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第007話 無謀な挑戦

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 ぬるま湯に飽きてきた。
 あるいは今の限界を知りたかったのか。
 どちらなのかは分からない。

「これが大規模レイドダンジョンか……」

 俺は大人数向けの大型ダンジョンにやってきた。
 俗に“レイドダンジョン”と呼ばれる場所であり、その規模は通常のダンジョンよりも遙かに大きい。複数のPTが協力して、数十人規模で挑戦するのが一般的なエリアだ。当然ながら、俺は1人である。

 高さ約100m、15階層からなる2つの塔<スカイビル>。
 2つの塔が最上階で連結されているという、面白い構造だ。
 塔が2つなのだから、当然、出入口も2つある。
 俺は東側の塔から侵入することにした。

「グォォォ!」
「フンガァ!」

 中には様々なモンスターが居た。
 敵は基本的に徒党を組んで行動している。
 【攻撃予知】があるとはいえ、現状では流石に無理だ。
 そう悟ったから、直ちに塔の外に出てステータスを開く。

「何を覚えようかな」

 敵に勝つなら成長するしかない。
 保留していた成長ポイントを注ぎ込むことに決めた。
 覚えようとしているユニークスキルの候補は以下の4つだ。

 パッシブ:魔族鑑定
 アクティブ:妖精召喚、魔獣召喚、魔物召喚

 【魔族鑑定】は敵の名前とレベル、それに弱点が分かるもの。
 【召喚】系は名前の通り、従者を1体召喚するものだ。

「仲間を増やすか、自分が強くなるか……」

 悩ましい。
 頭を抱える要因になっているのは【召喚】系だ。

 ユニークスキルの各種【召喚】によって生み出された従者は、死んでも1時間後に目の前で自動蘇生される。俺と一緒で死を気にしないで良いという点は心強い。その反面、従者の強さはあるじである俺の能力に依存するのが難点だ。妖精、魔物、魔獣が依存するステータスは以下の通り。

妖精:魔力依存
魔獣:脚力依存
魔物:腕力依存

 そして、俺のステータスは3つとも低い。
 腕力はE、脚力はF、魔力に至っては最低のGときた。

「従者がまだ役に立たなさそうなんだよなぁ……」

 俺は悶々と悩み、そして答えを出した。

「よし! 【魔族鑑定】にしよう!」

 ここまで1人でやってきたんだ。
 今回はいわば集大成となるテストみたいなもの。
 どうせなら1人で可能な所まで頑張ってやろう。
 俺は【魔族鑑定】を覚え、もう一度<スカイビル>に入った。

「おお……!」

 中に入るなり感動する。
 敵の姿に変化があったのだ。
 弱点箇所が分かりやすく光っていた。

「名前とレベルもよく分かるぜ!」

 前方には2種類のモンスターがうじゃうじゃいる。
 片方は一つ目巨人“サイクロプス”で、もう片方は牛頭ごず巨人“ミノタウロス”だ。どちらもレベルは12~15。得物はサイクロプスが棍棒で、ミノタウロスが斧だ。どいつもこいつも揃って右利きみたいで、左手には何も持っていない。

「悪いが俺は両手で戦わせてもらうぜ」

 【無限収納】を使い、予備のエストックを取り出した。
 腕力をEにしたおかげで、二刀流も問題なくこなせる。

「行くぞ!」

 一気に駆け出す。
 まずは3体のサイクロプスが相手だ。
 レベルは12と13と14。
 こいつらの弱点は顔面の大半を占める巨大な目。
 それとアキレス腱だ。

「「「ゴォオオオ!」」」

 サイクロプスが一斉に棍棒を振り上げる。
 それに合わせて【攻撃予知】が発動した。

「回避出来るぞ!」

 俺は身体の向きを変える。
 敵の群れに左肩を向ける格好で横向きになった。
 その瞬間、俺の前後に激しく棍棒が打ち付けられる。
 地面の揺れが凄まじいが、俺にはカスりもしていない。

「次は俺の番だぜ」

 敵の攻撃をかいくぐって懐に潜り込む。
 俺の攻撃は奴等の目に届かないから、まずはアキレス腱だ。
 背後に回ると2本のエストックを暴れさせた。
 我ながら流麗といえる動きで3体のアキレス腱を切り裂く。

「「「グォォォ……!」」」

 サイクロプスが仲良くならんで崩落した。
 それでもまだ生きている。大柄なだけあってタフだ。
 だが、動けなくなった敵など怖くない。
 俺は奴等の眼前に移動し、無慈悲な斬撃を放った。

===============
経験値を 2,131 獲得しました
経験値を 3,279 獲得しました
経験値を 4,022 獲得しました
===============

 3体分の経験値が入る。
 俺のレベルは10で、敵のレベルは12、13、14。
 レベル差による経験値の量が大雑把に把握できた。

「今は経験値なんてどうでもいいか」

 俺は「ふっ」と鼻で笑う。
 そして、向かってくるモンスター達に突っ込んだ。

 ◇

 勢いが良かったのは序盤だけだ。
 2階に辿り着いた時点で、俺はヘトヘトだった。

「日本時代の運動不足がたたったな……」

 連戦に次ぐ連戦で、スタミナが底を突いていた。
 レベルが上がろうとスタミナは変わらない。現実だから、動けば動くだけ疲れてしまう。ゲームキャラみたいに年中無休で動けたらこうはならないというのに。甘受せざるを得ない、引きこもりだった故のスタミナ不足を。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 レベルはいつの間にか12に上がっていた。
 だが、成長ポイントを振ろうという気はない。
 ポイントは疲弊していない時に考えて振りたいから。

「グォオオオオオ!」
「モォオオオオオ!」

 2階の敵もサイクロプスとミノタウロスだ。

「こうなったら行けるとこまで行ってやるぞ」

 俺は【無限収納】で武器を異次元に収納した。
 両腕が棒のようになっており、剣を振るう元気がないのだ。
 だから敵の攻撃を【攻撃予知】で回避して突破してやる。

 最上階まで行ったら、飛び降りて街へ死に戻りだ!
 覚えてからいまだに経験していない【自動蘇生】を使ってやる。

「うおおおおおおおおおお!」

 俺は手ぶらで突っ込む。
 様々な角度から迫り来る攻撃を回避する。
 身体を傾け、時には横になったり跳んだりしてかわす。
 スッ、スッ、スッとかわし、軽やかに3階へ到着。

「ヒヒィン!」

 3階には大勢のケンタウロスがいた。
 下半身が馬で上半身が人間のモンスターだ。
 武器は槍と弓の2種類で、動きがべらぼうに速い。
 レベルはサイクロプス達と同じだが、こいつの方が強そうだ。

「「ヒヒィイイイイイン」」
「「ヌォオオオオオオオ」」

 4体のケンタウロスが襲ってくる。
 槍持ちが2体と弓持ちが2体で遠近に対応した連携だ。

「やべっ……!」

 発動した【攻撃予知】に絶句する。
 無数の矢と凄まじい槍の刺突が待っているのだ。

「おらあああああああああ!」

 それでも避けた。
 完全に攻撃を回避しきって、奥を目指して走る。
 だがそこに――。

「うおっ」

 ケンタウロスの矢が襲い掛かった。
 俺の背中に矢が食い込み、血が流れている。
 痛みはない。流石は【痛覚遮断】だ。
 おかげで問題なく走れ――。

「あ……れ……?」

 身体の力が抜けていく。
 矢の傷は浅くはないが、致命傷ではない。
 なのに身体が動かなかった。
 それになんだか、声が出しにくい。

「こ……これ……は……」

 毒矢に違いない。
 毒はおそらく麻痺の類だろう。
 俺は【異常耐性】を覚えていないから毒を防げない。

「クソッ……ここまでか……」

 最上階から飛び降りる予定だったのに。
 まさか3階でモンスターにぶっ殺されるとはな。
 これが今の実力ということか。

「ヒヒィィン!」

 迫り来る槍持ちのケンタウロス。

「次は召喚獣を連れて戻ってくるからな」

 俺は死を悟り目を瞑る。
 しかし、死ぬことはなかった。

「まだ生きているぞ! 回復係ヒーラー! この少年を治療しろ!」
「俺達は敵の動きを食い止めるぞ!」
「おうよ!」

 周囲から声が聞こえてきた。
 何事かと、俺は目を開けてみる。
 そこには<紅蓮の騎士団>の面々がいた。
 数は10人で、フレッドの姿はない。

「そこの君、大丈夫?」

 女が軽やかに敵を倒して声を掛けてくる。
 この女のことは、街で見たのでよく覚えていた。

 フィオナだ。
 “紺碧の戦乙女”の二つ名を持つ同い年の女騎士。

「あぁ、大丈夫だよ」

 ――これが俺と彼女が初めてした会話だった。

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