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034 求職票と女騎士

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 翌日から、俺は労働力の確保に動き出した。

 その前に、まずは既存の従業員を労うとしよう。

「アリサ、ケルル、お前達の日当は今日から3万5000ゴールドだ」

「ふぇぇぇぇ!?
 そんなにたくさんいーの?」

「前は1万2500だったよね!?
 3倍近い増額じゃん! 太っ腹過ぎない!?」

「その分の働きはしているからな。
 それに、もっと頑張っているルナの日当は5万だぞ」

「なんだってえええええええ!
 私達は低賃金トリオだったのではなかったの!?」

「すみません……実は数日前に昇給してもらいました」

「かぁー!
 でも、貢献度を考えたら当然かー!
 毎日美味しいご飯を作ってもらってるし!」

 そんなわけで、アリサとケルルの日当を増額。

 それから、広場に行って、求人票を更新する。

=====求人票=====
【仕事内容】モンスター牧場の作業員
【住所】ロージカ 33-4
【給与】15,000ゴールド/日
【備考】モンスターの世話が好きなら未経験者でも可

 前まではこんな内容だったのだが、

 新しい求人票では以下のようになった。

=====求人票=====
【仕事内容】
①モンスター牧場の作業員
②馬車を使った商品の運搬
【住所】ロージカ 33-4
【給与】
①20,000ゴールド/日
②30,000ゴールド/日
【備考】モンスターの世話が好きなら未経験者でも可

 これまでは牧場の作業員だけだったが、

 今回の更新で新たに馬車の御者も募集することにした。

 特に御者の人手が足りていないので、給与を高めに設定する。

 日当3万ゴールドというのは、他所と比較しても悪くはない額だ。

 むしろ、他所よりも少し良いくらいである。

「これでよし」

 更新した求人票を見てニッコリする。

 これなら近いうちに就職希望者が現れるだろう。

 しかし、そんな不確実なことを待っているつもりはない。

 ただ待つのではなく、こちらからスカウト活動も行おう。

「何か良さそうな人いないかなー」

 先ほどとは違う大型掲示板の前にやってきた。

 そこには求職票と呼ばれる紙が貼られている。

 求職票とは、求人票の対となる存在。

 つまり、就職希望者が希望する職や給料を書いた紙だ。

 無作為に選んだ一枚を試しに見てみる。

=====求職票=====
【名前】ベンジャミン
【年齢】20
【性別】男
【前職】刀鍛治
【特技】剣の修復
【希望職種】鍛冶関係以外
【希望給与】18,500ゴールド/日
【希望休日】水・土・祝
【希望都市】ロージカ・バルフレア
【備考】会話の少ない静かな職場を希望

 分かりやすくまとまっている。

 こうして求職票を見ていき、気に入った人間が居たら実際に会えばいい。

 会う方法は簡単だ。

 職業案内所と呼ばれる場所に行き、求職票を渡すだけ。

 そうすれば、本人と会う手はずを整えてくれる。

「御者を希望する人ってそうそういないもんだなぁ……」

 求職票は山ほどあれど、希望の人材はなかなか見つからない。

 たまにあったとしても、牧場等の朝が早いのを嫌がる奴ばかり。

 気持ちは理解できるが、こちら側からするとため息しか出てこない。

「おっ」

 そんな中、良さげな相手を見つけた。

=====求職票=====
【名前】ローラ
【年齢】26
【性別】女
【前職】王国騎士
【特技】乗馬
【希望職種】馬に乗る仕事
【希望給与】35,000ゴールド/日
【希望休日】馬上槍試合ジョストの大会日及びその前後
【希望都市】ロージカ
【備考】ジョストの腕を磨ける場を希望します。

 俺より6歳上の女“ローラ”だ。

 前職が王国騎士――つまり、国に仕える騎士だという。

 求職票から、ジョストに対する思い入れが伝わってくる。

 その時点で素晴らしいが、希望職種もこれまた素晴らしい。

「この人にしよう」

 即決だった。

 俺はローラの求職票を手に取り、職業案内所へ向かった。

 ◇

 職業案内所で居場所を聴き、ローラのもとへやってきた。

「ここか……」

 指定された住所は、馬上槍試合ジョストの練習場だった。

 中央に腰丈の柵があり、その左右を騎士が向き合う形で走る。

 どちらも、甲冑で全身を包んでいて顔が見えない。

 事故を防ぐ為なのか、騎乗している馬にも鎧が装備されている。

 両者は手に木製の槍を持っていて、近づくと互いに突き合った。

 一方の攻撃は外れたが、もう一方の攻撃は命中する。

 攻撃が命中した方は、バランスを崩して転落した。

 これがジョストだ。

 練習場では、数十人の騎士がジョストの模擬試合を行っていた。

「すみません」

 試合を終えた人間に目を付けて話しかける。

「どうしたの?」

 女の声が返ってきた。

 話した相手は女だったみたいだ。

 兜に覆われていて気づかなかった。

 もしかしたら、この人がローラなのだろうか。

 兜の内側に潜む顔を、声をもとに連想する。

「ローラという女性を探しているのですが」

「ああ、ローラね。
 ――ローラ、お客さんよ!」

 どうやら違ったようだ。

 しかし、彼女のおかげで誰がローラか分かった。

「お待たせしました」

 新たにやってきた甲冑の騎士がローラだ。

「私に何の御用でしょうか?」

 ローラが馬から下りて、兜を脱ぐ。

 クリーム色の長い髪が露わになった。

 髪に付着している汗がキラキラと輝いて見える。

 俺より年上というだけのことはあり、美人なお姉さんだ。

「求職票を見てきました」

「その件でしたか」

「是非ウチの牧場で働いてもらいたいのですが」

「それに対する返答は、今はまだできません。
 まずは貴方様の職場を拝見させてください。
 それから互いの希望条件等を話し合った後に、
 返答を決めさせて頂きます」

 なんだかものすごく丁寧な人だ。

 それでいて、自分のペースを絶対に崩さない。

 仮に採用するとして、皆と馴染めるのだろうか。

 少し不安ではあるが、今は話を進めていくとしよう。

「分かりました。
 ウチの職場……牧場には、今から来られますか?」

「そちらの都合がよろしいのであれば、是非お願いします」

「では今から行きましょう。
 ローラさんが着替えている間、この辺で待っておきますね」

「いえ、私はこのままで結構なので」

 目を品剥く俺。

「このままって、ガチガチの鎧ですよ?」

「普段からこの格好で過ごしておりますので、問題ありません」

「もしかして、牧場で働くことになってもその姿で?」

「その予定です。問題ございますか?」

「……いや、大丈夫です」

「それでは参りましょう。
 ところでその黒いユニコーン、とても素敵ですね」

 少し変わった女騎士と共に牧場へ向かうのだった。
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