9 / 18
スカルと太田
スカルと太田 2/2
しおりを挟む
2
昨日の埋め合わせのように、今日は大漁だった。
二人のバッグは予備パーツやらパワーセルやらでずっしりと重くなる。
「や~いっぱい手に入ったな」と太田。「日頃の行いがええからやな!」
「くそう、否定してえけど否定できねえ」
スカルは太田のフェイスディスプレイにうつる、にこにこした目の映像を見た。
太田の頭部は円筒形で、ディスプレイは目元にしか無かったが、しばしば人間以上にハツラツとした表情を浮かべるのだ。
「ああ、そうだ」
ふとスカルは思い出した。
「例の食品工場使ってる人間になんかメッセージを残しとこう」
「せやな。探り入れるよりはそのほうが穏健やわ」
「紙とペンあるか?」
「布ならあるで」太田はバッグの中に手を突っ込む。「ほい。余分な油とか拭く用やけど、使えるやろ」
「ありがとよ」
「あとペンやな。頭の青筋マーク書き直すのに使うから常備しとるで」
「なんのための青筋マークなんだ?」
「ん? ただのオシャレ」
「そうか……」
おそらく大破局前にいたであろう太田のオーナーのセンスだろうが、正直ものすごく珍妙だ。
スカルはそう思った。
「お邪魔しやーす」
太田が言いながら入り口をくぐる。
スカルも銃を構えつつ後に続いた。
食品工場は、今日は停止している。生産した食糧も回収されていたが、人影は見えないし反応も無い。
適当な高さの箱を机代わりに、スカルは布へ生存者に向けての伝言を書き綴る。
その間、太田は周囲を見張りながら問いかけてきた。
「もしさあ……生きてる人間と出会えてやで? ……わいら受け入れてもらえるかな……」
「なんだ。おめえらしくねえ」
「いくら毒電波の影響受けんかったっていうても、わいらもロボットなわけやん?」
「……でもおめえは人間を捜してたんだろ?」
「せやけどさあ、もしまた毒電波流れたらーとか思うとな」
「だからこそネットへの接続機能を取っ払ったんだろう? ハードごとよ」
会話をしているうちに書き終わり、スカルは背筋を伸ばす。
「おし、こんなもんかな」
「お……よう書けとるやん」
「ピクトグラムは力作だ」
スカルは必ず目が行くであろう、生産ラインのすぐ近くにメッセージの布を置き、大きめのナットで重しを載せる。
それから太田に向かって言った。
「まあ、おめえが人間に受け入れられるかどうかはわかんねえけど、大丈夫だろ。すくなくともおれは絶対大丈夫だ」
「なんや? エライ自信やな?」
太田は腕を組み、スカルの顔を覗き込む。
「……まあ、わいも言うてるだけでこれっぽっちも心配してへんけどな」
「なんだそりゃ。さっきの弱気はどこから来たんだよ」
「おまいさんに対しての心配からじゃい」
「うわー、お優しい~!」スカルはとぼけた口調で言った。「ただでさえ高い好感度が天井ブチ破っちまったよ」
「せやろ~?」
二人は笑いながら拠点へと戻る。
自室で食事を摂りながら、彼は太田のことを想った。
とぼけたやつだが、大事な友達みたいだ。
改めて実感する。
すると、スカルの「顔」と目が合った。その目が自分に訴えかけてきているような気がした。
そろそろアイツに素顔をさらけ出してみなよ。
そう言われたような感じがして、思わず目を伏せる。
「……ぼくは腰抜けだからさ……死ぬ勇気はおろか、正直になる勇気さえ出てこないんだ」
小さな声だった。
食事を終えると、スーツを装着したまま少しだけ眠り、夜が更けるのを待つ。
予定時刻になって目を覚まし、スカルは外出準備を整えた。
もう食糧が尽きそうなのだ。また回収しに行かねばならない。
監視カメラで太田の拠点を覗ってから、カメラの死角になっているところを伝って外へ出る。
目指すは食糧工場だ。
彼もまた、謎の生存者と同じように放棄された食品の生産プラントを秘密裏に再稼働させて自分の食べる物を確保していたのだ。
誰もいない夜の道を歩くようになって久しい。太田と出会ったころはメックトルーパーが定期的に巡回していたが、人間がいないと判断したのか、めったに出くわさなくなった。
尤も、代わりにより重武装のマイノリティキラーが奇襲をかけてくるようになったが。
工場に到着し、食糧をバッグに詰め込む。大破局前は「P.E.バー」という完全食として売られていたエナジーバーである。
用を済ませるとスカルはさっさと拠点へ戻った。
遠くに拠点の屋根が見えてきたころ、スカルは闇の中に動くものを見とめる。
ズームモードを使ってそれを確かめる。太田だった。
太田は周囲を警戒しながら、自分のいる道とは逆方向へ走っていく。
あの方角は確か、自分とは別の生存者の利用している食糧工場だ。
奇妙に思ったが、どんな用があるにせよこれで何事もなく帰投できる。
スカルはすこし気を抜いて、自室まで戻った。
食糧のたっぷり入ったバッグを肩から降ろし、一息つきつつ監視カメラの映像を見る。
次の瞬間、肝が冷えた。
暴徒鎮圧アーマーを着け、半実体エネルギー弾を撃てるように改造したマグナムリボルバーを持つ敵対機械兵士の姿が映ったのである。
マイノリティキラーだ。あの時仕留め損ねたヤツだ。
スカルは音を立てないよう、しかし急いで銃を手にし、画面を睨む。
マイノリティキラーはこちらと、太田の拠点を交互に見ると、地面に顔を向けた。
それからしばらく立ち尽くし、やがて太田の歩いていった方を見る。
まさか太田の足首を追うつもりか?
スカルがそう思った直後、マイノリティキラーは危惧通りの行動を起こした。
あっという間にマイノリティキラーはカメラから消え、スカルは太田に通信を送る。
「太田! マイノリティキラーがおめえを追ってる!」
が、太田からの返事は無い。回線を切っているみたいだ。
スカルはありったけの予備マガジンと弾薬をベルトのポーチに突っ込み、マイノリティキラーを追跡した。
パワードスーツを着ていて、息が上がるほど走ったのはこれが初めてだ。
マイノリティキラーは自分よりも速く、しかもペースはまったく落ちていない。
が、スカルはマイノリティキラーをロックオンしたまま、追走を続ける。
何度撃ってやろうかと考えたが、この距離では先日の二の舞いになるのは明白だ。
ヤツが足を止めるまでとことん追いかけるしかない。
そして太田に危害を加えようとする前に装甲の隙間を撃ってやる。
食糧工場と、太田の背が見えてきて、スカルは大声で叫んだ。
「伏せろ! マイノリティキラーだ!」
太田が気づくや否や、マイノリティキラーがパワーチャージショットを放つ。
対艦ミサイル並の破壊エネルギーが轟き、間一髪でしゃがんだ太田の頭上を掠めると工場の壁を消し飛ばした。
「クソッタレがァ!」
罵声と共にスカルは跳び、マイノリティキラーの背中に蹴りを浴びせる。
スカルはマイノリティキラーと共に地面を転がり、互いに銃口を向けあった。
が、こちらが引き金を引く前に敵は銃を払い除けて撃つ。
スカルは紙一重で銃撃を躱した。
マイノリティキラーは姿勢の崩れたスカルに拳打を当ててふっ飛ばす。
頭を揺さぶられ、スカルは地を這ったまま呻く。
相手の銃口が再度こちらを向いたその時、太田の斬撃がマイノリティキラーの背を斬った。
「オラオラ卑怯とか言うなや!」
超振動ナイフを構え、太田はさらに追撃する。
それをマイノリティキラーは受け流し、足払いを放って転がした。
回復したスカルは、転がる太田の横をすり抜けて近づき、撃つ。
至近距離からの銃撃はかなり効いたようだ。
マイノリティキラーは大きく仰け反り、火花を散らす。
だが相手も撃ち返してきた。
半実体弾はスカルの脇腹を掠り、装甲を溶かして抉ると、地面に石と土砂の柱を立てた。
象撃ち銃弾さながらの威力だ。チャージ無しだというのに。
スカルは冷や汗をかきながらも、撃ち続ける。
マイノリティキラーは銃撃を避けながら、銃のパワーセルカートリッジを交換していた。
こちらも弾切れを起こし、そこに隙ができる。
自分の最期を覚悟した瞬間、太田が彼を庇った。
太田は腕の装甲を盾として展開し、銃撃をはじく。
「ダテに太っちょボディーちゃうねんで」
マイノリティキラーはさらに連射するが、その全てを防ぎきり、太田は言う。
「今のうちにリロードや!」
「もうしてる!」
スカルは予備マガジンを挿し込み、ロックしたコッキングハンドルを叩く。
初弾が装填され、再びスカルの銃が火を噴いた。
銃撃がマイノリティキラーの脚部を貫き、今度は敵が地面に這いつくばる。
スカルと太田はトドメを刺さんと、同時攻撃を仕掛けようとした。
しかしそのとき、マイノリティキラーが太田の胸部装甲を砕く。
構造上どうしても強度が低くなるジョイント部を狙ったのだ。
装甲板が剥がれ落ち、内部機械が飛び散り、太田は地面に叩きつけられてから仰向けに寝転がった。
「太田ァ!」
スカルは叫ぶ。
マイノリティキラーはスカルにも撃ってきた。
ぎりぎりで避けるが、ヘッドパーツの左半分が割れ、素顔がさらけ出される。
スカルはそんなことなどお構いなしに、弾の嵐をマイノリティキラーに叩きつけた。
マガジンが空になるまで撃ちまくり、コアユニットもパワーセルも、装備品も全て粉々にする。
硝煙が辺りを真っ白にして、ようやく脅威を除いたことを自覚した。
我に返り、太田に駆け寄る。
素顔が露出したままだが、もうそんなことはどうでもいい。自分の正体の露見よりも太田の安否のほうが心配だ。
「太田! しっかりしろ!」
スカルは太田の胸元を見る。
するとそこで気づいた。
太田の装甲の裏に、機械骨格が無いことに。
見えているのは布の服――人間の体だった。
まさか……。
スカルは恐る恐る、太田のヘッドパーツを外してみる。
すると、人間の顔が出てきた。垢抜けないがひょうきんな顔立ちの、ふくよかな女性だった。
彼女は意識を取り戻し、スカルを見て驚く。
「あんた……アンタ人間やったんか!?」
「おんなじこと言ってやるよオメェ人間だったのか!?」
翌朝、二人はスーツの修復を終えると旅に出る用意をした。
スカルは全ての荷物をトラックに積む。
「さて、一段落したところで――」
彼は太田に問いかけた。
「なんでマイノリティのフリを?」
「大破局のすぐ後くらいにさ、汚染されたロボットが汚染されてへんロボット連行してくのよく見かけたのよ。そっからヒントを得て、な」
「なるほど……人間だったら即殺されちまうもんな」
「せやねん。で、実際効果あったのよ。何回か連行されてんけど、その度に隙を見て逃げ出したったわ!」
太田は胸を張って笑う。
「あの食糧工場もきみが?」
「せやで。まさかあの道からあそこに繋がってるとは思わんかったし、見つかったときはホンマ冷や汗モンやったわ」
「……あの上半身は? おれに助け求めてただろ? どういうカラクリだったんだ?」
「予備の装甲の中にメックトルーパーの骨格入れて、遠隔操作で。見事に騙されとったな!」
「ああ、コロッと騙されちまったよ。見事なもんだ」
二人は笑い合い、互いを指差す。
それから太田が訊いてきた。
「――そういうスカルはなんでマイノリティのフリしてたん? やっぱりアルビノやとしんどいから?」
「それもある。だけどおれの場合は……」
スカルはヘッドパーツを脱ぎ、それに目を落とす。
「コイツは親友の形見なんだ。スカルっていう名前も、おれのじゃない」
「……そっか。忘れさせたくないんやね、初代スカルはんを」
「そんな崇高な動機じゃねえさ」
そう言いながら彼は再びスカルのヘッドパーツを被る。
「ただの現実逃避だよ。生き残ったのはスカルで、ぼくはもう死んだ。だからアイツのぶんまで、おれは生きなきゃならねえ。そう思い込んでな」
「……わいには、アンタの判断が正しいとは言い切れへんけどさ」
太田は言いながらスカルと肩を組む。
「間違ってへんと思うで」
「太田……」
「せっかく拾った命なんやし、こうしてわいとも出会えたやろ? 二代目スカルとして、これからも生きてこうや」
「……ありがとうな」
スカルは仮面の下で微笑んだ。
そして車に乗り込み、出発する。スカルの運転だ。
道中、太田はヘッドパーツを外しておいしそうにパンケーキを食べている。
ほんとうに、いい友達と出会えた。
スカルの心に、久しぶりに嬉しさの火が灯った。
了
昨日の埋め合わせのように、今日は大漁だった。
二人のバッグは予備パーツやらパワーセルやらでずっしりと重くなる。
「や~いっぱい手に入ったな」と太田。「日頃の行いがええからやな!」
「くそう、否定してえけど否定できねえ」
スカルは太田のフェイスディスプレイにうつる、にこにこした目の映像を見た。
太田の頭部は円筒形で、ディスプレイは目元にしか無かったが、しばしば人間以上にハツラツとした表情を浮かべるのだ。
「ああ、そうだ」
ふとスカルは思い出した。
「例の食品工場使ってる人間になんかメッセージを残しとこう」
「せやな。探り入れるよりはそのほうが穏健やわ」
「紙とペンあるか?」
「布ならあるで」太田はバッグの中に手を突っ込む。「ほい。余分な油とか拭く用やけど、使えるやろ」
「ありがとよ」
「あとペンやな。頭の青筋マーク書き直すのに使うから常備しとるで」
「なんのための青筋マークなんだ?」
「ん? ただのオシャレ」
「そうか……」
おそらく大破局前にいたであろう太田のオーナーのセンスだろうが、正直ものすごく珍妙だ。
スカルはそう思った。
「お邪魔しやーす」
太田が言いながら入り口をくぐる。
スカルも銃を構えつつ後に続いた。
食品工場は、今日は停止している。生産した食糧も回収されていたが、人影は見えないし反応も無い。
適当な高さの箱を机代わりに、スカルは布へ生存者に向けての伝言を書き綴る。
その間、太田は周囲を見張りながら問いかけてきた。
「もしさあ……生きてる人間と出会えてやで? ……わいら受け入れてもらえるかな……」
「なんだ。おめえらしくねえ」
「いくら毒電波の影響受けんかったっていうても、わいらもロボットなわけやん?」
「……でもおめえは人間を捜してたんだろ?」
「せやけどさあ、もしまた毒電波流れたらーとか思うとな」
「だからこそネットへの接続機能を取っ払ったんだろう? ハードごとよ」
会話をしているうちに書き終わり、スカルは背筋を伸ばす。
「おし、こんなもんかな」
「お……よう書けとるやん」
「ピクトグラムは力作だ」
スカルは必ず目が行くであろう、生産ラインのすぐ近くにメッセージの布を置き、大きめのナットで重しを載せる。
それから太田に向かって言った。
「まあ、おめえが人間に受け入れられるかどうかはわかんねえけど、大丈夫だろ。すくなくともおれは絶対大丈夫だ」
「なんや? エライ自信やな?」
太田は腕を組み、スカルの顔を覗き込む。
「……まあ、わいも言うてるだけでこれっぽっちも心配してへんけどな」
「なんだそりゃ。さっきの弱気はどこから来たんだよ」
「おまいさんに対しての心配からじゃい」
「うわー、お優しい~!」スカルはとぼけた口調で言った。「ただでさえ高い好感度が天井ブチ破っちまったよ」
「せやろ~?」
二人は笑いながら拠点へと戻る。
自室で食事を摂りながら、彼は太田のことを想った。
とぼけたやつだが、大事な友達みたいだ。
改めて実感する。
すると、スカルの「顔」と目が合った。その目が自分に訴えかけてきているような気がした。
そろそろアイツに素顔をさらけ出してみなよ。
そう言われたような感じがして、思わず目を伏せる。
「……ぼくは腰抜けだからさ……死ぬ勇気はおろか、正直になる勇気さえ出てこないんだ」
小さな声だった。
食事を終えると、スーツを装着したまま少しだけ眠り、夜が更けるのを待つ。
予定時刻になって目を覚まし、スカルは外出準備を整えた。
もう食糧が尽きそうなのだ。また回収しに行かねばならない。
監視カメラで太田の拠点を覗ってから、カメラの死角になっているところを伝って外へ出る。
目指すは食糧工場だ。
彼もまた、謎の生存者と同じように放棄された食品の生産プラントを秘密裏に再稼働させて自分の食べる物を確保していたのだ。
誰もいない夜の道を歩くようになって久しい。太田と出会ったころはメックトルーパーが定期的に巡回していたが、人間がいないと判断したのか、めったに出くわさなくなった。
尤も、代わりにより重武装のマイノリティキラーが奇襲をかけてくるようになったが。
工場に到着し、食糧をバッグに詰め込む。大破局前は「P.E.バー」という完全食として売られていたエナジーバーである。
用を済ませるとスカルはさっさと拠点へ戻った。
遠くに拠点の屋根が見えてきたころ、スカルは闇の中に動くものを見とめる。
ズームモードを使ってそれを確かめる。太田だった。
太田は周囲を警戒しながら、自分のいる道とは逆方向へ走っていく。
あの方角は確か、自分とは別の生存者の利用している食糧工場だ。
奇妙に思ったが、どんな用があるにせよこれで何事もなく帰投できる。
スカルはすこし気を抜いて、自室まで戻った。
食糧のたっぷり入ったバッグを肩から降ろし、一息つきつつ監視カメラの映像を見る。
次の瞬間、肝が冷えた。
暴徒鎮圧アーマーを着け、半実体エネルギー弾を撃てるように改造したマグナムリボルバーを持つ敵対機械兵士の姿が映ったのである。
マイノリティキラーだ。あの時仕留め損ねたヤツだ。
スカルは音を立てないよう、しかし急いで銃を手にし、画面を睨む。
マイノリティキラーはこちらと、太田の拠点を交互に見ると、地面に顔を向けた。
それからしばらく立ち尽くし、やがて太田の歩いていった方を見る。
まさか太田の足首を追うつもりか?
スカルがそう思った直後、マイノリティキラーは危惧通りの行動を起こした。
あっという間にマイノリティキラーはカメラから消え、スカルは太田に通信を送る。
「太田! マイノリティキラーがおめえを追ってる!」
が、太田からの返事は無い。回線を切っているみたいだ。
スカルはありったけの予備マガジンと弾薬をベルトのポーチに突っ込み、マイノリティキラーを追跡した。
パワードスーツを着ていて、息が上がるほど走ったのはこれが初めてだ。
マイノリティキラーは自分よりも速く、しかもペースはまったく落ちていない。
が、スカルはマイノリティキラーをロックオンしたまま、追走を続ける。
何度撃ってやろうかと考えたが、この距離では先日の二の舞いになるのは明白だ。
ヤツが足を止めるまでとことん追いかけるしかない。
そして太田に危害を加えようとする前に装甲の隙間を撃ってやる。
食糧工場と、太田の背が見えてきて、スカルは大声で叫んだ。
「伏せろ! マイノリティキラーだ!」
太田が気づくや否や、マイノリティキラーがパワーチャージショットを放つ。
対艦ミサイル並の破壊エネルギーが轟き、間一髪でしゃがんだ太田の頭上を掠めると工場の壁を消し飛ばした。
「クソッタレがァ!」
罵声と共にスカルは跳び、マイノリティキラーの背中に蹴りを浴びせる。
スカルはマイノリティキラーと共に地面を転がり、互いに銃口を向けあった。
が、こちらが引き金を引く前に敵は銃を払い除けて撃つ。
スカルは紙一重で銃撃を躱した。
マイノリティキラーは姿勢の崩れたスカルに拳打を当ててふっ飛ばす。
頭を揺さぶられ、スカルは地を這ったまま呻く。
相手の銃口が再度こちらを向いたその時、太田の斬撃がマイノリティキラーの背を斬った。
「オラオラ卑怯とか言うなや!」
超振動ナイフを構え、太田はさらに追撃する。
それをマイノリティキラーは受け流し、足払いを放って転がした。
回復したスカルは、転がる太田の横をすり抜けて近づき、撃つ。
至近距離からの銃撃はかなり効いたようだ。
マイノリティキラーは大きく仰け反り、火花を散らす。
だが相手も撃ち返してきた。
半実体弾はスカルの脇腹を掠り、装甲を溶かして抉ると、地面に石と土砂の柱を立てた。
象撃ち銃弾さながらの威力だ。チャージ無しだというのに。
スカルは冷や汗をかきながらも、撃ち続ける。
マイノリティキラーは銃撃を避けながら、銃のパワーセルカートリッジを交換していた。
こちらも弾切れを起こし、そこに隙ができる。
自分の最期を覚悟した瞬間、太田が彼を庇った。
太田は腕の装甲を盾として展開し、銃撃をはじく。
「ダテに太っちょボディーちゃうねんで」
マイノリティキラーはさらに連射するが、その全てを防ぎきり、太田は言う。
「今のうちにリロードや!」
「もうしてる!」
スカルは予備マガジンを挿し込み、ロックしたコッキングハンドルを叩く。
初弾が装填され、再びスカルの銃が火を噴いた。
銃撃がマイノリティキラーの脚部を貫き、今度は敵が地面に這いつくばる。
スカルと太田はトドメを刺さんと、同時攻撃を仕掛けようとした。
しかしそのとき、マイノリティキラーが太田の胸部装甲を砕く。
構造上どうしても強度が低くなるジョイント部を狙ったのだ。
装甲板が剥がれ落ち、内部機械が飛び散り、太田は地面に叩きつけられてから仰向けに寝転がった。
「太田ァ!」
スカルは叫ぶ。
マイノリティキラーはスカルにも撃ってきた。
ぎりぎりで避けるが、ヘッドパーツの左半分が割れ、素顔がさらけ出される。
スカルはそんなことなどお構いなしに、弾の嵐をマイノリティキラーに叩きつけた。
マガジンが空になるまで撃ちまくり、コアユニットもパワーセルも、装備品も全て粉々にする。
硝煙が辺りを真っ白にして、ようやく脅威を除いたことを自覚した。
我に返り、太田に駆け寄る。
素顔が露出したままだが、もうそんなことはどうでもいい。自分の正体の露見よりも太田の安否のほうが心配だ。
「太田! しっかりしろ!」
スカルは太田の胸元を見る。
するとそこで気づいた。
太田の装甲の裏に、機械骨格が無いことに。
見えているのは布の服――人間の体だった。
まさか……。
スカルは恐る恐る、太田のヘッドパーツを外してみる。
すると、人間の顔が出てきた。垢抜けないがひょうきんな顔立ちの、ふくよかな女性だった。
彼女は意識を取り戻し、スカルを見て驚く。
「あんた……アンタ人間やったんか!?」
「おんなじこと言ってやるよオメェ人間だったのか!?」
翌朝、二人はスーツの修復を終えると旅に出る用意をした。
スカルは全ての荷物をトラックに積む。
「さて、一段落したところで――」
彼は太田に問いかけた。
「なんでマイノリティのフリを?」
「大破局のすぐ後くらいにさ、汚染されたロボットが汚染されてへんロボット連行してくのよく見かけたのよ。そっからヒントを得て、な」
「なるほど……人間だったら即殺されちまうもんな」
「せやねん。で、実際効果あったのよ。何回か連行されてんけど、その度に隙を見て逃げ出したったわ!」
太田は胸を張って笑う。
「あの食糧工場もきみが?」
「せやで。まさかあの道からあそこに繋がってるとは思わんかったし、見つかったときはホンマ冷や汗モンやったわ」
「……あの上半身は? おれに助け求めてただろ? どういうカラクリだったんだ?」
「予備の装甲の中にメックトルーパーの骨格入れて、遠隔操作で。見事に騙されとったな!」
「ああ、コロッと騙されちまったよ。見事なもんだ」
二人は笑い合い、互いを指差す。
それから太田が訊いてきた。
「――そういうスカルはなんでマイノリティのフリしてたん? やっぱりアルビノやとしんどいから?」
「それもある。だけどおれの場合は……」
スカルはヘッドパーツを脱ぎ、それに目を落とす。
「コイツは親友の形見なんだ。スカルっていう名前も、おれのじゃない」
「……そっか。忘れさせたくないんやね、初代スカルはんを」
「そんな崇高な動機じゃねえさ」
そう言いながら彼は再びスカルのヘッドパーツを被る。
「ただの現実逃避だよ。生き残ったのはスカルで、ぼくはもう死んだ。だからアイツのぶんまで、おれは生きなきゃならねえ。そう思い込んでな」
「……わいには、アンタの判断が正しいとは言い切れへんけどさ」
太田は言いながらスカルと肩を組む。
「間違ってへんと思うで」
「太田……」
「せっかく拾った命なんやし、こうしてわいとも出会えたやろ? 二代目スカルとして、これからも生きてこうや」
「……ありがとうな」
スカルは仮面の下で微笑んだ。
そして車に乗り込み、出発する。スカルの運転だ。
道中、太田はヘッドパーツを外しておいしそうにパンケーキを食べている。
ほんとうに、いい友達と出会えた。
スカルの心に、久しぶりに嬉しさの火が灯った。
了
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
海を見ていたソランジュ
夢織人
SF
アンジーは火星のパラダイス・シティーが運営するエリート養成学校の生徒。修業カリキュラムの一環で地球に来ていた。その頃、太陽系の星を統治していたのは、人間ではなく、人間の知能を遙かに越えたAIアンドロイドたちだった。
フォールン・イノベーション -2030-
Mr.Z
SF
"2030.06.01"
世界初のある事が日本にて行われた。
"最新型AIの総理大臣就任"
衝撃的ニュースから3か月後、"大学3年の三船ルイ"はやる事を終え、"幼馴染のユキ"と会って久しぶりに外食をしている時、『AI総理大臣は新たな経済対策を発表しました』という意味深な速報を目にする。
直後、"人型AIアンドロイドに人が食われて死ぬ"というありえない事件を目にした二人は、この新経済対策の"本当の恐怖"を知る事になる...
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
婚約も結婚も計画的に。
cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。
忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。
原因はスピカという一人の女学生。
少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。
「あ、もういい。無理だわ」
ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。
ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。
ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。
「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。
もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。
そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。
ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。
しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
アラフォー美人女社長が、人造少女に対抗して、ヤケクソ気味にアイドルデビューする話
大橋東紀
キャラ文芸
世界的な感染症の大流行と、北の二大国の戦争から世界中に広がった、サイバー・ウォー。
その両者が、ライブというエンタテインメントを大きく変えてしまったのだ。
感染症で人間が、ネットワーク混乱でヴァーチャル・アイドルが公演不可能になえり、世界のライブ・シーンは、AIドールという『アンドロイド・アイドル』の展化になった。
だが、かつて地下アイドルとして苦渋を舐めたアラフォー美人女社長が、「アイドルを人間の手に取り戻す」為に、無謀にもメジャー・シーンへのデビューにチャレンジする。
君は推し残る事が出来るか。
創発のバイナリ
ミズイロアシ
SF
◆短編です。第二部はおまけの話です。
◆絵は自作です。以前こちらの作品に「頼んだのでしょ」や、流し見て「わからない(理解できない)」という心ない言葉を受けましたので、このような文言を入れさせていただきます。
◆あらすじ◆
脳は0と1の羅列だけ。しかし、思考する。感じ取れる何かがある。人はそれを『心』という――。
孤児院で暮らす少女ロゼは、マキナというメイド型ロボットと毎日平和に暮らしていた。
ある時ロゼは、道端で因縁をつけられる。マキナは小さな主人を守ろうと必死に抵抗する。
ロボットが暴力を振るうのは前代未聞な事件であり、マキナはロボット創始者であるアマレティアに連れて行かれてしまう。
なかなか戻らないマキナを案じて、ロゼは孤児院中を探し回る。謎の地下室を見つけ、少女は中を覗き込んだ。
キャッチコピーは『心(機能)は無いけど愛してる』
美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~
根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる