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010 港のトラブル②
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近づいて分かった。
どうやら漁師が誰かに襲われたのだ。
騒ぎの中心で、帰ってきたばかりの漁師が倒れていた。
全身にいたぶられたような切り傷があって、服が血に染まっている。
「酷いなの……」
それを見たアーシャが、顔を青くして、口を手で覆う。
「アーシャちゃん! どうしてここに!?
それより、こんなの見たらダメだよ!」
先ほどアーシャと取引した漁師が言う。
彼はアーシャの前に立ち、痛ましい重傷人を見えないようにした。
「おじちゃん、何があったの?」
「アーシャちゃんに言うことじゃねぇんだが……」
漁師が悔しそうな表情で説明する。
「最近、海賊が出没しているんだ」
「海賊? 悪い人達なの?」
「そうだ。
漁船を囲ったら、金や魚を要求しやがる。
断ったら…………」
漁師が言葉を詰まらせる。
しばらく考えた後、適切な言葉で説明した。
「イタイイタイされちゃうわけだ」
「そこのおじちゃんみたいに?」
「そういうことだ」
「酷いの!」
「ひでぇよ、本当にな。
組合のほうで国に救援要請を出しているんだがな、
こんな田舎の港町にはなかなか来てくれなくてよぉ。
好き放題に荒らされちまっているわけさ」
漁師が大きなため息をつく。
「明日は俺がターゲットだからよぉ、
折角、アーシャちゃんから貰ったお金も奪われちまうぜ」
どうやら海賊は狙う順番を事前に決めているようだ。
で、そのことは漁師も把握しているらしい。
「おじちゃんもイタイイタイされちゃうの?」
「いや、俺は大人しく差し出すよ。
命あっての物種だし、厳しいが仕方ないさ」
漁師が自虐的に笑う。
「そんなのダメなの!」
アーシャが大きな声で言った。
「なんだ?」
「お、アーシャちゃんだ」
他の漁師達が声に反応してこちらに視線を向ける。
「ダメと言ってもなぁ……仕方ねぇさ」
「そんなことないの!
海賊さんの問題、アーシャが解決するの!」
「「「なんだってーっ!」」」
皆が口を揃えて驚く。
俺も人間だったら同じ反応をしていた。
「解決するったって」
「どうするっていうんだい?」
「これは冗談では済まない問題だよ?」
「アーシャちゃんでも、からかっていると怒るよ?」
漁師達は、アーシャが冗談を言っていると思っている。
極限までピリピリしていて、今にも誰かしらが怒鳴りそうだ。
それでも堪えているのは、相手が五歳かそこらの幼女だからに違いない。
幼女に苛立ちをぶつけるなど、大人して情けないことだ。
一方、アーシャはいたって真面目であり、本気の本気だった。
「アーシャ、冗談じゃないもん!」
頬を膨らまし、クリッとした瞳で漁師達を見つめ返す。
「じゃ、じゃあ、アーシャちゃんの考えを聞かせてもらおうか」
漁師達が腕を組む。
ふざけたことを言ったら怒るぞ、と言いたげだ。
そんな中、アーシャは満面な笑みを浮かべた。
「悪い海賊さんは、シロ君がやっつけるの!」
「「「シロ君!?」」」
「アーシャのドラゴンさん!
バハムートのシロ君なの!」
アーシャが俺の身体を持って皆に見せつける。
「この真っ白なドラゴンがバハムート?」
「ハハハ、そんなわけあるかい!」
「アーシャちゃん、このドラゴンはバハムートじゃないさ」
「バハムートってのは漆黒の龍と言われていて、真っ黒なんだよ?」
正しいのはアーシャだ。
俺はバハムートの幼体であり、幼体は白いもの。
しかし、それを知っている者はこの世でも数名居るかどうかだ。
一般常識としては当然として、賢い学者ですら大半が知らない。
古今東西のいかなる文献を漁っても載っていないから。
もっとも、それは俺が人間だった時代の話だ。
この時代もおそらく近い年代と思えるが、詳しいことは分からない。
ただ、周囲の反応を見る限り、やはり知らないのが普通といえるだろう。
「でも、シロ君は凄く凄くつよいの!」
「このドラゴンが?」
「ハハハ、流石に子供じゃねぇ」
漁師達が小馬鹿にしたように笑う。
舐められるのは不快だが、彼らの気持ちは理解出来る。
残念だが多勢に無勢だし、後はなぁなぁで終わるだけだ。
と思いきや。
「いや、もしかしたら、海賊を倒せるかもしれないぞ?」
そう言ったのは、アーシャにイカを売った漁師だった。
どうやら漁師が誰かに襲われたのだ。
騒ぎの中心で、帰ってきたばかりの漁師が倒れていた。
全身にいたぶられたような切り傷があって、服が血に染まっている。
「酷いなの……」
それを見たアーシャが、顔を青くして、口を手で覆う。
「アーシャちゃん! どうしてここに!?
それより、こんなの見たらダメだよ!」
先ほどアーシャと取引した漁師が言う。
彼はアーシャの前に立ち、痛ましい重傷人を見えないようにした。
「おじちゃん、何があったの?」
「アーシャちゃんに言うことじゃねぇんだが……」
漁師が悔しそうな表情で説明する。
「最近、海賊が出没しているんだ」
「海賊? 悪い人達なの?」
「そうだ。
漁船を囲ったら、金や魚を要求しやがる。
断ったら…………」
漁師が言葉を詰まらせる。
しばらく考えた後、適切な言葉で説明した。
「イタイイタイされちゃうわけだ」
「そこのおじちゃんみたいに?」
「そういうことだ」
「酷いの!」
「ひでぇよ、本当にな。
組合のほうで国に救援要請を出しているんだがな、
こんな田舎の港町にはなかなか来てくれなくてよぉ。
好き放題に荒らされちまっているわけさ」
漁師が大きなため息をつく。
「明日は俺がターゲットだからよぉ、
折角、アーシャちゃんから貰ったお金も奪われちまうぜ」
どうやら海賊は狙う順番を事前に決めているようだ。
で、そのことは漁師も把握しているらしい。
「おじちゃんもイタイイタイされちゃうの?」
「いや、俺は大人しく差し出すよ。
命あっての物種だし、厳しいが仕方ないさ」
漁師が自虐的に笑う。
「そんなのダメなの!」
アーシャが大きな声で言った。
「なんだ?」
「お、アーシャちゃんだ」
他の漁師達が声に反応してこちらに視線を向ける。
「ダメと言ってもなぁ……仕方ねぇさ」
「そんなことないの!
海賊さんの問題、アーシャが解決するの!」
「「「なんだってーっ!」」」
皆が口を揃えて驚く。
俺も人間だったら同じ反応をしていた。
「解決するったって」
「どうするっていうんだい?」
「これは冗談では済まない問題だよ?」
「アーシャちゃんでも、からかっていると怒るよ?」
漁師達は、アーシャが冗談を言っていると思っている。
極限までピリピリしていて、今にも誰かしらが怒鳴りそうだ。
それでも堪えているのは、相手が五歳かそこらの幼女だからに違いない。
幼女に苛立ちをぶつけるなど、大人して情けないことだ。
一方、アーシャはいたって真面目であり、本気の本気だった。
「アーシャ、冗談じゃないもん!」
頬を膨らまし、クリッとした瞳で漁師達を見つめ返す。
「じゃ、じゃあ、アーシャちゃんの考えを聞かせてもらおうか」
漁師達が腕を組む。
ふざけたことを言ったら怒るぞ、と言いたげだ。
そんな中、アーシャは満面な笑みを浮かべた。
「悪い海賊さんは、シロ君がやっつけるの!」
「「「シロ君!?」」」
「アーシャのドラゴンさん!
バハムートのシロ君なの!」
アーシャが俺の身体を持って皆に見せつける。
「この真っ白なドラゴンがバハムート?」
「ハハハ、そんなわけあるかい!」
「アーシャちゃん、このドラゴンはバハムートじゃないさ」
「バハムートってのは漆黒の龍と言われていて、真っ黒なんだよ?」
正しいのはアーシャだ。
俺はバハムートの幼体であり、幼体は白いもの。
しかし、それを知っている者はこの世でも数名居るかどうかだ。
一般常識としては当然として、賢い学者ですら大半が知らない。
古今東西のいかなる文献を漁っても載っていないから。
もっとも、それは俺が人間だった時代の話だ。
この時代もおそらく近い年代と思えるが、詳しいことは分からない。
ただ、周囲の反応を見る限り、やはり知らないのが普通といえるだろう。
「でも、シロ君は凄く凄くつよいの!」
「このドラゴンが?」
「ハハハ、流石に子供じゃねぇ」
漁師達が小馬鹿にしたように笑う。
舐められるのは不快だが、彼らの気持ちは理解出来る。
残念だが多勢に無勢だし、後はなぁなぁで終わるだけだ。
と思いきや。
「いや、もしかしたら、海賊を倒せるかもしれないぞ?」
そう言ったのは、アーシャにイカを売った漁師だった。
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