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18、帝王学

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 それからしばらく経ったある日、リント王宮の一室で、執務を一通り終えたアルバートが顔をあげた。



「あれからアレクシスはどうだ」



 書面に目を通していたレイノは、王の言葉を受けて、同じく顔をあげた。アルバートに目を向ける。



「王宮を抜け出ることはなくなり、毎日、宮殿内で過ごされているそうです」



「そうか。一時は心配したが、特に問題がないようなら安心だな」



「ええ。問題どころか、教師によると、これまで以上に熱心に授業を受けているとか」



 アルバートが片眉をあげる。



「熱心にだと? あの、授業を淡々とこなすだけだったあいつがか。どういう心境の変化だ」



 レイノがくすりと笑った。



「どうやらあの少年の従者のおかげのようですよ。聞いたところ、クリスという少年はこれまでこれといった教育を受けてこなかったようです。そのため、アレクシス様はこれまでは自分が教わる側だけだったのが、教える立場になったのが嬉しいのか、クリスが質問すれば、教師が口を開くより先に答えてしまうとか。味気なかった授業があの少年によって、急に楽しくなったのでは?」



 アルバートは呵呵と楽しげに笑った。



「そうか。内容自体ではなくとも、アレクシスが授業を楽しく受けているなら、ひとまずは良しとしなければならないな」



「いえ、ちゃんと教養もつけているようです。クリスが殿下に質問するようになってから一度、それに答えられなかったことがあったようで、よほど悔しかったのか、あとあと教師に授業の深いところまで内容を請いに押しかけたとか。それ以降、答えられないことがないよう、予習まで始めたそうですよ」



 アルバートは今度は、腹を抑えて笑った。



「あの、負けず嫌いめ。その時の悔しげな顔を見てみたかったものだな」



「ええ。クリスも真面目な生徒のようで、教師からの評判もなかなかです。そこも、アレクシス様が真面目に授業を受ける要因でしょう。一緒に学べる相手がいるというのは、良い刺激になります」



「そうだな。アレクシスは良い従者を見つけたようだ」  



 アルバートは嬉しげに目を細める。息子の成長を喜ぶその顔は、王ではなく、ひとりの父親そのものだった。

 クリスティーナと共にあれば、前向きな姿勢を見せるアレクシスに、アルバートたちは喜んだ。

 大事なのはその点であり、クリスティーナがアレクシスと共に得ていく知識そのものには特別な意図などなにもなかった。

 けれど、アレクシスが王太子であったがため、クリスティーナが国中から選ばれた一流の教師から学んでいる事柄は、たしかに帝王学と呼ばれているものだったのである。周りはクリスティーナを王太子に付随する一従者としてしか見ていなかったため、あえて指摘する者はいなく、そのため、クリスティーナは自身でそのことに気づくことはこの先とうとう一度もなかったのである。

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