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第001話 プロローグ

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 目を覚ますと、俺は女神の間に居た。
 何もない真っ白な空間――それが、女神の間だ。
 ここが女神の間だと分かったのは、来るのが二度目だから。

 一度目は数ヶ月前。
 まだ地球で生活していた頃だ。
 よく覚えていないが死んでしまい、気がつくとここに居た。

 二度目は今回。
 女神によって地球と異なる世界へ転移したが、またしても死亡。
 死因はよく覚えている。

 とある洞窟の中、一人でモンスターと戦っていた時だ。
 別の冒険者PTが逃げてきて、俺を見るなり足を切りつけてきた。
 奴等は自分が助かる為に、俺を囮にしたのだ。
 動けなくなった俺はモンスターに襲われ、あっさりと死亡。

 ――そして、今に至る。

「またしても死ぬとは情けない……」

 どこからともなく現れるなり嘲笑するこの女こそ女神。
 俺を異世界に転移してくれた張本人だ。性格は決して良くない。

「それにしても不思議じゃ。妾が見るに、お主の才覚は申し分ない」

 だろうよ。
 異世界において、俺は割と通用していた。
 多くの冒険者がPT――徒党を組む中、俺は一人だったのだ。
 一人でも戦える人間はそう多くない。

「才覚は申し分ないが……お主、人間としては上手くやっていけぬようじゃな」

 自分が嫌われる性分であることは理解していた。
 別に、他人へ何かしらの行為を働くわけではない。
 何もしていないのに、一方的な嫌悪感をもたれるのだ。

 地球に居た頃はいじめられていた。
 SNSでは除け者にされ、普段は全員から無視される。
 タチの悪い悪戯を受けることも頻繁にあった。

 異世界でも同じようなものだ。
 一人で過ごしていると、勝手に妬まれた。
 ガキが調子に乗るな……なんて何度言われたことか。
 ちなみに十七歳なので、それほどガキではない。

「そこでお主に最後のチャンスを与えよう。人間ではなく、異形の存在――モンスターに転生させてやろう」

 女神の決定には逆らえない。
 ここで「いやだ!」と喚いても変わらないのだ。
 それを理解しているからこそ、俺は四の五の言わずに受け入れる。

「モンスターに転生ってことは、人を殺しまくってもいいのか」
「さよう。お主は魔王軍に仕えるのじゃからな。人間は敵である」
「そうかい。それはそれで楽しそうだな」

 どういうわけか人から嫌われる俺だ。
 そろそろ溜まりに溜まった鬱憤も爆発させたいと思っていた。

「いいぜ……楽しみだ。ヒドラにダークメイジ、何にでもなってやらぁ」
「はっはっは。残念じゃが、お主が転生するのはそれらのモンスターではない」
「じゃあ、俺は何に転生できるんだ?」
「それはじゃな――」

 女神がニヤリと笑った。

「ゴブリンじゃ」
「ゴブ!? 最弱モンスターじゃないか」
「さよう。どうか妾を楽しませてくれ。なっはっは!」
「やっぱりあんた……最悪だな」

 俺は女神が嫌いだ。
 傍観する自分が楽しむ為だけに、無茶を強いるから。

 だが、女神には感謝している。
 一度ならず二度までも、俺にやり直しの機会をくれたから。

 いいぜ、やってやるよ。
 最弱モンスターのゴブリンで、人間を滅ぼしてやる。
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