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第010話 雑魚の末路

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 薬草採取からのステップアップとして俺が選んだのは『サイクロプスコアの採取』というクエストだ。
 サイクロプスコアとは、顔面の8割を占める大きな一つ目が特徴の巨人“サイクロプス”の目玉のことである。それだけ言えばかなりグロテスクに聞こえるけれど、実際は聞こえた内容以上に穏やかだ。

 俺達はサイクロプスを倒す為、<巨人の隠れ家>にやってきた。
 <巨人の隠れ家>は、街から馬で2時間の距離にある荒野にある。正確には荒野に無数のクレーター地帯があり、その何カ所かに建造された木の砦を指す。

「サイクロプスは見かけ通り凶暴なモンスターだ。敵の存在に気がつくと、砦を開けて襲ってくる。ゴブリンみたいに奇襲などの小賢しい戦法を駆使しない分、弱点を突かないと倒せないからな」

 砦の前で、俺は2人に説明した。
 ミレイは頷いた後、小さな右手を挙げる。

「弱点のお目々は、攻撃してもいいのです?」
「攻撃しないと倒せないぞ」
「でも、サイクロプスコアは、サイクロプスのお目々ではないです?」
「あぁ、その点は気にしなくていいよ」

 ミレイは「分かったです」と頷いた。
 どうして気にしなくていいのかは訊いてこない。
 それだけ俺を信用しているということだ。

「敵の数は1~3体だ。サイクロプスはそれほど群れる敵ではないから、数の面では気にしなくていい。数が1体ならミレイとシルフィーだけで対処を、それ以上なら2体目以降は全て俺が倒す」

 ミレイとシルフィーが頷いた。
 どちらも戦闘態勢に入る。ミレイは弓を構え、シルフィーは小さな羽で浮遊した。これは仲間に加えてから知ったことなのだけれど、妖精族はそれほど持続的に飛べない。シルフィー曰く、連続浮遊時間は10分程度とのことで、それ以上は羽を休める必要がある。

「よし、始めるぞ!」

 俺は砦の中に矢を放とうとした。
 しかしその時、「なんだなんだぁ」という声が聞こえてくる。
 その声に反応して、俺達は振り返った。

「なんでこんな所にガキを連れた野郎がいるんだぁ?」
「もしかしてお前、ロリコンってやつか?」
「妖精族とエルフ族の幼女……どこかの金持ちですかなぁ?」

 3人組の冒険者だった。
 向かって左から金髪、ハゲ、眼鏡が特徴的だ。
 武器は金髪が剣で残りの2人が槍。
 全員もれなく俺よりも一回り年上といった感じ。

「(印象の悪い奴らだな……)」

 3人組は何食わぬ顔でこちらに近づいてくる。
 戦闘を仕掛けてくる素振りはないが、良い予感はしない。

「なぁ色男、ここはガキにカッコつける場所じゃないぜ?」

 金髪が言ってきた。
 ミレイが「失礼なセリフです」と頬を膨らませる。
 シルフィーは何も言わず、俺の肩にちょこんと座った。

「俺達はサイクロプスコアの採取に来たんだが……あんたらもそのようだな」

 俺が言うと、3人組は吹き出した。

「俺達って、ガキ2人が戦力になるのかよ」

 これにはシルフィーもイラッとしたようだ。
 小さな声で「むっ」と唸っていた。

「ミレイ、弓を使えるです!」

 ミレイが言い返すと、連中はますます笑った。
 それに対してミレイが尚更怒ろうとするから、俺は待ったを掛ける。

「まぁ、俺達は新米の雑魚だからな。ゴブリンに飽きたしランクアップがてらここに来たんだ。この子もゴブリンを倒せるようになって調子に乗ってるわけさ。よかったら先輩方、俺達に手本を見せて下さいよ」

 俺は紳士的に頼んだ。
 3人組がきょとんとした後、ハゲが「つまんねー」と言う。
 一方、金髪は「いいぜ」とニッコリ。

「どこのボンボンか知らないけど、その身を弁えた姿勢は評価するぜ。俺達がサイクロプスとの戦闘を見せてやるから、お前達は少し離れた所で見学してな」

 俺は「どうも」と笑顔で頷く。
 隣を見るとミレイが不機嫌そうに俺を睨んでいた。
 だから俺は「どうせこいつらじゃ勝てないさ」と耳打ちしてやる。

「ところで青年。どうしてゴブリンの次にサイクロプスを選んだのですかな? 普通、ゴブリンの次はコボルトで、その次はワイルドボアに行き、それからヴァンパイアを経てここに来るもの。ゴブリンからサイクロプスは拙速では?」

 眼鏡が言うと、ミレイは「そうなのです?」と俺を見る。

「いやぁ、勉強不足なもので、ゴブリンの次はここだと思ったんすよねぇ」

 もちろん嘘である。
 ミレイとシルフィーの強さを考慮して、“少し楽な相手”としてここを選んだ。当然ながら、コボルトやら何やらという雑魚では相手にならない。おそらくサイクロプスも、1体であればあっさり倒せるはずだ。

「それでは俺達は下がっていますんで、先輩方頑張って下さいっす!」

 俺達は早々に下がった。
 念のために20メートルは離れておく。
 陥没部分を出たところで、俺達は腰を下ろした。

「ロウタ、どうしてへりくだったです?」

 不快そうにミレイが言う。

「へりくだるって……難しい言葉を使うのな」
「そんなことより、どうしてです?」
「ロウタさん、私も気になりました。先にいた私達に占有権があったはずですが」
「シルフィーも“占有権”だなんて言葉を使って本当に五歳児か」

 不満そうな2人を笑い流し、俺は問いに答えた。

細々こまごました理由はいくつもあるんだけど、大きなものだと2つだな。1つは俺達の後ろで喚かれると鬱陶しかったから。で、もう1つは――」

 話している最中に3人組が戦闘を始めた。
 金髪が石を投げ込み、サイクロプスを挑発する。
 砦の門が開き、3体のサイクロプスが出てきた。

 サイクロプスは、右手に持った巨大な棍棒を打ち付ける。
 3人組はそれを避けた後、剣や槍で反撃を繰り出す。
 しかし、強靱なサイクロプスの皮膚には効かなかった。
 かといって、彼らの武器である剣や槍はサイクロプスに届かない。
 20秒ほど戦闘を続けた結果――。

「礼儀のなってない雑魚共に相応の末路を辿らせるためさ」

 3人組はサイクロプスに殺された。
 撲殺された挙げ句、死体を砦の中に放り込まれる。
 一仕事終えたサイクロプスはそそくさと砦に戻った。

「ロウタ、この展開を見越していたです?」
「当然さ。あいつら、サイクロプスと戦うのに遠距離武器を持ってなかったんだぜ。それなのに俺達を馬鹿にしたんだ。しかも見かけで判断してな。そんな奴がサイクロプスに勝てるはずがないさ」

 俺は立ち上がり、笑顔で言った。

「さて、巨人狩りを始めようか」
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