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006 初クエスト

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 俺はランク1の敵であるスライムの討伐クエストを受けた。
 内容は単純で、街の近辺に出現するスライムを狩るだけだ。
 1体以上のスライムを倒せば完了で、倒した数に応じて報酬が増える。

 やはり冒険者は凄いな、と思うのがクエストの報酬だ。
 1体しか倒さなかったとしても、薬草採取の仕事より良かった。
 しかも、少しだけ良いのではなく、1桁違うレベルで良いのだ。

 とはいえ、街で暮らす以上、出費額の桁も変わってくるわけで。
 1日1体のスライム退治だけだと、じきに首が回らなくなる。

「にぃに、スライムってぇー?」

 スライムを探して街の外の草原を歩いていると、アーシャが訊いてきた。

「ぷにぷにした青色の奴だよ。きっと凄く弱い。楽勝の雑魚だ」

 参考までに、ゴブリンのランクは3で、オークは10だ。
 そのことを考慮すると、ランク1のスライムは、超がつく雑魚である。

 冒険者は自分のランクよりも上のクエストを受注出来る。
 ランクによるクエストの制限は一切ないから、高ランクでも受注可能だ。
 ただし、クエストに連続して失敗すると、違約金を払うことになる。
 身の丈に合ったクエストを受けなければならない、ということだ。

 ランクのシステムはいたって単純。
 自分のランクより上のランクのクエストを3回こなせば昇格出来る。
 例えば俺がランク5、7、8のクエストをこなすと、ランク5になるわけだ。
 自分より上のランクで、且つ、一番低いクエストのランクになる。

「あっ! にぃに! 見て! 青いぷにぷに!」

 アーシャがスライムを発見した。
 事前の情報通り、青いぷにぷにした塊である。
 手足はなくて、ぴょんぴょん跳ねて移動していた。

「思ったより小さいな」

「かわいいー! にぃに、触ってもいーい? ぷにぷに!」

「いいわけないだろ。魔物だぞ」

「でも、ぷにぷには安全そうだよ? 襲ってこないし!」

 スライムもこちらに気づいている。
 しかし、攻撃してくる気配は感じられなかった。
 だからといって油断するわけにはいかない。

「悪いがダメだ。今から駆除を開始する。俺の後ろにいろよ」

「はーい……」

 アーシャは不満そうながらも、俺の指示に従った。
 俺のすぐ後ろに回り、ピタッとくっついて離れない。
 俺は〈クリエイト〉を発動した。

「今回はこれでいいか」

 生み出したのはスナイパーライフルだ。
 狙撃銃ではあるが、スキルの仕様により射程は長くない。
 しかし、スコープを覗いて撃てることから、命中精度は高かった。

「この距離からでも……」

 射程の限界近くまで離れた所から銃を構える。
 スライムはこちらをぼんやり眺めたまま動く気配がない。

「よっこいしょっと」

 ズドンッ!

 トリガーを引いた瞬間、スコープの向こうに居るスライムが弾けた。
 銃弾が命中したことにより、木っ端微塵に粉砕されてしまったのだ。

「すっげぇ……!」

「おおー! にぃにがやっつけた!」

 俺とアーシャは揃って興奮した。
 アーシャはともかくとして、俺自身も驚いている。
 武器の威力がこれほど高いのは、俺のイメージの影響だ。
 狙撃銃は威力が高い、というゲームの知識が反映されている。

「スライム相手に過剰すぎるし、もう少し弱い武器でいくか」

 俺はスナイパーライフルを消して、ハンドガンを二挺生み出す。
 それらを両手で持って二丁拳銃のスタイルに切り替えた。

「さーて、ガンガン倒すぞー!」

「おーっ!」

 夕暮れになるまで、俺達は草原を彷徨った。

 ◇

 日が暮れたので街に戻り、冒険者ギルドで報告する。
 担当の受付嬢はまたしてもヒルダだ。
 どうやら彼女は人気がないらしく、彼女の場所だけが空いていた。
 他の受付嬢のコーナーは列が出来ているのに。

「クエスト、終わったよ」

「お疲れ様。カードを出してちょうだい」

 ヒルダがそっけなく言う。
 俺は冒険者カードを取り出し、ヒルダに渡した。
 彼女はそれをサッとテーブルの下に移し、なにやら作業をしている。
 ここからだとよく見えないが、パソコンのようなものを操作しているようだ。
 作業は1分たらずで終了した。

「たしかに倒しているね。討伐した数は17体。頑張ったね」

 ヒルダが「はい、これ」とカードを返してくる。

「報酬の支払いは完了したの?」

 クエスト報酬は口座に振り込まれる方式だ。
 だから、目の前にお金がドンッと置かれることはない。
 今まで現金払いの生活をしていた俺には、馴染みがなかった。

「済んでいるよ。現金が必要なら下ろしていく?」

 俺は「んー」と悩んでから尋ねた。

「この街に居る限り、現金は必要ないんだよね?」

「ないよ。今時、ある程度の都市ならどこでもキャッシュレスだもん。君は田舎から出てきたんだね、ブライト」

 当たっているが、田舎者扱いは悲しく感じた。
 ヒルダに軽蔑の意志がないのはたしかだから、文句は言わない。
 俺は「そうだよ」と頷いた。

「下ろしてもいいと思うけど、カード決済の方が喜ばれるし安全だよ。冒険者カードは本人しか使えないから、現金と違って奪われる心配もない」

「じゃあ、下ろさないでおくよ」

「それがいい。あと、預金残高はカードに記載されているからね」

 俺は冒険者カードを確認してみた。
 名前とランクの下に所持金の項目が増えている。
 そこには、本日の報酬である8万5000ゴールドが記載があった。

「見ろ、アーシャ。すげー大金だぞ。この数字が俺達の所持金だ」

 アーシャに冒険者カードを見せる。

「わおーっ!」

 アーシャは目をカッと見開き、両手を挙げて驚いた。
 1日500ゴールドの薬草採取とは、まさに桁違いの報酬だ。

「用は済んだよね? だったら受付から離れてもらえる?」

 騒いでいるとヒルダに注意された。
 俺達は頭をペコペコして謝り、足早にギルドを出て行く。

「あの女、ほんと冷たいよな」

「あんな女、クビにしちまえよな」

「せっかく死に物狂いでクエストをこなしても、あんな態度で接客されたらやる気失せるよ」

 俺達に向かって、付近のテーブルに座る連中が声を掛けてきた。
 どうやらヒルダのことを言っているらしく、彼女は人気がないようだ。
 仕事の内容ではなく接客態度が反感を買っている模様。

「そ、そっすね」

 適当な相槌を打ちながら離れていく。
 正直なところ、俺はなんとも思っていなかった。
 むしろ、態度こそ冷たいが、言葉には優しさがあると思ったくらいだ。
 だから俺は、今後もヒルダでかまわないと考えていた。
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