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028 ジャックランタン

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 次の日。

 ゴブイチとゴブジには臨時休業を取らせた。

 といっても休むのは午前だけだ。

 本人達のやる気と体調を考慮して、午後から働いてもらう。

 午後の作業は楽なものばかりだから安心だ。

 で、午前の作業について。

 不在となったゴブリンズの穴埋めだが……。

 それは俺が担当する。

 搾乳し、生乳を缶に詰め、コケコッコーに餌をやる。

 こうして世話をするのは、なんだか随分と久しぶりな気がした。

「どうだ、気持ちいいか?」

 動物小屋で、モーの全身をブラッシングする。

「モォー♪」

 嬉しそうな声が返ってくる。

 その様を見ていると、俺まで嬉しくなった。

「おにーちゃん!」

 ケルルが動物小屋に入ってくる。

「マンドレイクの水やりは終わったのか?」

「おわったのー!」

「オーケー」

 マンドレイクが食事が終わるまでしばらく待つ。

 肥料を食べ終え、ケルルに浴びせて貰った水も吸収した。

 そうしてようやく、砂糖精製の時間がやってくる。

「「「「ふにゅー!」」」」」

 茹で蛸のマンドレイクが分裂しながら釜を這い出る。

 今日は40体のマンドレイクが分裂を行った。

 つまり、マンドレイクの数が80体に倍増したわけだ。

 これでますます今後の作業量が増える。

 ゴブリンズの過労を抜きにしても、労働力の確保は急務といえた。

「マンドレイクさん、ここにはいるのー!」

 ケルルの云う“ここ”とはバケツのことだ。

 大量においてあって、中には水が張ってある。

 元々はマンドレイクが泥を落とす為に使っていたバケツだ。

 それをケルルが、1人で綺麗に洗い、新しく水を補充した。

 マンドレイクの入浴中にせわしく動き回って。

「ふにゅ!」

 マンドレイクがケルルの用意したバケツに入る。

 さながら水風呂だ。

「「「「「ふにゅー……♪」」」」」

 茹で蛸の身体を急激に冷まして幸せそうだ。

「ふにゅーなの♪」

 ケルルが、マンドレイクの鳴き声を真似する。

 モーの時と同じく、招き猫の手をしていた。

 どうやら鳴き声を真似する時のポーズみたいだ。

「これでよし」

 俺はマンドレイクの居なくなった釜で砂糖を精製する。

 スキル【サイクロン】を遠心分離機の代わりに使う。

 グルグルとハイスピードでかき混ぜて、砂糖を抽出した。

「あとはよろしく」

「お任せ下さい、タケルさん!」

「「「「「ニャニャニャー!」」」」」

 完成した砂糖の取り扱いはルナに一任する。

 これで牧場の作業は一段落。

 この後、生乳を加工して、牛乳及びポーションを販売する。

 それで日課の作業が終了だ。

 ◇

 一通りの作業を終えて、〈ハロウィンフォレスト〉にやってきた。

 アリサの指定したモンスターをテイムする為だ。

 紫色の霧が立ちこめる森で、足下の草まで紫色である。

 なんとも不気味な場所だけれど、特に怖くはない。

「霧が濃いと面倒だな」

 手っ取り早く作業を進めたい。

 ということで、索敵スキル【ディテクティング】を発動。

 足下より全方位へ広がった光の波紋が、魔物の位置を感知する。

 どこに魔物が潜んでいるのか、一瞬にして分かった。

 直ちに魔物のところへ向かう。

「ケッケッケ!」

 待っていたのは、黒のローブを羽織ったカボチャの顔をした魔物だ。

 上半身は人と似ているが、下半身は存在しておらず、浮いている。

 首にランタンをぶら下げているこいつこそ、アリサの指定モンスターだ。

 名前は――ジャックランタン。

【名前】ジャックランタン
【種族】ジャックランタン
【等級】D
【備考】
・非力
・素早い
・器用
・スタミナがない

 ジャックランタンの仕事ぶりは、ゴブリンよりも期待できそうだ。

 その反面、スタミナがないので、ゴブリン以上に休暇がいるだろう。

 そんなわけだから、今回は多めにテイムしておくことにした。

「よろしくな、ジャック5人衆」

「「「「「ケッケッケッケー!」」」」」

 テイムした数は5体だ。

 名前は、ジャックワン、ジャックツー、ジャックスリー。

 それと、ジャックフォーに、ジャックファイブだ。


 ゴブリンの穴埋めに留まらない数である。

 どうせならもっとテイムしようかとも思った。

 しかし、働きぶりが分からないので保留だ。

「お前達は荷台で大人しくしとけよー」

「「「「「ケッケー」」」」」

 不気味な鳴き声のジャック共が荷台に入る。

 ふわふわと荷台の中に入っていった。

「行け、ルッチ!」

「ヒヒィーン!」

 テイムが終わったので、牧場へ戻る。

 せこせこと働いている間に、日が暮れ始めていた。

 ◇

 牧場に戻ると、駆け寄ってくる者が居た。

「おにーちゃん、おかえりなさいなのー!」

 まずはケルル。

 しかし、ケルルよりも前に。

「待っていたよおおおおおお!
 タケルゥウウウウウウウウ!」

 アリサの姿があった。

「どうよ! テイムした!? したよね!?」

 大興奮のアリサ。

「したよ、ほら」

 視線を荷台に向ける。

 アリサも荷台を見た。

 そして感嘆する。

「ジャックランタンだぁあああああああ!」

「「「「「ケッケッケー!」」」」」

「けっけっけー♪」

 ケルルが真似する。

 やはり、手はいつものポーズだった。

「この子達は私が世話するから!
 文句は云わせないから! ね!? ね!?」

 アリサが全てのジャックに頬ずりしていく。

「世話をするというが、そいつらは従業員だぞ。
 世話もへったくれもないと思うが」

「それもそっか!
 じゃあ、私がこの子達の先輩になる!
 仕事を教えるのは私!」

「俺は別にかまわないぞ。
 ケルル、お前はどうだ? それでいいか?」

 新人に仕事を教えるのは、普段ならケルルの役目だ。

 アリサに仕事を教えたのだってケルルである。

「ケルもかまわないのー♪
 アリサおねーちゃん、やさしくしてあげてなの」

「もっちのろんろんよ!
 なんたってジャックランタンだよー?
 見てよこの顔! もう可愛すぎでしょうよ!」

 アリサはジャックランタンをこよなく愛している。

 元々はテイマー志望だったが、それはジャックランタンが理由だ。

 なにが彼女を駆り立てるのかは不明だが、とにかく気に入っている。

「タケル! 本当にありがとねー!
 ユニコーンに乗れて、ジャックランタンと過ごせて、
 私はもう幸せ過ぎて頭がどうにかしちゃいそうだああああ!」

 アリサが何故か服を脱ぎ始めようとする。

「おい、既にどうにかなってるぞ」

「かぁー! 私ったらなんてはしたない!
 ダメだぞアリサ、こんなところで脱いではいけません!」

 意味不明なキャラで自分に突っ込み始める。

「ま、まぁ、頭が狂うくらいに喜んでもらえてよかったよ」

「もちろん!
 もし権利移譲をすることになったら、
 その時は私が引き取るから! この子達!」

「その予定は全くないけな。
 残念ながらまだまだペットを増やす余裕があるんで」

「くぅー! やっぱりタケルは規格外!」

 そんなわけで、アリサにジャックランタンを任せることにした。

 これにて、労働力の問題はひとまず落ち着いたといえるだろう。
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