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007 ゴブジと今後の相談

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 マチルダの先払い制はありがたい。

 稼ぎがしょぼいといえど、黒字の確保は確定的だ。

 この様子なら、もう少し事業を拡大してもいいだろう。

 ルナの負担も考えて、働き手を増やしておくか。

「――そんなわけで、よろしくな、ゴブジ」

「ゴブブゥ♪」

 帰る前に外でゴブリンをテイムした。

 新たに加わったゴブリンの名前はゴブジだ。

「あとは調教用のペットだが……」

 酪農以外にも牧場の仕事は存在する。

 その一つ、調教に目を付けた。

 もうじきモンスターショーがあるからだ。

 ショーでは、モンスターの芸を競う大会が開かれる。

 そこで優勝すれば、名を馳せることが出来るだろう。

 他にも、ショーではモンスターの競売が行われている。

 滅多にお目にかかれないレアモンスターを売るのも良いだろう。

 大金を稼げるし、何より、牧場の名を轟かせられる。

 マチルダが云うところの“ブランド価値”が生まれるはずだ。

 金に興味はないが、妥協するつもりはない。

 いずれは最高の牧場主に成り上がってやる。

 しかし……。

「とりあえず帰るか」

 日が暮れ始めてきている。

 今日のところはこの辺にしておこう。

 今後のことは、また別の機会に考えればいい。

「今日もお疲れ様、ルッチ」

「ヒヒィーン♪」

 ルッチの首を撫でた後、牧場に向かわせた。

 ◇

 牧場に戻ると、ゴブイチが迎えてくれた。

 ルナは家で調理をしているようだ。

「こいつは新入りのゴブジだ。
 ゴブイチ、お前が先輩として作業を教えてやれ」

「ゴブッ!」

 ゴブイチは敬礼すると、ゴブジを手招きした。

 そして、2人で仲良く動物小屋の方へ駆けていく。

「ルッチ、お前も小屋に戻って休むといい」

「ヒヒィーン♪」

 俺が下りると、ルッチも小屋の方へ歩き出した。

 馬車用の装備を付けたままだが問題はない。

 小屋に行けばゴブイチ達が外してやるだろう。

「ルナに仲間が増えたことを報告しないとな」

 このままだとゴブジの晩ご飯がない。

 真っ直ぐ家に向かった。

 しかし、家の手前で足を止める。

「なんだか……」

 鶏小屋が目に付いたからだ。

 中に入ってみた。

「寂しいな」

 当然ながら、鶏小屋の中に生き物がいない。

 立派な鶏小屋で、餌や産卵箱も備わっている。

 なのに、肝心の鶏が不在だ。

 これでは宝の持ち腐れというもの。

「今度、コケコッコーでも捕まえてくるか」

 魔鶏コケコッコーは、鶏型の魔物だ。

 モーと同じく、モンスター牧場で定番の存在。

 毎日1・2個、美味しい卵を産んでくれる。

「ただいまー」

「おかえりなさいです! タケルさん!」

 鶏小屋を出た後は家に入った。

 ダイニングテーブルに座り、ルナに話しかける。

 ルナはこちらに背を向けたまま、台所で会話を行う。

 ゴブジの加入を伝えた後、今後の予定を話した。

「そんなわけでペットの調教を行おうかと思ってな」

「いいですねー!
 でも、育てたペットをいずれは売るのですよね?」

「家畜でも労働者でもなければ、販売する他あるまい」

「それは……なんだか悲しいですね」

「牧場ってのはそういうものさ」

「ですよね。
 新しいところでも幸せになってくれると幸いです!」

「いや、まだテイムすらしていないから、それは気が早いぞ」

「あはは、そうでした」

「それよか、ショーの大会で披露する芸って何がいいかな?」

 芸の種類は千差万別だ。

 過去に見た時には、手品をしている魔物が居た。

 そんな感じで、何も戦闘に特化している必要はない。

 審査員が感激するかどうかが大事だ。

「それなら料理はいかがですか?」

「料理? 定番だな」

 ペットに料理を仕込むのは定番だ。

 定番ということは、つまり感激出来ない。

 ウケが悪いということだ。

「たしかに、ただの料理なら定番だと思います」

「ただの?
 ルナの提案はただの料理とは違うのか?」

「もちろんです!」

 ルナの表情は自信に満ちていた。

「私が料理を教えます!」

「おお!
 たしかに、それだとただの料理とは違うな」

 ルナは世界屈指の料理店で副料理長を務めていた。

 国王陛下を始めとする世界の権力者が足繁く通う店で。

 当然ながら、料理の腕は別格。

 冒険者で例えるなら余裕のSランクだ。

 そんな人間の仕込む料理は、通常の料理とは一線を画す。

 名店の味を魔物が再現すれば、かつてない感動は必至だ。

「魔物って、人よりも物覚えがいいですよね?
 手先の器用な子を用意してもらえれば、ショーに間に合わせますよ!」

「手先が器用な子……」

 俺が呟いた瞬間、2体のゴブリンが駆け込んできた。

 なんというナイスタイミングだ。

「そういえばゴブリンって手先が器用だったな」

 視線をゴブイチ達に向ける。

 2人は指を加えて俺を見ていた。

「ゴブリンは却下だな」

「「ゴブゥ!?」」

 何が却下かも分からずに衝撃を受けるゴブリンズ。

 両手を挙げて仰け反り、大袈裟に驚く素振りを見せる。

「どうせなら見た目の可愛い奴がいい。
 優劣を決めるのは人間の主観だからな。
 技能に加えて見た目も影響するだろう。
 個体差を考えて何体か数を用意するとなると……」

 ということで、条件は器用で可愛い奴に決まった。

「必然的に対象が絞られてくるな」

「えっ、もうテイムする子を決めたのですか!?」

「条件に合う奴なんて限られているからな」

「こんな一瞬で考えられるなんて、タケルさんは凄いです。
 私、条件に合うモンスターが何か全く分かりません。
 これでも、モンスターのことは詳しいと自負していたのですが……」

「俺は元冒険者だからな。
 魔物の知識は否応なく身につくさ。
 趣味とプロの差とでも思ってもらうといい」

「なるほどです!
 それで、何をテイムする予定なのですか?」

「候補は2体いるけど、場所を考慮すると最適なのは」

「タケルくーん! お邪魔するよー!」

 話している最中に、家の扉が豪快に開かれた。

 マチルダが報告に来たのだ。
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