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019 試食のプリン

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 今日の晩ご飯は、いつもより品数が多かった。

 5匹のケットシーが、それぞれ1品ずつ手掛けた為だ。

 どれも甲乙付けがたい美味さで、俺達は存分に舌鼓を打った。

「実はですね!
 今日は私がデザートを作らせていただきました!」

 食後、ルナが云った。

「「「おおー!」」」

 ルナの手作りデザートということで、俺達の胸が高鳴る。

「こちらでございます!」

 出されたのはプリンだ。

 似たような見た目のプリンが数種類。

「プリンの味を知ってもらおうと思い、いくつか用意しました!」

 我が牧場の次なる商品がプリンだから、それに配慮している。

 試作品も兼ねているわけだ。

「ルナは気が利くな」

「えっへっへ、ありがとうございます!」

「ルナちゃん、これらのプリンは何が違うのー?」

「材料に使っている“砂糖”が違うんです!
 よかったら1個ずつ味わってみてください!」

 早速、ルナの作ったプリンを食べてみる。

 俺から見て、左のプリンから順に一口ずつ頬張った。

「たしかに味が違うな。
 右に行くほどに美味しく感じる」

「私も同じ意見ー!」

「ケルもなの!
 でも、ぜんぶおいしいの♪」

 全員が同意見だった。

「流石は皆さん、舌が肥えていますね!
 仰る通り、右のプリンほど良い砂糖を使っているんです!
 一番左は通常の砂糖で、一番右のはマンドレイクの砂糖です!」

「マンドレイクの!? 高級なやつじゃん!
 そんな物をルナちゃんが使うとか反則でしょー!
 オーガに棍棒みたいなもんでしょ、それ!」

 アリサが捲し立てる。

 ルナは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「アリサさんはいつも褒めすぎですよっ!
 自惚れちゃうので、ほどほどにしてください!」

 恥ずかしがるルナを見て、皆で笑う。

「それで、タケルさん、いかがでしょうか?
 プリンを売り出す際の参考になればと思ったのですが」

 ルナが訊いてきた。

「味は文句ないな。
 牛乳はウチのとして、卵はコケコッコーを使ったの?」

「はい、品種改良をしていないノーマルの卵を買ってきました!」

「なら今後はウチの卵を使っても同等の味を再現できるわけか」

「そうなりますね!
 ただ、砂糖をかなり消費するのが不安なところです。
 作るのにお金が掛かりすぎると駄目じゃないですか?」

 ルナが不安そうにこちらを見る。

「それに関しては気にしなくていいよ」

 一方、俺は楽観視していた。

「一番右の一番美味しかったのって、マンドレイクの砂糖なんでしょ?」

「そうです」

「なら問題ないさ。
 明日にでもマンドレイクをテイムしてくるよ」

 マンドレイクはそれほどランクの高くないモンスターだ。

 テイムをすることなど造作もない。

 もっとも、ルナの懸念点はテイムの難易度ではないだろうけれど。

「でも、砂糖に抽出する為の加工で相当な費用がかかっちゃいますよ?」

 思っていた通りの箇所を、ルナは懸念していた。

 マンドレイクから砂糖を生み出すには作業が必要なのだ。

 牛乳作りと同じで、搾乳して終わりというわけではない。

 その作業を業者に委託すると、結構な金がかかってしまう。

「煮詰めて遠心分離にかけるだけだろ?」

「そ、その通りです!
 お詳しいですね、タケルさん」

「何度も作ったことがあるからな」

「本当ですか!? 凄い!」

 ルナが驚愕する。

「タケルすげぇえええええ!」

「すごいなの! おにーちゃん!」

 アリサとケルルも便乗してきた。

 この2人が凄さを理解しているようには見えない。

 その場のノリで乗っかってきたのだろう。

「牛乳の殺菌加工と違って、砂糖の抽出は法にも触れない。
 個人使用は当然として、販売用に自分達でやってもかまわないはずだ」

「その通りです!
 タケルさんって、冒険者の前は料理人をされていたのですか?」

「いや、冒険者だけだよ。
 スキルを効率良く学ぶには、そういう知識もあると便利なんだ。
 だから覚えているに過ぎない」

 生乳の殺菌加工を業者に任せているのは、法律の都合からだ。

 衛生面の理由から、国の認可を受けた業者に殺菌加工をしてもらう必要がある。

 認可を受けていない俺が加工した物だと、売ること出来ない。

 個人で使用する分には問題ないのだが。

 一方、砂糖に関してはそういった決まり事が存在しない。

 だから、自分で加工して砂糖を抽出すれば、加工費を安く抑えられる。

 特殊な機材を要する作業だが、その点は自前のスキルでカバーすればいい。

 仕組みさえ分かっていれば、馬鹿高い機材など必要ないわけだ。

「問題ないようなら、ウチのプリンにはマンドレイクの砂糖を使おう」

「待ってください!」

「ルナ、まだ問題があるのか?」

「あります!
 タケルさんもご存知のこととは思うのですが、
 砂糖の抽出に使ったマンドレイクは、すぐに死んじゃいます!」

「なんですとー!?」

「ふぇぇぇぇぇぇ!?」

 アリサとケルルが驚く。

「知っているさ」

 俺は落ち着いていた。

 そのことも熟知していたからだ。

 砂糖を抽出する作業は、マンドレイクに相当の負担をかける。

 だから、数回の抽出でマンドレイクは死んでしまうのだ。

 マンドレイクの砂糖が最高級品扱いを受ける理由の1つである。

「死ぬ度に新しい子をテイムしてくるのですか?
 結構な数の砂糖が必要になるので、厳しいと思うのですが」

「いや、そんなことはしない」

「すると……?」

「品種改良で対応すればいいさ」

「たしかに! 流石です、タケルさん!」

 ペットを配合するスキルは2種類存在する。

 ベースとなる本体に、もう一方の能力を取り込む【吸収配合】。

 そして、合体させて別の種を生み出す【合体配合】。

 今回の品種改良は、前者の【吸収配合】に該当する。

 それにより、マンドレイクを死なないようにする。

「ただ、品種改良を行うと、砂糖の味が変わっちゃいますよ?
 味が劣化するのなら、別の砂糖を使うほうが良いわけでして……」

「その辺は大丈夫さ。
 配合の知識は誰にも負けない自信がある。
 味の変化ないしは劣化を極限まで抑えてみせよう」

「それなら安心です!
 タケルさんの言葉なら、疑う余地はありません!」

 ルナの懸念が解消されたようだ。

「あとはマチルダに試食してもらえばいいな」

「私がなんだってー?」

 ナイスタイミングでマチルダが登場する。

 相変わらずの不法侵入だ。

 この家の住人と云われても信じるレベルの自然さ。

「プリンの試食をしてほしいと思ってね」

「おー! もう出来たの!?
 タケル君もさることながら、ルナちゃんも仕事が速い!」

「ありがとうございます!」

「で、原材料だがマンドレイクの砂糖を使ったプリンでいこうと思う。
 ルナから供給について懸念があったけど、その点は対応出来るだろう」

「マンドレイクの砂糖を!?
 それは随分と高級な材料を使うねー!
 供給面で問題ないとか、ちょっと反則すぎない?」

 マチルダが笑う。

「そんなわけだから、よかったら味見して商品としてどうか教えてくれ。
 原材料はモーミルクとコケコッコーの卵、それにマンドレイクの砂糖だ。
 加工にかかる費用は生乳の殺菌加工くらいだと思う」

「マンドレイクの加工を自力で行うの!?
 タケル君って、本当に規格外過ぎてびっくりしちゃうよ!
 S級冒険者って、みんなタケル君なみにぶっ飛んでるの?」

「そんなことはないさ。――それより」

「そう慌てなさんな!
 それでは、いただきまーす!」

 マチルダがプリンを口にした。
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