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28.放課後デート

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マルシェに降り立った私とユーリウスは、お店を見て回った。

「わあ、たくさん売ってるね」

新鮮で色とりどりの野菜や果物が溢れんばかりに、天板に置かれている。
向こうの世界でも見たことのある野菜や変わった果物。実に多種多様で、見ていて面白い。
活気のあるお店の掛け声と、買い物を楽しむお客のお喋り。ざわざわとした空気は普段感じられないものだから、新鮮だ。

「こんなんで喜ぶんだな」

ユーリウスが私の様子を物珍しそうに見てくる。

「うん。だって面白いじゃない? 見たことがないものがたくさん売ってるもの」

「ふーん。あんた、やっぱり変わってるな。普通の貴族の令嬢はこういった所には来たがらないもんだけど。ほら、向こうの通りのブティックなんか断然行きたがりそう」

ユーリウスが指した方向には、服や宝石を扱う高級ショップが立ち並んでいる。

「そんなの、人それぞれよ。ユーリウスはこういうの面白くないの?」

「いや。ああいう店よりこっちのほうが断然いい」

ユーリウスがにやりと笑う。

「俺も好き。理由聞く?」

楽しげな光を瞳に瞬かせ、首をちょっと横に倒して訊いてくる。
この雰囲気はまたからかうつもりね。
私はつんと鼻を反らした。

「聞きません。聞きたくありません」

「そんな二回言わなくても」

「どうせまたからかうつもりなんでしょ」

私はきっと睨んだところで、横から声がかかった。

「そこの格好良いお兄さんと、可愛いお嬢さん! こっちに寄っていかないかい?」

活気のある掛け声に横を向くと、バンダナを頭に巻いた威勢の良さそうな女性が立っていた。歳は三十そこそこの、目鼻立ちがくっきりした背の高い美人だ。
この人!!
私は驚いた。『きらレイ』に出てきた果物屋の女主人だ。ゲームではヒロインの顔馴染みであり、平民だった時の行きつけのお店という設定だった。
ヒロインが学園帰り、店に寄るたびに女主人が街に関する有益な情報を教えてくれるのだ。
ということは、今はまだ庶民のヒロインはここの常連のはず。
まさか今来てたりして。私はきょろきょろと周りを見渡すが、それらしき人物はいなかった。
そんな私を気に留めることもなく、女主人がユーリウスに顔を向ける。

「ほら、この国じゃ珍しい、隣国の果物さ。今日の朝、並んだばっかでまだ新鮮! 甘くてみずみずしくて、若い女の子に大人気! お兄さん、恋人に買ってやったらどうだい? 彼女の機嫌をなおすなら、この機会を逃しちゃならない。きっと喜ぶよ!」

先程のやり取りを見てたのだろうか。
私は真っ赤になった。恋人じゃないのに。

「じゃあふたつもらおうかな」

「毎度あり!」

ユーリウスが女主人に硬貨を手渡すと、赤い果実を受け取る。

「はい、カレン」

「ありがとう」

私はユーリウスから赤い果実を受け取った。
キウイに似ている気がするが、キウイより小振りで、丸みを帯びている。

「皮ごと食べれるよ。味は保証する」

女主人は大きく右目を瞑ってみせる。このとき既に、私は彼女の名前を思い出していた。確か、マリサと言った気がする。
マリサの言ったことを信じて、私は恐る恐る産毛のような毛が生えた皮ごと果物を口に運んだ。
見た目に反して、皮は薄く簡単に咀嚼できた。

「甘い……」

キウイの甘酸っぱさと、洋梨のような濃厚な舌触りが絶品だった。

「気に入ったかい?」

「はい! すごく美味しいです!」

「お兄さん、良かったね。彼女の機嫌がなおったよ。これで、あとのデートも楽しめるってもんさ。いい買い物しただろ」

「ああ。恋人の機嫌をなおしてくれて、サンキュ。助かったよ」

女主人のノリにユーリウスも笑顔で答え、ごく自然に私の手に手をのばす。仲直りした証拠のように、結んだ手を掲げ、マリサに振ってみせる。

「これからもご贔屓に!」

だから恋人じゃないってば。でもマリサの手前、手を振りほどけない。私はちょっと顔を赤くしながら、その場を離れる。
私の手を握ったユーリウスが、歩きながら背をかがめ耳元に唇を寄せる。

「好きな理由、これでわかった?」

油断していたところに低い声で囁かれ、腰が砕けそうになったけど、私はなけなしのプライドをかき集めて、なんとか歩を進めることができた。

「こうやって手を繋いで歩けるからね」

ユーリウスが最後のとどめをさしに、ウインクを飛ばしてきた。



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