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奴隷商人と皇太子

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リアムを見つめては時々記憶を思い返していると、急に彼の腕が止まる。机に向かって伸びていた手からペンが離れると、ギュッと身体を抱き締めてくる。

「終わったー。」
「お疲れ様。」

疲れたように顔を埋めてきたリアムの頭を撫でてやると、自然と笑みが溢れる。自分には弱さを見せてくれるので可愛くて仕方がない。

「もっと、褒めて。」

上目遣いで見つめられて、一気に衝撃を受けたように固まる。

…これは、分かってやってるのか?天然なのか?

不思議そうに首を傾げる所から、どうやら意図的ではないと判断する。狙ってやっていたのなら、催促する言葉や意地悪な笑みを浮かべるからだ。

「リアムは凄いよ。こんだけの仕事を捌けるんだから。」
「うん。あとは?」
「あとは…真剣な顔がカッコいいなって。」
「へえー、他には?」
「っ…!」

頬にキスをされる。片手で押さえると今度は反対側の頬にキスを落とされる。

「止めて。」
「嫌なの?」
「嫌、じゃないけど、ここは嫌だ…」
「なら、早く2人の部屋に戻ろう。」

自分を抱えたまま立ち上がろうとするものだから、慌てて飛びおりる。それにリアムは残念そうに首をすくめる。

危ない…また人前で移動される所だった…

お姫様抱っこされることは恥ずかしくて、人前でされるのは嫌だった。だから、視線を尖らせてリアムを睨むが彼は両手を上にあげて首を左右に振る。

「たくっ、ルーカスは恥ずかしがり屋だな。」
「はあ?!」
「良いじゃん。お姫様抱っこくらい。」
「場所を考えろ!」
「2人っきりならいいわけだ。」

…また、墓穴掘った気がする。

「2人でも嫌だ。」
「なら、人前でやるしかないな。」
「尚更、嫌だ。」
「両方ダメは無理だよ。」

俺からしたらその考えが理解出来ない。

リアムが出す意味の分からない条件を受け入れたくない。でも、どちらかを選ばない限りリアムは両方やることは目に見えていた。

俺って何でこんな自分勝手なヤツを好きになったのだろうかと考えてしまう。

でも、結局自分の考えを強く押し通そうとしないことに笑ってしまう。

驚くほどに彼に溺れていて、心の底では嬉しいと思っていることを否定出来ない。でも、それを見透かしたように笑うリアムに負けた気がして腹が立つ。

「人前は嫌。あと、俺、今のリアムは嫌い。」
「えー、傷付くな。」

歯を見せて笑う姿から本当に思っていないことはバレバレだ。

「俺はルーカスが大好きで仕方がないのに。ルーカスは嫌いなの?」
「意地悪するところは。」
「なら、そこもルーカスに大好きになって貰えるようしなきゃダメだね。」

リアムは目を細めると俺の腕を掴んでくる。逃げないように少しの力を込めて。

「ほら、戻ろっか。」

戻ることは強制というように足を進めていくリアムの後に続いて歩く。

以前よりも逞しくなった背中が目に映る。背中だけじゃない。様々な所が筋肉が付いているのが分かる。

衝動的に触りたい感覚に襲われるが、それを我慢して手を握り締める。メイドや執事が行き交うこの場所で、そんな破廉恥じみたことはしたくなかった。だから、早く自室につけと心の中で祈った。
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