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027 再発する問題

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 ルナが何も言わずに砂糖を味わう。

 口の中で舌を動かして、入念に、入念に。

「どうだ……?」

 緊張の面持ちでルナを見る。

 十分に味を確認した後、ルナが言った。

「まごうことなきマンドレイクの味です!
 品種改良をしているだなんて、全く分かりません!」

 ホッと安堵する。

「凄い! 凄いです!
 2度も品種改良を行ったのに、味が変わっていないなんて!」

 そう云って、ルナが砂糖を更にペロリ。

「ここまで味を変化させないようにすることなんて可能なんですか?」

「可能だから実際にこうなっているわけだが」

「信じられません!」

 簡単そうで複雑なことだから、驚くのも無理はなかった。

 配合に関する知識――配合理論は極めて奥が深い。

 俺でさえ、その全て完全に網羅しているとはいえないほどに。

 とはいっても、この程度ならば造作もない。

 気をつける点といえば、配合を行う順番くらいだ。

 トンズラスライムの前にスケルトンを配合していたら、味が変化していた。

 おそらくだが、ほんの少しだけ苦みが増していたはずだ。

「なにはともあれ、味の面でも問題ないことが分かった。
 これでマンドレイクの品種改良は完全に完成したといえるな」

 直ちに残りのマンドレイクにも【吸収合体】を施す。

「さぁお前達、大好きな熱湯風呂の時間だぞ!」

「「「「「ふにゅー♪」」」」」

 手分けして20体のマンドレイクを釜に放り込む。

 試しに放り込んだ最初の1体と、分裂した1体だけ釜の外だ。

「おにーちゃん、
 マンドレイクさんは、ぜったいにだいじょーぶなの?」

「絶対に大丈夫だよ。
 スケルトンを取り込んだから、死ぬこともなくなった」

 今のマンドレイクは不死の特性を持っている。

 本体を炎で燃やし尽くすなどしない限りは死なない。

 細切れに刻む程度なら、翌日には自動的に蘇生している。

「「「「「ふにゅー!」」」」」

 のぼせたマンドレイクが釜から這い出ていく。

 ポコポコと分裂が始まった。

「お前とお前は分裂するなよ」

 適当な2体に指示を出す。

「「ふにゅー」」

 そいつらは命令を守り、分裂しなかった。

「タケル、どうして2匹だけ分裂させなかったの?」

「数を区切りよくする為さ」

 仮に全てのマンドレイクが分裂していた場合、合計は42体になる。

 端数をカットしてちょうど40体にしたかったので、2体を分裂させなかった。

 つまりは気持ちの問題であって、深い理由はない。

「不死といえど、1日に何度も精製すると質が低下しかねない。
 だから、今後は毎日1回ずつ、精製兼分裂を行っていくとしよう」

「りょーかい!
 マンドレイクが毎日倍増していくとか、
 想像するだけで胸が熱くなっちゃうよー!」

「それでいて死なないんですよ!?
 どれだけ煮詰めても大丈夫だなんて、凄すぎます!」

「おにーちゃん、すごいすごいなのー♪」

 特に異論が出なかったので決定だ。

 今後は1日1回、砂糖の精製を行っていくことにした。

 ビニールハウスの収容力も考慮して、数は200体あたりを目処にしよう。

 マンドレイクはこれで完璧だし、残すはコケコッコーの品種改良のみだ。

 ◇

 その夜。

 いつものように、皆で晩ご飯を食べていた。

 ただし、いつもとは違うこともある。

「こんなに美味しい料理を毎日食べているなんて、
 タケル君達が羨ましいよー! それになんだかずるいよー!」

「えへへなのー♪」

「もはや牧場の一員と言っても過言ではないだろ、コレ」

 当たり前のようにマチルダが食卓を囲っていることだ。

 ナイスタイミングで売上報告に来て、流れで食事まで参加している。

 ケットシーが作りすぎたという理由で、ルナが誘ったからだ。

 マチルダの存在は、あまりに違和感がなかった。

「まさか本当にマンドレイクの問題を解決してしまうとはねー」

 パクパクと食べながら、マチルダが俺を見る。

「つぎは鶏さんなのー♪」

 俺の代わりにケルルが答える。

「コケコッコーはどんな風に品種改良するの?」

「一日に産む卵の数を増やす方向で調整する予定だよ」

「味は?」

「全く変わらないよ。
 冒険者時代に使っていた組み合わせだから断言出来る」

 コケコッコーの卵は栄養も豊富だ。

 冒険者として数日に及ぶ死闘を繰り広げるなら、摂取したい食材である。

 だから、そういう場にはコケコッコーを連れて行っていた。

 しかし、数が多いと邪魔になって仕方がない。

 そこで品種改良を使うことで対応していたわけだ。

「何と配合するの?」

「それは企業秘密ってことにしておくさ。
 ちなみに、家畜商店に売っている奴だよ」

 家畜商店とは、家畜の売買をしている店だ。

 店によって家畜の種類は様々で、普通の牛や豚なども存在する。

 当然ながら、俺が利用するのは魔物を取り扱っている店だ。

「家畜商店の魔物って、種類が限られていない?
 あの中に、味を劣化させずに産卵数を増やせる魔物がいるの!?」

「そういうことだ」

 マチルダは信じられない様子だった。

「しんじられなーい!」

 実際にそう云った。

「テイムするのも面倒だし、明日は家畜商店に――って、どうした?」

 ふと気がついた。

「「「あっ」」」

 俺の視線を追って、他の連中も気がついたようだ。

「ゴブリンさん、どうしたの?」

 ゴブイチとゴブジの箸がまるで進んでいなかったのだ。

 普段なら誰よりも先に食べ終わり、おかわりを要求しているのに。

「口に合わなかった?」

 ルナが不安そうに尋ねる。

 ケットシーも同じような表情だ。

「「ゴブゴブ」」

 2体のゴブリンが首を横に振る。

「もしかして、過労か?」

「「ゴブッ」」

 2体は申し訳なそうに頷いた。

「すみません、私が料理に夢中だったせいで」

「「「「「ニャー……」」」」」

 ルナとケットシーが謝ってくる。

「いや、労働力の確保を怠った俺の責任だ」

 ルッチの件で学んだのに、同じ轍を踏んでしまった。

 悔しさがこみ上げてくる。

「気づくのが遅れて悪かったな」

「「ゴーブー! ゴーブー!」」

 ゴブイチとゴブジが首を横に振る。

「とりあえず風呂に入ってこい。
 それで幾分かは体力を回復できるはずだ。
 で、メシの残りはそのあとで食べればいいさ」

「「ゴブ!」」」

 2体のゴブリンは席を立ち、申し訳なさそうに頭を下げる。

 それから、駆け足で大浴場に向かった。

 ルッチの時に比べると、まだまだ元気があるようで安心する。

 ゴブリンの後ろ姿を見送った後、大きな息を吐く。

「明日は新たな従業員をテイムしてくるよ」

 予定変更だ。

 品種改良よりも優先すべきことが出来た。

「新しい従業員って、またゴブリン?」

 アリサが訊いてくる。

「そのつもりだけど」

 前に風呂でしたやり取りを思い出す。

 そういえば、アリサはテイマーを志していたのだった。

「アリサ、テイムしてほしいモンスターがいるのか?
 もしいるなら、ゴブリンじゃなくてそれをテイムしてくるが」

「いいの!?」

 アリサの目が輝く。

「労働力として使えそうな奴ならかまわないよ」

「ちゃんと手のある子だから大丈夫!」

「なら問題なさそうだな。
 で、何がいいんだ? 近場の奴で頼むぞ」

「もちろん!
 私がテイムしてほしいのは――」
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