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第001話 プロローグ

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 親父が死んだ。享年47歳。
 母親に続き、親父まで短命であった。
 突然の訃報に嘆いたのも束の間、今度は遺産相続だ。

 俺ことロウタは現在21歳。
 18歳より冒険者として活動していた。
 兄弟姉妹は存在しない。

「冒険者稼業も今日でおしまいか……」

 両親は孤児院を経営していた。
 国のお達しにより、俺はそこを引き継ぐ必要があるのだ。

 孤児院の経営は面倒である。
 生命を扱う以上、冒険者みたいに好き勝手が出来ない。
 だから俺は孤児院の経営が嫌いだった。無責任な人間だからだ。
 しかし、こうなった以上はやるしかあるまい。

 テクテク、テクテクと通りを歩く。
 そして、親父が経営していた孤児院に到着する。

「わー! わー!」
「ぎゃー! ぎゃー!」
「あははー! あははー!」

 4歳から8歳までの孤児達が元気に走り回っている。
 その数は20名に及ぶ。

「今日から君達の面倒を見ることになった。ロウタだ。よろしく」
「「「ぎゃははー!」」」「「「やーやー!」」」」

 挨拶するも無視である。
 子供とはそういうものだろう。
 だから俺は子供が嫌いだ。

「やれやれ」

 ため息をついて孤児院に入る。
 親父の執務室に行って、机を漁った。

「どこだ、親父の記録は」

 こんな日に備えて、親父は記録を残していた。
 孤児院の経営方法についてを記した、いわば説明書。
 常々「それがあれば大丈夫」と俺に言っていたものだ。

「あったあった」

 タンスの中から目的の書類を発見する。
 これがなければ孤児院の経営など出来ないからな。
 俺は書類を机に置き、ただちに開いてみた。

――――――――――――――――――
 ロウタへ。
 法律が変わって助成金が出なくなった。故に孤児院の経営はもはや困難である。今は貯金を食い潰して保っているが限界は近い。黒字経営をする為には、孤児を奴隷商人に売るしかない。しかし、そのような心なきことはしとうない。お主にもしてほしくない。よって、お主が後を継いだのなら、即座に孤児達をロニーウッド孤児院に託して、この孤児院を閉鎖してくれ。よろしく頼む。
――――――――――――――――――

 俺は絶望した。

 ◇

 ロニーウッド孤児院。
 その名の通りロニーウッドという爺さんが経営する孤児院だ。

 ロニーウッドは孤児院の他にも事業を展開している。
 牧場だか何かで、過去に話した時はすこぶる好調だったはず。
 それでいて、この爺さんは奴隷反対派として有名である。
 孤児院を経営する理由も奴隷化の阻止と宣言しているくらいだ。
 親父がロニーウッドを指名したのはそういう理由からだろう。

「――とまぁ、そんなわけでして、どうか孤児を引き取っていただけませんか?」

 ロニーウッド孤児院に着いた俺は、ロニーウッドにお願いする。
 親父と昔ながらの付き合いであるロニーウッドは、二つ返事で「引き取ろう」と答えてくれた。

「じゃが、ワシも最近は経営が厳しくてな……。引き取れるのは10人が限度じゃ」

 予想外の展開だった。
 俺は「そこをどうにか」と拝み倒す。
 その熱意が伝わり、ロニーウッドが折れてくれた。

「分かった20名を頑張ってみよう!」
「ありがとうございます!」

 ロニーウッドの男気に感謝して、俺は親父の孤児院に戻った。

 ◇

 戻るなり庭で遊んでいた20人の孤児に言う。

「今日から君達にはロニーウッドおじさんの孤児院で暮らしてもらうよ」

 孤児達は不安がりながらも承諾した。
 小さいなりに「他に道はない」と理解しているのだろう。

「では行こうか」

 俺は孤児達を連れてロニーウッド孤児院に向かった。

 親父、見ているか。
 あんたの遺言に従い、ロニーウッドさんに託すからな。
 これであんたが大事にした孤児は奴隷にならずに済むぞ。

 ◇

 ロニーウッド孤児院を出た俺は清算の手続きに入った。
 親父の孤児院を廃業し、土地や建物を国に返上するのだ。
 この作業は書類に記入するだけなので、面倒ではない。

「手続きは以上で完了となります。ロウタ様の所有権は明後日までとなりますから、必要な物がございましたらそれまでに運び出しておいてください」

 役所にて、担当官が俺に言った。
 俺は「はいはい」と答えてその場を去り、孤児院に戻る。

「必要な物なんざ特にないが、一応漁っておくか」

 俺は孤児院の中を調べることにした。
 1つ1つの部屋を回り、何かないかと探す。
 自分が賊になったような気がして不快だった。
 しかし、必要な作業なので致し方ない。

「そしてあとは親父の執務室だけっと」

 何もないまま執務室に着く。
 ここに何もないことはもう分かっていた。
 それでも手を抜くことなく作業に取りかかる。

 そんな時、孤児院の扉を何者かが開いた。
 ギシィィという軋んだ扉の開閉音が聞こえてくる。

「誰だろう」

 こんな所に賊が来ることはない。
 だから割とリラックスした状態で扉に向かった。
 そして、扉のすぐそこで音の主を発見する。

「ふぇぇぇ……誰もいないです?」

 金色の髪をしたエルフの幼女だった。
 幼女は大量のバゲット――俗にフランスパンと呼ばれる長くて固いパンのこと――が詰まった紙袋を両手で抱えている。

「そ、それは……」

 バゲットの隙間からチラリと何かが見えた。
 俺が凝視すると、幼女はバゲットを下げてくれる。
 チラリと見えた何かの正体がハッキリと分かり、俺は絶望した。

「買い出しに出ていたのか……!」

 それは、孤児だと示すタグ付きの首飾りだった。
 ロニーウッドに託した20名の他に、もう1人孤児が居たのだ。
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