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スカルと太田
スカルと太田 2/2
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昨日の埋め合わせのように、今日は大漁だった。
二人のバッグは予備パーツやらパワーセルやらでずっしりと重くなる。
「や~いっぱい手に入ったな」と太田。「日頃の行いがええからやな!」
「くそう、否定してえけど否定できねえ」
スカルは太田のフェイスディスプレイにうつる、にこにこした目の映像を見た。
太田の頭部は円筒形で、ディスプレイは目元にしか無かったが、しばしば人間以上にハツラツとした表情を浮かべるのだ。
「ああ、そうだ」
ふとスカルは思い出した。
「例の食品工場使ってる人間になんかメッセージを残しとこう」
「せやな。探り入れるよりはそのほうが穏健やわ」
「紙とペンあるか?」
「布ならあるで」太田はバッグの中に手を突っ込む。「ほい。余分な油とか拭く用やけど、使えるやろ」
「ありがとよ」
「あとペンやな。頭の青筋マーク書き直すのに使うから常備しとるで」
「なんのための青筋マークなんだ?」
「ん? ただのオシャレ」
「そうか……」
おそらく大破局前にいたであろう太田のオーナーのセンスだろうが、正直ものすごく珍妙だ。
スカルはそう思った。
「お邪魔しやーす」
太田が言いながら入り口をくぐる。
スカルも銃を構えつつ後に続いた。
食品工場は、今日は停止している。生産した食糧も回収されていたが、人影は見えないし反応も無い。
適当な高さの箱を机代わりに、スカルは布へ生存者に向けての伝言を書き綴る。
その間、太田は周囲を見張りながら問いかけてきた。
「もしさあ……生きてる人間と出会えてやで? ……わいら受け入れてもらえるかな……」
「なんだ。おめえらしくねえ」
「いくら毒電波の影響受けんかったっていうても、わいらもロボットなわけやん?」
「……でもおめえは人間を捜してたんだろ?」
「せやけどさあ、もしまた毒電波流れたらーとか思うとな」
「だからこそネットへの接続機能を取っ払ったんだろう? ハードごとよ」
会話をしているうちに書き終わり、スカルは背筋を伸ばす。
「おし、こんなもんかな」
「お……よう書けとるやん」
「ピクトグラムは力作だ」
スカルは必ず目が行くであろう、生産ラインのすぐ近くにメッセージの布を置き、大きめのナットで重しを載せる。
それから太田に向かって言った。
「まあ、おめえが人間に受け入れられるかどうかはわかんねえけど、大丈夫だろ。すくなくともおれは絶対大丈夫だ」
「なんや? エライ自信やな?」
太田は腕を組み、スカルの顔を覗き込む。
「……まあ、わいも言うてるだけでこれっぽっちも心配してへんけどな」
「なんだそりゃ。さっきの弱気はどこから来たんだよ」
「おまいさんに対しての心配からじゃい」
「うわー、お優しい~!」スカルはとぼけた口調で言った。「ただでさえ高い好感度が天井ブチ破っちまったよ」
「せやろ~?」
二人は笑いながら拠点へと戻る。
自室で食事を摂りながら、彼は太田のことを想った。
とぼけたやつだが、大事な友達みたいだ。
改めて実感する。
すると、スカルの「顔」と目が合った。その目が自分に訴えかけてきているような気がした。
そろそろアイツに素顔をさらけ出してみなよ。
そう言われたような感じがして、思わず目を伏せる。
「……ぼくは腰抜けだからさ……死ぬ勇気はおろか、正直になる勇気さえ出てこないんだ」
小さな声だった。
食事を終えると、スーツを装着したまま少しだけ眠り、夜が更けるのを待つ。
予定時刻になって目を覚まし、スカルは外出準備を整えた。
もう食糧が尽きそうなのだ。また回収しに行かねばならない。
監視カメラで太田の拠点を覗ってから、カメラの死角になっているところを伝って外へ出る。
目指すは食糧工場だ。
彼もまた、謎の生存者と同じように放棄された食品の生産プラントを秘密裏に再稼働させて自分の食べる物を確保していたのだ。
誰もいない夜の道を歩くようになって久しい。太田と出会ったころはメックトルーパーが定期的に巡回していたが、人間がいないと判断したのか、めったに出くわさなくなった。
尤も、代わりにより重武装のマイノリティキラーが奇襲をかけてくるようになったが。
工場に到着し、食糧をバッグに詰め込む。大破局前は「P.E.バー」という完全食として売られていたエナジーバーである。
用を済ませるとスカルはさっさと拠点へ戻った。
遠くに拠点の屋根が見えてきたころ、スカルは闇の中に動くものを見とめる。
ズームモードを使ってそれを確かめる。太田だった。
太田は周囲を警戒しながら、自分のいる道とは逆方向へ走っていく。
あの方角は確か、自分とは別の生存者の利用している食糧工場だ。
奇妙に思ったが、どんな用があるにせよこれで何事もなく帰投できる。
スカルはすこし気を抜いて、自室まで戻った。
食糧のたっぷり入ったバッグを肩から降ろし、一息つきつつ監視カメラの映像を見る。
次の瞬間、肝が冷えた。
暴徒鎮圧アーマーを着け、半実体エネルギー弾を撃てるように改造したマグナムリボルバーを持つ敵対機械兵士の姿が映ったのである。
マイノリティキラーだ。あの時仕留め損ねたヤツだ。
スカルは音を立てないよう、しかし急いで銃を手にし、画面を睨む。
マイノリティキラーはこちらと、太田の拠点を交互に見ると、地面に顔を向けた。
それからしばらく立ち尽くし、やがて太田の歩いていった方を見る。
まさか太田の足首を追うつもりか?
スカルがそう思った直後、マイノリティキラーは危惧通りの行動を起こした。
あっという間にマイノリティキラーはカメラから消え、スカルは太田に通信を送る。
「太田! マイノリティキラーがおめえを追ってる!」
が、太田からの返事は無い。回線を切っているみたいだ。
スカルはありったけの予備マガジンと弾薬をベルトのポーチに突っ込み、マイノリティキラーを追跡した。
パワードスーツを着ていて、息が上がるほど走ったのはこれが初めてだ。
マイノリティキラーは自分よりも速く、しかもペースはまったく落ちていない。
が、スカルはマイノリティキラーをロックオンしたまま、追走を続ける。
何度撃ってやろうかと考えたが、この距離では先日の二の舞いになるのは明白だ。
ヤツが足を止めるまでとことん追いかけるしかない。
そして太田に危害を加えようとする前に装甲の隙間を撃ってやる。
食糧工場と、太田の背が見えてきて、スカルは大声で叫んだ。
「伏せろ! マイノリティキラーだ!」
太田が気づくや否や、マイノリティキラーがパワーチャージショットを放つ。
対艦ミサイル並の破壊エネルギーが轟き、間一髪でしゃがんだ太田の頭上を掠めると工場の壁を消し飛ばした。
「クソッタレがァ!」
罵声と共にスカルは跳び、マイノリティキラーの背中に蹴りを浴びせる。
スカルはマイノリティキラーと共に地面を転がり、互いに銃口を向けあった。
が、こちらが引き金を引く前に敵は銃を払い除けて撃つ。
スカルは紙一重で銃撃を躱した。
マイノリティキラーは姿勢の崩れたスカルに拳打を当ててふっ飛ばす。
頭を揺さぶられ、スカルは地を這ったまま呻く。
相手の銃口が再度こちらを向いたその時、太田の斬撃がマイノリティキラーの背を斬った。
「オラオラ卑怯とか言うなや!」
超振動ナイフを構え、太田はさらに追撃する。
それをマイノリティキラーは受け流し、足払いを放って転がした。
回復したスカルは、転がる太田の横をすり抜けて近づき、撃つ。
至近距離からの銃撃はかなり効いたようだ。
マイノリティキラーは大きく仰け反り、火花を散らす。
だが相手も撃ち返してきた。
半実体弾はスカルの脇腹を掠り、装甲を溶かして抉ると、地面に石と土砂の柱を立てた。
象撃ち銃弾さながらの威力だ。チャージ無しだというのに。
スカルは冷や汗をかきながらも、撃ち続ける。
マイノリティキラーは銃撃を避けながら、銃のパワーセルカートリッジを交換していた。
こちらも弾切れを起こし、そこに隙ができる。
自分の最期を覚悟した瞬間、太田が彼を庇った。
太田は腕の装甲を盾として展開し、銃撃をはじく。
「ダテに太っちょボディーちゃうねんで」
マイノリティキラーはさらに連射するが、その全てを防ぎきり、太田は言う。
「今のうちにリロードや!」
「もうしてる!」
スカルは予備マガジンを挿し込み、ロックしたコッキングハンドルを叩く。
初弾が装填され、再びスカルの銃が火を噴いた。
銃撃がマイノリティキラーの脚部を貫き、今度は敵が地面に這いつくばる。
スカルと太田はトドメを刺さんと、同時攻撃を仕掛けようとした。
しかしそのとき、マイノリティキラーが太田の胸部装甲を砕く。
構造上どうしても強度が低くなるジョイント部を狙ったのだ。
装甲板が剥がれ落ち、内部機械が飛び散り、太田は地面に叩きつけられてから仰向けに寝転がった。
「太田ァ!」
スカルは叫ぶ。
マイノリティキラーはスカルにも撃ってきた。
ぎりぎりで避けるが、ヘッドパーツの左半分が割れ、素顔がさらけ出される。
スカルはそんなことなどお構いなしに、弾の嵐をマイノリティキラーに叩きつけた。
マガジンが空になるまで撃ちまくり、コアユニットもパワーセルも、装備品も全て粉々にする。
硝煙が辺りを真っ白にして、ようやく脅威を除いたことを自覚した。
我に返り、太田に駆け寄る。
素顔が露出したままだが、もうそんなことはどうでもいい。自分の正体の露見よりも太田の安否のほうが心配だ。
「太田! しっかりしろ!」
スカルは太田の胸元を見る。
するとそこで気づいた。
太田の装甲の裏に、機械骨格が無いことに。
見えているのは布の服――人間の体だった。
まさか……。
スカルは恐る恐る、太田のヘッドパーツを外してみる。
すると、人間の顔が出てきた。垢抜けないがひょうきんな顔立ちの、ふくよかな女性だった。
彼女は意識を取り戻し、スカルを見て驚く。
「あんた……アンタ人間やったんか!?」
「おんなじこと言ってやるよオメェ人間だったのか!?」
翌朝、二人はスーツの修復を終えると旅に出る用意をした。
スカルは全ての荷物をトラックに積む。
「さて、一段落したところで――」
彼は太田に問いかけた。
「なんでマイノリティのフリを?」
「大破局のすぐ後くらいにさ、汚染されたロボットが汚染されてへんロボット連行してくのよく見かけたのよ。そっからヒントを得て、な」
「なるほど……人間だったら即殺されちまうもんな」
「せやねん。で、実際効果あったのよ。何回か連行されてんけど、その度に隙を見て逃げ出したったわ!」
太田は胸を張って笑う。
「あの食糧工場もきみが?」
「せやで。まさかあの道からあそこに繋がってるとは思わんかったし、見つかったときはホンマ冷や汗モンやったわ」
「……あの上半身は? おれに助け求めてただろ? どういうカラクリだったんだ?」
「予備の装甲の中にメックトルーパーの骨格入れて、遠隔操作で。見事に騙されとったな!」
「ああ、コロッと騙されちまったよ。見事なもんだ」
二人は笑い合い、互いを指差す。
それから太田が訊いてきた。
「――そういうスカルはなんでマイノリティのフリしてたん? やっぱりアルビノやとしんどいから?」
「それもある。だけどおれの場合は……」
スカルはヘッドパーツを脱ぎ、それに目を落とす。
「コイツは親友の形見なんだ。スカルっていう名前も、おれのじゃない」
「……そっか。忘れさせたくないんやね、初代スカルはんを」
「そんな崇高な動機じゃねえさ」
そう言いながら彼は再びスカルのヘッドパーツを被る。
「ただの現実逃避だよ。生き残ったのはスカルで、ぼくはもう死んだ。だからアイツのぶんまで、おれは生きなきゃならねえ。そう思い込んでな」
「……わいには、アンタの判断が正しいとは言い切れへんけどさ」
太田は言いながらスカルと肩を組む。
「間違ってへんと思うで」
「太田……」
「せっかく拾った命なんやし、こうしてわいとも出会えたやろ? 二代目スカルとして、これからも生きてこうや」
「……ありがとうな」
スカルは仮面の下で微笑んだ。
そして車に乗り込み、出発する。スカルの運転だ。
道中、太田はヘッドパーツを外しておいしそうにパンケーキを食べている。
ほんとうに、いい友達と出会えた。
スカルの心に、久しぶりに嬉しさの火が灯った。
了
昨日の埋め合わせのように、今日は大漁だった。
二人のバッグは予備パーツやらパワーセルやらでずっしりと重くなる。
「や~いっぱい手に入ったな」と太田。「日頃の行いがええからやな!」
「くそう、否定してえけど否定できねえ」
スカルは太田のフェイスディスプレイにうつる、にこにこした目の映像を見た。
太田の頭部は円筒形で、ディスプレイは目元にしか無かったが、しばしば人間以上にハツラツとした表情を浮かべるのだ。
「ああ、そうだ」
ふとスカルは思い出した。
「例の食品工場使ってる人間になんかメッセージを残しとこう」
「せやな。探り入れるよりはそのほうが穏健やわ」
「紙とペンあるか?」
「布ならあるで」太田はバッグの中に手を突っ込む。「ほい。余分な油とか拭く用やけど、使えるやろ」
「ありがとよ」
「あとペンやな。頭の青筋マーク書き直すのに使うから常備しとるで」
「なんのための青筋マークなんだ?」
「ん? ただのオシャレ」
「そうか……」
おそらく大破局前にいたであろう太田のオーナーのセンスだろうが、正直ものすごく珍妙だ。
スカルはそう思った。
「お邪魔しやーす」
太田が言いながら入り口をくぐる。
スカルも銃を構えつつ後に続いた。
食品工場は、今日は停止している。生産した食糧も回収されていたが、人影は見えないし反応も無い。
適当な高さの箱を机代わりに、スカルは布へ生存者に向けての伝言を書き綴る。
その間、太田は周囲を見張りながら問いかけてきた。
「もしさあ……生きてる人間と出会えてやで? ……わいら受け入れてもらえるかな……」
「なんだ。おめえらしくねえ」
「いくら毒電波の影響受けんかったっていうても、わいらもロボットなわけやん?」
「……でもおめえは人間を捜してたんだろ?」
「せやけどさあ、もしまた毒電波流れたらーとか思うとな」
「だからこそネットへの接続機能を取っ払ったんだろう? ハードごとよ」
会話をしているうちに書き終わり、スカルは背筋を伸ばす。
「おし、こんなもんかな」
「お……よう書けとるやん」
「ピクトグラムは力作だ」
スカルは必ず目が行くであろう、生産ラインのすぐ近くにメッセージの布を置き、大きめのナットで重しを載せる。
それから太田に向かって言った。
「まあ、おめえが人間に受け入れられるかどうかはわかんねえけど、大丈夫だろ。すくなくともおれは絶対大丈夫だ」
「なんや? エライ自信やな?」
太田は腕を組み、スカルの顔を覗き込む。
「……まあ、わいも言うてるだけでこれっぽっちも心配してへんけどな」
「なんだそりゃ。さっきの弱気はどこから来たんだよ」
「おまいさんに対しての心配からじゃい」
「うわー、お優しい~!」スカルはとぼけた口調で言った。「ただでさえ高い好感度が天井ブチ破っちまったよ」
「せやろ~?」
二人は笑いながら拠点へと戻る。
自室で食事を摂りながら、彼は太田のことを想った。
とぼけたやつだが、大事な友達みたいだ。
改めて実感する。
すると、スカルの「顔」と目が合った。その目が自分に訴えかけてきているような気がした。
そろそろアイツに素顔をさらけ出してみなよ。
そう言われたような感じがして、思わず目を伏せる。
「……ぼくは腰抜けだからさ……死ぬ勇気はおろか、正直になる勇気さえ出てこないんだ」
小さな声だった。
食事を終えると、スーツを装着したまま少しだけ眠り、夜が更けるのを待つ。
予定時刻になって目を覚まし、スカルは外出準備を整えた。
もう食糧が尽きそうなのだ。また回収しに行かねばならない。
監視カメラで太田の拠点を覗ってから、カメラの死角になっているところを伝って外へ出る。
目指すは食糧工場だ。
彼もまた、謎の生存者と同じように放棄された食品の生産プラントを秘密裏に再稼働させて自分の食べる物を確保していたのだ。
誰もいない夜の道を歩くようになって久しい。太田と出会ったころはメックトルーパーが定期的に巡回していたが、人間がいないと判断したのか、めったに出くわさなくなった。
尤も、代わりにより重武装のマイノリティキラーが奇襲をかけてくるようになったが。
工場に到着し、食糧をバッグに詰め込む。大破局前は「P.E.バー」という完全食として売られていたエナジーバーである。
用を済ませるとスカルはさっさと拠点へ戻った。
遠くに拠点の屋根が見えてきたころ、スカルは闇の中に動くものを見とめる。
ズームモードを使ってそれを確かめる。太田だった。
太田は周囲を警戒しながら、自分のいる道とは逆方向へ走っていく。
あの方角は確か、自分とは別の生存者の利用している食糧工場だ。
奇妙に思ったが、どんな用があるにせよこれで何事もなく帰投できる。
スカルはすこし気を抜いて、自室まで戻った。
食糧のたっぷり入ったバッグを肩から降ろし、一息つきつつ監視カメラの映像を見る。
次の瞬間、肝が冷えた。
暴徒鎮圧アーマーを着け、半実体エネルギー弾を撃てるように改造したマグナムリボルバーを持つ敵対機械兵士の姿が映ったのである。
マイノリティキラーだ。あの時仕留め損ねたヤツだ。
スカルは音を立てないよう、しかし急いで銃を手にし、画面を睨む。
マイノリティキラーはこちらと、太田の拠点を交互に見ると、地面に顔を向けた。
それからしばらく立ち尽くし、やがて太田の歩いていった方を見る。
まさか太田の足首を追うつもりか?
スカルがそう思った直後、マイノリティキラーは危惧通りの行動を起こした。
あっという間にマイノリティキラーはカメラから消え、スカルは太田に通信を送る。
「太田! マイノリティキラーがおめえを追ってる!」
が、太田からの返事は無い。回線を切っているみたいだ。
スカルはありったけの予備マガジンと弾薬をベルトのポーチに突っ込み、マイノリティキラーを追跡した。
パワードスーツを着ていて、息が上がるほど走ったのはこれが初めてだ。
マイノリティキラーは自分よりも速く、しかもペースはまったく落ちていない。
が、スカルはマイノリティキラーをロックオンしたまま、追走を続ける。
何度撃ってやろうかと考えたが、この距離では先日の二の舞いになるのは明白だ。
ヤツが足を止めるまでとことん追いかけるしかない。
そして太田に危害を加えようとする前に装甲の隙間を撃ってやる。
食糧工場と、太田の背が見えてきて、スカルは大声で叫んだ。
「伏せろ! マイノリティキラーだ!」
太田が気づくや否や、マイノリティキラーがパワーチャージショットを放つ。
対艦ミサイル並の破壊エネルギーが轟き、間一髪でしゃがんだ太田の頭上を掠めると工場の壁を消し飛ばした。
「クソッタレがァ!」
罵声と共にスカルは跳び、マイノリティキラーの背中に蹴りを浴びせる。
スカルはマイノリティキラーと共に地面を転がり、互いに銃口を向けあった。
が、こちらが引き金を引く前に敵は銃を払い除けて撃つ。
スカルは紙一重で銃撃を躱した。
マイノリティキラーは姿勢の崩れたスカルに拳打を当ててふっ飛ばす。
頭を揺さぶられ、スカルは地を這ったまま呻く。
相手の銃口が再度こちらを向いたその時、太田の斬撃がマイノリティキラーの背を斬った。
「オラオラ卑怯とか言うなや!」
超振動ナイフを構え、太田はさらに追撃する。
それをマイノリティキラーは受け流し、足払いを放って転がした。
回復したスカルは、転がる太田の横をすり抜けて近づき、撃つ。
至近距離からの銃撃はかなり効いたようだ。
マイノリティキラーは大きく仰け反り、火花を散らす。
だが相手も撃ち返してきた。
半実体弾はスカルの脇腹を掠り、装甲を溶かして抉ると、地面に石と土砂の柱を立てた。
象撃ち銃弾さながらの威力だ。チャージ無しだというのに。
スカルは冷や汗をかきながらも、撃ち続ける。
マイノリティキラーは銃撃を避けながら、銃のパワーセルカートリッジを交換していた。
こちらも弾切れを起こし、そこに隙ができる。
自分の最期を覚悟した瞬間、太田が彼を庇った。
太田は腕の装甲を盾として展開し、銃撃をはじく。
「ダテに太っちょボディーちゃうねんで」
マイノリティキラーはさらに連射するが、その全てを防ぎきり、太田は言う。
「今のうちにリロードや!」
「もうしてる!」
スカルは予備マガジンを挿し込み、ロックしたコッキングハンドルを叩く。
初弾が装填され、再びスカルの銃が火を噴いた。
銃撃がマイノリティキラーの脚部を貫き、今度は敵が地面に這いつくばる。
スカルと太田はトドメを刺さんと、同時攻撃を仕掛けようとした。
しかしそのとき、マイノリティキラーが太田の胸部装甲を砕く。
構造上どうしても強度が低くなるジョイント部を狙ったのだ。
装甲板が剥がれ落ち、内部機械が飛び散り、太田は地面に叩きつけられてから仰向けに寝転がった。
「太田ァ!」
スカルは叫ぶ。
マイノリティキラーはスカルにも撃ってきた。
ぎりぎりで避けるが、ヘッドパーツの左半分が割れ、素顔がさらけ出される。
スカルはそんなことなどお構いなしに、弾の嵐をマイノリティキラーに叩きつけた。
マガジンが空になるまで撃ちまくり、コアユニットもパワーセルも、装備品も全て粉々にする。
硝煙が辺りを真っ白にして、ようやく脅威を除いたことを自覚した。
我に返り、太田に駆け寄る。
素顔が露出したままだが、もうそんなことはどうでもいい。自分の正体の露見よりも太田の安否のほうが心配だ。
「太田! しっかりしろ!」
スカルは太田の胸元を見る。
するとそこで気づいた。
太田の装甲の裏に、機械骨格が無いことに。
見えているのは布の服――人間の体だった。
まさか……。
スカルは恐る恐る、太田のヘッドパーツを外してみる。
すると、人間の顔が出てきた。垢抜けないがひょうきんな顔立ちの、ふくよかな女性だった。
彼女は意識を取り戻し、スカルを見て驚く。
「あんた……アンタ人間やったんか!?」
「おんなじこと言ってやるよオメェ人間だったのか!?」
翌朝、二人はスーツの修復を終えると旅に出る用意をした。
スカルは全ての荷物をトラックに積む。
「さて、一段落したところで――」
彼は太田に問いかけた。
「なんでマイノリティのフリを?」
「大破局のすぐ後くらいにさ、汚染されたロボットが汚染されてへんロボット連行してくのよく見かけたのよ。そっからヒントを得て、な」
「なるほど……人間だったら即殺されちまうもんな」
「せやねん。で、実際効果あったのよ。何回か連行されてんけど、その度に隙を見て逃げ出したったわ!」
太田は胸を張って笑う。
「あの食糧工場もきみが?」
「せやで。まさかあの道からあそこに繋がってるとは思わんかったし、見つかったときはホンマ冷や汗モンやったわ」
「……あの上半身は? おれに助け求めてただろ? どういうカラクリだったんだ?」
「予備の装甲の中にメックトルーパーの骨格入れて、遠隔操作で。見事に騙されとったな!」
「ああ、コロッと騙されちまったよ。見事なもんだ」
二人は笑い合い、互いを指差す。
それから太田が訊いてきた。
「――そういうスカルはなんでマイノリティのフリしてたん? やっぱりアルビノやとしんどいから?」
「それもある。だけどおれの場合は……」
スカルはヘッドパーツを脱ぎ、それに目を落とす。
「コイツは親友の形見なんだ。スカルっていう名前も、おれのじゃない」
「……そっか。忘れさせたくないんやね、初代スカルはんを」
「そんな崇高な動機じゃねえさ」
そう言いながら彼は再びスカルのヘッドパーツを被る。
「ただの現実逃避だよ。生き残ったのはスカルで、ぼくはもう死んだ。だからアイツのぶんまで、おれは生きなきゃならねえ。そう思い込んでな」
「……わいには、アンタの判断が正しいとは言い切れへんけどさ」
太田は言いながらスカルと肩を組む。
「間違ってへんと思うで」
「太田……」
「せっかく拾った命なんやし、こうしてわいとも出会えたやろ? 二代目スカルとして、これからも生きてこうや」
「……ありがとうな」
スカルは仮面の下で微笑んだ。
そして車に乗り込み、出発する。スカルの運転だ。
道中、太田はヘッドパーツを外しておいしそうにパンケーキを食べている。
ほんとうに、いい友達と出会えた。
スカルの心に、久しぶりに嬉しさの火が灯った。
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