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第007話 人攫い

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 無事に薬草の採取を終えた俺達は、真っ直ぐと帰路に就いた。
 来た道をクルリと引き返し、街に向かって歩いて行く。

「ミレイ、まだまだロウタには敵わないです」
「経験の差があるからな。でもすぐに抜けるさ」

 本当に抜かれる日はすぐだろう。
 単純な戦闘技術だけなら1年くらいだ。
 判断力や適応力の差も遠くない内に埋まる。

「これからは2日に1回のペースで薬草採取をこなすぞ。ゴブリンとの戦闘を繰り返すことで戦闘経験を積めるし、何より生活費を稼ぐ必要があるからな」

 今は割と金欠だ。
 慣れたら3日に2回のペースで薬草採取をしたいところ。
 まぁ、この調子なら2週間後にはそうなっているだろう。

「ロウタ、色々考えてくれてありがとうです」
「なんだよ藪から棒に」
「ミレイ、もう寂しい寂しいではないです」
「そういえば最初の頃は寂しがっていたな」
「ロウタのおかげで、いつも楽しい楽しいです」

 ミレイが「ありがとうです」と俺を見て微笑んだ。
 なんだか照れくさくて、俺は「おう」と顔を背ける。

「早く強くなって俺に楽をさせてくれ」
「任せてくださいです、ロウタ」

 話していると時間が経つのが早い。
 あっという間に森を抜け、街へと繋がる草原にたどり着く。
 モンスターのいないのどかな草原だ。

「暗くなってきたです」
「思ったより遅くなったな」

 夕日が沈みだしていた。
 季節的な影響もあり、最近は日暮れが早い。

「少し早足で戻ろうか」
「はいです」

 俺達の歩調がペースアップした。
 その時、背後から「そこの2人組!」と声を掛けられる。
 俺とミレイが同じタイミングで振り返った。

「これから街に戻るのかい?」

 後ろに居たのは5人の男だった。
 1人が馬車に乗り、残りが馬に乗っている。
 見るからに柄が悪く、サッと俺達を包囲してきた。

「ロウタ、この人達は……」

 ミレイが怯えながら言う。
 俺は「人攫ひとさらいだな」とため息をついた。
 俺の言葉に、男の一人が「ご名答」とニヤリ。

 ――人攫い。
 主に女の幼児を攫うことを生業とする盗賊だ。
 攫った幼児を奴隷商人に売り、金を稼ぐクズ共。

「エルフの女は価値がある。素直に差し出せば殺さないでやるよ」

 男が俺に言う。
 俺は「仕方ないな」と尚更のため息。

「ミレイ、持っていろ」

 ミレイに薬草の入った籠を持たせる。
 それから弓に手を掛けた。

「この人数を相手にやるっていうのか?」
「前衛の居ないアーチャーに勝ち目はねぇぞ?」

 盗賊連中は剣に手を置いて警戒する。

「勝ち目のない相手に勝つのがプロなんだよ」

 俺は弓から手を離し、右の拳で殴りつけた。
 殴ったのは盗賊ではなく、賊の乗っている馬の目だ。
 目を潰された馬は悲鳴を上げて暴れ狂う。
 想定外の奇襲により、盗賊連中が慌てふためく。
 それにより出来た隙は絶対に見逃さない。

「人を殺そうとしたんだ。殺される覚悟もあるだろ?」

 俺は間髪を入れずに矢を放った。
 1本、2本、3本、4本、そして5本。
 全ての矢が盗賊連中の額を捉える。

「ガッ……」
「ガガッ……」

 盗賊達は即死し、馬から崩れ落ちる。
 一瞬にして勝負が決着した。

「すごいです! ロウタ、すごいです!」

 俺のお手並みにミレイが興奮する。
 目はキラキラと輝き、身体は上下に揺れていた。

「仕方なかったとはいえ、馬には悪いことをしたな」

 目を潰した馬のことだ。
 鼻先を殴るか悩んだ末に目を殴った。
 より確実に、より激しく暴れさせたかったからだ。

「さて、馬車が残ったしこれで街に戻るか」

 俺は目の前にある馬車を指す。
 4頭の馬は逃げたが、馬車はその場に待機していた。

「ロウタ、お馬さんに乗れるです?」
「それほど上手くはないけどね」

 アーチャーは馬と少なからず縁がある。
 馬上から矢を射る“流鏑馬やぶさめ”という技術があるからだ。
 ミレイにもいつかは教えようと思っている技術の一つである。
 まずは馬を駆ることの出来る体格まで育つ必要があるが。

「ミレイは荷台に座っておくといいよ」

 馬車は荷台は運搬用の物だ。
 屋根はなく、四方と床を板で覆っている。
 簡素な作りなので乗り心地は悪いだろう。

「今開けるから待ってね」
「はいです、ロウタ」

 俺は荷台に付いているかんぬきを外した。
 扉となっている後ろの板をゆっくりと開いていく。
 そして――。

「ふぇぇぇぇ!?」
「なんてこったい」

 俺とミレイが同時に驚きの声を上げた。
 荷台の中に、紐で縛られた妖精族の幼女が居たのだ。
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