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3-7 大富豪のクイズ大会
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ヴィンセントの戦法はよく考えられている。
一見すると鉄壁の防御だ。
しかし、弱点はある。
それは、ヴィンセントの反応速度だ。
防御態勢へ切り替えるには、攻撃がくることを意識しなければならない。
意識することで、初めて反応し、防御できるのだ。
つまり、意識する前に仕留めれば問題はない。
「終わりだな」
石造りの観客席を砕き、身体をめり込ませるヴィンセント。
いつの間にか、分身は消えていた。
「……」
誰もが声を失っている。
実況も、審判も、観客も。
「ふぅ」
俺は一息つき、自身の拳を確認する。
一滴の血も付着していない、綺麗な状態だ。
それもそのはず。俺の拳は奴に当たっていない。
拳は、奴の胸部に当たる直前で止めた。
それでも奴が吹き飛んだのは、他に理由がある。
全力の右ストレートは、空気を振動させ、衝撃波を出す。
それがヴィンセントを襲い、でたらめな速度でぶっ飛ばしたのだ。
「動く気配ないし、俺の勝利だよな?」
「え、あ、そ、そそ、そう、そうだ」
驚愕のあまり、審判は言葉を詰まらせまくっている。
「じゃあ、これで失礼するぜ」
「あ、ああ、わか、わかった」
審判に背を向け、リング外へ歩き始める。
静寂に包まれた会場から、ゆっくりと離れていく。
実況と観客が我に返って盛り上がったのは、俺が消えた後だった。
◇
コロシアムの外で、二人と合流する。
「おとーさん、優勝おめでとうなの!」
「さすがフレッドだー、これでお金持ちだよー」
「おうよ、怪我は予想外だったけどな」
「あー、そういえば怪我したんだったな、見せてみ」
ユナハが乱暴に俺の左腕を掴む。
深く切れていただけあり、ヒリッとして顔が歪む。
傷口は凝固した血で塞がれていて、赤黒くなっていた。
「いい具合にやられたねー、治してやるよー」
ユナハが傷口に手を近づけてくる。
あと数センチで触れようかというところで止めた。
「パーフェクトヒーリング」
ユナハの掌から青い光が放たれ、左腕の傷口を覆う。
数秒後、傷口は何もなかったかのように消失した。
痛みも綺麗さっぱり消えている。
これがユナハのスキル『パーフェクトヒーリング』か。
初めて受けたが、かなり優秀なスキルだ。
「どーだー、外傷なら私に任せなー」
「これなら多少怪我をしても安心できる」
「でも失った血は戻らないから気を付けろよー」
俺は「了解」と答え、左腕を軽く回す。
特に問題らしい問題もなく、改めて完治を実感する。
怪我が治ったことだし――。
「ネネイ、応援してくれてありがとうな」
早速、両手でネネイを持ち上げた。
ネネイは「えへへなの」とバンザイしている。
頭上まで上げた後、ゆっくり地面に降ろした。
それから、ユナハにも「ありがとう」と言う。
「フレッドが怪我したせいで、ネネイちゃんが悲しそうだったぞー」
「そうなの、おとーさんからたくさんの血が流れていて怖かったなの」
「いやぁ、ちょっと油断していて、意表を突かれてしまったよ」
「むぅーなの!」
ネネイの頬がぷくぅと膨らんでいく。
俺は慌てて頭を撫で、「イカの串焼き奢るから許して」と謝った。
ネネイは表情をニパッとさせて「なら許すなの♪」と上機嫌になる。
やれやれ、今日何本目の串焼きだ。
「まずは適当な酒場で串焼き買うか」
「分かったなの!」
「それから先のことは、ぶらつきながら考えよう」
ユナハが「さんせー」と右手を挙げる。
その手を下げるなり、「なー、フレッド」と呼んできた。
「最後のアレは、本気だったのか?」
アレとは、ヴィンセントを倒した右ストレートのことだ。
全力の一撃だったが、本気かと言われると違う気がした。
「本気とはいえないな。もっと強い相手だったら、剣を抜いていたし」
覚醒スキルは確かに驚異的だったが、本体の基本性能が低かった。
実況によると、ヴィンセントのステータスは攻防Bの魔力Aだ。
それでも、攻防Sの俺とは天と地の差があった。
ヒヤッとすることはあっても、気を引き締めれば、取るに足らないザコ。
それが、ヴィンセントに対する評価だ。
「決勝戦は剣を抜くかと思ったのになー」
「あの程度だと、剣どころか左手を使うまでもなかったな」
「そういえばフレッドって、戦闘では右手しか使わないよなー」
ユナハは大会を振り返り、「全試合で右のパンチだ」と言う。
「本当は左利きで、左は右より強いとか?」
俺は「いやいや」と笑って否定する。
「右利きだよ。左手は主に防御用だ」
俺の場合、左手は防御で使うことが多い。
右手を剣とするなら、左手はさながら盾だ。
敵の攻撃を受け流したり、円滑に攻撃する目的で動かす。
防御手段が回避だけで事足りる昨今では、残念ながら出番がない。
ヴィンセントがもう少し強ければ、左手を使っていただろう。
ユナハは「なるほどねー」と適当に流した。
それがツボだったのか、ネネイが「なるほどなのー」と真似する。
「お、いい感じの店があるじゃないか」
通りを散策していて、酒場を見つけた。
イカの串焼きを買うにはもってこいだ。
店に入り、ズカズカとカウンターに近づく。
「らっしゃい、何にしやしょー?」
妙な威圧感を漂わせるヒョロガリのマスターが、声をかけてくる。
俺は人差し指を立て「イカの串焼きを一本、テイクアウトで」と注文した。
すると、「一本じゃないなの! 三本なの!」とネネイが訂正する。
「え、俺とユナハは食べないぞ?」
「まだ空腹じゃないよー、齢でさ……」
俺とユナハが即座に反応する。
対して、ネネイは満面な笑みを浮かべて答えた。
「三本ともネネイが食べるなの!」
これにはユナハと一緒に苦笑い。
可愛い五歳児がイカになる日は近いと思った。
「いただきますなのっ」
結局、俺達は酒場で過ごした。
といっても、俺とユナハは、水を飲みながら枝豆をつまむだけだ。
パクパクと食べているのはネネイのみ。
三本頼んだ串焼きの内、二本を店内で平らげる。
残り一本は食べ歩き用だ。
「イカさん美味しいなの♪」
串焼きが届くなりパクパクと食べ始め、あっけなく一本目を消化。
そのまま休むことなく、ペロリと二本目も平らげる。
俺達より、ネネイの方が先に食べ終わった。
「ごちそーさまなのっ」
「毎度あり! また来てくだせい!」
店主の溌剌とした声を背に受けながら、酒場を後にする。
仲良く横に並んで通りを歩く。
ネネイが串焼きを食べている為、手は繋いでいない。
「そういやフレッド、金はどうなったんだー」
ユナハが訊いてくる。
言われるまで、お金のことを失念していた。
「そういえばそうだったな」
優勝したことで、結構な富豪になったはずだ。
五試合分の自己ベットに加え、一千万だか二千万だかの優勝賞金が付く。
更に、アコギな球当て屋から得た八千万の臨時収入もある。
「待てよ、今確認するからな」
俺は懐から冒険者カードを取り出した。
それをネネイが見える高さまで下ろし、三人で確認する。
名前【フレッド】 年齢【17】 ランク【ブロンズ】
攻撃力【S】 防御力【S】 魔力【G】 精神力【S】
所持金【45億5239万ゴールド】 スキル【-】
「何度見ても惚れ惚れする強さしてやがんなー」
「見るのはそこじゃなくて金だろ」
ユナハは「そうだった」と笑いなが視線をずらす。
所持金を確認すると「超入ってんじゃーん」と興奮した。
「そういうユナハも、五試合分の払い戻し金で億はあるだろ」
「まあねー。でも、賭け数は四試合なんだよなー」
「準決勝は棄権で流れたんだった」
「そーそー。だからフレッドの半分もねーぞー」
ユナハは、「めんどーだから見せないけどなー」と付け足す。
「こうして思うと、マリーの七二〇億って凄いよな」
「だなー」
ユナハの所持金は不明だが、大体は察しがつく。
仮に三人の所持金を合算しても、一〇〇億に満たない。
マリーの所持金七二〇億が、いかにぶっ飛んでいるかよく分かる。
「なーフレッド、話をぶった切って悪いんだけど、あそこで遊んでいこー」
ユナハが右斜めに見える建物を指す。
いくつかの店を越えた先にある大型の建造物だ。
コロシアムの四角版と云う表現が最適な外観をしている。
「いいけど、あれは何なんだ?」
「建物の名前は第二コロシアム、開かれているのはクイズ大会だー」
武術大会が肉体的強さを競うものなら、クイズ大会は知識的な強さを競う。
基本は武術大会と同じだが、参加人数が異なる。
クイズ大会はチーム戦で、最大四人一組でチームを組むことが可能だ。
最低一人から、最大四人まで同時に参加できるイベントである。
「三人で参加しようぜー。怪我もしないしよー」
怪我の恐れがないなら、ネネイも楽しめる。
当のネネイは、幸せそうに串焼きのラストを頬張っていた。
美味しそうにもぐもぐし、至福の表情をこちらに見せつけてくる。
「参加は構わないけど、俺とネネイは役に立てないぞ」
「いーよー、私が無双するから横で応援していてくれー」
俺は「なら観客席でもいいだろ」と苦笑い。
すると、「そいつぁーダメだー」とユナハが否定する。
「フレッドやネネイちゃんの得意な問題が出題されるかもしんないからねー」
「そんな気はしないけど、危険もないようだし、一緒に参加するぜ」
俺の得意な問題って何があるかな、と考えてみる。
浮かんだのは、戦闘と死の森に関することばかりだ。
あのモンスターの弱点は何かとか、親指の骨が折れたらどうすればいいかとか。
そんな問題が出題されるとは思えない。
少なくとも俺は、置物枠としての参加で確定だ。
「よーし、クイズ大会に参加だー」
「おーなの!」
ユナハを先頭に、俺達は第二コロシアムへ入る。
武術大会の時と同じように、受付嬢に参加申し込みを行った。
自己ベットは誰もしない。
ユナハが「優勝は無理―、楽しむだけー」と言ったからだ。
「ユナハってクイズ得意なの?」
「そこそこなー。相手次第だけど、準決勝まではいけるかも」
「すごい自信じゃないか。そんなに博識だとは知らなかったよ」
「PTにカナリアとミアがいるかんなー、出番なしだー」
カナリアは会う人会う人に博識だと評されるし、ミアは勤勉なエルフだ。
確かにこの二人が居る限り、多少の知識自慢は霞んでしまう。
「クイズ大会ってどんな問題が出るの?」
「色々だよー。本当に色々。だから、幅広い分野に専門家を集めるのが、優勝を目指す時の戦い方だなー」
問題の幅は相当広いらしい。
死の森に関する問題が出題されてもおかしくないという。
もしもそんな問題が出題されたら、俺の一人勝ちは確実だ。
少しだけ、「役に立てるかも」という期待で胸が膨らんできた。
「次の試合は――」
しばらくして、俺達の出番がやってくる。
チームだと、選手ごとの名前は呼ばれない。
呼ばれるのはチーム名だけだ。
俺達のチーム名は『ユネフ』。
三人の頭文字を付けただけの簡素なものである。
「名前なんてなんでもいーんだよー、めんどくせー」
もう少し考えるべきではと提案する俺に、ユナハがそう言った。
このイベントにおいては、全権をユナハに委譲している。
だから、ユナハが決めたことには黙って従う。
「どんな相手がくるかなー、ワクワクするー」
先に入場したのは俺達だ。
サッと回答席に座る。それがこの大会におけるリングである。
回答席は脚の高い木のテーブルに、椅子を四つ並べられたものだ。
中央に司会者のスペースがあり、その左右に各チームの回答席があった。
テーブルの上には赤色のボタンが置かれている。
問題の答えが分かったら、そのボタンを押して回答するらしい。
知識量に加えて、回答までの速度も競う早押し勝負だ。
「ワクワクなの、ワクワクなの」
司会に近い場所から、ユナハ、ネネイ、俺と座る。
俺の横は空席だ。
ネネイはニコニコ顔で周囲を眺めていた。
視界には、一万人近い観客が映っている。
「続いて、チーム『フレッド』の入場です!」
司会の言葉に、俺達三人が反応する。
「おとーさんが相手なの!?」
「いやいや、今のはチーム名だよ」
「知らないチームだなー、どんな奴らだー」
相手チームの四人がゆっくりと入場してくる。
その姿を見て、俺達三人は驚愕した。
同じように、相手の四人も驚愕する。
「あら、フレッドさん」
「む、汝もこの大会に出場していたのか」
「奇遇ですわね、フレッド」
「勝負ですとも! 勝負ですとも!」
なんてこった。
初戦の相手は、我がPTの女性陣だ。
一見すると鉄壁の防御だ。
しかし、弱点はある。
それは、ヴィンセントの反応速度だ。
防御態勢へ切り替えるには、攻撃がくることを意識しなければならない。
意識することで、初めて反応し、防御できるのだ。
つまり、意識する前に仕留めれば問題はない。
「終わりだな」
石造りの観客席を砕き、身体をめり込ませるヴィンセント。
いつの間にか、分身は消えていた。
「……」
誰もが声を失っている。
実況も、審判も、観客も。
「ふぅ」
俺は一息つき、自身の拳を確認する。
一滴の血も付着していない、綺麗な状態だ。
それもそのはず。俺の拳は奴に当たっていない。
拳は、奴の胸部に当たる直前で止めた。
それでも奴が吹き飛んだのは、他に理由がある。
全力の右ストレートは、空気を振動させ、衝撃波を出す。
それがヴィンセントを襲い、でたらめな速度でぶっ飛ばしたのだ。
「動く気配ないし、俺の勝利だよな?」
「え、あ、そ、そそ、そう、そうだ」
驚愕のあまり、審判は言葉を詰まらせまくっている。
「じゃあ、これで失礼するぜ」
「あ、ああ、わか、わかった」
審判に背を向け、リング外へ歩き始める。
静寂に包まれた会場から、ゆっくりと離れていく。
実況と観客が我に返って盛り上がったのは、俺が消えた後だった。
◇
コロシアムの外で、二人と合流する。
「おとーさん、優勝おめでとうなの!」
「さすがフレッドだー、これでお金持ちだよー」
「おうよ、怪我は予想外だったけどな」
「あー、そういえば怪我したんだったな、見せてみ」
ユナハが乱暴に俺の左腕を掴む。
深く切れていただけあり、ヒリッとして顔が歪む。
傷口は凝固した血で塞がれていて、赤黒くなっていた。
「いい具合にやられたねー、治してやるよー」
ユナハが傷口に手を近づけてくる。
あと数センチで触れようかというところで止めた。
「パーフェクトヒーリング」
ユナハの掌から青い光が放たれ、左腕の傷口を覆う。
数秒後、傷口は何もなかったかのように消失した。
痛みも綺麗さっぱり消えている。
これがユナハのスキル『パーフェクトヒーリング』か。
初めて受けたが、かなり優秀なスキルだ。
「どーだー、外傷なら私に任せなー」
「これなら多少怪我をしても安心できる」
「でも失った血は戻らないから気を付けろよー」
俺は「了解」と答え、左腕を軽く回す。
特に問題らしい問題もなく、改めて完治を実感する。
怪我が治ったことだし――。
「ネネイ、応援してくれてありがとうな」
早速、両手でネネイを持ち上げた。
ネネイは「えへへなの」とバンザイしている。
頭上まで上げた後、ゆっくり地面に降ろした。
それから、ユナハにも「ありがとう」と言う。
「フレッドが怪我したせいで、ネネイちゃんが悲しそうだったぞー」
「そうなの、おとーさんからたくさんの血が流れていて怖かったなの」
「いやぁ、ちょっと油断していて、意表を突かれてしまったよ」
「むぅーなの!」
ネネイの頬がぷくぅと膨らんでいく。
俺は慌てて頭を撫で、「イカの串焼き奢るから許して」と謝った。
ネネイは表情をニパッとさせて「なら許すなの♪」と上機嫌になる。
やれやれ、今日何本目の串焼きだ。
「まずは適当な酒場で串焼き買うか」
「分かったなの!」
「それから先のことは、ぶらつきながら考えよう」
ユナハが「さんせー」と右手を挙げる。
その手を下げるなり、「なー、フレッド」と呼んできた。
「最後のアレは、本気だったのか?」
アレとは、ヴィンセントを倒した右ストレートのことだ。
全力の一撃だったが、本気かと言われると違う気がした。
「本気とはいえないな。もっと強い相手だったら、剣を抜いていたし」
覚醒スキルは確かに驚異的だったが、本体の基本性能が低かった。
実況によると、ヴィンセントのステータスは攻防Bの魔力Aだ。
それでも、攻防Sの俺とは天と地の差があった。
ヒヤッとすることはあっても、気を引き締めれば、取るに足らないザコ。
それが、ヴィンセントに対する評価だ。
「決勝戦は剣を抜くかと思ったのになー」
「あの程度だと、剣どころか左手を使うまでもなかったな」
「そういえばフレッドって、戦闘では右手しか使わないよなー」
ユナハは大会を振り返り、「全試合で右のパンチだ」と言う。
「本当は左利きで、左は右より強いとか?」
俺は「いやいや」と笑って否定する。
「右利きだよ。左手は主に防御用だ」
俺の場合、左手は防御で使うことが多い。
右手を剣とするなら、左手はさながら盾だ。
敵の攻撃を受け流したり、円滑に攻撃する目的で動かす。
防御手段が回避だけで事足りる昨今では、残念ながら出番がない。
ヴィンセントがもう少し強ければ、左手を使っていただろう。
ユナハは「なるほどねー」と適当に流した。
それがツボだったのか、ネネイが「なるほどなのー」と真似する。
「お、いい感じの店があるじゃないか」
通りを散策していて、酒場を見つけた。
イカの串焼きを買うにはもってこいだ。
店に入り、ズカズカとカウンターに近づく。
「らっしゃい、何にしやしょー?」
妙な威圧感を漂わせるヒョロガリのマスターが、声をかけてくる。
俺は人差し指を立て「イカの串焼きを一本、テイクアウトで」と注文した。
すると、「一本じゃないなの! 三本なの!」とネネイが訂正する。
「え、俺とユナハは食べないぞ?」
「まだ空腹じゃないよー、齢でさ……」
俺とユナハが即座に反応する。
対して、ネネイは満面な笑みを浮かべて答えた。
「三本ともネネイが食べるなの!」
これにはユナハと一緒に苦笑い。
可愛い五歳児がイカになる日は近いと思った。
「いただきますなのっ」
結局、俺達は酒場で過ごした。
といっても、俺とユナハは、水を飲みながら枝豆をつまむだけだ。
パクパクと食べているのはネネイのみ。
三本頼んだ串焼きの内、二本を店内で平らげる。
残り一本は食べ歩き用だ。
「イカさん美味しいなの♪」
串焼きが届くなりパクパクと食べ始め、あっけなく一本目を消化。
そのまま休むことなく、ペロリと二本目も平らげる。
俺達より、ネネイの方が先に食べ終わった。
「ごちそーさまなのっ」
「毎度あり! また来てくだせい!」
店主の溌剌とした声を背に受けながら、酒場を後にする。
仲良く横に並んで通りを歩く。
ネネイが串焼きを食べている為、手は繋いでいない。
「そういやフレッド、金はどうなったんだー」
ユナハが訊いてくる。
言われるまで、お金のことを失念していた。
「そういえばそうだったな」
優勝したことで、結構な富豪になったはずだ。
五試合分の自己ベットに加え、一千万だか二千万だかの優勝賞金が付く。
更に、アコギな球当て屋から得た八千万の臨時収入もある。
「待てよ、今確認するからな」
俺は懐から冒険者カードを取り出した。
それをネネイが見える高さまで下ろし、三人で確認する。
名前【フレッド】 年齢【17】 ランク【ブロンズ】
攻撃力【S】 防御力【S】 魔力【G】 精神力【S】
所持金【45億5239万ゴールド】 スキル【-】
「何度見ても惚れ惚れする強さしてやがんなー」
「見るのはそこじゃなくて金だろ」
ユナハは「そうだった」と笑いなが視線をずらす。
所持金を確認すると「超入ってんじゃーん」と興奮した。
「そういうユナハも、五試合分の払い戻し金で億はあるだろ」
「まあねー。でも、賭け数は四試合なんだよなー」
「準決勝は棄権で流れたんだった」
「そーそー。だからフレッドの半分もねーぞー」
ユナハは、「めんどーだから見せないけどなー」と付け足す。
「こうして思うと、マリーの七二〇億って凄いよな」
「だなー」
ユナハの所持金は不明だが、大体は察しがつく。
仮に三人の所持金を合算しても、一〇〇億に満たない。
マリーの所持金七二〇億が、いかにぶっ飛んでいるかよく分かる。
「なーフレッド、話をぶった切って悪いんだけど、あそこで遊んでいこー」
ユナハが右斜めに見える建物を指す。
いくつかの店を越えた先にある大型の建造物だ。
コロシアムの四角版と云う表現が最適な外観をしている。
「いいけど、あれは何なんだ?」
「建物の名前は第二コロシアム、開かれているのはクイズ大会だー」
武術大会が肉体的強さを競うものなら、クイズ大会は知識的な強さを競う。
基本は武術大会と同じだが、参加人数が異なる。
クイズ大会はチーム戦で、最大四人一組でチームを組むことが可能だ。
最低一人から、最大四人まで同時に参加できるイベントである。
「三人で参加しようぜー。怪我もしないしよー」
怪我の恐れがないなら、ネネイも楽しめる。
当のネネイは、幸せそうに串焼きのラストを頬張っていた。
美味しそうにもぐもぐし、至福の表情をこちらに見せつけてくる。
「参加は構わないけど、俺とネネイは役に立てないぞ」
「いーよー、私が無双するから横で応援していてくれー」
俺は「なら観客席でもいいだろ」と苦笑い。
すると、「そいつぁーダメだー」とユナハが否定する。
「フレッドやネネイちゃんの得意な問題が出題されるかもしんないからねー」
「そんな気はしないけど、危険もないようだし、一緒に参加するぜ」
俺の得意な問題って何があるかな、と考えてみる。
浮かんだのは、戦闘と死の森に関することばかりだ。
あのモンスターの弱点は何かとか、親指の骨が折れたらどうすればいいかとか。
そんな問題が出題されるとは思えない。
少なくとも俺は、置物枠としての参加で確定だ。
「よーし、クイズ大会に参加だー」
「おーなの!」
ユナハを先頭に、俺達は第二コロシアムへ入る。
武術大会の時と同じように、受付嬢に参加申し込みを行った。
自己ベットは誰もしない。
ユナハが「優勝は無理―、楽しむだけー」と言ったからだ。
「ユナハってクイズ得意なの?」
「そこそこなー。相手次第だけど、準決勝まではいけるかも」
「すごい自信じゃないか。そんなに博識だとは知らなかったよ」
「PTにカナリアとミアがいるかんなー、出番なしだー」
カナリアは会う人会う人に博識だと評されるし、ミアは勤勉なエルフだ。
確かにこの二人が居る限り、多少の知識自慢は霞んでしまう。
「クイズ大会ってどんな問題が出るの?」
「色々だよー。本当に色々。だから、幅広い分野に専門家を集めるのが、優勝を目指す時の戦い方だなー」
問題の幅は相当広いらしい。
死の森に関する問題が出題されてもおかしくないという。
もしもそんな問題が出題されたら、俺の一人勝ちは確実だ。
少しだけ、「役に立てるかも」という期待で胸が膨らんできた。
「次の試合は――」
しばらくして、俺達の出番がやってくる。
チームだと、選手ごとの名前は呼ばれない。
呼ばれるのはチーム名だけだ。
俺達のチーム名は『ユネフ』。
三人の頭文字を付けただけの簡素なものである。
「名前なんてなんでもいーんだよー、めんどくせー」
もう少し考えるべきではと提案する俺に、ユナハがそう言った。
このイベントにおいては、全権をユナハに委譲している。
だから、ユナハが決めたことには黙って従う。
「どんな相手がくるかなー、ワクワクするー」
先に入場したのは俺達だ。
サッと回答席に座る。それがこの大会におけるリングである。
回答席は脚の高い木のテーブルに、椅子を四つ並べられたものだ。
中央に司会者のスペースがあり、その左右に各チームの回答席があった。
テーブルの上には赤色のボタンが置かれている。
問題の答えが分かったら、そのボタンを押して回答するらしい。
知識量に加えて、回答までの速度も競う早押し勝負だ。
「ワクワクなの、ワクワクなの」
司会に近い場所から、ユナハ、ネネイ、俺と座る。
俺の横は空席だ。
ネネイはニコニコ顔で周囲を眺めていた。
視界には、一万人近い観客が映っている。
「続いて、チーム『フレッド』の入場です!」
司会の言葉に、俺達三人が反応する。
「おとーさんが相手なの!?」
「いやいや、今のはチーム名だよ」
「知らないチームだなー、どんな奴らだー」
相手チームの四人がゆっくりと入場してくる。
その姿を見て、俺達三人は驚愕した。
同じように、相手の四人も驚愕する。
「あら、フレッドさん」
「む、汝もこの大会に出場していたのか」
「奇遇ですわね、フレッド」
「勝負ですとも! 勝負ですとも!」
なんてこった。
初戦の相手は、我がPTの女性陣だ。
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王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
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そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
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現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼
ベルピー
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この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。
祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。
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そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。
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教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。
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俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
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賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
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この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
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元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
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彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
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もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
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