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32.好きなタイプ③
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教室に戻ると、隣の席のエーリックが女子に囲まれていた。
「ねーいいでしょ。教えてよ」
「私も聞きたーい」
エーリックの机に手をかけて、身を乗り出している。おーおー、相変わらずおモテになるようで。
私は彼女たちの邪魔にならないよう静かに席についた。
エーリックが目線をさげたまま困ったように頭をかく。
「俺の好きなタイプ聞いても、面白くないと思うけど」
なんですって!? 私はこの瞬間、耳がダンボになった。
「そんなことないわよ。私たちが知りたいって言ってるんだから、隠さないで教えて」
うんうん、知りたいわ。
「すっごく興味あるわよね。ねー」
はい、あります! 周りの女子たちが頷くに合わせて、私も澄ました顔の下で賛同する。
偶然って続くものなのね。イリアス、ユーリウスに続き、今日で三度目よ。ファン冥利に尽きるわね。ゲームでは決まった台詞しか聞けなかったから、こういうときはカレンに憑依して良かったと思える。
「そんなに知りたいなら、教えるけど――」
エーリックが渋々といった感じで口を開く。
やった。私の心がうずうずと好奇心で湧き立った。イリアスもユーリウスも言い方さえ違えど、ヒロインの特徴をばっちり押さえていた。エーリックは一体どんな言い方をするのかしら。ヒロインみたいな子がタイプって言うかな。それともまだ出会ってないから全然違う子を言うのかな。ガブリエラみたいな。
「表情が豊かで」
うんうん。ヒロインは笑ったり怒ったり泣いたりして、表情が豊かだった。
「笑った顔も、恥ずかしそうな顔も、ちょっと怒った顔も可愛くて」
エーリックの表情が緩み、目元に微笑みを浮かべる。
え? まだヒロイン現れてないわよね。
表現がやけに具体的ね。まるで見てきたみたい。
「自分のことよりも先に、相手を思いやれる心があって――」
出た! ヒロイン特有の自己犠牲ってやつね。なんだ、やっぱりヒロインなんじゃない。思い出しているように見えたのはきっと、好みの理想像を思い描いていたせいね。
「それから、俺の騎士になる夢を応援してくれるひと――」
完璧ヒロインじゃん。『きらレイ』ではどんな時でも明るくエーリックを応援していたヒロイン。お世辞も嘘偽りもなく、ひたむきな心で応援してくれるヒロインの気持ちが最初は嬉しくて、エーリックはだんだんとヒロインに心を傾けていく。最終的にはヒロインのそんな想いに応えたいと思うようになっている自分の気持ちの変化に気付いて、ヒロインへの恋心を自覚するのだ。
『最初は『俺の夢』が君の夢だった。でも、今は『君の夢』が俺の夢なんだ。君がいなかったら、俺は騎士になることを途中で諦めていたかもしれない。君の想いが俺の進むべき道をずっと照らしてくれた。君が変わらずそばにいてくれたから――』
『きらレイ』の告白シーンの台詞。最後は跪き、ヒロインに騎士の言葉を捧げる。
騎士以外の道に関しては疎くて、脇目も振らず夢を追い続けるエーリックと、その傍らでひたむきに応援するヒロイン。初々しくて、とても爽やかな印象のふたりだった。
そう、そのはずなのに、時々エーリックから感じる捕食者っぽい空気は一体なんなのか。
私の気の所為? それともやっぱり攻略対象者だから、そのへんは無意識に流れるフェロモンなのかしら。
「――かな」
エーリックが語尾を締めくくった。
「じゃあ、私すっごく応援しちゃう!」
「私も!」
女子たちが一斉に名乗りをあげる。
「ありがとう」
エーリックが笑って受け流しているのが伝わってくる。でも爽やかな笑顔だから、全然嫌味は感じない。
授業の始まりの鐘が鳴り響いて、女子生徒たちが自分の席に戻っていく。
「あれ、カレン、戻ってたの?」
エーリックが私を見て目を丸くする。
「うん、さっきね」
「じゃあ今の聞かれてた?」
「うん」
「あー」
エーリックが突然顔を覆って、呻き声をあげる。
「どうしたの?」
「もしかして、気づいた?」
指をずらして、ちらりと私を見る。なんだが、心なし顔が赤くなっているように見える。
「なにを?」
「ううん。気付いてないならいいんだ」
「変なエーリックね」
「あー……あとひとつ付け加えることがあったんだ。カレンにだけ、特別に教えてあげよっかな」
なになに? エーリックが身を乗り出してきて、はてなマークの私の耳もとに手を当てる。
「鈍感な子が、好き――」
『好き』と言う言葉が一段低い声で囁かれ、同時に息が耳にあたって、腰に電流が流れたような感覚が走った。
水晶のように丸くて澄んだ茶色の瞳が至近距離から微笑む。
「なっ」
私は真っ赤になって、耳を押さえる。
その時、がらりと扉が開いて、教師が入ってきた。
「先生、来ちゃったね」
エーリックが何事もなかったように、前を向く。
文句を言う機会を失った私は、赤い顔のまま、授業を開始することになった。
「やっぱ、かわいー」
隣から聞こえてくる低くて小さな呟き。
もう幻聴だ。隣から聞こえてくる声は全部幻聴だわ。そう思わないと、私の心臓が破裂しそう。
どうしてこのエーリックはゲームのエーリックと全然違うわけ?
全くわけがわからなくて、授業が始まってからも、私の頭は混乱したままだった。
################################
後書
いつも読んで頂きありがとうございます!
なぜエーリックがゲームと違うのかと言うと、「ゲーム時の徐々に仲良くなって好きになってもらう形」と「初めから好ましいと思ってる状態」の違いです。
今のカレンはゲームと違って、見た目も性格も180度違うので、一目惚れしてくる攻略対象者が出てきてもおかしくないかなと思います。
エーリックも男の子なので、好きだと自覚すればぐいぐい行きます。
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「ねーいいでしょ。教えてよ」
「私も聞きたーい」
エーリックの机に手をかけて、身を乗り出している。おーおー、相変わらずおモテになるようで。
私は彼女たちの邪魔にならないよう静かに席についた。
エーリックが目線をさげたまま困ったように頭をかく。
「俺の好きなタイプ聞いても、面白くないと思うけど」
なんですって!? 私はこの瞬間、耳がダンボになった。
「そんなことないわよ。私たちが知りたいって言ってるんだから、隠さないで教えて」
うんうん、知りたいわ。
「すっごく興味あるわよね。ねー」
はい、あります! 周りの女子たちが頷くに合わせて、私も澄ました顔の下で賛同する。
偶然って続くものなのね。イリアス、ユーリウスに続き、今日で三度目よ。ファン冥利に尽きるわね。ゲームでは決まった台詞しか聞けなかったから、こういうときはカレンに憑依して良かったと思える。
「そんなに知りたいなら、教えるけど――」
エーリックが渋々といった感じで口を開く。
やった。私の心がうずうずと好奇心で湧き立った。イリアスもユーリウスも言い方さえ違えど、ヒロインの特徴をばっちり押さえていた。エーリックは一体どんな言い方をするのかしら。ヒロインみたいな子がタイプって言うかな。それともまだ出会ってないから全然違う子を言うのかな。ガブリエラみたいな。
「表情が豊かで」
うんうん。ヒロインは笑ったり怒ったり泣いたりして、表情が豊かだった。
「笑った顔も、恥ずかしそうな顔も、ちょっと怒った顔も可愛くて」
エーリックの表情が緩み、目元に微笑みを浮かべる。
え? まだヒロイン現れてないわよね。
表現がやけに具体的ね。まるで見てきたみたい。
「自分のことよりも先に、相手を思いやれる心があって――」
出た! ヒロイン特有の自己犠牲ってやつね。なんだ、やっぱりヒロインなんじゃない。思い出しているように見えたのはきっと、好みの理想像を思い描いていたせいね。
「それから、俺の騎士になる夢を応援してくれるひと――」
完璧ヒロインじゃん。『きらレイ』ではどんな時でも明るくエーリックを応援していたヒロイン。お世辞も嘘偽りもなく、ひたむきな心で応援してくれるヒロインの気持ちが最初は嬉しくて、エーリックはだんだんとヒロインに心を傾けていく。最終的にはヒロインのそんな想いに応えたいと思うようになっている自分の気持ちの変化に気付いて、ヒロインへの恋心を自覚するのだ。
『最初は『俺の夢』が君の夢だった。でも、今は『君の夢』が俺の夢なんだ。君がいなかったら、俺は騎士になることを途中で諦めていたかもしれない。君の想いが俺の進むべき道をずっと照らしてくれた。君が変わらずそばにいてくれたから――』
『きらレイ』の告白シーンの台詞。最後は跪き、ヒロインに騎士の言葉を捧げる。
騎士以外の道に関しては疎くて、脇目も振らず夢を追い続けるエーリックと、その傍らでひたむきに応援するヒロイン。初々しくて、とても爽やかな印象のふたりだった。
そう、そのはずなのに、時々エーリックから感じる捕食者っぽい空気は一体なんなのか。
私の気の所為? それともやっぱり攻略対象者だから、そのへんは無意識に流れるフェロモンなのかしら。
「――かな」
エーリックが語尾を締めくくった。
「じゃあ、私すっごく応援しちゃう!」
「私も!」
女子たちが一斉に名乗りをあげる。
「ありがとう」
エーリックが笑って受け流しているのが伝わってくる。でも爽やかな笑顔だから、全然嫌味は感じない。
授業の始まりの鐘が鳴り響いて、女子生徒たちが自分の席に戻っていく。
「あれ、カレン、戻ってたの?」
エーリックが私を見て目を丸くする。
「うん、さっきね」
「じゃあ今の聞かれてた?」
「うん」
「あー」
エーリックが突然顔を覆って、呻き声をあげる。
「どうしたの?」
「もしかして、気づいた?」
指をずらして、ちらりと私を見る。なんだが、心なし顔が赤くなっているように見える。
「なにを?」
「ううん。気付いてないならいいんだ」
「変なエーリックね」
「あー……あとひとつ付け加えることがあったんだ。カレンにだけ、特別に教えてあげよっかな」
なになに? エーリックが身を乗り出してきて、はてなマークの私の耳もとに手を当てる。
「鈍感な子が、好き――」
『好き』と言う言葉が一段低い声で囁かれ、同時に息が耳にあたって、腰に電流が流れたような感覚が走った。
水晶のように丸くて澄んだ茶色の瞳が至近距離から微笑む。
「なっ」
私は真っ赤になって、耳を押さえる。
その時、がらりと扉が開いて、教師が入ってきた。
「先生、来ちゃったね」
エーリックが何事もなかったように、前を向く。
文句を言う機会を失った私は、赤い顔のまま、授業を開始することになった。
「やっぱ、かわいー」
隣から聞こえてくる低くて小さな呟き。
もう幻聴だ。隣から聞こえてくる声は全部幻聴だわ。そう思わないと、私の心臓が破裂しそう。
どうしてこのエーリックはゲームのエーリックと全然違うわけ?
全くわけがわからなくて、授業が始まってからも、私の頭は混乱したままだった。
################################
後書
いつも読んで頂きありがとうございます!
なぜエーリックがゲームと違うのかと言うと、「ゲーム時の徐々に仲良くなって好きになってもらう形」と「初めから好ましいと思ってる状態」の違いです。
今のカレンはゲームと違って、見た目も性格も180度違うので、一目惚れしてくる攻略対象者が出てきてもおかしくないかなと思います。
エーリックも男の子なので、好きだと自覚すればぐいぐい行きます。
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