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第004話 ネネイの家族

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 右折と左折を何度か繰り返し、時々道を誤り、人混みのせいで迷子になりかけるも、ネネイはどうにか目的地に到着した。

 冒険者ギルド。
 それがネネイの目的地だ。
 冒険者の仕事は、そこの依頼クエストをこなすこと。
 ネネイの『薬草採取』もクエストの一つだ。

 冒険者ギルドは、最大収容人数は2000人と、町でも屈指の大きさを誇る。
 中は木の四人掛けテーブル席が無数にあり、中央には円形の受付カウンター。
 受付カウンターでは、約20人の受付嬢がせわしなく働いている。

 冒険者ギルドの中は盛況だが、大通りほどの混雑はない。
 中に入ると、ネネイは「ホッ」と一息ついて、ケルベロスを置いた。

「よぉ、ネネイちゃんじゃないか!」
「今日も薬草をたくさん抜いたかい!?」
「いつも健気に頑張って偉いねぇー!」

 周囲の中年冒険者がネネイに声を掛ける。
 半数はシラフだが、残り半数は酔っ払っていた。

「頑張ったなの! ネネイ、薬草をたくさん抜き抜きしたなの♪」

 中年冒険者達に微笑みかけながら、ネネイは受付カウンターに進んでいく。

「そうかいそうかい! その子犬はどうしたんだい?」
「ネネイちゃんのことだ。道中で拾ってお友達になったんだろうよ!」
「ネネイちゃんは誰とでも仲良くなれっからなぁ! ガッハッハ!」

 この町を拠点に活動している冒険者なら、誰でもネネイのことを知っている。
 冒険者に年齢制限がないとはいえ、ネネイの年で冒険者をする者など殆どいないからだ。それに加えて、誰に対しても物怖じすることなく振りまく笑顔も特徴的である。

「こんにちは、ネネイちゃん」
「こんにちはなの、受付のおねーちゃん!」

 ネネイが受付嬢に挨拶する。
 礼儀正しく、身体を前に傾け、頭をペコリ。
 受付嬢はニッコリして、同じようにペコリと返した。

「薬草採取が終わったなの♪」

 ネネイが腰のポーチから薬草を取り出す。
 それを受付カウンターに置こうとするも、背が低くて届かない。

「よいしょ……なの!」

 必死に背伸びするネネイ。
 それでも、やはり届かなかった。

「来年は届くかもしれないね」

 受付嬢が「ふふ」と笑って手を伸ばす。
 ネネイは「むぅーなの」と悔しがりながら、薬草を手渡した。

「たしかに10枚お預かりしました。はい、報酬の金貨1枚」
「ありがとーなの♪」

 ネネイの小さな手に、受付嬢が金貨を置く。
 ネネイは落とさぬようギュッと握り、もう一方の手でポーチを開けた。その中に報酬の金貨を入れると、満面の笑みを浮かべてポーチを閉める。ポーチがきちんと閉まったかを念入りに確認した後、受付嬢に頭をペコリと下げた。

 これにて、冒険者ギルドにおけるネネイの目標は終了した。
 あとはこの場を去り、夕食を済ませて寝るだけだ。
 ところが、ネネイはすぐに去ろうとはしなかった。

「受付のおねーちゃん、聞いて聞いてなの!」

 受付嬢に話したいことがあったからだ。

「どうしたの? ネネイちゃん」

 ネネイがこのような雑談をすることは滅多にない。
 だから、受付嬢の表情に驚きの色が混じった。

「ワンちゃん!」

 ネネイはそう言うと、ケルベロスを抱えた。
 抱えた状態で向きをクルリと変えて、ケルベロスの顔を受付嬢に向ける。

「森でお友達になったなの!」
「そうなんだ。野犬の割に大人しいね。ネネイちゃんになついているみたい」
「そうなの! すごく賢いワンちゃんで、ネネイの家族になったなの!」

 受付嬢の表情が一瞬だけ引きつった。
 家族、というワードが引っかかったからだ。

「そ、そっか。よかったね、ネネイちゃん!」
「よかったなの! このワンちゃん、森の木をベシッって倒したなの!」
「えー、それは冗談でしょー」
「本当なの!」

 実際の所は、本当である。
 しかし、受付嬢にそれを信じさせるのは不可能だ。
 受付嬢は、「それはすごいねー」と適当に話を流すことにした。

「家族にするのもいいけど、もとは野犬だから、どこかに消えちゃっても知らないよー?」
「消えちゃったら……それは悲しいけど、仕方がないなの」

 ネネイが「話は以上なの!」と笑顔で切り上げる。

「それではまた明日なのー♪」
「うんうん。また明日ね、ネネイちゃん」

 ケルベロスを地面に置き、受付嬢に別れを告げると、ネネイは冒険者ギルドを後にした。

「あの年で強いよな、ネネイちゃんは」

 ネネイが消えた後、会話を聞いていた中年冒険者が受付嬢に言う。
 受付嬢は神妙な面持ちで「ですね」と頷いた。

「あの年で孤独だなんて、想像もつかねぇよ……」

 そう、ネネイには家族が居ないのだ。
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