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022 マンドレイクの世話

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 牧場に戻るなり、俺とアリサは交代した。

 俺がブライトに乗り、アリサがルッチに乗る。

「コケコッコーの方は頼むぜ」

「アイアイサー!」

 放牧用のフィールドにブライトを進ませる。

 そのままのほほんとしているモーの間を通り抜けていく。

「モォー!」

「もぉー♪」

 フィールドではケルルも過ごしていた。

 モーの鳴き声を真似して楽しそうだ。

「あっ、おにーちゃん! おかえりなさいなの!」

 ケルルが駆け寄ってきたので止まる。

「この子たちがマンドレイクさんなの?」

「そうだ」

「「「「「ふにゅー♪」」」」」

「かわいいなのぉ♪」

 ケルルが頬を垂らして喜んだ。

 マンドレイクは植木鉢の中から頭をペコリ。

 するとケルルも、真似をして頭をペコリ。

「今からこいつらをビニールハウスの畑に植えるんだ。
 ケルルもついてくるか?」

「ついていくのー!」

「なら荷台に――いや、荷台はいっぱいだな」

 ケルルを抱えることにした。

 右手を伸ばしてサッと掴み上げる。

 ケルルが俺の身体にギュッと抱きつく。

 まるで木にしがみつく猿のようだ。

「落ちないように気をつけろよ」

「はいなのー♪」

 ブライトを進ませて、ビニールハウスに向かった。

 ◇

 ビニールハウスに着くと作業開始だ。

 ケルルと手分けして、植木鉢をハウス内へ運ぶ。

 その間、マンドレイクは大人しくしていた。

「うんしょ、うんしょ」

 小さなケルルにとって、植木鉢は些か大きいようだ。

 運ぶのに苦労しており、危なっかしく感じた。

 しかし、助太刀する程ではないので見守っておく。

「これでさいごなの!」

 全ての植木鉢をハウス内へ運び込んだ。

「よし、お前達、畑に引っ越ししろ!」

「「「「「ふにゅー♪」」」」」

 大人しかったマンドレイクが動き出す。

 いそいそと植木鉢の中から出ていく。

 その中には、上手に鉢を超えられない奴もいた。

 そんな奴は鉢を盛大に倒して、中の土を畑にばらまく。

「ふにゅー……」

 鉢を倒したマンドレイクが、申し訳なさそうに謝ってくる。

 俺に向かって頭をペコリ。

「気にしなくていいさ」

 なにせ植木鉢の土は、元々、ハウス内で採取したものだから。

 畑の土と混ざったからといってなんの害もない。

 というか、あとで畑にばら撒く予定だった。

「今日からここがお前達の家だ。
 好きなように活動するといい。
 なんなら外も散歩してくれていいからな」

「「「「「ふにゅー♪」」」」」

 マンドレイク達が嬉しそうに鳴く。

 そして、畑の土を掘り、中に下半身を埋めた。

 野生の時と違い、上半身は出したままだ。

 これは外敵を警戒していない、つまり安心している証拠である。

「おにーちゃん、おにーちゃん」

「なんだ?」

「マンドレイクさんは、土の中にいないと駄目なの?」

 ケルルの顔は少しだけ悲しそうに見えた。

 考えていることは想像に容易い。

 土の中にいないといけないなら遊べない……と思っているのだ。

 ケルルは魔物達と遊ぶのが大好きだから。

「そんなことないよ」

「お外にだしてもだいじょーぶなの?」

「大丈夫さ」

 マンドレイクは土の中を好むモンスターだ。

 しかし、土の中にいなくとも問題はない。

 ただ土の中が好きで、そこに居ると安心するだけだ。

 よって、外を自由に歩き回ることが可能である。

「やったぁー!
 マンドレイクさん、たくさん、たくさん、あそぼーなの♪」

「「「「「ふにゅー♪」」」」」

 早々にマンドレイクと仲良くなるケルルなのであった。

 ◇

 次の日。

 朝の作業が始まる前に、マンドレイクの世話について教えた。

 といっても、マンドレイクの世話は教える必要がない程の簡単さだ。

「この黄緑色の粒を肥料という」

 実際に肥料を手に取り、全員に見せる。

「これはマンドレイクにとってのメシに該当する」

 そういって肥料をばら撒く。

 マンドレイク達が口をパクパクさせて、飛んでくる肥料を迎える。

 口の中に入った者は喜び、そうでない者は土から出て肥料を拾う。

「肥料を撒いたら、あとはジョウロの水をかけてやるだけだ」

 実演しようとしたところで手が止まる。

 目をキラキラと輝かせるケルルを見てしまったからだ。

 ケルがやりたい……と目で主張している。

「ケルル、やってみるか?」

「やるの! ケルがやるの!」

 凄い食いつきだ。

 それを見て、俺達は笑った。

「水の量はそれほど深く考えなくていい。
 足りないようなら、マンドレイクの方から訴えてくる」

「はいなのー♪」

 ケルルがジョウロを右手で持つ。

 しかし、中の水が重くてグラグラと揺れる。

 慌てて左手も使い、揺れを安定させるのだった。

「マンドレイクさん、お水なのー♪」

「ふにゅー♪」

 全身に水を浴びて喜ぶマンドレイク。

「きゃわわー!」

 声を弾ませるアリサ。

「可愛いですねー!
 想像以上の愛らしさです!」

 ルナも同様の感想をこぼしている。

 それでも、俺にはマンドレイクの可愛さが理解できなかった。

「これでマンドレイクに関する作業の説明は終わりだ。
 それでは今日の仕事を始めよう」

 ルナが手を挙げる。

「タケルさん、プリンはいつ作るのですか?」

「マチルダに牛乳を卸した後の予定だ」

「わかりました!」

「タケルー!
 今日はユニコーンに乗れる!?」

 今度はアリサだ。

「いや、今日は出番なしだ」

「くぅー! 私も乗りたい乗りたい!」

「もう少し牧場の事業が落ち着いてからだな。
 いずれは、俺が今しているような作業をアリサに任せよう」

「やったー!
 タケル、今の言葉絶対だからねー!
 約束だからねー!?」

「はいよ。
 ――他はもう大丈夫だな?」

 全員を見渡す。

 ルナとアリサは笑顔で頷いた。

 2体のゴブリンと5匹のケットシーも同じく。

 ケルルは水やりに夢中で気づいていない……が、大丈夫だろう。

「そんじゃ、今日も頑張っていこうか」

「「おおー!」」
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