネネイはスリングショットで攻撃した。
小さな石の球が、ゾンビを貫いていく。
一発で一〇体近い数を死滅させる。
「つ、疲れてきた。ネネイ、後は頼んだ。はぁ、はぁ」
今回もまた、あと少しでスタミナが尽きる。
ヘトヘトになりながら後退し、ネネイの横に腰を下ろす。
運動不足だなぁ、と我ながら苦笑い。
ネネイは「任せてなの」とニッコリ。
「サンダーバードなの! サンダーバードなの!」
残りの敵は、ネネイがしっかりと仕留めた。
先程までゾンビが蠢いていた場所は、今や灰の海である。
「ふぅ、疲れたー!」
「疲れたなのー!」
「お疲れ様です、ユートさん、ネネイさん」
俺は大の字に寝転ぶ。
何の面白みもない、岩の天井が見える。
しかし、すぐに景色が変わった。
したり顔のネネイがフェードインしたのだ。
岩の天井は消え、ネネイの顔がズームされている。
「ぐふふふなの♪」
ネネイが俺に跨った。
小さな五歳児が、眼下に俺を見てくる。
「な、何をするつもりだ」
「何もしないなの、ただ寝るだけなの♪」
そう言うと、ネネイは身体を倒した。
俺の胸に頬を当て、気持ちよさそうに目を瞑る。
「どっくん、どっくん、なの」
「心臓の鼓動だな」
「聴いていると落ち着くなの」
しばらくの間、ネネイは「どっくんなの」と言っていた。
しかし、その声は次第に弱まっていき、いつしか寝息に変わる。
「ダンジョンで寝る奴がおるか」
「どうしますか?」
「どうもこうも、抱えて帰るしかないさ」
「分かりました」
俺は、ネネイを抱っこして立ち上がる。
ため息をついた後、『エスケープタウン』を発動させた。
街に到着した後は、一直線に家へ向かう。
ネネイを抱いていては、寄り道などできない。
当のネネイは、気持ちよさそうに眠っている。
やれやれ、とんだ困ったちゃんだ。
「家に着いたぞ、起きろ」
「もうちょっとだけなの、むにゃむにゃなの」
もうちょっとしたら、ベッドに到着だぞ。
どうやら、最後の最後まで起きる気はないらしい。
「開けますね」
「ありがとう、助かるよ」
リーネに扉を開けてもらい、家の中に入った。
ゆっくりと階段を上がり、三階へ行く。
途中に通過する二階で、ゴブリンズを発見。
どうやら、アンズが帰ってきているようだ。
「「「キェェェ!」」」
「おうおう、ただいま」
ゴブリンズに一瞥し、三階へ行く。
「おかえり、マスター」
「おかえりー! って、どうしたの!?」
三階には、マリカとアンズが居た。
二人はソファで向かいあう形に座っている。
アンズは、俺の腕で眠るネネイを見て驚いた。
「ダンジョンの中で昼寝を始めやがったんだよ」
マリカが「ネネイらしいな」と鼻で笑う。
「らしいけど、勘弁してほしいものだぜ」
「ユート君と居ればそれだけ安心だってことだよ! やったね!」
「全然やったじゃないよ、まったく」
俺は自分のベッドにネネイを降ろした。
布団を掛けようするも、ネネイがそれをさせてくれない。
なんてこった、俺の首に腕を巻き付けているのだ。
起きているのではないかと思えるが、眠っている。
「ネネイ、布団を掛けるから腕を離せ」
「はいなのぉ……」
口元をにんまりさせながら、ネネイが腕を離す。
それにしても、実に幸せそうな寝顔だ。
頬をツンツクしてやろうと思ったが、やめておこう。
いや、やっぱりツンツクしておいた。
「ふぅ、疲れたぜ」
「お疲れ様です、ユートさん」
俺はソファへ腰を下ろした。
マリカの隣だ。
「さて、レベルは上がっているかな」
冒険者カードを取り出し、ステータスを確認する。
ゾンビの巣では、なんだかんだで見ることができなかった。
戦闘中は全力でハッスルしていたし、戦闘後にはネネイだ。
「お、上がっているじゃないか」
レベルが十一から十二に上がっていた。
クソザコゾンビも、数をこなせば美味いものだ。
いつもの調子で、ステータスポイントを振っていく。
名前:ユート
レベル:12
攻撃力:15
防御力:22
魔法攻撃力:1
魔法防御力:22
スキルポイント:5
今回は攻撃力を一に、防御各種を二ずつの配分だ。
防御に偏重した振り方なので、レベルの割に硬い。
レベル二十二のマリカと比べると、硬さは一目瞭然だ。
レベル差は一〇もあるのに、防御力の差は僅か四だ。
これだけ硬ければ、同レベル帯の敵は怖くない。
身体を張って、仲間を守ることができる。
「キェェェ!」
一息つく俺に、ゴブちゃんが近づいてきた。
「ん?」
ゴブちゃんは何食わぬ顔で、俺の前に立つ。
そして――。
「え、ちょ、なんだ!?」
なんと、俺の膝の上に座り出したのだ。
意味が分からず、驚愕と困惑に駆られる俺。
ゴブちゃんは一体、何がしたいのだ?
「キェェェ!」
ゴブちゃんが何やら見せてきた。
らくがき君だ。
何やら文字が書かれている。
えらく綺麗な字だ。
これは、ゴブちゃんの字ではないと断言できる。
そもそも、ゴブちゃんに字が書けるわけがない。
誰が書いたかは分かっている。
それで、何が書かれているかと言えば――。
『僕も抱っこして欲しいゴブ!』
……。
俺はゴブちゃんの両肩を掴む。
ゆっくりと横へスライドさせた。
対面に座っているアンズの顔が見える。
案の定、ニヤニヤと笑っていた。
「仕方ない、抱っこしてやるか」
俺はゴブちゃんを抱っこした。
ゴブちゃんは「キェェ!」と嬉しそうだ。
顔は可愛くないけど、仕草はなかなか可愛い。
ゴブちゃんのせいで、ゴブリンを狩れなくなった。
「よっこらしょっと」
抱っこしたゴブちゃんを、アンズの膝に降ろす。
その後――。
「あいたーっ!」
アンズの頭を、スパコーンと叩いた。
エストラ自宅の三階にて、作戦会議を開いていた。
議題は、明後日に控えた新商品の宣伝についてだ。
この場には、マリカ以外の人間が居る。
しかし、会議に参加しているのはアンズだけだ。
ネネイは、ゴブちゃんとらくがき君で遊んでいる。
リーネは、箒で床を掃いていた。
自身の固有スキル『万物生成』で作った物だ。
塵のない床を掃くのは、行為自体が楽しいからである。
何が楽しいのか、俺には理解できない。
ちなみに、マリカは狩りに出かけていた。
「ゴブリンズをここに配置するのはどうかな?」
テーブルに敷いてある紙を、リーネが指した。
その紙とは、不動産屋からもらった街の地図だ。
全ての売地に、印と価格が書き込まれている。
「悪くないな、場所はそこでいいだろう」
「あとは具体的な流れだね」
「だな。ゴブリンズは開封とかできるの?」
「大丈夫! ああ見えて器用だから!」
「熱いのも大丈夫なのか?」
「どうだろう――ねぇ、ゴブちゃん!」
アンズが呼ぶと、ゴブちゃんが振り返った。
きょとんとした表情で「キェェェ?」と鳴く。
「ゴブちゃん、熱いのは大丈夫? 熱湯とか」
「キェェェ!」
ゴブちゃんは、何度も首を縦に振った。
さらに、どうだとばかりにガッツポーズをする。
どうやら、ゴブリンは熱湯を触ることが出来るようだ。
「それなら、調理に五で、残りは配布に回すか」
「オッケー! 缶詰はマリカちゃんにお願いしよっか!」
「骸骨戦士は人間よりも器用だからな、問題ないだろう」
俺達の新商品、それは『レトルトパウチ食品』と『缶詰』だ。
つまり、『携帯食』である。
このアイデアは、年末の長期休暇で閃いた。
立て続けに焼き鳥を食べていて、飽きたのがきっかけだ。
冒険者は、マグボトルに食材を詰めている。
その為、どうしても作れる料理が限られてしまう。
そこで、リアルの携帯食というわけだ。
色々な味を楽しめるので、冒険がより楽しくなる。
特に缶詰は、忙しい冒険者にウケるだろう。
調理時間がないので、セーフゾーン以外でも補給が可能になる。
サッと蓋を開けてかきこめば、ものの数秒で完食だ。
「調理五体、配布二十五体、缶詰は骸骨が担当だな」
最終確認を行う。
アンズが「オッケー!」と頷いた。
これで、作戦は問題ない。
「あとは準備だな」
「それは私がやっておくよ」
「いいのか?」
「ゴブちゃんと相談して決める必要があるからね」
「まぁ、調理するのはゴブリンズだしな」
「そういうこと! じゃあ、行ってくるね!」
「俺はその間に土地の購入を済ませておくよ」
俺とアンズが、同時に立ち上がった。
先に動き出したのはアンズだ。
「ゴブちゃん、行くよ!」
「キェェェ!」
「ゴブちゃん、また遊ぼうなの」
「キェェェ!」
アンズとゴブちゃんが、階段を下りて行く。
三階から二階までは静かだ。
しかし、二階から一階へ駆けては騒がしかった。
二階で待機しているゴブリンズが追加されるからだ。
アンズ達が家を出たのを確認すると、俺も動き始めた。
「不動産屋に行って土地を買ってくる」
「お供します」
「ネネイも行くなの!」
リーネとネネイを引き連れ、不動産屋へ行く。
不動産屋に着くと、早々に土地を購入した。
購入金額は五億ゴールド。
値切り交渉をすることもなく、二つ返事で購入だ。
兆単位の資金を保有する俺にとって、五億は小銭である。
「お買い上げありがとうございました」
「おう、助かったよ」
「それでは、失礼します」
特に問題もなく、土地を取得する。
二〇メートル四方の更地だ。
交通の便は可もなく不可もなく。
少なくとも、自宅よりは遥かに良い。
「あとはアンズだな」
この土地に、レトルト食品を調理する為の環境が構築される。
どんな風になるかは、今から楽しみだ。
「役目は果たした、帰るぞ」
「はいなの♪」
「流石です、ユートさん」
期待に胸を膨らませて、俺達は帰路に就いた。
◇
一仕事を終えた後、三人でゾンビの巣にやってきた。
マリカが狩りに出ていることを思い出したからだ。
なまっている身体を動かそうということになった。
ちなみに、ゾンビの巣を選んだのは俺である。
理由は単純。どこよりも爽快だからだ。
「うげげっ、すごい数なの!」
前回同様、奥の奥まで行くとスポーンした。
数は約一〇〇〇体。
相変わらずでたらめな多さだ。
「やるぞ、ネネイ!」
「はいなの! サンダーバードなの!」
最初に仕掛けたのはネネイだ。
攻撃スキル『サンダーバード』で雷の鳥を召喚する。
雷の鳥は、勢いよくゾンビを蹴散らした。
一瞬にして、五〇体近いゾンビが灰になる。
「俺も負けてられないぜ、おりゃあ!」
一方、俺は近接戦だ。
愛槍『プリン』を振り回し、ゾンビを蹴散らす。
攻撃力十四ともなれば、かするだけで即死だ。
他では味わえない、快楽のような無双感がたまらない。
「これが一騎当千だぁ!」
「流石です、ユートさん」
「おとーさんは強いなの!」
右に左にと槍を振り回し、狂ったように突っ込む。
この暴走列車を止められる者は、この場にいない。
一〇〇……二〇〇……あっという間に、五〇〇体を撃破する。
「ネネイも負けていられないなの! えいなのっ!」
ネネイはスリングショットで攻撃した。
小さな石の球が、ゾンビを貫いていく。
一発で一〇体近い数を死滅させる。
「つ、疲れてきた。ネネイ、後は頼んだ。はぁ、はぁ」
今回もまた、あと少しでスタミナが尽きる。
ヘトヘトになりながら後退し、ネネイの横に腰を下ろす。
運動不足だなぁ、と我ながら苦笑い。
ネネイは「任せてなの」とニッコリ。
「サンダーバードなの! サンダーバードなの!」
残りの敵は、ネネイがしっかりと仕留めた。
先程までゾンビが蠢いていた場所は、今や灰の海である。
「ふぅ、疲れたー!」
「疲れたなのー!」
「お疲れ様です、ユートさん、ネネイさん」
俺は大の字に寝転ぶ。
何の面白みもない、岩の天井が見える。
しかし、すぐに景色が変わった。
したり顔のネネイがフェードインしたのだ。
岩の天井は消え、ネネイの顔がズームされている。
「ぐふふふなの♪」
ネネイが俺に跨った。
小さな五歳児が、眼下に俺を見てくる。
「な、何をするつもりだ」
「何もしないなの、ただ寝るだけなの♪」
そう言うと、ネネイは身体を倒した。
俺の胸に頬を当て、気持ちよさそうに目を瞑る。
「どっくん、どっくん、なの」
「心臓の鼓動だな」
「聴いていると落ち着くなの」
しばらくの間、ネネイは「どっくんなの」と言っていた。
しかし、その声は次第に弱まっていき、いつしか寝息に変わる。
「ダンジョンで寝る奴がおるか」
「どうしますか?」
「どうもこうも、抱えて帰るしかないさ」
「分かりました」
俺は、ネネイを抱っこして立ち上がる。
ため息をついた後、『エスケープタウン』を発動させた。
街に到着した後は、一直線に家へ向かう。
ネネイを抱いていては、寄り道などできない。
当のネネイは、気持ちよさそうに眠っている。
やれやれ、とんだ困ったちゃんだ。
「家に着いたぞ、起きろ」
「もうちょっとだけなの、むにゃむにゃなの」
もうちょっとしたら、ベッドに到着だぞ。
どうやら、最後の最後まで起きる気はないらしい。
「開けますね」
「ありがとう、助かるよ」
リーネに扉を開けてもらい、家の中に入った。
ゆっくりと階段を上がり、三階へ行く。
途中に通過する二階で、ゴブリンズを発見。
どうやら、アンズが帰ってきているようだ。
「「「キェェェ!」」」
「おうおう、ただいま」
ゴブリンズに一瞥し、三階へ行く。
「おかえり、マスター」
「おかえりー! って、どうしたの!?」
三階には、マリカとアンズが居た。
二人はソファで向かいあう形に座っている。
アンズは、俺の腕で眠るネネイを見て驚いた。
「ダンジョンの中で昼寝を始めやがったんだよ」
マリカが「ネネイらしいな」と鼻で笑う。
「らしいけど、勘弁してほしいものだぜ」
「ユート君と居ればそれだけ安心だってことだよ! やったね!」
「全然やったじゃないよ、まったく」
俺は自分のベッドにネネイを降ろした。
布団を掛けようするも、ネネイがそれをさせてくれない。
なんてこった、俺の首に腕を巻き付けているのだ。
起きているのではないかと思えるが、眠っている。
「ネネイ、布団を掛けるから腕を離せ」
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頬をツンツクしてやろうと思ったが、やめておこう。
いや、やっぱりツンツクしておいた。
「ふぅ、疲れたぜ」
「お疲れ様です、ユートさん」
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マリカの隣だ。
「さて、レベルは上がっているかな」
冒険者カードを取り出し、ステータスを確認する。
ゾンビの巣では、なんだかんだで見ることができなかった。
戦闘中は全力でハッスルしていたし、戦闘後にはネネイだ。
「お、上がっているじゃないか」
レベルが十一から十二に上がっていた。
クソザコゾンビも、数をこなせば美味いものだ。
いつもの調子で、ステータスポイントを振っていく。
名前:ユート
レベル:12
攻撃力:15
防御力:22
魔法攻撃力:1
魔法防御力:22
スキルポイント:5
今回は攻撃力を一に、防御各種を二ずつの配分だ。
防御に偏重した振り方なので、レベルの割に硬い。
レベル二十二のマリカと比べると、硬さは一目瞭然だ。
レベル差は一〇もあるのに、防御力の差は僅か四だ。
これだけ硬ければ、同レベル帯の敵は怖くない。
身体を張って、仲間を守ることができる。
「キェェェ!」
一息つく俺に、ゴブちゃんが近づいてきた。
「ん?」
ゴブちゃんは何食わぬ顔で、俺の前に立つ。
そして――。
「え、ちょ、なんだ!?」
なんと、俺の膝の上に座り出したのだ。
意味が分からず、驚愕と困惑に駆られる俺。
ゴブちゃんは一体、何がしたいのだ?
「キェェェ!」
ゴブちゃんが何やら見せてきた。
らくがき君だ。
何やら文字が書かれている。
えらく綺麗な字だ。
これは、ゴブちゃんの字ではないと断言できる。
そもそも、ゴブちゃんに字が書けるわけがない。
誰が書いたかは分かっている。
それで、何が書かれているかと言えば――。
『僕も抱っこして欲しいゴブ!』
……。
俺はゴブちゃんの両肩を掴む。
ゆっくりと横へスライドさせた。
対面に座っているアンズの顔が見える。
案の定、ニヤニヤと笑っていた。
「仕方ない、抱っこしてやるか」
俺はゴブちゃんを抱っこした。
ゴブちゃんは「キェェ!」と嬉しそうだ。
顔は可愛くないけど、仕草はなかなか可愛い。
ゴブちゃんのせいで、ゴブリンを狩れなくなった。
「よっこらしょっと」
抱っこしたゴブちゃんを、アンズの膝に降ろす。
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幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
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神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
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吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。
「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」
巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。
異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。
【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ
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