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024 自家製プリンの試食

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 砂糖作りに成功したと分かった瞬間、ルナとアリサから歓声が沸き起こった。

「本当に業者を通さずに砂糖を……!
 凄すぎます! タケルさん、凄すぎます!」

「どれだけ繊細な調整力をしているのー!?
 タケルなら成功するとは思っていたけど、
 本当に成功させちゃうとか、ちょっと引くよ!」

「まぁ、今回だけは少し苦労したな」

 知識だけなのと、実践して成功させるのは違う。

 初挑戦となる今回は、蓋の中が見えない分、難しかった。

「今回だけ? 少し?
 じゃあ、今後は楽に出来ちゃう感じ?」

「もう勝手は分かったし、次からは楽勝だよ」

「うひゃあーーーーっ!」

「ア、アリサさん!?」

 アリサが驚き過ぎて倒れてしまう。

 本気で気を失ったのではなく、そういう演技だ。

 だから、すぐに起き上がった。

「あとは砂糖が冷めるのを待って、釜から取り出せば完成だ」

「分かりました!
 その作業は私がやっておきますね!」

「調味料だし、それがいいだろう」

 後のことはルナに一任する。

「ところで、砂糖の量は足りるのか?
 たぶん2・3kgしかないと思うが」

 1体のマンドレイクから1度に抽出可能な砂糖の量は約120g。

 今回は20体のマンドレイクを使ったので、抽出量は単純計算で2500g前後。

 つまり約2.5kgということになる。

 実際、釜の中にある砂糖の山は、その程度の量だった。

「今日の試作分でしたら十分に足ります!
 ただ、この量ですと量産するのは難しいですね……。
 砂糖もそうですが、卵の量も足りていませんので」

「ま、その辺は品種改良で対応していけばいいさ」

「はい!」

 試作分の砂糖を確保出来ているならそれでいい。

「それじゃ、楽しみにしてるぜ」

 一仕事を終えた俺は、先に部屋で休ませてもらうことにした。

 ◇

 日が暮れた頃、いよいよ自家製プリンの試食タイムがやってきた。

 ダイニングテーブルを囲む俺達の前に、ルナがプリンを置いていく。

「完全に自家製のプリンです!
 モーの牛乳、コケコッコーの卵、そして、マンドレイクの砂糖!」

 輝きを放つプリンに、思わず涎を垂らしそうになる。

「いただきますなのー!」

 ケルルの言葉を合図に、すぐさまプリンを頬張った。

「これはとんでもなく最高のプリンだ!」

 それが俺の感想だった。

 これまで食べたいかなるプリンをも凌駕している。

 純粋に格別の美味さな上に、我が牧場の物だけで作られているのも大きい。

「ふへへぇ、おいひぃのぉ♪」

 ケルルも頬をとろけさせている。

「こんなの食べたら、他のプリンが食べられなくなっちゃうよ」

 アリサも大絶賛だ。

「私もお先に試食しましたが、我ながら最高の出来だと思いました!」

 ルナもニッコリと嬉しそう。

「このプリン、現時点だとどのくらい量産出来るんだ?」

 問題はそこだ。

 味は問題ないし、商品としても通用する。

 しかし、供給出来なければ意味がない。

「それが……」

 ルナの表情が暗くなる。

「現時点だと30個前後が限界かと……」

「やはり卵と砂糖が足りないのか」

 ルナが頷く。

「30個だと少なすぎる。
 可能ならその10倍、300個は作りたい。
 そうすると、どのくらいのペットが必要になる?」

 家畜と言わず“ペット”と表現する。

 ケルルが家畜という言葉を好まないからだ。

「そうですねー……」

 ルナが脳内で計算する。

 口に手を当て、視線をテーブルに落とす。

「既に牧場で飼っている分も含めて、
 コケコッコーが350羽、マンドレイクは150体程かと」

「かなりの数だな」

 現在、牧場内で飼育しているコケコッコーの数は60羽。

 そして、マンドレイクは20体だ。

 どちらも倍以上の量が求められている。

「マンドレイクはまぁいいとして、コケコッコーの数が少しきついな」

 350羽のコケコッコーを調達することは容易だ。

 しかし、世話にかかる労力などを考慮すると難しい。

「コケコッコーも品種改良で対応するか」

「可能なのですか?」

「1日に産卵する卵の数を増やすだけだから、難しくないよ」

「いや、普通に難しいから!
 味を極力変化させないでって条件付きなんだよ?
 その条件だけで、とんでもなく難しくなるから!」

 アリサが口を挟む。

「ですよねー」

 ルナが苦笑いを浮かべた。

「ま、どうにかするから安心してくれ」

「分かりました!」

 ルナが空になったプリンの容器を回収していく。

「プリン、間に合った!?」

 見計らったかのようにマチルダがやってきた。

 流石は商人だ。

 相変わらずのナイスタイミングである。

「マチルダさんの分も用意していますよ」

 ルナが微笑む。

「やったー!」

 マチルダが席に着くと、ルナがプリンを出した。

「それでは早速!」

 マチルダがプリンを頬張る。

 そして――。

「んまーっ!」

 絶叫した。

 歓喜の絶叫だ。

 恍惚とした表情を浮かべている。

「前に食べたのよりも味が良くなってる!
 マンドレイクの砂糖がもたらす独特の甘味が素晴らしい!」

「ありがとうございます!
 そう言って頂けるとすごく嬉しいです!」

 ルナが深々と頭を下げた。

「これなら店には1個1000から1200ゴールドで卸せる!
 だから、1個800ゴールドで買い取らせていただくよ!」

「「「800!?」」」

 ケルル以外の全員が声を揃えて驚く。

 ケルルは未だにプリンを食べていた。

 小さな口で一口食べるごとに笑みを浮かべている。

「800って、ポーションの2倍じゃないか」

 ウチの主力商品こと牛乳味ポーション。

 それの買い取り価格は1個につき400ゴールド。

 ルナの特製プリンは、なんとその2倍にも及ぶ。

「だって、材料費だけで相当かかってるからねー!
 マンドレイクの砂糖っていえば、最高級の砂糖なわけだし。
 それでいてこの味に、名店のスーシェフというブランド付き。
 たぶん店で食べるなら2000ゴールドは下らないと思うよ」

 マチルダが解説する。

 ルナは静かに何度も頷いていた。

 マチルダの言い分に納得しているようだ。

「それで、この絶品プリンはどれだけ量産できるの?」

「現時点では30個程度らしい。
 今後は300個くらいまでは増産しようかと思っている」

「良い判断!
 私も300個前後がちょうどいいと思うよ。
 だから、それ以上は増産出来ても控えるようにして欲しいかな」

「どうしてだ?
 ポーションはいくらでも作ろうとしていたじゃないか」

「ブランドってのはそういうものなの。
 数が少ないことでありがたみが生まれて、価値が上がる。
 ボコボコ量産しちゃうと逆効果なわけよ」

「そういうものなのか」

「そういうものなのよ」

 よく分からないが、マチルダが云うならそうなのだろう。

「この絶品プリンは、いつから本格的に量産できそう?」

「明日にでも……と言いたいが、そうもいかない。
 他の作業との兼ね合いもあるし、数日はかかるな」

「十分過ぎる!」

 マチルダが立ち上がった。

「一応、報告しておくと、牛乳とポーションは今日も完売だったよ。
 タケル君のスピード感に遅れないよう、こっちも薬草の仕入れを頑張るね。
 じゃ、今日はこの辺で。プリンごちそうさま!」

 嵐のように去って行くマチルダ。

「明日から品種改良に取り組むぞ。
 ――アリサ、明日はテイムに行くから付き合うように」

「それってつまり、ユニコーンに乗れるってこと!?」

「そうだ。
 コケコッコーもテイムしておきたいからな」

「待ってました!」

 明日の予定も決まった。

 我が牧場の経営は、まさに順風満帆というものだ。
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