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第051話 忍従の時

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 人間達の反撃はいずれあると思っていたし、どちらかといえば今回の反撃は想定よりも遙かに遅かったとさえいえる。
 しかしながら、やれやれ、なんというタイミングだ。

『ゴブレス殿、再び大規模作戦をしましょうぞ』
『そうですぞ、我々が結集すれば人間なんぞ!』

 人間共の猛攻は連日に渡って続いている。
 狙い撃ちにされているのは【階級】の低い種族ばかり。
 その為、どうしてもガルデン包囲戦で共闘した種族が多い。

『今は攻めるタイミングではないので、大規模作戦はお断りしたい……』
『なんと……なんという……』
『ゴブレス族長、正気ですか!?』
『このまま人間の猛攻を受け入れろと!?』
『落ち着くまで地下に籠もるのが一番でしょう』

 人間の猛攻撃には二つの意図が感じられる。
 一つ目は、純粋に力の誇示だ。
 モンスターに対して、「舐めてると火傷すんぞ」と示している。
 二つ目は、ゴブリン族……正確には俺の炙り出しだ。
 戦争時以外は姿を消しているゴブリン族を潰したいという考え。

 おそらく後者が本命の理由だろう。
 俺が指揮を執るようになって、ゴブリンの動きは大きく変わった。
 ブルーマ瓶による度重なる夜襲、ガルデンの包囲、リーネのワベ爆弾。
 ここ最近のゴブリン族の統率された動きは、人間をも凌駕している。
 人間共からすれば、そこらの雑魚ではなく俺を止めたいとはずだ。

 それが分かっているのに「こんにちは」と顔を出す馬鹿はいない。
 どれだけ【グループ交信】で喚かれようと、ここは殻にこもるのみ。
 何度の勝利を重ねようと、ゴブリンが最弱である事実は不変なのだから。

『ゴブレス族長、低位の種族が狙われているようだが、こちらの行動はこれまで通りでよろしいのか?』
『問題ないよ。ただ、もう一つの作戦については時期を変更せざるをえない。だから、妨害工作の後に連続してやる予定だったもう一つの作戦については、調整させてほしい。大丈夫か?』

 今【交信】している相手はワイバーン族の族長だ。

『問題ない。それだけのモンスターポイントは頂いた。約束通り、妨害工作は継続しよう。もう一つの作戦については、時が来たらそちらから連絡されたし』
『助かるよ、では』

 ワイバーン族と行うもう一つの作戦。
 それは、俺の計画を成就させる最大の切り札だ。
 他の作戦は頓挫しようとも、こいつだけは成功が不可欠である。

「なんだかワシらのせいで被害を甚大にしてしまった気がするのう」

 長老が申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「それは否めません。我々の快進撃があったから、低位の種族はこれまで以上に強気です。だからといって、我々がそのことを申し訳なく思うのも筋違いでしょう。他の種族が虐殺されている実情を知りながら、外に兵を出すという選択をしているのは自分達なのですから」

 とどのつまり、全族長が『殻にこもる』を選択すれば無傷で済む。
 各種族の地下拠点を人間が発見することなど不可能だからだ。

 まず間違いないことだが、地下拠点は探知されない仕様である。
 そうでなければ、冒険者時代に俺が拠点を発見しているからだ。
 この辺りは、女神がチョコチョコっと細工をしているのだろう。

「それよりも、今は人間の攻勢が落ち着いた後のことを考えるのが大事ですよ。人間の社会システム上、永遠に大規模攻勢を続けるというのは無理です。おそらくあと数週間から一ヶ月程度で収まるでしょう。その時に最大限の戦果を挙げられるよう、今の時点から攻撃ポイントを決めておかないと」
「お主はこの上ない現実主義者じゃな、ゴブレス」
「ハハ、見ての通りロマンチストではないですね」

 俺は長老との会話を終え、視線を下に向けた。
 そこには大量の新聞と法律に関する書物が散乱している。
 あと、大陸全土を記した地図も。

「慣れてはおっても、忍従の時を過ごすのは嫌なものじゃよ」
「たまには辛抱も必要というだけのこと。なぁに、我々にはワイバーン族との作戦がある。魔王様を通して交わした契約だから、族長が代わったとしても反故には出来ない。問題ありませんよ」

 散乱した資料を眺めていきながら、俺は作戦を練っていった。
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