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第006話 湖の戦闘

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 その後もこれといった問題が起きることなく進んでいた。
 森の中を変わらぬ歩調で進み続け、薬草の生えている場所に向かう。

「この先に薬草があるぞ」
「ようやくです。ミレイ、疲れてきたです」
「ミレイの背丈だと歩数も多くなるしな。仕方ないさ」

 森の中央には湖がある。
 薬草はそこの水辺に生えていた。
 しかし、そこにはゴブリンが棲息している。
 水と薬草がゴブリン共の食糧だからだ。

「見えるか? あそこのゴブ達が」
「見えるです、ロウタ」

 俺達は茂みに身を伏せて湖を見ていた。
 そこには12体のゴブリンがのほほんとしている。
 水を掛け合ったり、薬草を食べたり、何かと楽しそうだ。

「最初の奇襲で2体減るとして残り10体だが、俺が7体貰おう。ミレイは1人で頑張って3体を倒してみろ」

 アーチャーは後衛職だ。
 ウィザードやクレリックと同じで、壁となる前衛職がいてこそ輝く。
 しかし、今の俺達には前衛職など存在しない。
 故に、新米が1人で3体のゴブを相手にするのは至難であった。

「頑張るです」

 それでもミレイは力強く頷く。
 恐怖に足が竦んでいるといった様子もない。

「いざとなったら俺が助けてやるから安心しな」
「はいです。でも、ロウタに助けられないようになるです」
「いい心がけだ。こちらは準備万端だから、いつでも始めていいぜ」

 茂みの中から弓を構える俺。
 ミレイも深呼吸をしてから弓を構えた。

「やるです、ロウタ」

 呼吸を止めてミレイが矢を放つ。
 それに合わせて俺も矢を放った。

「「ゴヴォ……」」

 互いにゴブリンの頭を撃ち抜く。
 これで残り10体。

「ゴブッ!?」
「ゴブゴブ!?」
「ゴッブゥ!?」

 ゴブリン共は驚きの余りに飛び跳ねた。
 死んだ仲間のもとに駆け寄り、即座に矢の発射位置を調べる。
 ゴブリンは弱いけれど、知能はそれなりだ。
 速やかに矢の発射位置を特定すると――。

「「「ゴブッ!」」」

 こちらに視線を向けた。

「遅いぞ、ミレイ」
「す、すみませんです、ロウタ」

 俺はサクサクっと2連射する。
 どちらもゴブリンの頭を捉えた。
 これで残り8体。

「えいですっ!」

 おっと、ミレイの放った矢も当たったぞ。
 残りは8体から7体になった。

「ゴブゥ!」
「ゴブゴブ!」

 ゴブリン達が反撃に出る。
 仲間の死体を盾にして突っ込んできたのだ。
 真正面から矢を射ても死体に阻まれてしまう。

「左右に回り込むぞ」
「はいです」

 俺達は茂みから飛び出し、左右に走った。
 戦闘における基本的な動きであり、ゴブリンの思惑通りでもある。

「ゴブゥ!」
「ゴブブ!」

 ゴブリン達も二手に分かれる。
 2体がミレイに向かい、残りがこちらだ。

「(セオリーに逆らうか)」

 この場合における定石はミレイに向かう2体を俺が倒すこと。
 奴等の死体シールドは正面の攻撃しか防げないからだ。
 後ろから矢を放てば余裕で当たるし、あっさりと崩れる。
 しかしそうすると、ミレイの対応能力が磨かれない。

「そらよ!」

 俺はこちらに向かうゴブリン達に矢を放った。
 矢は真っ直ぐに飛び、死体を握るゴブリンの手を貫く。

「ゴブゥウウウウウウウウウ!」

 ゴブリンが悲鳴を上げながら死体を落とした。
 矢避けを正面から突破する数少ない戦法である。
 高い技術が要求されるが、プロなら出来て当然だ。

「お前達は馬鹿じゃないけど、一つ覚えなのが残念だな」

 盾を失ったゴブリン共を始末する。
 同じ要領で他の死体シールドも崩落させた。
 こちらの戦闘はこれにて終了だ。

「さてミレイはどうかな」

 俺は視線をミレイに向ける。
 彼女もどうにか1体を倒していた。死んでいるのは、死体シールドを持つゴブリンの後ろに張り付いていた奴だ。
 これで残すは死体シールドを持つゴブリンだけである。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ミレイは左右に走ってシールドの側面から攻めようとしていた。
 ゴブリンはそれを阻止するべく、身体の向きをミレイに合わせる。
 滝のように汗を流し、息を切らせるミレイ。
 ちびちびとだが、着々とミレイに近づいていくゴブリン。

「(旗色が悪いがどう対処するかな)」

 俺はいつでも助太刀出来る状態で様子を窺う。

「ロウタ、もう倒してる……。ミレイも、頑張る、です」

 ミレイが矢を放つ。
 しかし、その矢は死体シールドに防がれた。

「(まだ一人では対処できそうにないな。手を狙うように言おう)」

 ミレイの実力なら手を撃ち抜くのは朝飯前だ。
 俺が答えをくれてやれば、彼女はサクッと対処するだろう。

「ミレ――」
「このぉー!」

 俺が言葉を発したと同時にミレイが駆けだした。
 可愛らしい雄叫びを響かせ、ゴブリンに突っ込んでいく。
 まさかの行動に、ゴブリンのみならず俺までも驚く。

「やべっ」

 俺は大慌てで弓を構えた。
 同刻、ゴブリンは――。

「ゴブッ!?」

 驚愕していた。
 俺より遅れて死体シールドを捨てる。
 向かってくるなら大歓迎といった様子。
 しかし、その反応は遅すぎた。
 ゴブリンが死体を捨てたと同時に――。

「えいですっ!」

 ミレイが飛び込む。
 小さな身体を浮かせ、ゴブリンのお腹にタックルだ。
 身構えていなかったゴブリンは「ゴブーン」と吹き飛んだ。

「これでおしまいです!」

 ミレイは慌てて弓を構え、矢を放った。
 距離にして約5メートルしかない。
 息を切らせながら大慌てで撃っても当たる。

「ゴヴォ……」

 矢はゴブリンの命を奪った。

「はぁ……はぁ……倒した、です……」

 ミレイがその場で尻餅をつく。
 俺は「よくやった」と拍手を送った。
 それに対してミレイは――。

「すみませんです、ロウタ」

 大慌てで立ち上がる。
 それからペコリと頭を下げ、左右をキョロキョロ。

「なんで謝った……というか何をしているんだ?」
「敵を倒したことで油断したからです」
「あぁ、そういうことか」

 戦闘に勝っても油断するな。
 それは俺がこの森で教えたことだった。

「(教えた側の俺が油断してしまうとはな)」

 俺は何とも言うことが出来ず、ただ頭を掻くのであった。

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